なるほどワーバスに戻る
ワード・バスケット 誕生秘話
-その1-
(かなりの長文です。でもこれを読めば、あなたもかなりの『ワーバス通』になれる!)

 ワードバスケットは、こんなふうに商品化される前は、私の自作ゲームでした。つまり手作りね。カードも自作だったし、何より、バスケットが現在のような折り畳み式の瀟洒なものではなく、ドドンと「どんぶり」でした。この話は、そんな「商品化以前」の話です。(この文章は、ゲームマーケットで配布した「誕生秘話」と、JAGAの会報JAGAMAGAに連載した「ワードバスケット大騒動」から抜粋、加筆訂正したものです)


【ガチンコしりとり】

 そう、すべてはしりとりからはじまった。

 私は自他共に認める無類のしりとり好きである。普通のしりとりはいうに及ばず、テーマ別しりとり(なんといっても「食べ物しりとり」が燃えます。ヴァリエーションとして「食べて食べられないことはない物しりとり」「絶対食べられない物しりとり」など)、四文字熟語しりとり、増殖しりとりなど、ありとあらゆるしりとりに淫しているといっていい。そんな私がしりとりを素材にしたゲームを作りたくなったというのは、きわめて必然であろう。

 最初に考えたのは「ガチンコしりとり」というもの。しりとりのしばりをきつくする、それもテーマによってしばるのではなく、他ならぬ文字そのものによってしばるという趣向。早い話が、ひとつの文字は一回しか使えないことにしたんですわ。

 参加者全員に50音の書かれたシートをくばる。テーブルのまんなかにベルをおき、答えを思いついた者が「チーン」。答えたらチップをもらい、使った文字を消す。もちろん全員が消すんですよ。その文字は二度とだれも使えない。答えた人はごほうびとしてチップをもらえることにした。チップの多い人が勝ちである。

 最初はどんどんでるが、文字が少なくなるにつれ、ベルの鳴る間隔があいていく。当たり前である。終盤では全員長考体勢。みんな腹の中で「誰かなんか言えよ」「『ぬ』と『へ』なんか使えるわけないだろ」「早く終わってくれないかなあ」「こんなゲームやるんじゃなかった」考えているのがまるわかりである。

 結果は惨憺たるものであった。文字数が少なくなるからと言って、ゲームの収束性が高まるものではないことを実感した。しかし、まったく収穫がなかったわけではない。

「コバヤシさん、2文字だとすぐでちゃうね、これ。3文字以上に制限したほうがいい」

 プレイヤーのひとりの提案。これが後にワードバスケットの重要なルールとなるのであった。



【Who's Who】

 というゲームをご存じでしょうか?

 アルファベットの書かれたダイスを2〜3個振り、でた文字をイニシャルとして使い、有名人の名前を作るゲームである。たとえば「G」と「B」が出たら「ジョージ・ブッシュ!」とか「ジャイアント馬場!」とか答えるわけね。専用のタイマーがついていて(詳しくは述べないが、このタイマーが秀逸)、時間内に名前を考えつくことができれば、ボード上のコマを進めることができる。誰かがゴールすれば終わりである。このゲーム、やってみるとわかるのだが、何しろ名前が出てこない。イライラするほど。さらに、傍目八目とはよく言ったもので、人の手番の時はいくらでも思いつく。イライラ感がさらに増すわけである。でもって、なにしろ終わらない。勝ち負けよりも終わったことそのものを全員で喜び合うのが常である。

「いやあ、終わってよかった」

「永遠に終わらないかと思いましたよ」

「すみません、あそこで僕が「ビル・ゲイツ」思いついていればもっと早く・・・」

「いいじゃないか、ともかく終わったんだから」

 涙ぐんだりして。なんか、苦行のようなゲームである。

 が、しかし、私はこのゲームが嫌いではない。それどころか、好きが高じてカードゲーム版まで試作した。実際カードを作ったのはいいが(10年以上前の話。あのころはワープロとコピーだけで苦労したなあ)、うまいルールが思いつかない。手札と場札をイニシャルにして・・・あたりまでは考えついたが、時間制限がなかなかうまくいかないのである。テストプレイに至る前に頓挫してしまった。



JAGAという人々】

 説明不要のことかも知れないが、日本ゲーム協会(JAGA)という団体がある。そんな人ごとみたいに言わなくても、私はこの団体に属して15年以上、20年近くたっているのである。初めて参加したのは私が小学生の頃だったか(嘘)。

 20代から50代くらいまで、幅広い年齢の男女が群れ集い、主に電気を使わないカードゲームやボードゲームのたぐいにうち興じるという団体である(最近は子連れ参加の方も増えたので、年齢層はさらに広がった)。純粋にそれだけのつきあいなので、10年以上一緒に遊んでいるのに知っているのは名前だけ、どこに住んでるのか、ふだん何の仕事をしてるのか知らない人、なんてのはざらである。

 基本的に毎月1回例会がある。午後1時から8時頃まで、延々とゲームをやり続ける40〜50名の参加者たち。でもまあ、ほかのゲームサークルからすればライトなほうですわ。

 例会のほかにも、JANAMI(JAGAの花見)やジャーベキュー(JAGAのバーベキュー)などの年中行事もあるが、なんといっても楽しみなのは合宿である。秋の連休、2泊3日でゲーム三昧。毎年恒例のスペシャル・イベントである。



【ゲーム合宿に向けて】

「合宿で自作ゲーム発表できないかなあ」

 私の頭の中で、まだしりとりがくすぶっていた。しりとりしながら進めていくゲーム。単語を思いついた者がチップを得るゲーム。ここまではいい。ボードを使ってみるか。全員共通のコマを周回コース上におく。しりとりに答えたものがこれを進め、止まったところのチップを獲得。うんうん、いいかもしれない。

 問題は、しりとりの答え方である。順番に答えていくことにすると、時間制限が問題になる。「Who's Who」みたいなタイマーがあればなあ。やはりここは「ガチンコ」でやったようにベルを用意する手か。と、ひらめいた(思えば一世一代のひらめきである)、カードを使おう。カード版「Who's Who」のときは思いつかなかったが、リアルタイムゲームにしてしまえばいいのだ。順番なし、思いついた者がカードを出す。「場にあるカード」と「手に持ったカード」でことばを作る。出たカードが今度は場札になる。ちゃんとしりとりになってるな、これ。待てよ、同時に思いついた時の早い遅いの判定はどうする? そうだ、何か入れ物を用意して、そこにカードを投げ込むことにしたらどうだ。先に投げ込まれたカードが下になる。これならはっきりするじゃないの。



【カードはどうする?】

 ボードは簡単でいいだろう。慣れないグラフィックソフト(「花子」ですな)を操って、周回コースを造る。プリントアウトして厚紙に貼り付け。

 カードは、マジック・ザ・ギャザリングの代理カードを作ったやり方だ。A4サイズ1枚で9枚分のカードを印刷。これを切り離して、余ってるマジック・ザ・ギャザリングなどのトレーディングカード(これがいわば芯)と一緒にカードスリーブに入れる。昔これがあったらなあ。自分でカードを作るの大変だったもの。

 問題はカードの構成である。普通の文字カード、「あ」からはじまって「わ」まで、少なくともこの44枚はまず必要だ。これだけでいいのか? 2枚ずつにするか? いや、ちょっと多いな。それよりも、ふつうの1文字カードだけで成立するだろうか。場に出た1枚と、手札の4〜5枚で、そんなにかんたんに単語が出てくるものか?

 救済策が必要だろう。なんにでも使えるワイルドカードを作ることにした。しかし、ただのジョーカーでは芸がないぞ。50音なんだから「あ行」「か行」というのはどうだ。「あ」〜「お」ならなんにでもなるカード。深く考えずに決定。「あ行」〜「や行」で9枚である。「わ行」というのはただの「わ」でいいだろう(レギュラーカードで「わ」だけ2枚ある理由がこれ)。うまい具合に、レギュラーカードも45枚と9の倍数になった。なんでこんなにうまくいくのか。神様が乗り移ったかのようだ。他にもなんかないかなあ。うん、文字数というのはいいかもしれないぞ。最低でも3文字というルールは「ガチンコしりとり」からの教訓ですでに決めていた。じゃあ4文字か? いや、5文字、6文字、7文字の3種類にしよう。7文字は7文字以上だな。3種類3枚ずつで9枚。ぴったりだ、いいぞいいぞ(つまり、最初は数字カードは9枚あったというわけね)。



【ボウル登場】

投げ込む容器はどんなのがいいんだろう。中が丸くなっていて、複数のカードを投げ込んだとき、必ず重ならなくてはならない。私が漠然と考えていたのは、台所で使うボウル状のものであった。

 100円ショップを探しまくる。木のザル(ひっかかりそう)や、発泡スチロールの容器(軽すぎ)など色々見て、結局プラスティックのボウルに決めた。ザルとセットで売っている。ザルは使わないけど。ザルなしのボウル単品も見つけたが、数個買ったところで見かけなくなってしまった。100円ショップにはモノのがあふれているようでいて案外在庫が安定してないし、ありそうなものがない。そういうことも学んだのである。



【テストプレイ、そして大改革】

 満を持して合宿に持ち込む。忘れもしない、2001年11月のことである。

「あのー、わたし自作ゲームもってきたんですけど・・・」

「お、やろうやろう」

 わらわらとテスト・プレイヤーが集まってくれるところがJAGAのありがたいところである。一通り遊んでみる。

「どうでしょう?」

「うーん」

 反応がはかばかしくない。何度かやってみる。

「どうすか?」

「なんか詰めが甘いというか・・・」

「コバヤシさんねえ、単語を言ってカードを出す、ここまではいいんですよ。そのあとボード上のコマを進めたり、チップを拾ったり、そのへんでゲームの流れが止まっちゃうんだよな」

「ぼけちゃうっていうか・・・」

 ううむ、つらい指摘。わたしも、中途半端にリアルタイムなゲームだなあとは思っていた。

「このボードとかチップとか、いっそいらないでしょう」

 創作ゲームの大先輩O氏、革命的な発言である。いやしかし、点数獲得がそもそものゲームの目的であって・・・。

「この「カードを使ったしりとり」ってアイディアは面白いんだよ、これだけでいいんじゃないの?」

 じゃあ、ゲームの目的は? そうか、手札は補充するのではなく、なくしていけばいいんだ。手札をなくしたものが勝ち、ストップ系のゲームでどうだ。やってみる。

「面白い・・・」

「面白いよ、これ!」

「もう一回やろう」

 なんだかんだと数回立て続けに遊んでしまった。何より一回のゲームが早いのがいい。妙な中毒性もある。

「あがった人以外が手に残したカードにマイナス点数つける? ウノやタキみたいに」

「いや、やめましょう」

 原作者のわたしも意見を言わしてもらう。

「あがった人が勝ち、それ以外は負け。シンプル・イズ・ビューチフル。単純なゲームにしましょう」

 ワードバスケット、誕生の瞬間である(そんなドラマチックだったかな)。

 いやいや、この時点ではワードバスケットというタイトルではなかった。実は私が考えた名前は「JUMP INTO SIRITORI」という。

「うーん、ダメですね」

 ゲームショップのマスター、Nさんに却下される。プロの意見には素直に従おう。なんだかんだで「ワードバスケット」。これも記憶があやふやなのだが、このサイトのWEBマスター、I氏の発案だったような気がする(かなり後になってうちの奥さんから「ワー丼」というアイディアが出た。私これ好きなんですけどね、今となってはもう遅い)。

 実際やってみてわかったのは、はじめは救済策のつもりで作ったワイルドカードが、実際には実際にはなかなか難物であったということである。

「この数字のカード難しいよー」

「5文字の言葉なんてぱっとでないぞ」

「でも「あ行」とか「か行」とか、行のカードは楽でしょ?」

「いやいや、なんにでもなると思うとかえって迷っちゃってこれも難しい」

 面白いものである、期待したのと逆の効果でありつつ、なかなかいいスパイスになってるんである。

 結局、合宿に参加したメンバーにはめちゃめちゃ気に入ってもらえ、帰る間際まで、大げさではなく何十回と遊ばれたのであった。



【例会デビュー】

 気をよくして、次の例会に持ち込んだ。合宿でファンになってくれた人たちも「面白いよ、これ」未体験の人たちにすすめてくれる。ありがたいこっちゃ。

 ものが「しりとり」だけに、理系ゲームのファンのかたにはとっつきにくいかもしれぬ。それっぽいテーブルのゲームが終了するのを見計らって、

「あのー、わたしの自作なんですけど・・・」

 遊んでもらう。意外に好評。いや、ものすごく好評。着々と布教活動は進む。

「欲しいなー、これ」

「僕にもつくってよ」

「よしきた」

 予約を受けて次の例会に4個5個ともっていくが、あっという間に売れてしまう。

「本格的に売ったら?」

「売れますかね」

「最低ロットが問題だな」

「どのくらいなんでしょう」

「100でしょう」

「いや1000でしょう」

「そそ、そんなに?」

「コバヤシさん、資本金100万くらい出しなさいよ」

「無茶なことを」

「ゲームは男のロマンだよ」

 いろんな人がいろんなことを言う。



【大量生産】

 いろんなことを言われて、だんだんその気になってきた。とりあえず、2002年3月21日のゲームマーケットに向けて50個(!)作ることにした。あ、ゲームマーケットというのはですねえ、毎年春に行われてるんだけど、全国のゲームサークルやゲーマーが集まって、自作ゲーム(同人ゲームなんて言いますね)を売ったり買ったり、中古ゲームも買ったり売ったり、有名ゲームショップの特別販売はあるわ、白熱オークションはあるわで大変なイベントなのだ。

 まずはカードだ。プリンター、フル稼働。プロトタイプのデザインが黒ベタに黄ベタなもんで、インクを喰う喰う。しかし気に入ったデザイン(一太郎&花子で作りました)なのでいまさら変更はできない。日和ってたまるか。

 問題は芯にする中身のカードである。これがないと軽くていけない。しかし、50セットといえば3000枚以上である。マジックのカードも最近はとんと買ってないので、不要カードがない(まあ、整理してないだけなんだけど)。そこでゲームショップをのぞいてみると・・・片隅にひっそりとほこりをかぶった投げ売りカードゲームたち。「怪獣大戦」「ミラクル・オブ・ゾーン」「メダロット」などなど、それこそ男のロマンのなれの果て、当たりそこねゲームの墓場がそこにあった。どかどか買い占める。捨て値とはいえ、箱買いなんてしたことがないのでちょっとドキドキ。

 ところがである、これらのゲームは一箱が60枚なのだ。我がワードバスケットは1セット63枚。3枚足りない・・・どうしよう。よしっ、カードを減らしちゃえ。数字カードを3種類2枚ずつにすればぴったりじゃないの。実はこれが60枚になった真相なのである。我ながらなんて場当たりな・・・。

 次はカードスリーブ。結構高いし、どこへ行ってもまとまった在庫がなかなかない。

「あのー、これ、ほかに在庫ありますか?」

「すいません、出てるだけなんです」

「注文できますか?」

「はい、何枚?」

「・・・3000枚」

 しかしさすがは向こうもプロ、眉ひとつ動かさず注文を受ける。受けるか。受けるな、ふつう。

 最後にこのゲームのコンポーネントの核心、カードを投げ込むボウルである。



【どんぶりを求めて】

 最初に使ったボウルは、ザルとのセット販売であった。これを正式採用するとなると、必然的に50個もの不要なザルを抱えこむことになる。奥さんの怒りの顔が目に浮かぶ(「どうすんのよっ! ザル50個も!」)。またもボウルを求めての行脚である。

 ふうむ、「ダイソー」ばっかり探してるから見つからないのかも。「キャン・ドゥ」に行ってみましょう。100円ショップにも色々あるなんて、意識したことなかったな。人間どこに成長の材料が転がってるのかわからないものである(成長?)。

 むむ、これはどうだ。いわゆるボウルではないが、なかなかいい形と大きさ。外側が黒で内側が朱という色合いもいい。商品名を見ると「ラーメン丼」とある。ははあ、どんぶり、結構じゃないの。これに決定。

 ところが、これだって50個はない。うちの近所の「キャン・ドゥ」が小さいせいもあり、せいぜいあって10個。何度も足を運ぶことになる。そのたびに在庫を買い占める私。いったい店員さんはどう思っているのであろうか。

「ねえねえ、知ってる?」

「なになに?」

「この頃よく来る「丼おやじ」」

「なにそれ?」

「なんだか知らないけどラーメン丼ばっかり買ってくのよ、毎回あるだけ全部」

「うそっ」

「あー、あたしも知ってる」

「いるよねー、怪奇どんぶり男」

「あんなにどんぶりばかり買ってどうすんのかしら。どんぶりフェチ?」

「どんぶりフェチって何よ」

「床にどんぶり敷き詰めて、裸になってその上を転げ回って悶えるとか」

「キャー、ヤダー」

 なんて会話がですよ、店員同士の間で交わされているのではあるまいか。僕はただどんぶりが欲しいだけなんです。けっして怪しいモノでは・・・十分怪しいですね。そう思うと平常心でレジに立てない。

「こ、これください・・・」

 どんぶり買うのに赤面してどうする。



【地獄の内職、そして】

材料がそろったらあとは作りまくるだけ。ところがこれが大変なんだわ。線にそって1枚1枚カードを切っていく。ちょっとでもずれるのが嫌なのでまとめて切ったりできない。思いのほか時間がかかる。3月21日まで間に合うのであろうか。肩はこる、目はかすむ。スリーブにカードを入れるのも一苦労。指の先がささくれてくる。まさに内職。耳元でうちの奥さんが歌う。「とうさんが〜よなべ〜をして〜」。全然はげましになってないぞ!



【AERAって・・・あのダジャレの?】

 正直の頭に神宿る。こつこつ地道に仕事をしてると、いいこともあるのである。なんと、あの天下の朝日新聞社の雑誌「AERA」が取材したいといってきた。しかし、このゲームはこの時点でまだ十数個しか世に出ていないはず。どうして知ってるの?

 2月の例会会場に現れた記者の方にきくと、JAGAの会員であるK氏とネットを通じての知り合いなのだそうだ。ある日K氏が「これ面白いよ」と持ってきたワードバスケットに完全にはまってしまい、私のとこへたどり着いた、とこういうわけである。

「『しりとりの進化』ってタイトルで考えてるんです」

 女性記者が切り出す。そうきたか。しりとりならば語ることは山ほどあるぞ。ここぞとばかり語りまくる私。同行した女性カメラマンがばしゃばしゃとシャッターを切る。せいぜいいい男に撮ってくれたまえ、はっはっは。

 奇しくもこの日はワードバスケットのミニ大会が開催されていた。こっちもばしゃばしゃフラッシュがたかれる。大会には20人もの人が参加してくれた。決勝は4人。これが実にレベルが高いのですね。何しろよどみがない。ちょっとでも膠着するとすかさず「リセット」。ははあ、これがこのゲームのコツか(原作者が何をいうのか)。



【騒動の始まり】

実はこれに先立って、ジャガのWEBマスター氏(名付け親でもある)が面白いことを考えついていたのである。

「コバヤシさん、ワードバスケット、JAGAのホームページにのっけちゃダメですか」

 ん?どゆこと?

「画像をダウンロードできるようにして、あそびたい人が勝手に印刷して作れるようにするんです。一気に広がりますよ。今度AERAに載るんでしょ? その記事の中で紹介してもらいましょうよ」

 面白い面白い。必ずどんぶり使ってくださいって書かないとな。かくしてワードバスケットは電網デビューとなったのである。

 3月半ばに発売になったAERA、出てる出てる。しかしあれだけしゃべってこれしか書かれていないのか(そんなもんである)。おまけに、「いい男」も何も使われた写真は大会決勝戦の模様一枚きり、背景でぼんやりとたたずむ私の首から下・・・。そしてかんじんの欄外インフォメーション「ダウンロードはこちらからどうぞ」。しかしこれがとんでもないことになろうとは、お釈迦様でない私には全然知るよしもなかったのである。



【ゲームマーケット2002】

 話はゲームマーケットに戻る。 

 作った作った作りましたよ50個。作ったのはいいが、みんな、きいたこともないゲームをはたしてポンと買ってくれるものであろうか。不安だ。大量のどんぶりかかえて途方に暮れる自分の姿が目に浮かぶ。しかしまあ、事前予約も2件入ったし、まるっきりボウズということはあるまい。「○○様御売約済」の赤札を数枚用意していく。さらに、名付け親のI氏、なんと「ワードバスケット(言葉丼)有りマス」というでっかいポスターを作って持ってきてくれた。こりゃいいねえ。

 床に座って(同人っぽいだろ)どんぶりとカードを積み上げる。「御売約済」の札を張って予約分確保。これ見よがしに前に出す。それにしても50個ってのは結構な数だな。

 会場と同時になだれ込むゲーマーたち。それと同時に、会場関係者(出品者)が2〜3人私の前に走ってきた。

「コバヤシさん、これ予約」

「俺も俺も」

「こっちもいいですか?」

 ありゃりゃ、用意してきた「御売約済」の札が足りなくなりそうだ。こ、これはもしかすると・・・。なんということだろう、わずか50分で50個完売。嬉しい誤算である。

「100個あったら・・・」

「100個売れましたねえ」

「売れたねえ」

「作りましたか?」

「・・・いやだ、勘弁してくれ」

 嬉しいことに、買った人たちがすぐにその場で遊んでくれる。ゲームは遊んでもらってナンボだ。



【法人外商部って何?】

 その興奮もさめやらぬ4月のはじめ、知らないところからMAILがきた。

------------------------------------------------

こんにちは。

この商品に関心があり、メールしました。

この商品を販売促進物として企業に販売したいのですが、

何か制約がありますか?

ご返事をいただけると幸いです。

-------------------------------------------------

 差出人は某百貨店の法人外商部なるところである。何するとこなの? そもそもこのMAILだけではなんのことかわかりません。何度かMAILをやりとりしてわかったのは、

●ビールに付ける景品にしたい

●○○百貨店法人外商部で制作、ビール会社に売り込む

●制作個数は5万から10万個を予定

●販売価格は100円〜200円

 5万個?10万個? 頭くらくらしてきた。こっちは50個作って売るのに四苦八苦一喜一憂してるのである。それにしても100円や200円でできるの? ロットの問題ってそういうこと? 景品に使うんだからそんな高くはできないのだろうが。

 何しろ初めての経験で、もうパニック状態である。JAGAの親しい人たちにMAILを出しまくる。さらにゲーム仲間で法律事務所にいる人、高校時代の友人で大手広告代理店に勤めているT君にもMAILで相談。SOS信号の乱れうち。誰か助けてー!



【緊急会議】

 さっそくその日のうちに数人が集まって対策を考えてくれることになった。すいませんね、私なんかのためにわざわざ。

「いやいや、僕ら本質的にもめ事好きだし」

「あのー、まだもめてないんですけど」

「いずれもめるんでしょ」

 もめないでくれよ。

「これはコバヤシさん、くさいよ」

 くさいですか。

「どうもあわよくばタダで使おうとしてる気がする」

「だからさあ、前から商標登録しろって言ってるじゃん」

「そんなことより我々で商品化しちゃえばいいんだよ」

 しかし先立つものがなあ。

「そんなの、みんなで出資しあえばいいじゃん」

 だんだんことがおおごとになってきた。びびりまくる私。

「とにかくだねえ、そのなんとか百貨店にはビシッといってやらにゃあ」

 ビシッとですね、わかりました。協議の結果、ビシッといってやるのは次の5項目ということになった。

1.「ワードバスケット」という名称を必ず使用すること

2.作者「小林俊雄」監修「JAGA」のクレジットをいれること

3.どんぶりを使用すること

4.制作過程でクォリティ・チェックをさせてもらうこと

5.ちゃんとお金をくれること

 MAILでそのむねビシッと伝えると、驚いたことにほぼ全項目OKとの回答が来た。うわぁ、本気だったんですね。

「でもこういう話は「せんみつ」ですからね」

 と、ゲーム・ショップマスターのNさん。つまりは、この百貨店がこういう企画を立てたとしても、先方が採用するかどうかはわからない、と。千に三つくらいしか実現の可能性はないというのである。なるほどそういうものですか。

 結論から言うと、Nさんの言うとおりであった。「明日プレゼンです」というMAILが来た後はうんともすんとも言ってこない(結果くらい教えて欲しいもんだ)。どうも向こうのビール会社のお気に召さなかったと見える。ホントに遊んで見せたのか? プレゼン下手だったんじゃないか? それにしても、いったいどこのビール会社だ。もうそこのビールは絶対飲まないぞ。いや、それしかなかったら飲むけど。



【弁護士からの手紙】

 そうこうするうちに、法律事務所にいる友人から回答が来る。ただし、彼女自身は専門外とのことで、彼女の知り合いの弁護士さんの見解である。私がききたかったのは、誰かが無断でこのゲームを商品化して販売することを防げるかどうか、という点。面白いのでMAILを引用させていただく

-----------------------------------------------

 結論としては、ゲームのルールは知的財産の保護対象にはなりません。「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいいますから、ゲームのルールは「思想又は感情の表現」に該らず、また、特許法で保護される「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の捜索のうち高度のもの」をいいますが(特許法2条1項)、ゲームのルールのように人為的な規則は自然法則を利用したものではないからです。

  しかし、これがコンピュータ上で動くソフトウェアとなっている場合には、当該ソフトウェアのプログラムが著作物として保護の対象になります(著作権法2条1項10号の2)。

----------------------------------------------

 なんだかゲームってすごく可哀相じゃありませんか? 著作権がないとはきいていたが、ここまで明言されるとなあ。それにしても、この件ではいろいろホントに勉強になることが多いぞ。正直言って面白くってしょうがない。



【幼年期の終わり】

 この後、現在の発売元である永岡書店からMAILがくる。さらに、本当に商標登録してしまうわ、パズル雑誌「ニコリ」の100号にのっけてもらうわ、私本人が腹膜炎で手術入院するわ、ほかにも色々、てんやわんやの大騒ぎとなるのだが、そんなこと僕は全然知らなかった。それは富良野に雪が降る前の話だ(<「北の国から」かいっ!)。


ワード・バスケット 誕生秘話その2へ続く…

なるほどワーバスに戻る