・・・と、カッコいいこと書いた割には、現在仮営業中につき、コンテンツは思いっきり予備知識がないと理解不能な各論です。内容が充実してデータベース・ネタ帳としての役割を発揮するようになるのは大分先ですので、気〜長〜くしてお待ち下さい


速力マーク

体験航海など、洋上で見ていると護衛艦のマスト両脇、赤いカゴのようなものが上がったり下がったりするのは、一体なに?

左右1対、マスト中段から旗甲板に下ろしたロープにより、つるべのように上下させるこのカゴが「速力マーク」。米軍艦などにはない旧海軍以来の伝統を持つ自衛艦独自のシステムだが、実はこれ、自艦が出している速力を他艦に知らせることができる、原始的かつもっとも確実な方法なのである。その法則はとても簡単。覚えてしまえば一般の人間でも前後の艦がどれ位の速力を出しているかすぐにわかるので、習得してみよう。


メインマストの両側、赤い点のように見えるのが速力マーク。近くで見るとこのようにアミ状のカゴのような形をしている。このマークのパターンを覚えておくと、左の「むらさめ」は現在原速で航行中であることが一目でわかる。無線封鎖中でも使える確実な通信手段。


速力マークの動き
艦の後方から見たところ

現代の艦でもこの操作は手動で、ブリッジの背面にある「旗甲板」という吹きさらしのスペースで1人待機しており、指示があり次第つるべ井戸のようにロープを引いて動かすのである。ロープのマーク固定位置にはテープが巻かれており、いちいち上を見上げなくても微妙な位置決めができるようになっている。なお、後進の際は赤いカゴをひっくり返してアミ部を下にする。

また、マークは点灯するものではないので、夜間は当然見えなくなってしまうため、信号灯の点滅パターンで代用する。

マークは「こんごう」型まで手動であったが、「むらさめ」型以降はオートマークと言って、ブリッジからのボタン操作でマークの設定ができ、ワークロードの軽減が図られている。オートマークの採用が1990年代まで遅れたのは、安易なデバイスの使用よりも確実な動作を選ぶ海自らしい選択ともいえなくもないが、艦艇乗組に対する人気のなさ、ひいては定員確保の難しさに起因する省力化の要求、時代の流れには逆らえなかったのだろう。旗甲板の要員はマストの各種信号旗も操作するため、結局減らすことはできないのであるが、速力指示がめまぐるしく変わる時のマークの操作は、両舷を忙しく行き来して見ていると結構大変である。マークが減るだけで大分楽になったはず・・・

4.9.2005 

Red & Black―「赤」と「黒」について

やはり体験航海の時、艦橋で操艦を見ていると、「赤10」とか「黒5」とか「赤黒なし」とかいう言葉が飛び交うことがある。これは何?

上記速力マークは当然のごとく3ノットの基本速力刻みなので、最微速〜一杯まで12と比較的おおざっぱなため、また潮の流れもあり、シビアに速力を合わせようとすると、もう少し細かい刻みが欲しい時も出てくる。これを補うのがマークと同じく帝国海軍以来の伝統的な呼び名を持つ「赤」と「黒」である。

左舷側の補助指標、すなわち減速側の「赤」(赤に黄色十字の旗)。 右舷側の補助指標、すなわち増速側の「黒」(青の中に白い四角の旗)。
操縦室の計器盤正面、主機関係のパネルにある赤・黒の表示。よく使われるのは5・10辺りで、下記のような事情があるため30・40などは通常ほとんど使用することはない(体験航海で見ている分には)。
これは各型ごとに定められている、速力マークをさらに細分化した指標で、たとえば「二戦速黒10」と言えば第二戦速の回転数・スクリュー翼角から××回転を乗じるということになる。「赤」はマイナスを表す。

――――――注記――――――

上記部分の記述はガスタービン艦の場合は若干誤解を招く表現で、速力によっては翼角が変化するのですが、これはガスタービン艦のメカニズムについての章をアップした際に書き改めますので、現状ではこのように理解してください。

―――――注記終了―――――

赤または黒の状態から基本速力に戻す際には「赤黒なし」とコールする。流れとしては・・・

(現在一戦速)艦長「しらねまでナンボ〜?」航海長「しらねまでの距離知らせ」CICで航海レーダーを見ている電測員「しらねまで4500!」「しらねまで4500ゥ〜」艦長「ちょっと離されてるな〜・・・黒10位で行ってみるか」航海長「黒10!」速力通信機の曹士がブザーを「ブッ」インターコムで「黒10回、黒10」、これで操縦室で計算表に従ってスロットルを操作し、増速する。作業が完了し指定の回転・翼角に達したところで操縦室から返信の「ブッ、ブッ」。艦橋では「両舷一戦速黒10回転翼角整定!」とコールし、旗甲板に「マーク黒10、マーク黒10」と伝える。

赤・黒は旗甲板の左右速力マークに隣接した2つの四角い板で表示する。黒は右舷側にあり、2つの白く抜いた青い板を、順々に上げて行く。まず1つを上下4等分し、4分の1ずつ上げて行くと5刻みで、一つが上がり切ってこれで20、次に2つ目を上げて行き、5刻みで2つが上がり切って40となる。赤の場合は左舷側の黄色十字が入った赤い旗で、パターンは黒と同じ。

これでおおよそ0.4ノット刻みの速力を作ることができるわけであるが、赤・黒ともに30以上は隣の基本速力の刻みとラップしている。従って意味がないと言えば言えるのであるが、コントロールのしやすさを考慮してあえて設定されている。

4.9.2005 

マグネット方位

操舵の様子を隣で見ていると、時々方位を読み上げる際に「マグネット○○度」と言っているのを聞くことがある。

自衛艦では艦の針路や目標物、的針(自艦以外の水上目標針路)などを表すときは常に真方位を用いる。すなわち、艦が真南に向かって航走していれば「針路ヒャクハチジュウ度」、真西に向かって航走していれば「針路フタヒャクナナジュウ度」という具合。さて、地球は磁性体であるコンパスを使って方位を知ることができる位であるから、地球自体が磁気を帯びた大きな磁石であるのはご存知の通り。これで南北を知ることができるのだが、実はこの磁石の示す南北は、地球の自転軸である北極―南極を貫く一直線とは若干ずれているのである。

海図に必ず記されている方位を示す指標(コンパスローズと言う)。左に傾いているのが当海図の横浜港一帯での磁方位で、写真では見えにくいが西に6.45度の偏差を1995年に測定したことがわかる。
もともと自転軸と磁場の関係はダイレクトに連関するものではないので(この辺になると説明が苦しくなってくる どなたか地学を修めた方ちゃんと説明してくださると助かります)人間が設計したわけでもなく自然の産物である惑星の回転と磁場の軸がずれていてもなんの不思議もないのだが、ほぼその差を無視できる登山などと違い、地球上あらゆる海面を移動する船舶では適宜これを補正することが重要である。

地球上の各地点における真方位と磁方位のずれ―これを偏差という―は各地の磁気観測所によって随時測定されており(たとえば茨城県石岡市にある気象庁の地磁気観測所・同所は常磐線の取手以北交流電化の要因となったことで知られる。また、ここは世界で4カ所の地磁気観測所の一つとして国際的に重要な観測所でもある)、関東の沖合の太平洋岸ではおおよそ西へ6〜7度となっている。操舵手がコールするのはこの数値なのである。すなわち観艦式の時など相模湾沖で、針路が真西なら「針路フタヒャクナナジュウ度、マグネットフタヒャクナナジュウナナ度」と言っているはずである。

なお、地球は生き物ゆえ、この磁場も刻々と変動しており、観測年によって異なる数値を示すことがある。そのため、海図に標記されている磁方位は必ず観測年が記入されており、地図以上にあまり古い版は使えないことになる。

操舵の実際においては、高速移動する飛行機とは違い、また基本的に日本近海で行動する自衛艦はあまり真方位と磁方位の偏差が大きく変化することはないためか、通常はマグネット方位のコールを省略しており、入出港や操舵手が交替する時のみこれを読み上げているようである(もちろん、外洋での読み上げ手順については知りません)。

14.2.2006 


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