2003年5月現在、アジア一帯、いや世界を震撼させている未知の伝染病、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome 重症急性呼吸器症候群)。これに合わせたわけではまったくないのですが、この病がデビューする直前に偶然にも某病院の新感染症隔離病棟を見学する機会がありました。なかなかお目にかかることができないウィルスとの闘いの最前線をお見せしましょう。それにしても、この病気、おさまるんでしょうか。1年後にこのページを見る人が誰もいなくなっていたら・・・・

新感染症とは?1999(平成11)年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」、いわゆる「感染症法」に基づく未知のウイルスによる疾病の分類。人類の文明が発達し、交通・物流によって人の移動が大規模に行われる現代、国境を越えて簡単にウィルスが伝播する環境と、HIVやエボラ出血熱など新たなウィルスの出現で、従来の概念では感染症・伝染病に対処することが難しくなってきた。そこで今回、従来の伝染病予防法,性病予防法および後天性免疫不全症候群の予防に関する法律を廃止・統合,結核を除くすべての感染症を対象として既知の伝染病を整理、分類しその対処を明文化し、現代の実態に即した法律に生まれ変わるとともに、未知の伝染病を「新感染症」として分類し、入院などの措置を定めている。

従来からの感染症は病原体の強さで1類から4類に分類されているが、感染症としてメジャーどころのコレラは2類、O-157による腸管出血性大腸菌感染症は3類、ペストは1類となっている。「新感染症」は同法第6条第7項に規定されたもので、人類が未だ出会ったことのない領域の非常に危険な病として、政令によって指定され1類と同等の対応が行われる。

今回見学したのはこの新感染症に対応するべく、完全な密閉病室として新たに建設された隔離病棟4室で、内部の気圧を低くして汚染された空気が外部に漏れないようにした「陰圧式」の構造を採用しており、今回完成した病棟を含め日本で2カ所、6室しかない。

タイトルカットはもうすっかり皆さんおなじみの陰圧式隔離ストレッチャー、アイソレーター。実は私、病院が本当に苦手な人間でして、今回の見学も100%怖いもの見たさなのですが、この写真マジで怖くないですか?思いもかけずスタジオセットみたいだし、室内のたたずまいといいデジカメ独特の色調・エッジ感といい、とても長時間正視していられないのですが(このページ作るときもなるべく見ないようにしてました)・・・それって私だけなの?同じような感性をお持ちの方、ぜひご連絡下さい。



大きな本館の後ろに新たに建設された2階建て病棟の一番奥が自動ドアで仕切られており、この奥が新感染症病棟。このドアはストレッチャーで出入りする際に使い、通常はドアの右側にある病室―患者収容時はナースステーションとして機能する(タイトルカットのアイソレーターが置いてある部屋)―を通って出入りすることになる。

室は共通の前々室1室と前室2室、病室4室からなり、要するにトーナメント方式のツリー構造をしており、これに検査室が付属しています。扉はすべて自動式の引き戸で、一帯はすべて病室で空気を吸引し周囲より気圧を低く保つ陰圧式。吸引された汚染空気は高性能な繊維フィルターであるHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターで濾過され、大気に放出されるようになっています。

病室内に入る。今はベッドが入っていませんがここが枕元になります。パネルは特別なものはなくコンセント、空調、酸素バルブ、ナースコールなどですが、液晶のモニタがハイテク感を演出していますが、これは今の病院ではアリの設備なのかな?

病室に入り説明を聞く。単焦点のデジカメを持っていったのでとても室内をワイドに捉えることなどできず、こんな感じになってしまいましたがご容赦下さい。特にスパルタンな感じはなく、窓も2重ながら普通にあって外の景色が見えます(といっても隣の病棟が見えるだけ)。奥のパーテーションで仕切られたところに、洗面台・シャワー・トイレが完備。ここに入れば一歩も外に出ることなく快適な療養ライフを送れるというわけです。

その上にある酸素のバルブハンドル。
空調のパネル。前前室にある。

(左)前々室から右側の前室へのドアを見る。ドアの隣にあるのは病室に通じている高温滅菌消毒用の設備で、汚染された手袋やマスク、患者の着衣、ガーゼなどをここに入れてから医療廃棄物として処理する。右は廊下にある一番奥の病室用高温滅菌消毒用設備(上の病室全景写真右奥が反対側の投入口)。

高温滅菌消毒用設備操作パネルの温度・気圧記録部。ロールプリンタ用紙に連続して記録される。
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前々室に入って目の前にある病室各種設定コントロールパネル。左上が照明、右上が気密ダンパー、気圧や漏水、HEPAフィルター目詰まりなどの警報、左下が機器の運転時間表示、中央が高気密電動ダンパーの給排気ダクト開閉、右下は入口スクリーン・窓ブラインドの開閉ボタン。
その後地下にある新感染症病棟専用の排水処理室に移動。室内で発生したすべての排水(洗浄水・トイレ)はここに集められ、大きな釜のような加熱滅菌槽で一定時間高温処理された後下水に流される。滅菌槽は2基あり、交互に使用、故障時のバックアップとフル稼働時の容量確保を図っている。右下は排水貯水槽への送水管に設けられているHEPAユニット。

見学中、「こんなもの作ってもどうせ使わないだろうし、無駄な気もするわな〜医者の遊びっつ言ゃーそんな感じもするわな〜」なんて同居人と話していたのですが、よもやこんな事態になるとは・・・4月3日、厚生労働省はSARSを新感染症に指定、あっという間に第1号が誕生してしまいました。軍備と同じであり得ないと思われる事態にも備えて無駄なような投資をしておくのが本当の危機管理ってもんですかね〜。それはそうと、前述の通り陰圧室の病室は全国で6床、1人発生して即隔離のような事態を想定していたのが思いっきり裏切られいきなり総力戦の様相です。果たして人類は勝てるのか・・・?