きっかけは、昨年(2001年)9月15日のJリーグセカンドステージ、横浜Fマリノス戦である。
国立競技場で行われたその試合を観たいと思ったのには、特に理由はなかった。もちろんサッカーは好きだし、日本代表の試合はかかさず観ている。が、かといって、試合場まで足を運ぼうなんて考えたことはなかったし、ましてやJリーグの試合に至っては、生の試合など今まで一度として観たことはなかった。だからその試合に行くつもりになったのも、たまたま家の近場で行きやすかった、あの日本のファンタジスタ中村俊輔選手が観られるから、という程度に過ぎなかった。だから席も、特に何も考えずにマリノス側を買った。
相手はその年に東京へと引っ越してきたばかりの、東京ヴェルディ1969(旧ヴェルディ川崎)である。マリノスとヴェルディといえば、かつては名門チームの誇りも高き、超強豪チームだった。ところが2001年のリーグ戦では、この2チームが共に残留争いに巻き込まれるという、とんでもない事態が発生していた。選手補強の失敗、チーム戦術の失敗など、理由を挙げればきりがない。が、いずれにせよ結論としては、サッカーとはそういうものだ、と笑って云うしかない。そう、サッカーとはそういうものだ。
セカンドステージもすでに4ゲームを消化していた。日本代表の正ゴールキーパーである川口をまもなくイングランドへと旅立たせる予定のマリノスは、セカンドステージ開始後は3勝1敗と勝ち越していて、調子は上向いている。一方ヴェルディといえば、浦和にはなんとか勝ったものの、市原、名古屋、磐田と星を落とし、本当にヤバい状況にあった。とはいえマリノスにしても、降格圏内から脱しているわけではなかったため、外から見れば「残留争い同士のヨワヨワ対決」と云えなくもなかった。実際、わざわざチケットを買って観にいった私にしたところで、「なんかヨワヨワ同士でつまんない試合になるかもなあ、磐田とか鹿島とか強いチーム同士の試合が観たかったなあ」などと、大変失礼なことさえ考えていたくらいだった。
そんなこんなで試合が始まった。席はマリノス(ホーム)側なので、当然周りはみんなマリノスサポーターばかりだ。かといってどちらのサポーターというわけでもない私は、ビールを飲みつつぼんやりとした視線をピッチに向けていた。試合はややヴェルディの攻勢という感じで進んでいった。ヴェルディは永井、桜井、三浦、エメルソンといった主力組を欠いていて、厳しいけれど死ぬ気で頑張るぞ、というような、悲壮なまでの必死さが、グランドを駆け回る選手ひとりひとりから伝わってきた。一方マリノスの選手達からは、勝ち越しているという気楽さがあるのか、攻められていても余裕のようなものさえ感じられた。面白いと思ったのは、やはり俊輔だった。彼のプレイのスタイルは、他の選手に比べて非常に独特で、特にボールを持った時にドリブルで相手をかわそうとする時の、両手を大きく広げてバランスとスペースを取ろうとする格好は、まるで空を飛ぶカモメのようだと思った。
そんなどうでもよいことを考えているうちに、試合はどんどん進んでいき、私のビールの量も進んでいった。正直いってそれほど面白い試合ではないと思った。俊輔にしてもびっくりするようなパスは一本も出てこないし、他の選手にしても目を瞠るようなすごいプレイを見せてくれるわけではない。まあ、キャプテン翼(笑)じゃないんだから、当たり前といえば当たり前なんだけどね。次第次第に退屈してきた私は、試合が終わった後の食事をどうしようか、などと、不謹慎なことさえ考え始める始末だった。
が、その時だった。
前半35分。右サイド西田選手からのクロスを、ゴール前に詰めていた前園選手が見事に合わせて一点目を奪取した。
それはそれは素晴らしいファインゴールだった。ゴール前には敵味方問わず選手が入り乱れていて、通常であれば直接狙わずに、一旦横や真後ろに叩くところを、前園選手はやや強引にも感じられる力強さでわずかなスペースに突っ込み、川口選手からゴールを奪ったのだ。
その瞬間、周りの席からは大きな落胆のため息が上がった。繰り返すが、マリノスサイドの席だから当然である。マリノスサポーターにとって前園選手は憎き敵なのだ。なんてことしやがったんだこのやろう、という感じなのだ。
だが、そんな中で、私だけは違っていた。
私ひとりだけはなぜか、マリノスサポーター達の間にあって、うおおおおおおっ! と、心の中で歓喜の声を上げてしまったのだ。
それくらい、前園選手のゴールは、素晴らしかったのだ。少なくとも私にとっては、退屈し始めた私の目と心を確実に覚醒せしめるだけの、強い強いパワーがあった。
そう、私はその時、前園選手から――そして東京ヴェルディ1969というチームから、目には見えぬ、強い何かを、はっきりと受け取ったのだ。私を興奮させ、私を喜びへとかき立てる、強い強い何かを、だ。
*
セカンドステージ最終戦、私は東京スタジアムのスタンドにいた。
相手はFC東京。ヴェルディの自力による残留の可能性はなくなっていたが、それでも最後の望みをかけて、ヴェルディの選手達はピッチに駆け出していった。最前線にはブラジルからやってきた救世主エジムンド選手。ここで負けてはブラジルに帰れない。
そんな彼らに、私は必死になって声援を送った。
私だけではない、同じスタンドに集まる数多くの人々(FC東京のサポーターを除く)が、ヴェルディのために応援をしているのだった。東京スタジアムは満員だった。たしかその時の入場者数は、3万5千人を越えていたと思う。
私を含めて、応援に駆けつけた彼らは皆、何か予感めいたものを感じていたに違いない。今日この場にいること、スタジアムで観戦することで、きっと何か凄いものが見られるに違いない、そういった奇妙な感覚だ。
降格の直接のライバルとなるのは、シリーズ終盤に立て続けに試合を落としたアビスパ福岡だった。同時刻に開始されたその試合では、ガンバ大阪に対して福岡が先制していた。
一方、ヴェルディも負けてはいなかった。前半13分、FC東京のディフェンスラインで張っていたエジムンドからのパスを、MFの永井が見事に決める。先制の一点だ。
その後は一進一退の攻防となった。ヴェルディはボールを奪取すると素早くトップのエジムンドにボールを渡し、彼がキープしている間に攻撃陣が攻め上がる、という攻撃を繰り返した。一方FC東京は、トップのアマラオこそ欠いていたものの、エースである佐藤由紀彦が、持ち前の速いドリブルで右サイドを幾度となく駆け上がってきた。
そんなFC東京の攻撃に対して、ヴェルディのDF陣は徐々にラインを下げてゆく。だがそれでも必死になって、FCの怒濤の攻撃をなんとか凌いだ。
やがて90分が経過し、タイムアップ。辛くも逃げ切った。だが福岡の試合がまだ終わっていなかったため、選手達の顔にはまだ戸惑いの表情が浮かんでいる。そのままさらに数分が過ぎた時、スタジアムの電光掲示板に、福岡の敗戦がはっきりと表示された。
ヴェルディの残留が決まった瞬間だった。
そして私は、ヴェルディのサポーターになった。
*
さて、このWEBページ『verdy考』は、東京ヴェルディ1969というチームについて私なりに考えたこと、特に戦術の基本となる「フォーメーション」について意見を述べようとするものである。
ヴェルディのサポーターになってからというもの、私はサッカーというものに対して、より深く考えるようになった。
一般的には、そういった戦術・戦略などより、選手ひとりひとりの才能の方に注目が向くものなのかもしれないが(もちろんサッカーにとって選手の才能は極めて重要なテーマだ)、私にとってはむしろ、戦術・戦略といったものの方が、非常に興味深く思えた。
ご存じのように、サッカーというのは、点を取ってなんぼのゲームである。
だからこそ、点を取れるFWや攻撃的MFは注目されるわけだし、柳沢にしろ中田にしろ、日本代表でもそのポジションの選手は一番の花形だ。
しかし、点を取るためには、その過程もまた重要となるのだ。
確かに才能ある選手が一人いれば、試合に勝つことはできるかもしれない。だがその選手一人で90分間を戦い切れるかといえば、そうでない場合の方が遙かに多いだろう。
相手からボールを奪う、そのボールを的確に前線に運び、フィニッシュまで結びつける――最後にシュートを決める選手が才能あるFWだったとしても、そこまで持っていく過程には、ある程度の「決め事」「システム」が必要となってくる。特に守備は、一人一人の才能だけでは絶対にできない。チームの各人が互いに連携して動かなければ、どんなに才能のあるゴールキーパーがいたとしても、点など簡単に取られてしまう。それは、イングランドに渡った川口選手の苦労を見れば一目瞭然で、優れた守備はキーパーとDFの連携なくしてはありえないのだ。
またそれとは逆に、特に優れた選手がいない場合でも、フォーメーションと戦術が徹底していれば、試合に勝ってしまう場合だってある。戦術が個人の才能を凌駕してしまうのだ。
そういった戦術・戦略について考えを巡らしていくうちに、私はフォーメーションの持つ面白さ、奥深さというものに、どんどんと魅かれていった。
サッカーは、ゴールキーパーを除けば、フィールドプレーヤーはたった10人に過ぎない。その10人の選手を、ピッチ上にどのように配置し、どのように動かすか。
攻撃に人数を増やせば、守備が甘くなる。
守備に人を費やせば、今度は攻撃に手が足りなくなる。
チームの中心をどこに置くか? 才能ある選手にボールを集めるにはどうしたらいいのか? 今いる選手達の特長を生かすにはどういったスタイルが相応しいのか……答えはひとつではなく、また正しい答えも存在しない。答えは試合のピッチの上にしかないのだ。
それを私は、ヴェルディというチームをテクストとして、考えていきたいと思う。
それは何より、ヴェルディを今以上に理解したいがために。
そして、ヴェルディを今以上に応援したいがために。
そう、ある意味これもまた、ヴェルディに対するひとつの「愛」のカタチなのではないか、と、私は勝手に思っている。
*
とはいえ、所詮私は、サッカーについてはシロートの域を出ない。
実際にサッカーをやっていた経験があるわけでもないし、偉そうに語れるだけの知識を持ち合わせているわけでもない。だいいち、まともな意識をもってサッカーを見始めたのは、去年の秋以降、ほんのつい最近に過ぎないのだ。だから、もし私が明らかに間違ったこと、事実やサッカーの常識からかけ離れたことをほざいていた場合には、遠慮無くご指摘いただきたい。
それでも、サッカーについて何かを語る、フォーメーションについて自分なりの意見を述べることを通じて、これを読んでくださる皆様の、サッカーの試合を観る時の参考になったり、また何より、ヴェルディというチームのことを、皆様が今よりほんのちょっとでも好きになってくださったら、これに勝る喜びはない。
仕事を持つ社会人ゆえ、更新はそれほど早くはできないと思う。だがその分、魂を込めた文章を精一杯書くつもりなので、どうか期待の程をお願いしたい。
それでは、そろそろ試合開始といこう。
「皆様ようこそいらっしゃいませ。どなた様もごゆっくりとお楽しみ下さい」
2002/03/20
written by 蛙王