■ゼロからのスタート
 
















図1:ヴェルディの基本フォーメーション
(4-4-2、攻撃方向は↑)



屈辱のJ2降格から3ヶ月が過ぎ、再度J1へと復帰するための長い長い戦いが、ついに始まりを告げた。主力メンバーの大量流出と、それ以上の数の大量補強。とはいえそこにビッグネームの存在はほぼ皆無であり、「これがJ2の現実なのだな」と納得せざるを得ないのも事実であった。が、それでも、彼らひとりひとりの顔つきをじっくりと眺めてみれば、誰も彼もが闘争心に溢れ、チーム内競争を勝ち抜いてピッチに立ち結果を出すことに「飢えている」という感じが、ひしひしと伝わってくるのがわかるだろう。プロのチームである以上、レギュラーなんて誰も約束してくれない、だからこそ試合に出場し勝利することが、自らにとってどんなに大切で重要なのか――そんな当たり前なことが、不思議なことに昨年までのヴェルディには存在していなかった。J1チームの中で最も薄かった選手層が、彼らからチーム内での競争意識を奪い取ってしまっていたのだ。だが今年は違う。今年の“ラモス”ヴェルディは、チーム構成もフロント体制もすべてを含めて、ようやく本当の意味での「プロチーム」へと変身し始めたのだ。

1月末のチーム始動の後、グアムキャンプとそれに続く国内での調整、そして数回行われた他チームとの練習試合を通じて、新生ヴェルディが選択したフォーメーションの形は、サッカーの基本中の基本とも云うべき4-4-2であった。それは2006年のJ2初戦となった対徳島戦でも同様で、その試合に先発として顔を揃えたメンバーもまた、GKこそ高木から水原へと変更になったものの、それ以外はすべて、先のジェフ千葉との練習試合でのそれと同様であった。

ラモス監督がこのフォーメーションで意図したものは、多分に戦術云々という以前に、「やりやすさ」と「応用範囲の広さ」だと思う。先にも述べたがこの4-4-2という形、2ボランチの前に2人のトップ下を置く「台形型中盤4-4-2」は、時に南米型・ブラジル型とも称されるくらいにメジャーなシステムで、特に選手の側からしてみれば「昔からやっているので慣れている」というのが大きく、今年のヴェルディのように「まったく新しいチーム」の場合であれば、ここから始めるのは至極当然と云えよう。もちろんそれを逆に云えば、この冬の短期間でゼロからチームを作る、各選手の特徴も完全には掴みきれない状態で、それでも船出だけはしなければならない状況では、「4-4-2」以外に「選択肢はなかった」、というのも絶対になかったとは云い切れない。つまり、少なくとも現時点においては、この「4-4-2」はFIXではなくあくまで暫定的なもの――選手に合わせて考え出した最適なものというよりは、各選手が合わせやすいシステムをと考えていった結果、自ずと導き出されたそれであったと考えられる。そしてそれは、ラモス監督がオフシャルブックのインタビューの中で答えていた「約束事」についての内容の薄さ――守備の際にどこで網をかけるか、ボールを奪ったらどうするか、90分間最後まで走り、1対1で絶対に負けないこと――からも伺えなくはない。もちろんこれは、好意的に見ればラモスがシンプルなサッカーを希求していることを充分に表している(そして究極的に云えばサッカーで必要なのはそれだけである)ものの、一方では「チーム内での細かな約束事」がまだ固まりきっていないという風にも読み取れなくはない。シンプルと不足は紙一重である。

そういう意味では、現時点でのヴェルディは、他の「選手もシステムもほぼ昨年から継続してできている」チームに比べれば、まだまだ発展途上の「遅れた」チーム、と云わざるを得ない。そしてその事実は、今節の徳島戦においても、早くも前半から露呈してしまった。
















■前半:チームの熟成度の差が露呈
 
















図2:前半の両陣営の全体配置
verdy、徳島)



では、試合前半の分析をしてみよう。今節の試合でヴェルディがやろうとしていたのは、守備の際に複数の人数でプレスをかけ相手を取り囲み、ボールを奪ったら、ボランチの大野を起点にトップとトップ下にボールを預け、そこからラインを押し上げていくというものだったと思う。それは、私が試合を観ていて感じた限りではあるが、前半の攻撃時に大野を経由するボールが最も多かったからである。

ところが徳島は、そういったヴェルディの作戦を見越してか、ヴェルディ以上にシンプルで、かつ効果的な戦略で攻めてきた。

具体的にはこうである。まず徳島は、両SB2人を含めたDF4人、および2人のボランチで、ヴェルディの主要な攻撃陣である2トップと2トップ下をがっちりとマークした。そのため、ヴェルディはいくら大野から良いパスが出ても、攻撃陣までなかなかボールが通らなかったのである。実際、前半においてトップの平本やバジーリオがボールに触った回数というのは、ほんの数回に過ぎなかった気がした。

そんな感じで徳島はヴェルディの攻撃を「無効化」する一方、攻撃に際してはヴェルディの弱いところを的確に衝いてきた。徳島はヴェルディからボールを奪取すると、4-2-3-1の両サイドのウィングを「ヴェルディの両SBの裏」に走らせ、そこに素早くボールを出した。するとヴェルディのCBとボランチはそれに対応するため、横にポジションをスライドさせるを得なくなる。ここでヴェルディの守備陣形が崩れ始める。もちろんそこでボールを奪い返せれば何の問題もないのだが、徳島のウィングのすぐそばには、ほぼフリーマンとして自在にポジションを替える玉乃がいて、きっちりと約束事が練り上げられたコンビネーションと、彼の卓越したテクニックにより、ボールを奪い取るどころか、逆に守備の網をガシガシと切り崩されてしまったのだ。また玉乃がボールをキープしている間に、徳島の3列目やDF陣がラインを上げ、さらにヴェルディの守備陣にプレッシャーをかけていく……。結果、ボランチを含めたヴェルディの守備陣は、網をかける以前にボロボロに連携を崩され、ついにはセットプレーで先制点を献上する羽目になってしまった。特に(多分これは徳島が意識して行ったことだと思うが)ヴェルディ側から見て左サイドの藤田の裏をつく攻撃が非常に多く、そのため本来ならもっと攻撃に絡むべき(左ボランチの)大野が守備に引っ張り回されたというのも、ヴェルディとしては非常に痛かった。

要するに、前半の「若い」ヴェルディは、より熟成したチームの徳島に翻弄され、押し込まれて、自分らしさをほとんど出すことができなかったのである。守備の網に掛けようとすれば、その網目をするすると抜かれ、そうしているうちに網目と網目の距離がチグハグになって、相手により自由なスペースを与えてしまった。これでは徳島に好きなようにされても仕方がない。むしろ、こんな状態でよく1失点だけで済んだ、しかもロスタイムに1点返したというのは、大したもんだと褒めてやってもいいくらいだ。

そんな感じで前半のヴェルディは、チームとしての若さを露呈し、老練な徳島の罠に自らかかってしまったわけだが、後半に入ると、前半のそれはまるで嘘だったかのように、突如としてチームが機能し始めるのである。
















■後半:4-3-3への的確な修正で徳島を圧倒
 
















図3:後半の両陣営の全体配置



後半に際し、ラモス監督の行った修正は以下のようなものと考えられる。

大きなポイントは3つ。まずひとつは、両サイドの裏スペースを使われないよう、両SBの攻撃参加を押さえ気味にして、役割をより「守備重視」に振ったこと。

次に、永井に替えてアナイウソンを投入し、前半の2トップから3トップに近い形に変更することで、高い位置によりボールが入りやすくしたこと。

そして最後に――これが最も重要な修正なのだが――、前半時には「役割の分担が不明瞭」だった大野と金澤のダブルボランチの形を変更し、金澤を中盤の底に、その左前目に大野を、右に大橋を置いたこと。これは、金澤の役割をより明確に守備に割り振って、CBのサポート、および徳島の攻撃のキーマンであるトップ下玉乃の動きを押さえるのに専念させるためであり、一方の大野にはより攻撃的な役割を与えて、彼の攻撃参加を積極的に促すためである。また大橋の位置を前半よりも後退させ、攻撃だけでなく2列目や右サイドの守備のサポートにも参加させたことで、前半の2ボランチの不安定さが一気に解消した。

そしてこれらの修正、「4-4-2」から「4-3-3」に近い形へのフォーメーションチェンジにより、前半にはほとんど死に体だったヴェルディが、完全に息を吹き返すことに成功した。4人のDFと中盤の底の金澤は、徳島の「3-1」の攻撃を完全に押さえ切ったし、前半の守備の負担から解放された大野は、ゴール前へと駆け上がっては何度も攻撃へと絡んでみせた。また大野の攻撃参加は、右の大橋にも自由に動けるスペースを与えることとなり、どちらかといえば後半はむしろ大野よりも大橋の方が攻撃の起点となっていた。さらに平本を頂点とした3トップは、左右ワイドに開くことで、前半には見られなかったサイドからの攻撃を活性化させた。特にアナイウソンとバジーリオの自由な動きは、徳島の守備のマークを混乱させ、それがさらにヴェルディの攻撃するスペースを生み出したのである。

結果、ヴェルディは前半とは逆に徳島を激しく攻め立て、ゴール前でのチャンスを何度も何度も作り出すことに成功し、終わってみれば4-1の勝利。もちろん得点こそすべてセットプレイからのものではあったが、それもヴェルディが試合の主導権を握り返し、徳島を押し込み続けたからこそである。
















■チーム作りはまだ始まったばかり
 















2006年J2リーグ戦 第1節
東京V vs 徳島ヴォルテス

・期 日

2006年3月4日
・場 所

国立競技場
・得 点

東京V 4-1 徳島
・得点者

東京V●萩村、バジーリオ2、大橋/徳島●羽地


このように今節のヴェルディは、前半と後半ではまったく違うチームのようであった。これはもちろん今のヴェルディがまだ「若い」チームであり、コンビネーションや約束事がいまだ確立されきっていないのが一番の原因である。だがそんな状況の中でも、ちょっとした修正ひとつであれだけ機能するようになったということには、筆者としてはむしろ非常な驚きですらある。はっきり云おう。このチームのポテンシャルは思った以上に高い。的確な戦術さえ与えられれば、すぐに機能するだけの力はすでに持っている。これは嬉しい発見だ。

また特筆すべきは、やはり大橋のフリーキックの精度であろう。1ゴール2アシストの結果は、見事という以外の言葉がない。三浦の退団以降、点を取れるフリーキッカーが不在だったヴェルディだが、ここにきてようやく、素晴らしいフリーキックのスペシャリストを手に入れることができた。またアナイウソンとバジーリオの2人の新外国人も、攻撃だけではなくブラジル人らしからぬ献身的な守備も披露し、彼らがすでにチームの一員として溶け込んでいることを我々に示してくれた。そして何より、筆者が試合を見ていて最も嬉しかったのは、ピッチに立った新生ヴェルディの選手全員が、試合の最初から最後まで、決して手を抜かずに90分間走り続けたことである。それを見た時、ああ、ヴェルディは変われるな、と筆者は強く感じた。これまでの走らないチームから、走るチームへの変貌、すなわち「良いサッカー・綺麗なサッカー以上に、勝つサッカーにこだわる」姿勢こそが、ヴェルディをJ1へと復帰させる最も大切な鍵であるに違いない。

何度も述べたように、新しいヴェルディのチーム作りはまだ始まったばかりである。初戦こそあのような形で勝利できたとはいえ、今後もずっとこの調子でいけるとは到底考えられないし、むしろ相手の背中を追いかけるような厳しい試合の方が遥かに多くなるだろう。だがそんな状況でも、諦めずに最後まで走り続けられれば、必ずそこに勝利の光が見えてくるだろうし、今のこのチームにはそれができるだけの力は充分に備わっているはずだ。私はそれを、強く強く信じている。

















2006/03/06
written by 蛙王