■数的優位とは必ずしも人数だけで決まるわけではない
 
















図1:ヴェルディの基本フォーメーション
(3-4-1-2、攻撃方向は↑)


図2:前半の全体配置
verdy、大分)


図3:後半開始時の全体配置
(エムボマ投入)


図4:後半55分
(大分4-2-3-1)


図5:後半66分
(戸川退場)


図6:後半79分
(大分3-2-3-2)

2004年J1リーグ戦 1stステージ第15節
東京V vs 大分トリニータ

・期 日

2004年6月26日
・場 所

味の素スタジアム
・得 点

東京V 3-0 大分
・得点者

東京V●林(PK)、平本2/大分●高松


前節清水戦での、ある意味「疲労」による敗戦から一週間後、再びピッチの上に現れたヴェルディの戦士達は、試合を見守る我々に対し、先週のそれがまったくの嘘であったかのような、見事なパフォーマンスを披露してくれた。中盤での圧倒的支配と、絶好調平本の2ゴール――後半の戸川退場後にセットプレイから1点は返されたものの、それを除けばほぼ完璧な完勝といっても良いだろう。そしてその背景には、ヴェルディの選手達のコンディションの回復のみならず、ほぼすべての局面において、大分に対し完全に数的優位を確保していたという点が大きいと思う。

さて、ここからはヴェルディというよりも、むしろ大分側の分析が主となる。今節の大分は、前半、トップ下に元ヴェルディの永井を配した中盤ダイヤモンド型の4-4-2フォーメーションを採用してきた。その目的とするところは明らかで、まず守備に関しては、4枚のDFラインをフラットにして常に高く保つことで、相手(=ヴェルディ)からのクロスパスやスルーパスに対しオフサイドトラップを積極的に仕掛け、失点に繋がる相手からの攻撃を完全に無効化する。また攻撃については、トップ下の永井にボールを集め、そこから2トップに対してスルーパスを出していく――そういう感じであった。しかしながらその大分の思惑は、中盤においてヴェルディが圧倒的に支配権を得たことで、ほとんど成功することはなかった。

図2を見て欲しい。非常に単純な話なのだが、大分のダイヤンド型中盤が4人なのに対し、ヴェルディの中盤は5人である。しかも中盤のボール支配において最も重要となるピッチ中央付近には、大分の2人に対し、ヴェルディは3人もの選手がいたのだ。もちろん選手は常に動いているのだから、それだけの理由で「ヴェルディが中盤で優位」だったとは云えないのだが、問題は大分のフラットな4バックで、サイドを突く動きを繰り返すヴェルディの2トップを警戒したのか、あるいはあくまでオフサイドトラップを使ったラインディフェンスに固執したのか、4人が4人とも攻撃に参加することがほとんどなかった。そのため、ヴェルディは大分に対し、中盤で完全に数的優位に立つことができたのである。

この、「ヴェルディが中盤で優位に立てた」ことは、ヴェルディにとっては主に守備面で大いに機能した。先にも書いたが、今節前半の大分の攻撃の中心は永井であり、彼からのスルーパスを警戒することが最も大切なことであった。そこでヴェルディは、中盤での数的優位を生かして永井を自由にさせないことにより、彼からトップへと渡るボールのルートを完全に断ち切った。これは、大分が「DFのラインコントロールにより中盤からトップへと渡るボールそのものを無効化しようとした」のとはまったく逆の方法である。これにより、大分の2トップは完全に孤立し、オリンピック代表候補選手の一人である高松に対しても、ほとんど有効なパスは届かなかった。――それが、前半のピッチにおける試合の状況である。41分にセットプレイ時のペナルティによりヴェルディがPKで1点を得るが、それはヴェルディというよりむしろ大分の失策によるものであり、ヴェルディとしては点を得たこと以上に「前半を0点に抑えた」ことの方が重要だったに違いない。

後半、ヴェルディは森本に替え、エムボマを投入する。この交代により、ヴェルディは戦術を守備的モードから攻撃的モードへと切り替えた。ポイントはこれまでの試合と同様、エムボマと平本の2トップおよびトップ下小林慶の位置関係にあり、エムボマがワントップ気味に張って相手DFを引きつけながらポストプレイを行うことで、その両側に開いた平本、小林慶がフリーでボールを受けられる機会を増やすというものである(図3)。そしてその作戦はすぐに結果を出した。53分、左サイド三浦のクロスに反応したエムボマのシュートを大分のGKがはじいたところを、ゴール前に詰めていた平本が大分のDFサンドロの背後から足を出してプッシュし、2点目を得たのだ。平本にとっても今期リーグ戦2得点目の大切なゴールであった。

そのすぐ後の59分、大分が永井に替えて根本をピッチに送り出し、フォーメーションを4-4-2から高松ワントップの4-2-3-1へと変更する。その目的とするものは、中盤に人数を増やしてそこでの数的不利を解消すると共に、より両サイドに開くことで高松をターゲットとしたクロスパスで得点を狙う、というものであった。4-2-3-1というとすぐに思い浮かべるのはFC東京のゾーンプレスサッカーであるが、大分のそれは(多分に狙いとしてはFC東京と同じような強いプレッシングサッカーなのだとは思うが)FC東京のそれほどには徹底しておらず、数的には同数になったものの、ヴェルディから中盤の支配権を奪い返すまでにはいたらなかった。というのも、大分のトップ(高松)とトップ下(マグノアウベス)の2人に対し、ヴェルディは3バックおよび林の4人でポジションを替えながらうまく対処したため、結果的に林がマグノアウベスを置いて攻撃に参加しても、守備的には充分にまかなえた(図4)……すなわち、ヴェルディの中盤での数的優位性は、大分のシステム変更後もなんら変わることなく続いていたのである。

59分、小林大のスルーパスに反応した平本が、今試合2得点目となる見事なシュートを決める。これで3-0、試合の趨勢はこの時点でほぼ決まったかに見えた。ところがそれから7分後の66分、DF戸川が2枚目のイエローカードで退場となってしまう。そうなると10人のヴェルディとしては、数的不利な状況のため守り一辺倒となってしまうはずだったのだが、実際はなぜかそうはならなかった。

図5を見て欲しい。戸川の退場後、ヴェルディは両サイドの三浦と山田が下がって4バックにチェンジするのだが、ヴェルディのダイヤモンド型中盤を警戒したのか、ヴェルディが1トップなのにも関わらず、大分の4バックが相変わらず攻撃参加しないのであった。これでは数的優位もへったくれもない。79分には遅まきながらDFを一人下げて3バック2トップにしたものの(図6)、1トップの平本が左右ワイドに動いたり裏を突く動きを繰り返したりして、大分の3人のDFにプレッシャーを与え前に出させなかったため、ヴェルディが数的不利に陥ることはほとんどなかったのである。

結果的にヴェルディは失点をセットプレイからの1点(高松)に抑え切り、前期最終戦を見事勝利で飾った。しかも前半は中盤を圧倒的に支配し、後半は10人になったにも関わらず、見事なポジショニングと動きでまったくといって良いほどに数的不利を感じさせない、完全な勝利であった。もちろん大分としては、カード累積によりレギュラーメンバーが3人も出場停止だったという不利な状況もあったに違いない。だが、10人になった以降も、大分に自分達のサッカーをほとんどやらせなかったところに、ヴェルディの今の強さというものを感じた試合であった。数的優位とは必ずしも人数の多い少ないだけだけで決まるわけではない、それ以上に戦術やポジショニングというものが重要なのである。

前期リーグ戦を終了し、最終的にヴェルディは9位の位置を確保した。序盤のつまずきを考えればこのポジションは妥当なのかもしれないが、それでもセレッソ戦や清水戦が決して勝てなかった試合ではなかったことを考えれば、もう1〜2位は上の順位も狙えたのではないかと思う。いずれにせよ、この調子をキープできれば、後期は昨年同様に優勝争いにも絡めるに違いないが、そこで怖いのはやはり選手の故障である。昨年は小林慶と平野の故障が最後に大きく響き、自ら優勝戦線から脱落してしまった。今年はそんなことがないよう、しっかりと準備とケアをして、万全の体制で後期に臨んで欲しいと願うばかりである。

















2004/06/28
written by 蛙王