プリウスはどのようにエンジントルクを伝えているのか

草稿の段階です。ご意見は掲示板にてよろしくおねがいします。
なにぶんしろうとなもので...


  1. トルク分割機構としての遊星歯車

     プリウスの遊星歯車は、その歯数が決まっていますので(というか変えようがありませんが)エンジントルクは一定の分割比でサンギヤ(発電機)とリングギヤ(〜減速機を経てタイヤへ)へ伝えられます。その比は1:2.6です。エンジンが3.6のトルクを発生すると、1と2.6にそれぞれ分割される訳です。
     例えばエンジンが1,300 rpmで回転しているときは、NHW11ですと11.8 kWを出力しています。トルクは87 N・mくらいです。このトルクは1:2.6に分割され、発電機には24 N・m、リングギヤには63 N・mが伝えられます。発電機に伝わった力はまずは置いておいて、リングギヤへ伝わった駆動力だけを考えます。この63 N・mのトルクは減速機で3.905倍に増幅し、あとタイヤの直径を計算すると、最終的に860 Nの駆動力で地面を蹴ることになります。走行抵抗は約200 Nプラス空気抵抗ですので、このエンジン直行駆動力だけでも、平地であればすごくゆっくりと走り出すことが出来ます。マニュアル車で言うところのオーバートップギヤ(0.72)に相当します。ということで、低い速度域ではこのエンジン直行駆動力はあまり役に立ちません。
     そのため、出だしは絶対にモーターの補助が不可欠です。そこで先ほど計算で出てきた3.6のトルクのうちの1のトルクを使う出番が来ました。発電機に伝わった1のトルクは、その力で発電機を回し一旦電力に変換されます。その電力を使ってモーター(リングギヤ直結)を駆動し、エンジンを手助けします。もちろん、補助するトルクをもっと大きくしたい時にはバッテリーの貯金を使えばいいですし、必要でなければその分充電に回してしまえばいいのです。この充電に回すことができるというのが、車の駆動力と、充電に必要なトルクの両方に同時にエンジントルクを分割することができる、プリウスの遊星歯車の特徴です。

  2. パワー分割機構としての遊星歯車
     さきほどトルクは一定の比率で分割されることを紹介しました。トルクというのは力であって、例えば壁に手を押し付けて力をかけたところで、壁に変化が無ければいわゆる「仕事」をしたことにはなりません。疲れますが。仕事は力と距離の積で表されます。それを1秒間にどれだけ行ったかでパワーが計算されます。
     ですから、パワーはトルクと回転数の積であるので、 同じトルクの時でも回転数が高い方がパワーが大きくなります。発電機で考えると、サンギヤに同じトルクがかかっても回転が速ければ速いほど発電量が増大します。直行駆動力で考えると、リングギヤに同じトルクがかかっていても回転速度すなわち車速が遅ければ遅いほど伝わるパワーは少なくなります。この発電機とリングギヤに分割されるパワーの合計はエンジンの発生するパワーです(エネルギー保存の法則)。このパワー分割の比率はトルクと異なりサンギヤとリングギヤの回転速度の比にしたがって変化します。回転数を自在にあやつることができれば、自由にパワー分割の比率を変えられます。しかし、実際には車速は自由に変化させられませんし、エンジン回転数は効率の良いところで回すとなるとやはり自在に回転速度を設定できる訳でなさそうです。

  3. トランスミッションとしての遊星歯車

    先ほどの1:2.6というトルクの分割比率は、どんな回転数、どんな車速でも常に一定です。エンジン直行駆動力では足りないような、低い速度域での必要なトルクはどのようにして得ているのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
     たとえば、先ほどのエンジン1,300 rpmの例ですと、そのとき車が時速18kmで走っていれば、サンギヤ(発電機)の回転数は 3,000 rpmになります。トルクは常に24 N・m伝えられています (=87 / 3.6)。発電機が回転数を一定にするように発電をしているとすると、発生する電力は7.6 kWになります(計算式は次)。ではこの7.6 kWをめいいっぱい使ってモーターを回すと、トルクはどうなるかというと、次の計算式から計算します。
    パワー (kW) = トルク (N・m) x 回転数(rpm) / 60 x 6.28 /1000 これは単純に仕事=力 x 距離 を1秒間で考えたことになります
     モーター回転数は時速18 km では600 rpmですから、計算するとトルクは120 Nになりました。先ほどのエンジン直行駆動力でリングギヤに伝わるトルクは63 N・mですから、その2倍近いトルクが発電機〜モーターの共同作業で作り出されました。そしてもともと発電機に伝わったトルクは24 N・mですから、5倍に増幅されました。これがトランスミッションとしての遊星歯車のしかけです。トータルで考えると、エンジンで 87 N・m発生したのが、最終的に 120+63=183 N・mで2.1倍になりました。
     もちょっと単純に考えると、発電機の回転数とモーターの回転数の比で増幅の度合いが変化します。もし回転数が同じであれば1倍(効率を考えると0.95くらいかもしれません)、発電機が4倍速く回っていれば4倍に、発電機に分割されたトルクは増幅されます。さっきの例は3,000 rpm/600 rpm = 5倍ですね。低い速度域ではモーターの方が回転速度が遅くなることから、発電機の回転数が相対的に高くなり、大トルクが必要な時にちょうどいいぐあいになっています。また、エンジンのトルクを上げるためにエンジン回転数自体を上昇させると、やはり発電機の回転数が相対的に上昇しますので、より大トルクを発生させることができます。それも連続的に滑らかに働くことができるトランスミッションとしても遊星歯車は機能しています。

  4. 発電機が発電しないとどうなるか

     この命題は私にはかなり難しいのですが、例えば一定速度でずっと走っている時に発電量を減らすとどうなるかというふうに考えます。プリウスの遊星歯車は発電機が逆転する場合があるので、それを考えないようにすると、たとえば急な上り坂を一定速度でエンジンをうならせて走っていることを想像してみます。そこで理由はともかく発電機の発電を落とすようにコンピュータが指示を出したとします。まず発電機にかかるトルクはつねに一定(さきほど出ました)なので、そのトルクと発電抵抗が釣り合っていたのがバランスが崩れるわけですから、発電機の回転数が上がります。そうすると、車の速度が一定の場合(=リングギヤの回転数が一定)、エンジンの回転数の方が上がります(負荷が下がるからと考えてもいいでしょう)。さて次はどうなるでしょう。
     この場合、エンジンが一定のトルクを発生し続けれるのであれば、エンジン直行駆動力は変化しません。そして、発電量だけ少なくなると、その少なくなった分の行き場が無くなったエネルギーは発電機とエンジンの回転上昇分にひたすら使われるだけで、その他にはなにも起こりません。エンジンの回転数が上がった場合にはトルクが減っていくような気もするのですが私の知識ではわかりませんので、エンジンの代わりにもう一つモーターがプラネタリキャリアにつながっていると考えてみます。と多少私にも分かりやすくなります。そうすると、一定のパワーでモーターが回転していたとすると、回転数が上昇するとトルクが減少しますので、直行駆動力が減少します。そうすると、減少した分の駆動力を維持させるにはモーターで加勢する必要がありますが、そのためにはその電力を発電量を上げておぎなう必要があります。そもそも発電量を落とす指令が間違っていることになります。
     一定の回転速度を維持するためには、伝わるトルク分の発電を必ずしなければなりません。ですから、プリウスの発電機は回転している限り、発電をし続けなければならない宿命なのです。例外はモーター走行時です。あと、アクセルを踏んで加速するときには、一旦エンジン回転数を上昇させる必要があります。その時に一瞬だけ発電を緩めるとエンジンの目標回転数に素早く到達します。実際にバッテリー電流を見てるとその変化がわかります。

  5. 効率はどうか

     プリウス開発秘話などを本で読んでいると、開発当時に実用化していた変速機&トルコンの効率とほぼ同じくらいの効率を達成しているようです。動力分割の役割も同時に担っていますので、このシステムはプリウスには必須だったのでしょう。
     しかし、この無段階変速機として機能させるために、トルクを一旦電気に変換して再びトルクに戻しています。ここの変換ロスはどうしても避けることができません。また発電機が逆転しだすと今度はその回転を維持するためにモーターとして電気を使ってまわし続けねばなりません。そうすると、例えばマニュアル車でも、オートマ車のロックアップでも、エンジン直結の車の効率よりもどうしても悪くなってしまいます。高速の連続走行ではあまり燃費の良さが感じられなかったりするのは、そのあたりにもあるのかもしれません(あくまで想像ですが)。
     唯一の例外は、発電機の回転数が0のときです。このときは発電しっこありませんので、エンジンパワーがそのままエンジン直行駆動力としてすべてタイヤに伝わります。エンジン回転数が1,300 rpmのときは時速50km程度です。このあたりの効率がいいのは経験則からかなり知られていますね。偶然の一致ではないと思いますが...
     ということで、平均速度をどのあたりにとるかで、遊星歯車の歯数を決めるとかになるんでしょうかね。
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初稿 2004.7.17