『99歳精神科医の挑戦』(秋元波留夫、岩波書店) 


 88歳の米寿の祝いにコンピュータを所望、以後、コンピュータの勉強を始め、99歳の今、5台のコンピュータを駆使して、毎日、長時間、執筆、メール、インターネットでの文献作業をされている。 

 99年以降でも出版した翻訳著作は13冊ある。巻頭のインタビューで「長生きの秘訣なんかを聞かれても、自分を年取ったと思っていないからね、まったく返答のしようがありませんね」と答えている(p.5)。気持ちは30代。もう一度恋がしたい、と(これは84歳の時の発言。「いゃあ、困ったな。実は本音だから!p.23)。

 高齢にも関わらずというようなことをいうととんでもない失礼で、「自分の孫に語りかけるつもりで、戦争の問題に触れておきたい」(p.94)と、精神障害者がいかに犠牲になったかを説得力のある筆致で緻密に論じられるこの本の話題は多岐にわたり、読み始めると置くことができない。

 最終章には著者の憲法についての考えが述べられている。「わたしが憲法九条はもちろんのこと、憲法そのものを守らなければならないと言うのは、明治憲法、治安維持法下の時代を生きのびた精神科医としての切実な体験にもとづく信念とでもいうべきものである」(p.245)。

「戦争は最も非人間的な罪悪である」(p.240)であるという苦難の時代を生き抜いた人の著者の言葉は傾聴に値する。

 著者の年齢はこの本についての評価とは関係が、生き方のモデルとして学ぶところは多い。

「いま、わたしが一番有り難いと思っていることは、わたしが九十九歳まで生きて、足腰はだいぶ弱ったけれど、今も尚、多少はひとさまのお役に立つ仕事をすることができ、わたしなりに、いまの世の中の渾沌と不条理に抗議の発言を、暖簾に腕押しではあっても、繰り返すことができることである。これも、わたしがこの歳まで生きられたからである」(p.242

 無力感にとらわれている時ではない。

99歳 精神科医の挑戦 好奇心と正義感
秋元 波留夫 上田 敏
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Posted: 水 - 10月 12, 2005 at 06:35 午後          


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