a 「情報発信論」から「情報受信論」へ
本論文では、80年代若者論の反省を手がかりに、CMCの先行研究を批判的に検討してきた。最後に、これまでの議論を振り返ったうえで、「情報発信論」から「情報受信論」への転換を主張することで、本論の結びとしたい。
氓ナは、社会決定論を志向しながらも、技術決定論的立場を払拭できなかった池田らの矛盾した態度が明らかとなった。次いで、その原因が受け手像振り子説に基づく「テクノロジーの有効活用」という言説にあること、またその結果として日本のCMC研究がさまざまな問題を内包することになったことが概観された。では、この論点を深めるためにCMC研究の原型である80年代若者論の考察を行った。そして。では、前章からの知見をもとに池田らの情報縁議論が拡大解釈であることを指摘するに至った。情報縁は理念型としてのものであって、利用者の多くはアドホックな関係性を志向していたのだ。
先行研究は情報発信という形式に注目するあまり、利用者の実態を無視した一元的な議論に終始してしまった。このような態度は情報新人類論と同じ構図といえよう。とすると、M事件により彼らの情報行動の実態(=消費的なメディア利用)が露呈した結果、若者への期待が不安へと逆転したように、CMC研究においても同様の逆転がおこりうるのではないか。CMC研究が80年代若者論と同じ過ちを繰り返さないためには、実態のない「情報発信論」から、メディア利用者の日常的実践に根ざした「情報受信論」への転換が必要とされる。というのは、論文中に何度も述べたように、メディアの社会的機能は利用者の日常的実践により決定されるからだ。現状ではインターネットの利用は電子メールとWWWの閲覧という、既存メディアの代替としての利用が主流であり、インターネットの特性を生かした形での情報発信・相互的コミュニケーションによる満足度は小さいという結果がでている(辻、1997)。また『インターネット白書2000』によると、個人ホームページの開設率は現在休止中も含めて全体の1割程度にすぎず、昨年の17.6%と比較して減少している。同様に今後開設したいとする開設意向者も前年の33.1%から24.7%と減少する結果となっており、将来においてもインターネットの特性を生かした情報発信が一般化するとは考えにくい(日本インターネット協会、2000)。このような状況を考えると、CMC研究は利用者の実態に沿った「情報受信論」への転換の時期をむかえているといえるだろう。
b 「情報受信論」、事始め
それでは、「情報受信論」はどのように展開できるだろうか。研究分野のひとつとして、ROM(Read Only Member)研究をあげることができるだろう。先行研究においてROMは情報発信者の黒子として扱われ、否定的な評価を受けてきた。そこには、情報発信の手段が与えられているにも関わらず、それを有効に利用しないROMに対してのCMC研究者たちのいらだちが感じられなくもない。しかし、この「テクノロジーの有効活用」という前提がCMC研究にさまざまな弊害をもたらしたことを考えれば、そのようないらだちが的はずれなものであることは明らかである。
「情報受信論」は、まずインターネットの実態(現状では利用者の大半はROMであること)をふまえることが必要である。その上で、メディアに社会的意味を付与する利用者の日常的実践、すなわちROMの情報行動に注目することが必要であろう。ROMとは何者で、彼らの目的は何なのか、彼らがROMでいるのはなぜなのか。このようなROMの実態についての問いはこれまで議論の対象とされることはなかった。先行研究は彼らの実態を把握しようとしないまま、否定的な評価を一方的に与えてきたといえる。しかし、情報発信者の間に多層性がみられたように、ROMにも多層性があるのではないだろうか。ROMを多層的にとらえ直すことで、先行研究における否定的な評価を覆し、ROMの再評価が可能となるに違いない。
それでは、ROMの実態を把握するにはどうすればよいのだろうか。彼らは情報発信をしないから、ROMなのだ。よって、その調査は困難なものとなることが予想される。しかし、だからといってあきらめてはならない。サイレントマジョリティーであるROMこそがインターネットの姿を決定していくのだから。
新井・岩佐・守弘(1993)は若者のメディア視聴態度の実証的調査を通して、幻の「能動性」が若者自身にコンプレックスを与えていることを示した。しかし、CMC論者は80年代若者論の反省を生かすことなく、個人の情報発信の可能性を高らかにかかげることで、再び若者たちにコンプレックスを与えようとしている。私にはホームページのアクセス向上に必死に取り組む若者が、CMC論者の語る幻の「能動性」の犠牲者のような気がしてならない………。CMC研究が80年代若者論と同じ過ちを繰り返さないためにも、受け手の実態に基づいた「情報受信論」への転換が必要とされる。
→参考文献