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Home>ウォッチング最新号>バックナンバー一覧>2002年12月6日号
それはほんとに"あんたのもの"か?
 亡くなった写真家・星野道夫の『長い旅の途上』のなかに、アメリカ先住民から薬草の知識を学んでいるメアリーという女性の話がでてくる。その話のなかで、星野がメアリーの案内で先住民の老婆たちと森のなかへ薬草を採りにいく場面がある。

  足場の悪いうっそうとした森の中へ、私たちは老婆の手を引きながら入っていった。デビルスクラブはすぐに見つかり、もう慣れているのか、彼女らは手際よく作業を始めていった。メアリーが茎を切り、老婆たちがその皮をはいで、みるみるうちに持ってきたバケツは一杯になった。  「彼女はね、五年前にガンをわずらって医者に見放されていたの、もう一年も生きられないって」   メアリーは作業の手を休めずに、一人の老婆のことを話し始めた。  「それから彼女は、医者に隠れて、ずっとデビルスクラブの薬草を飲んでいたの。病院の医者たちは奇跡だと言って、首をかしげていたらしいわ。でも彼女は最後まで薬草のことは話さなかったのよ。なぜだかわかる?‥‥‥もうずっと昔から、そう子供の頃から彼女たちは親から教えられてきたの。白人に大切なことを話してはいけないって‥‥‥宗教(シャーマニズム)も、言語も、歴史のなかでみんな取りあげられてきたからでしょうね」


 現在、世界各地の熱帯雨林で、製薬会社のスタッフが血眼になってこれらの薬草を探している。原住民のあいだで古くから薬効があると伝えられている植物のなかには、ガンやエイズに効果があるものが見つかる可能性があるからだ。それらの植物から薬効成分を見つけ、実際に薬を製品化して儲けるほかに、遺伝子配列を解析し、特許と知的所有権を得れば、莫大な利益になる。

 が、しかし、この知的所有権なるものは、ほんとに製薬会社に帰属すべきものなのだろうか?もとはといえば、地元の人たちが古くから利用しているものなのに、それをよそ者が"発見"したと言って所有権を主張するなんて変な話ではないか。ものすごい速度で熱帯雨林が切られ、貴重な薬草が姿を消してしまったら、原住民たちは病気の治療に高価な薬を買わされるはめになる。自分たちが提供した情報を「知的所有権」として取り上げられ、さらに生活の場である森まで失った挙げ句、薬を買わされる。とんでもない話だが、現実に世界はそうなりつつある。熱帯雨林の喪失は、そこに住む人たちの生きる場の喪失であり、貴重な言語や文化の喪失でもある。最近いわれている生物多様性の保護とは、動植物の保護とともに先住民の文化の保護という人類の多様性の保護でもあるはずなのだが、「北側の」国々の考えは、金儲けにつながる遺伝子プールの保護ばかりに傾いているようだ。

 「北側の」製薬会社が開発したエイズの特効薬を「南側の」製薬会社がコピーし、アフリカの国々で安く販売したとして訴えられたことがあった。エイズ患者の大多数は高価な薬が買えない「南側の」国の庶民だ。その人たちに安い薬を売ることは、人助けでありこそすれ、訴えられる筋合いはない。ばんばんコピーして売ればいい。「北側の」製薬会社こそ人の弱味に付け込んで儲けようとする"越後屋"に他ならない。

 半年や一年で古くなってしまい、更新しなくてはならないコンピュータのソフトとか、発表したときだけ何百万枚も売れるが、数年経つと存在さえ忘れ去られてしまう音楽CDなどは、"知的"どころか"痴的"でさえある。こんなものにカネを払うのは無駄遣いだ。対価を支払う価値がないと判断したものはどんどん「不正コピー」して使えばいい。

 「知的所有権」を主張する論理的な根拠は何か、著者は疑問に思っている。この世の中に百パーセント独自の著作物がはたして存在するのだろうか。すべての創造物は、何らかの形で自分以前に存在した人やものごとの影響を受けている。天才の中の天才ともいえるモーツアルトやミケランジェロ・空海でさえ例外ではない。「知的所有権」などとセコイことを言わずに、人類にとって有効なものは皆で共有すべきではないのか。

 経済学者・金子勝は『グローバリズムと戦争責任』(岩波ブックレット)のなかでこう述べている。

 ‥‥新しい社会にとって重要な理念は「共有」です。(中略)基盤となる技術を共有する、制度やルールを共有することです。(中略)いまのままですと、ヒトゲノムだとかコンピュータのOSを独占してしまえば一人勝ちしてゆきます。誰もが使うものはみんなが共有するという発想に立って初めて、競争も、多様な選択もできる。つまり、共有の上に初めて多元性や自立や競争が成り立つ、あるいは人々の努力が報われる社会ができる。
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