メシアン《トゥーランガリラ交響曲》


押し寄せる愛とめくるめく官能の極彩色で超ハイカロリーな音の曼荼羅。「愛の歌」というにはあまりにも生々しい一大絵巻。

来年生誕100年を迎えるフランスの大作曲家 オリヴィエ・メシアン。
20世紀後半において最も重要な作曲家。そして、音楽史上、最もユニークで独特な「語法」と個性を終生持ち得たスバラシイ人。さらには、偉大なる教育者としてブーレーズ、シュトックハウゼン、クセナキス等、恐るべき人々を育て上げた。膨大な量の気が遠くなるほど壮大な作品を作り続けたサマはまさに「現代音楽界の手塚治虫」!

この人の音楽を語る上で外せないキーワードに「鳥」「カトリック」「異文化への興味」そして「宇宙的壮大さ」「直接的な官能性」と「愛」がある。
これらの一見バラバラな要素が、もはや神がかり的な統合力と見事なバランス感覚によって一つ一つの作品にまとめあげられているわけだ。

さらに実際の「語法」として以下の要素を初期の作品から導入していた。

(1)「移調の限られた旋法」* を主体とした各種モードの多用。
(例えばドビュッシーやセロニアス・モンクがよく使ったホールトーン・スケール「ド・レ・ミ・ファ#・ソ#・ラ#」であるが、これは12音の中で「レ♭・ミ♭・ファ・ソ・ラ・シ」との2種類しかない。つまり移調が1回しかできないわけだ。メシアンはこれの他に6つの全7種類のモードを和声、旋律に使った。)
(2)インドのリズムからヒントを得たという「回文リズム」(上から読んでも下から読んでも同じってやつ)や「拡大縮小するリズム」「ペルソナージュリトミック」(数種類のリズムに演劇的役割を負わせるという手法のリズムの対位法。・・・例えば、1つは不変一定、1つはだんだんリズムの間隔を短く、1つは長くを同時に展開するなど)等、リズムへのこだわり。
(3)古典またはそれ以前の形式の借用。
(4)音と色彩への超人的感覚と重厚で流麗な和音。
(一つの和音に、それに相当する色彩を常に想定していたという。その点ではスクリャービンの後継者ともいえる。色彩に関しては教会のステンドグラスや自然の色彩への偏愛が原因か。)
(5)実際に採譜して得られた膨大な数の「鳥の声」。
(世界中を周り、自然の中で直に鳥の声を聞き譜面に起こしていったんだからスゴイ聴覚!各国の言葉で鳥の名前を全部覚えていたくらいだから鳥好きにもほどがあるっつーの。ホントかどうか知らないけど、あるピアニストが軽井沢でメシアンの曲を弾いてたら鳥が集まってきたという。)



そのメシアンの世界はいつも二律背反する要素をはらんでいる。

「むせるような官能性」と「整然とした知的理論性」
「自然のやすらぎ」と「人工の歪み」
「異教・異文化への興味」と「厳格なカトリシズム」
「壮大な宇宙的広がり」と「内的ミクロな緻密さ」
「急速なパッセージ」と「時間を超越したかのようなレント」
etc.
それらをカオス的に包み込んだ「曼荼羅」がメシアンの音楽なのだ。


そんなメシアンの畢生の大作にして上記要素を見事含んでいるのが「トゥーランガリラ交響曲」。
20世紀の管弦楽曲リストの中腹に連山のごとく燦然と聳え立つ名曲にして問題作である。


3管+picc.TP・Cornet、5人が受け持つ13種類の打楽器、ヴィブラフォン、チェレスタ、ジュー・ド・タンブール(鍵盤式グロッケン)、チューブラーベル(のど自慢でお馴染みの鐘)等の鍵盤打楽器(ガムラン風の音楽作りに大活躍)、巨大な弦セクション、さらにピアノと、電子楽器の元祖ともいうべき「オンド・マルトノ」(モーリス・マルトノによって1920年代に発明された「アコースティック」と「エレクトリック」の中間のような特殊な楽器。金属と弦の2種類の共鳴装置と、鍵盤の前にはられた一本の弦を指輪で弾くという奏法とが特徴。独特の豊潤な音色と弦によるグリッサンドやビブラートは一度聞いたら忘れられない。)のソロが加わって…
というトンデモナイ編成。そこに独特のオーケストレーションが施されて「メシアントーン」とでも言うべき音宇宙が展開する。

楽章の構成も凝っていて、
1.「Introduction」
10.「Finale」
を外枠に、

2.「Chant d'amour 1」
4.「Chant d'amour 2」
8.「Developpement de l'amour」
の偶数楽章が「愛の歌」シリーズ。(急速で激しく楽しげな音楽とむせかえる官能的な「歌」の繰り返し)

3.「Turangalila 1」
7.「Turangalila 2」
9「Turangalila 3」
の奇数楽章が「トゥーランガリラ」シリーズ。(有機体と機械仕掛けが共存したような怪しげな異教的音楽、斬新な手法も随所に見られる。)

そして、中間に
5.「Joie du sang des etoiles(星の血の喜び)」
6.「Jardin du sommeil d'amour(愛の眠りの園)」
という核になる楽章がくる。

そもそも「トゥーランガリラ」とはサンスクリットで「愛の歌」を意味する言葉。その他にも「Turanga」は時間、運動を、「Lila」は演奏、遊戯(「jeu」「play」)さらに「愛」(「amour」)をも意味する多義的な言葉なのだそうだ。



響きとリズムの響宴か、神聖と邪神のせめぎあいか、超巨大化したオーケストラと極彩色の和音、独自の語法(回文リズムや、移調の限られたモード)に、インドのリズムや鳥の声、4つの主題、そして、はしゃぎ回るピアノとお化けを呼ぶオンド・マルトノ。これらを75分の10楽章にまとめあげた構成力たるや、神ガカリというか鳥ガカリというか・・・(各主題は輪廻転生よろしく各々の楽章に顔をだす。いわゆる「循環主題」というやつでして、まさに手塚治虫の「火の鳥」のようである。)

しかし、この曲の最大の魅力というのは、そのやたら激しい官能性である。、2、4、5、6、8、10楽章なんかは、ウットリを通り越して「うっ、イクゥ!」という感じ。

特に、5、10楽章の最後は、純三和音(D♭majorとF♯major)の猛烈なクレッシェンドでオーケストラ全体が燃え尽きるようであり、それこそ、超高温で白熱化した炎の柱が、メラメラと天に昇っていく感じで、聴いているこっちも「ふわぁ〜っ」と体が浮かび上がって、一緒に昇天してしまう気さえする。
この快感は一度味わってしまうともう忘れられない。この、そう滅多に演らないプログラムがステージにあがるたびに、ホールに通わずにはいられなくなるのだ。

ほんとうに細かい所までモザイクのごとく計算されて作られてはいるが、聴いてみればわかるとおり、とにかく「気持ちいい」&「かっこいい」&「美しい」&「楽しい」音楽!




[オススメCD]

●ケント・ナガノ+エマール(Pf)+ドミニク・キム(OM)/ベルリンフィル[TELDEC]
ベルリンフィルの超高性能がイカンナク発揮されたこれまでの名盤を凌駕する超絶名演。2楽章後半の一糸乱れぬアンサンブルなど唖然とするほどスゴイ!ピアノのエマールも最高で文句無し。






●チョン・ミュンフン+ロリオ姉妹(Pf&OM)/バスティーユ管[DG]
晩年のメシアンのお墨付をもらったという決定盤。テンポも最適、細部へのこだわりや音の処理も抜群。老いて尚健在のロリオ姉妹のソロもサスガで、作曲家の意図が最も実現されていると思われる録音。






●サロネン+クロスリー(Pf)+トリスタン・ミライユ(OM)/フィルハーモニア管[SONY]
演奏の鮮やかさという点ではピカイチ!歌うところは超ゆっくりテンポで、飛ばすところは飛ばす…というメリハリも気もちいい。特に5楽章は圧巻!





●シャイー+ジャン・イヴ・ティボーデ(Pf)+原田節(OM)/ロイヤルコンセルトヘボウ管[LONDON]
日本の誇る「オンディスト」我らが原田節がソロを務めるこのCD。全体には前の3枚に若干ひけをとるものの、独自の解釈が聞けておもしろい。





●トルトゥリエ+シェリー(Pf)+ハルトマン=クラヴェリー(OM)/BBCフィル[CHANDOS]
スコアを忠実にしかもクリアに音に再現している演奏。複雑なアンサンブルも実に明快で分かり易い。コレまでの定番CDとはひと味違った新鮮さがあり、思ったよりも良かった。







トゥランガリーラ交響曲 - Wikipedia
Regards sur Olivier Messiaen オリヴィエ・メシアンに注ぐまなざし

オリヴィエ・メシアン 『トゥーランガリラ交響曲』
かずーのクラシックな時間 トゥーランガリラ交響曲
Messiaen Discography: Turangalîla-Symphonie メシアン:トゥランガリーラ交響曲

Posted: 水 - 1 月 24, 2007 at 11:03 午後              


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