オネゲル《火刑台上のジャンヌ・ダルク》


20世紀音楽史上最高の舞台作品のひとつ。宗教とか歴史とか文化とかを越えて、文句なく感動する名作中の名作。

フランス六人組の一人アルテュール・オネゲル 。スイス系のフランス人で、六人組の中でも質実剛健、ドイツ的なガッチリした構成とマジメでシリアスな音楽が特徴。交響曲や映画音楽、音楽劇や舞台作品などを多く手がけた作曲家である。一番有名な曲は、機関車の音楽「パシフィック231」だろうか。他にムーヴマン・サンフォニック(交響的運動?)シリーズの「ラグビー」なんていう曲もある。(同じ六人組では、洒落たメロディメーカーのプーランクがモーツァルト的、多作家のミヨーがハイドン的だとすると、オネゲルはベートーヴェン的と言えるかも知れない。)


彼の代表作、そして最高傑作のひとつであるこの作品。「劇的オラトリオ」などという厳めしい名前が付いているが、オペラでも音楽劇でもなく、語り(演技も含む)と数人の独唱、児童合唱と混声合唱、オンド・マルトノ を含む大オーケストラの音楽は、まさに劇的で感動的な大作だ。

何の取り柄もなく読み書きすら出来ない農村の娘っ子に過ぎなかったジャンヌ・ダルクは、ある日、天の啓示を受け、鎧を着た英雄になった。兵を引き連れイギリス軍を打ち負かし、フランス王を即位させ、祖国を分裂の危機から救ったのだ。彼女には奇蹟の様なオーラが漂っていた。そして、16、7の少女ではあり得ないような統率力で軍隊を指揮して快進撃をつづけたらしい。兵士達は彼女を神の使者だと信じ、Hな気持ちなど微塵も感じずに彼女に忠実に従ったという。
しかしある時、敵に捕らえられた彼女は、さまざまな政治的利害のため「邪魔な存在」とされ、結局は、なんと魔女扱いされて火あぶりにさせられてしまうのだった。
500年の後、彼女の名誉は回復し、20世紀に入ってからやっと聖人に列せられた。

この作品では、今まさに「火刑に処されようと」しているジャンヌが、死の間際に見たであろうフラッシュ・バック(「人生の走馬燈」)のように話が展開する。
時空も場所も飛び越えて、さまざまなエピソードが回想されるが、それらは歌手と合唱によって進められる。中にはジャンヌを裁いた茶番の裁判を「ブタやロバによる裁判」とパロディ化したものや、彼女の身柄引き渡しの駆け引きをインチキなトランプゲームになぞらえた場面(ここでは、ピアノに細工をしてチェンバロの様な音を出す「擬似バロック音楽」が登場する)などもある。
そして、ジャンヌと、彼女に付き添い語りかける修道士ドミニクは役者による語りである。

この複雑に入り組んだ物語を見るには、ある程度、歴史的背景やキリスト教のバックグラウンドなどを知っていないと難しい。ただでさえ、話の筋を追うのだって大変な内容なので、ちょっとやそっとじゃ理解出来ない。

ただ、凄くシンプルで感動的なテーマがある。それは、「愛する者のために、自分の命を捧げるということほど、大きな愛はない」ということだ。
この劇では、最後に合唱によって三度繰り返し歌われる歌詞がそれなのだが、これは、ジャンヌが「私が、愛するマリア様を照らすロウソクになります」と言い、死の恐怖から解放されるという筋から来ている。
そして、この最後の合唱の部分の音楽は、この世で最も美しいものだ。

オネゲルの音楽は、さまざまなアイテム(オペラや劇的なレクイエムの様な合唱の扱い、ジャズの要素、擬似バロック舞曲、俗謡や民謡、グレゴリア聖歌、などなど)を入り乱れさせながら、全体として恐るべき統率力(まさに、ジャンヌが成し得たような)をみせており、さながら一大絵巻物の様な圧巻さである。
そして、オーケストラ。オケの「出汁」とも言えるホルンを使わず、サクソフォーンを用いたり、ハープの代わりにピアノ2台を入れたり、また、シンセの先祖「オンド・マルトノ」を目一杯使ったりと、実験的なオーケストレーションながら素晴らしい効果を出している。

96年の12月。N響の定期でシャルル・デュトワがこの作品を2晩やった。 初日だけ行くつもりが、あまりに素晴らしかったので2日目も行ってしまった。その時の感動は凄かった。嗚咽か?っていうくらい泣いてしまったのだ。
宗教とか歴史とか文化とか、そういうヤヤコシイことはよく分からないが、純粋に心に響く力がこの作品にはある。それは、巨大で無垢な「愛」というものをテーマにしていることとか、自分を犠牲にして自分の国の危機を救った少女の話に対する感動であるとか、こんなにも複雑で大がかりな音楽を作り得た「人間の力」というものへの驚きと賞賛であるとか、そんなような普遍的な素晴らしさだろうと思う。

西洋クラシック音楽(なんか変な用語だねぇ)の一つの到達点というか、最高峰の一つというか。とにかく傑作中の傑作、名作中の名作であると思う。


■オススメのCD




◎セルジュ・ボド指揮 チェコ・フィル他
(日本版amazon)
オネゲルといえばボド。全体的にこれが一番好きな演奏。特に主役の二人が素晴らしいが、オケや合唱だって張り切っている。カップリングが「クリスマス・カンタータ」(こっちも感動モノの傑作!)っていうのもオイシイ。




◎小澤征爾 指揮 フランス国立管 他
大作が得意な小澤。サイトウキネンでも昔やってたね。演奏は感情的にちょっと雑で、あんまり好きじゃないが、日本で手に入りやすいCDなので。

他にも何枚か出てるみたい。これ とかこれ とかこれ とか。(聴いたことないから分かんないけど。)


■おまけ1
ロベルト・ロッセリーニ監督、イングリト・バーグマン主演で映画にもなっているらしい。
その映画のレビュー
へぇ〜

■おまけ2
「太陽にほえろ」の山さんで有名な俳優:露口茂が、この作品の日本初演に関係していたらしい。
へぇ〜へぇ〜

Posted: 月 - 12 月 6, 2004 at 11:32 午後              


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