ストラヴィンスキー《春の祭典》


音楽史上最大の問題作《ハルサイ》!!名盤一挙聴き比べ付き

20世紀音楽史上に燦然とそびえ立つ名曲中の名曲!!
あらゆる意味でケタ外れの問題作で、その衝撃は初演から80年以上経った今でも全く褪せてはいない。通称《ハルサイ》。

大成功したバレエ《火の鳥》のあと、早速次回作に取り組もうとしていた新進気鋭の作曲家イーゴリ・ストラビンスキー(1882-1971)の頭に突然あるイメージが浮かんだ。(実は他の人のアイデアだったという説もある。)
『原始のロシアの部族』『異教の集団とその中央に踊り狂う生贄の女』『太陽神崇拝と生贄の儀式』・・・生々しくもエキサイティングなビジョンだ。
「よっしゃ!そいつを新作のネタにしてみっか」と決めたはいいが、その前に取りかかった軽い慣らしのつもりの小品(ピアノ協奏曲を想定していた)がディアギレフの一声で《ペトリューシュカ》に発展してしまったので、新作になる予定だった曲、すなわち《ハルサイ》は結果的に後回しになってしまった。

なんとか完成したのが1913年。そして、その年の5月にパリのシャンゼリゼ劇場で初演されたわけだが、その時の騒動は前代未聞のものだった!
冒頭、異様に高音のファゴットソロのあたりからして観客がざわつき始め、「若い男女の踊り」のあたりで大声の叫びとなり、足踏みも加わって演奏が聞こえなくなる。この音楽への拒否反応を示す人々と、それを黙らせようとして怒りだした人々との喧噪は次第に収拾がつかなくなり、ホール係が観客を静めようと照明を付けたり消したりしたという。
何故これ程までに大きな騒ぎとなったのか?それは、とりもなおさず皆がこの音楽の持つ底知れぬ力に恐れおののき、かつ興奮していたからに他ならない!


《ペトリューシュカ》を絶賛していたドビュッシーでさえ《ハルサイ》は理解できなかったという。それもそのはず、この音楽はそれまでの西洋の音楽のどれにも属さず、またその常識を根本からブチ壊してしまっていたのだ。

作曲者本人は言う。
「《春の祭典》の背後に、身近な伝統はまったくといって良いほど存在しなかったし、一切理論も無かった。私は耳だけが頼りだったのである。私は聴き、そして聴いたものだけを書いた。私は《祭典》が通り抜けた管である。」

この言葉通り、この曲の、常識では考えられない変拍子や不協和音はすべてストラビンスキーの「耳」が聴いた太古の生命の躍動と雄叫びなのだ。その「西洋音楽の規範」では割り切れない超自然的な音の絵巻を、天才的な「サンプリング」能力によって五線の譜面に写し取り巨大なオーケストラの音響に翻訳したものこそ《春の祭典》なのである!

曲は「大地礼賛」(昼の場面)と「生贄」(夜の場面)の2部から成り、それぞれは8曲と6曲の連続した音楽になっている。柴田南雄の分析によると、これらの配順は、1部2部とも「序-破-急」の2度の繰り返しになっているとのこと。

[第1部:大地礼賛]
1.イントロダクション:木管主体の春の田園の音楽
2.春の兆しと若い娘の踊り:「ハルサイ」といえばここ!最も有名な部分
3.誘拐の遊戯:ホルンの雄叫びとティンパニのかけ合いが絶妙
4.春のロンド:荘厳な春への賛歌
5.敵対する村の戯れ:金管とティンパニのからみが楽しい
6.長老の行列:巧妙なポリリズムによるオスティナート!後半はゴジラの大群が吠えながら攻めてくるよう
7.大地への口づけ(長老):突然の静寂と緊張が絶妙の効果
8.大地の踊り:怒涛の乱舞、まさに爽快!

[第2部:生贄]
1.イントロダクション:神秘的な夜の音楽
2.乙女達の神秘的な集い:1.の延長が次第に狂気の本番へと高まる
3.選ばれた者への賛美:遂に狂乱の変拍子が暴れ出す
4.祖先の霊の呼びだし:太鼓とトゥッティのかけ合いで儀式開始!
5.祖先の儀式:呪文的なフレーズの繰り返しが怪しさ倍増
6.生贄の踊り:まさに鬼!劇的なクライマックス、そして「ふらり」と倒れ込む生贄の少女


拡大された4管編成の大オーケストラは、アンサンブル面も各奏者の技術面も超難度!そして、いちばん辛いのが指揮者でしょう。岩城宏之はメルボルンを振っているときに最後の最後で間違えてしまい、オケを止めて途中からやり直したそうな。おれも、どこかのオケで止まったのを聴いたことがある。

大胆な不協和音とほぼ一小節ごとに変わる拍子、これらをオケを使ってフルに鳴らすということの史上初の試みだったと思う。先ほども述べたとおり、うねり狂う変拍子や解析不能な不協和音は野生の超自然的な響きをオーケストラという楽器用に翻訳したもの。そのため、緻密を極めたオーケストレーションは作曲を志す者にとってはまさにバイブル的ともいえる響きの宝庫となった。

しかし、実際にこの曲を聴けば、小難しいことはスッカリどこかへ吹っ飛んでしまうだろう。素朴な旋律(動機?)とかっちょいいリズムの嵐が超気もちいい!文字どおり理屈抜きで、興奮でき、楽しめる音楽だ!



★《ハルサイ》名盤一挙聴き比べ

ストラヴィンスキーは自分の作品への執着心がことのほか強かった人のようだ。同じ曲を何度も改訂 して手放さない。「ボクの《火の鳥》」「ボクの《祭典》」などと、子供が自分のおもちゃへの所有を示すように話していたという。

スコアを見ると、一分の隙もない。完璧主義の職人気質が伺える。
しかし、あまりにも職人的に細かな効果を狙って書かれたこの曲のスコアからは、逆にさまざまなスタイルの演奏が生まれることになった。実に不思議なことだ。

●エサ=ペッカ・サロネン/フィルハーモニア管弦楽団 (SONY)
どうでしょうこの爽快感!このテンポ!このキレ味!カミソリがビュンビュン飛んできそう。これを聴いてしまうと他のがカッタルクて聴けなくなるかも。超オススメ。




●アンタル・ドラティ/デトロイト交響楽団 (DECCA)
これも凄い!溢れ出る躍動感と、スコアの細部にまでこだわった演奏。しかも、どっしりとした風格と切れの良さは絶品です。最初に聴くならこれがオススメ。

●ピエール・ブーレーズ/クリーブランド管弦楽団(1969年録音盤) (SONY)
あまりにも明晰で、科学者や数学者が指揮した様と評された歴史的名盤だが、今聴くと非常に丁寧で人間味ある演奏に聞こえる。ハルサイ入門盤としてもクセが無くオススメ。




●ピエール・ブーレーズ/クリーブランド管弦楽団(1991年録音盤) (DG)
一瞬の迷いもないとはこのこと!この人の手にかかるとこの難曲も簡単な曲に思えてしまう。「スターウォーズ」の皇帝のように指先一つでオケを爆発させているよう。




●サー・コリン・デイヴィス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (PHILIPS)
こちらも長らく名盤とされてきたCD。落ち着いていて艶があり、高級な木の家具を思わせる非常に質の高い演奏。




●ネーメ・ヤルヴィ/スイスロマンド管(CHANDOS)
第1部「春の兆しと…」では、ドッシリしたテンポのパワフルさでまずビックリ。さらに第2部「生贄への賛美」の手前の11拍子で突然accel.!!!その後の壮絶さには唖然!!すごいです。

●ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団(1975〜77年録音盤)(DG)
なんとも「お上品な」演奏。まるでドビュッシーでも演奏しているような。それはそれで味があって面白い。

●マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団 (BMG)
なんとも「軽い」ハルサイ。すごく上手いんだけど、イマイチ好きになれない。




●ワレリー・ゲルギエフ/キーロフ歌劇場管弦楽団 (PHILIPS)
ゲルギーの風貌通り、野性的で変人臭い演奏。凄味はあるが、好きか嫌いかというとちょっと嫌い。2部のラストも仰々しいし。




●サー・サイモン・ラトル/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団(BPO制作?)
映画「ベルリンフィルと子どもたち」 のサントラ。期待のコンビなのに、凄味も無いし味も淡泊で、なぜかあんまり面白くない。


→イーゴリ・ストラヴィンスキー(Wikipedia)

→ストラヴィンスキー(はてな)

→『春の祭典』最近の聴き比べ(An die Music クラシックCD視聴記)

→ハルサイ命だ(Amazon)

Posted: 日 - 3 月 27, 2005 at 05:23 午後              


©