矢野顕子《welcome back》矢野のひとつの頂点を成す傑作。秋風のすずしさと清々しさと寂しさを感じたら無性に聴きたくなる一枚。
矢野顕子の通算14枚目となるアルバム。1989年リリース。
子育てのため(この「子」ってのは、あの坂本美雨である)一時、音楽活動休止宣言を行っていた矢野が、文字通り復帰を果たした時のアルバムで、長年の夢だった「JAZZ」(と言っても矢野節の、であるが)を最高のメンツとともに演奏したNY録音パートと、坂本龍一他お馴染みのメンツとの「矢野ポップス」に磨きをかけた東京録音パートが入り交じった構成になっている。 ![]() なにはともあれ、一曲目の「It's For You」で完全にノックアウト!!! パット・メセニー(Gt)、チャーリー・ヘイデン(B)、ピーター・アスキン(Ds)と矢野顕子(Pf&Vo)のカルテット。冒頭の、希望に満ちたピアノのイントロがまず絶妙!(「ひとつだけ」「電話線」など、矢野の名曲はピアノのイントロが本当にスバラシイ) そして、矢野の澄んだヴォーカル。パットの翼の生えたような極上のソロ。チャーリーのいぶし銀のベース。ピーターの確実&エモーショナルなドラム。 どれをとっても、もう完璧な「音楽」である。 メロディー2回目繰り返しの所のコード(E / ~ / Esus47(D on E) / ~ / C#m / C#m on B / A#m-5 / A)でいつもおれは泣いてしまう。 なんでだろう?この「A#m-5」が心に「きゅうっっ」と沁みるのだ。 続く箇所はCmaj7とEmを繰り返す、ちょっと哀しげな部分。「愛してる。いつの日も。」と矢野が慈愛に満ちて歌う。 夢の様なパットのソロと矢野のピアノとの掛け合いを経て、後半は4人が「素晴らしい音楽」に向かって突き進む様が圧巻。「音楽の悦び」に満ちあふれた本当にイイ曲だ。 (この曲、オリジナルはパットのアルバム「As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls」に含まれている。実は矢野は、これ以前「パット・メセニー?誰それ?」と、ミュージシャンにあるまじき事を言ってたそうだが、一度彼を知ってからはすっかり虜に。逆にパットも矢野を気に入り、自分のアルバム「Secret Story」に矢野を起用したり、名曲「Prayer」を提供したりしてます。また、この矢野版「It's For You」は、ある時期パットの家の留守電BGMに使われていたとか。) 次の2曲では一転して、矢野&糸井(重里)による『みんなのうた』調ほのぼのほんわかソング。 ポップな「悩む人」を挟んで続くJAZZパートは、「時間がかかるの愛するには」というフレーズで変拍子炸裂の難曲「ほんとだね。」。今年のBlue Note Tokyoでのライブでもやっていた曲で、実にカッコイイ! 後半の最初を飾るのは1分半たらずの魅力あふれる小品「How Beautiful」。これはフジフィルムかなんかのCMの曲だったと思う。クラリネットとピアノ+パットのアコギが矢野ならではの「Newわらべうた的」なものを紡ぎ出す。 続くのは、まさにジャム・セッションという感じで現代詩を歌う「かぜのひきかた」と、フォスターをカヴァーした「Hard Times, Come Again No More」。ジョン・クラークのフレンチホルンが加わって、絶妙のまろやかさと暖かみが醸し出され、音楽が心の深いところまで降りてくる実にスバラシイしんみり感。 おれ的にこのアルバムのラストチューンは次の「Watching You」だ。「よかった あなたがいて よかった あなたといて」と赤ちゃんを慈しむお母さんの歌。「よかった よかった」というフレーズとチャーリーのベースがなんとも美味くマッチングしている。 実質上の最後の曲「Little Girl, Giant Heart」。おれはいつもこれは聴かないことが多い。せっかくの良い気分が、「さ、夢はおしまい。次行ってみましょう。」と、このノーテンキな「過ポジティブ・テクノ・ポップ」ソングに持って行かれてしまうからだ。タイトルからしても、最近の「女の子ガンバロウ路線」に通じて、ちょっとひいてしまう。 矢野は、この「最JAZZ寄り」のプロジェクトを、「いつかはやってみたかったこと」として満を持して取り組んだワケだが、ある程度楽しみ、ある程度の満足を得たものの、「やっぱり自分にはJAZZという音楽は大きすぎる」と感じ取り、この路線をさらに進めることはしなかった。このアルバム以降、NY移住後の3枚(「Love Life」「Love Is Here」「Elephant Hotel」)はいずれも矢野ポップスの進化(深化)系として傑作の名に値するモノだが、これらの源はやはりこのアルバムでのJAZZへのチャレンジにあると思う。(さらには、後年の「さとがえるトリオ」での音楽も、このアルバムでの経験が影響しているハズである。) もともと、矢野の音楽的素地と「JAZZ」という自由でカッコイイ音楽との間には密接な関係があったし、矢野にはずっとJAZZへのあこがれがあったワケだが、活動休止→復帰という節目でそれを一度精算したんだと言える。 あーだこーだややこしいことを書いてしまったけれども、とにかくおれはこのアルバムが、矢野顕子という「弁天様が憑依した」ようなスペシャルミュージシャンのレコードのなかで一番好きだ。それは最もJAZZ寄りだからだし、最高のJAZZミュージシャンたちとの共演があるからだし、なによりも、その音楽が最高に美しく、暖かく、愛と悦びに満ちているからだ。 秋風のすずしさと清々しさと寂しさを感じたら無性に聴きたくなる一枚。 →葛藤する天才 −What you love is not what you get.− WelcomeBack:矢野顕子 (「音楽図鑑」〜「いいおさら」より) →矢野顕子 Welcome Back (Amazon.co.jp) Posted: 日 - 9 月 19, 2004 at 04:01 午前 |
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Total entries in this category: Published On: 5 月 07, 2008 09:11 午後 |
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