「鬼婆」(1964/日本)


やりたくてやりたくてしようがない時、人はこれほどまでに身悶えるか。そして、鬼とは人の心にこそ巣喰うものなり。ビョークも大好きだというトンデモナイ日本映画。

【ちょいとネタバレ気味なので、もし興味のある人は先に映画を見ちゃってください】

かのおビョーク様が日本について尋ねられた際 、「日本には昔から興味があるの。10代の頃に観た映画、たしかタイトルは『オニババ』って言ったかしら。それが大好きで・・・。」と語っていたので、前々から観たかった映画だ。

北陸地方に伝わる「嫁威し肉付きの面」 伝承をベースに、巨匠:新藤兼人がオリジナル脚本を書き上げ、妻である乙羽信子を見事「鬼婆」に仕立て上げた怪作。




時は南北朝時代。戦乱の続く中、息子を戦に取られてしまった老婆と嫁は「落武者狩り」(逃げてきた武士を殺しては、刀や鎧を奪い、それを売って金に換える行為)で生計をたてていた。そこに、息子と一緒に戦場に行っていた男:ハチが一人帰ってくる。息子は戦死し、自分は命からがら逃げ帰ったのだとか。
女の居ない戦場から帰ったハチはやりたくてやりたくて仕方がない。一方、旦那の居ない生活が続いていた嫁もやりたくてやりたくてしようがない。ハチは嫁を誘惑し、嫁もハチに身を委ねる。しかし、嫁を取られたら困ると、姑=老婆はハチに釘をさす。嫁にも「ハチに会うな」と目を光らせる。しかし、若い男女の燃えたぎる情欲はそう簡単には収まらない。
ある日、般若の面を付けた落武者に出会った老婆。まんまと落武者を深い穴に落とした老婆は、その面を付けて嫁を待ち伏せし、威してハチから遠ざけた。しかし、なんとしたことか、その鬼の面は老婆の顔にくっついてしまうのだった!

ここでは3人の欲望(特に性欲)が強烈なまでに描かれる。
ハチはやりたくてやりたくてどうしようも無くなり、葦の野原をのたうち回る。嫁は久しぶりに男に抱いてもらえると思うと居ても立ってもいられず、歓喜の表情で葦原の間を駆け抜ける。
そして、老婆。
最初「嫁が取られたら生活できない」というタテマエをかざしてハチを説得するが、あろうことか「わしじゃダメか?捨てたもんじゃないぞよ。」などとハチを誘惑しようとするではないか!(当然、ハチは無下に断るが)






ハチ役の佐藤慶は、腹黒く性欲剥きだしの男を見事演じた。嫁役の吉村実子も、荒んだ生活から愛欲にまみれるまでの表情が素晴らしく、乳丸出しの熱演。しかしなんと言っても老婆役の乙羽信子が素晴らしい!最初のシーンからしてその目つきは尋常じゃない。いつ終わるとも知れない戦に疲弊し、生きる為に必死で落武者を殺しては奪う前半。猜疑心と嫉妬を顕わにし次第に「鬼婆」へと変貌していく後半。吉村に負けじと乳出しも炸裂!
「ドンドコドコドン、ドンドコドコドン」という林光の音楽も耳から離れず、バツグンの効果を出している。

そして鮮烈なるラスト。なんというラスト!!
「肉付きの面」のハナシでは、浄土真宗の布教に絡めて教訓色を濃くし、メデタシメデタシで終わるのに対し、この映画ではあくまでも人間の「欲」と「悪心」を残酷なまでに炙り出そうとしている。その底なしの心は、野原の真ん中に開いた太古から続く「穴」に象徴されているのだ。落武者達を殺してはその穴に葬ってきた嫁と姑。地獄の使者の様に現れた「般若の武者」もその穴に。さらには、鬼に取り憑かれてしまった老婆も・・・・。

鬼とは人の心にこそ巣喰うものなり。


→「鬼婆」(CinemaScape)
http://cinema.intercritique.com/movie.cgi?mid=12043

→DVD「鬼婆」(livedoor ぽすれん)
http://posren.livedoor.com/detail.cgi?id=7789

→「鬼婆」(映画生活)
http://www.eigaseikatu.com/title/5792/

→ビョーク 記者会見より(ユニバーサル)
http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/bjork/kisyakaiken.html

Posted: 火 - 11 月 9, 2004 at 01:33 午前              


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