「切腹」(1962/日本)タケミツ!武満!!竹光!!!
緊張が最高潮に達した後の圧巻の展開にただただ息を呑むばかり。静のパワー炸裂の日本映画最高峰、ここにあり! 某シネマ批評サイトで激賞されていたので、急に見たくなって何気なくレンタルしてみたのが数年前。ベッドに横たわりながら「眠くなったら途中で止めちゃおう」と適当に見始めた自分を恥じた。まさに息を呑む圧巻の展開!眠気などどこへやら、いつしかおれは正座して画面にクギヅケになっていたのだ。
先日、念願叶ってスクリーンで再見する機会があった。やはりスバラシイ映画であった。 ![]() 江戸時代初期。戦国の乱世が明け、平和な世の中になっていたある日。井伊家の江戸上屋敷に一人の浪人がやってくる。その名を津雲半四郎。 仕えていた福島家が取り潰され貧乏に喘ぐ日々、このまま座して死を待つよりは潔く切腹をして果てたい、ついてはこの屋敷の玄関を貸してほしいというのだった。実は、最近某家で同じように切腹をしようとした浪人が「天晴れな心がけ」と仕官を許される事件があり、それを真似て切腹する気もないのに他家の屋敷に押しかけるタカリまがいの浪人が後を絶たないのだという。 井伊家の家老、斎藤勘解由はつぶやく。「また来おったか」。 他家では面倒を避けるため適当な金銭をやって追い払っているというが、武勇の誉れ高い井伊家、そんなことでは名が廃る。座敷に通された津雲に斎藤は言った。「つい数ヶ月前にも同じ元福島藩士の千々岩という男がやってきたことがあった。当家では望み通り切腹をさせてやることにしたのだが、そいつは血相を変えて狼狽え出し、一両日待ってくれと言う。そんなことは聞き入れられないと切腹させようとしたところ、そいつの持っている刀はなんと竹光。いくら貧乏とはいえ、武士の魂である刀まで売り払うとは情けない。当家ではその竹光で切腹させたが、かなり見苦しかった・・・。貴殿はよもやそんなことはあるまいな?」。 津雲は不気味なまでに無表情で、「千々岩などという男は知らん。最初から腹を切るつもりで来た。」と言い切るのみ。 そして遂に津雲の切腹の段取りが整った。井伊家家臣一同が見守る中、介錯人くらいは自分で選ばせてくれと、津雲が名を挙げた3名。しかし3名ともその日は「偶然」病欠であった・・・・。 と、ここまでは不気味な謎の浪人の訪問でミステリー要素たっぷり(竹光での切腹シーンはかなりホラー)なのだが、舞台が切腹の場である庭先に移ってからは驚愕の事実の明示と尋常ならざる緊迫した展開のドラマが続く。 ![]() ■以下激しくネタバレのため、未見の方はご遠慮願いたい。 「知らぬ」どころか、実は千々岩は津雲の一人娘の婿であり、殉死した無二の親友の一人息子だったのだ!(津雲は、千々岩の身に何があっても守り抜くと「後見人」としての誓いをたてていた。) 仕官先の無いリストラ浪人武士の信じがたい貧窮。妻と幼子の病。切羽詰まった千々岩は高利貸しに金を借りると言って出て行ったのだが、実は井伊家に向かったのだった。最初、「武士の風上にも置けぬタカリ浪人」にしか見えなかった千々岩が、本当は教養も誇りも高く立派な人間だったことが分っていく。そして、千々岩の貧困と情けなさをあざ笑っていた井伊家の腕の立つ家臣どもが、実は「武士の誇りなど名ばかりで上っ面だけの侍魂と机上の剣法」しか持ち合わせていない下卑な人間であることが露呈していくのがなんとも面白い皮肉だ。 変わり果てた姿で帰ってきた千々岩を迎えた津雲。「自分が武士の魂だと言って『こんなもの』にしがみついていたばっかりに・・・」と刀を床に何度も打ち付けるシーンで、津雲の復讐心は不動のものとなる。(それに輪をかけて、娘役:岩下志麻の精も根も尽き果てたといった嘆息が心を揺さぶる) ちょっと貧乏回想シーンが長く感じられもするが、それがあればこそ終盤のにじり寄っていく展開は手に汗握らずにはいられない。 格調高いセリフの一つ一つ、絶妙のタイミングで入る武満徹の音楽(あるいは効果音的な音の演出)、全く無駄の無いカメラ、名優たちの鬼気迫る演技、全てを束ねる強烈な意思の演出・・・・どれを取っても非の打ち所が無い!特に脚本の橋本忍はスバラシイの一言。 津雲を演じる仲代達矢の独白が真相を一枚一枚剥ぐように明かしていく様、それに対する家老:三國連太郎の苦々しい表情。じわりじわりと焦りを顕わにする三國。二人の目力の凄まじいこと! 三國の攻勢に全く動じず、とっておきの「土産」を見せて復讐を遂げようとする仲代。最後、井伊家家臣三人の髷を「土産」として白州に放り投げ高笑いを決める仲代。その痛快さ!(その前に挟まれる丹波哲郎演ずる沢潟彦九郎との決闘シーンもカッコイイ!) ![]() そして、満を持しての大立ち回り。一人、また一人と切って切られて屋敷の中枢へと這い入っていく仲代に対し、奥に引き下がり事の成り行きを一人じっと想像する三国。井伊家の象徴である赤備えの甲冑を畳に叩き付け、阿修羅のような形相で「切腹」し果てる津雲。これこそが、権威と面目への最大の抵抗を成し遂げた瞬間であり、その後、その甲冑が表情を変えることなく再度組み立てられたことによって小さな小さな抵抗が握りつぶされたことを暗示しているのである。 (ちなみに、津雲、千々岩らの仕えていた福島家 は外様大名の代表格。関ヶ原の合戦では一番槍を取ってしまった。その一番槍を取られたのが徳川譜代の井伊家 だったという因縁!) 焦らして焦らして焦らした挙げ句の痛快極まる復讐、そして主人公のあっけない死と理不尽な御上の対応。これは判官贔屓な日本人の大好きな「忠臣蔵パターン」と同じだ。 遂には言い出せなかった千々岩の言い訳、津雲の言い分、沢潟の対応、斎藤の立場と体面。全てが正しく、全てがツッコミ所アリで、全てが真っ当だ。これが社会というもの。 巨大な権力のメンツと個人の情という普遍のテーマを考えさせられる奥深いストーリーでもある。 それにしても、やっぱり、人の話を良く聞かないまま勝手に決めつけ、必要以上にその人を貶めるような仕打ちをするもんではないですね。 Amazon.co.jp:切腹: DVD CinemaScape/切腹(1962/日) 切腹 -- 映画 「 切腹 」の詳細情報 切腹 クラシック映画館: 切腹 1962 松竹 hasegawa's blog : 『切腹』 ■日本映画の感想文■切腹 (今日の映画) 切腹 Kozmic Blues by TM/ウェブリブログ 時流を聴く: 仲代達矢と『切腹』 ★★★★ Posted: 日 - 5 月 7, 2006 at 12:30 午前 |
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Total entries in this category: Published On: 5 月 07, 2008 09:11 午後 |
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