「熊笹の遺言」(2002/日本)


人間の尊厳ってなんだろう?いやいや、それ以前にあまりにも愛くるしく人間らしいおじいちゃん・おばあちゃん達の姿、言葉に号泣!!

またも、日本のドキュメンタリーに号泣である。今度は、ハンセン氏病元患者のおじいちゃん・おばあちゃんに取材した映画学校学生の卒業作品。

主な登場人物は、2人のおじいちゃんと1人のおばあちゃん。熊笹生い茂る草津のハンセン氏病療養所に暮らす3人であるが、「普通の老人」「普通一般の人々」とまず「違う」ところがある。顔が変形している。耳や鼻が溶けたような形をしている。目玉が無い、目が見えない。口が三角形をしている。手足の指が無い。etc. 初めて見る彼らの姿は、はっきり言って「スゴイ形」をしている。敢えて言うと、「お化けみたい」なのだ。

しかし、彼ら3人のお年寄りはなんと愛くるしく人間らしく優しさに満ちているのだろうか。悲劇のヒーロー・ヒロインではなく、誰かや運命を恨み呪うでもなく、ひっそりと、しかしまばゆいばかりの輝きをもって暮らしている。一見「お化け」のような姿が、まるで「ぬいぐるみ」のように可愛く、愛おしく見えてくる。そして彼らの言葉一つ一つのなんと美しいこと!

自分の病気のせいで若くして自殺してしまった妹への気持ちを今でも絵に託しているおじいちゃん。自分が死んだら、草津の温泉臭い川ではなく、お日様の光と星のきらめきを浴びて流れる故郷の利根川に散骨して欲しいと願っている。先に描いた妹の絵を流しに利根川へ赴くおじいちゃん。「この(川の)ニオイがいいのよ」と指の無い手で水を掬って口にする。




数日の差で薬が間に合わず失明してしまったおばあちゃん。強制労働で点字を読むための手の感覚も奪われ、なんと舌で点字を読む技をマスターしている。裁判勝訴後里帰りした金沢で出会った盲目の少年と文通している。「(少年は)相手の顔や手を触るのが好きだっていうけど、どうしましょ。どう説明しようかしら。こまったわ。」と嬉しそうに心配する、なんとも品のあるおばあちゃん。




何十年も患者の代表として戦ってきたおじいちゃん。施設に残る仲間たちの為に自分の社会復帰を見送り、画期的な提案で、なおも国との闘いを続けていこうとする。半世紀以上ぶりに訪れる故郷の河原で、映画スタッフと凧揚げをする。その子供のような表情。大空高く舞い上がる凧、糸をしっかり持つ指の無い手。




まずハンセン氏病(癩病)とその患者、そして元患者(もう完治している人)そのものと、それらに対する差別・弾圧の歴史をざっと説明する冒頭でショックを受ける。あらためて知る信じられない事実。その「お化けみたい」になる残酷な症状のせいで、感染力も弱く発症も稀で薬さえあれば完治する怖れるに足りない病気「癩病」は、長年、必要以上に忌み嫌われ、恐がられ、排除されてきたのだ。感染が分かると家族ともども村八分。徹底的な嫌がらせを受け、同じ村には住めなくなる。「患者狩り」と称して集められた患者たちは、指定の療養所(=収容所)に強制隔離。常軌を逸した徹底消毒、過酷すぎる重労働、「まるで豚の餌のような」扱いの食事、患者同士結婚すれば男性は断種手術、万一妊娠すれば即堕胎、取り出された胎児はホルマリン漬けの標本に、、、、、病気自体は完全に治り無菌状態になったとしても、醜く変形した姿を「国の恥」として扱われ、収容所内に隠し続けられ、本名も故郷も家族も目の光りも手足の自由も「人間の尊厳」もなにもかも奪われて、なおも生きてきた彼ら。
100年近くも続くこのナチも真っ青な酷い歴史。戦後50年経ってようやく裁判で元患者側が勝訴、被告である国が「上告断念」という形で一応決着した。それでもなお、あの熊本のホテル のような仕打ちをしてしまう「経済大国で先進国のニッポン」っていったいどういう国なの!!!

映画はこんなことを糾弾するでもなく、彼らの悲劇の人生をオーバーに映して感動を呼ぼうとするでもない。彼らの今の姿、今の気持ち、今の言葉を静かに見つめそっと写し取るだけだ。

やばいくらいに泣いてしまった。感動とか同情とか憐憫とか、そんな陳腐な涙ではない。誰よりも人間らしさを排除され続けてきたのに、誰よりも人間らしい彼らの姿と言葉。
スタッフたちも、こんな彼らの素の姿、素の言葉をよくぞカメラにとらえてくれた。こんな凄すぎる運命・人生を送ってきた彼らと、現代の若者であるスタッフやおれみたいな観客が対等に渡り合えるワケがないと思う。「そんなこと何故聞くの?」と思える質問を投げかけるスタッフに、最初は「しょーがねーな」という印象。聞いておいて、返ってくる言葉の深さにただただ黙ってしまうばかり。これは仕方がない。映画の技術や語り口だって限界がある。学生の卒業制作だもん。ただ、彼らスタッフの真剣な真摯な思いが通じたのだろう、まるで孫に語りかけるように自らの人生を話すおじいちゃん・おばあちゃんなのだ。重すぎるテーマなのに、時に笑ってしまうくらい「ほのぼの」したユーモアと品格がある彼らの「遺言」。こうやって奇跡的にフィルムに収められたことで、彼らの凄すぎる、それでいて普遍的で「人間らしい」人生が語り継がれていくだろう。神や仏って、こういう人たちにこそ宿るのではないだろうか。


熊笹の遺言
http://www.cinema-juku.com/kumazasa/

我が国におけるハンセン氏病をめぐる事実関係
http://homepage2.nifty.com/misoshiru/hansen-byo.htm

ハンセン病 leprosy
http://www.arsvi.com/0y/lep.htm

今もあったハンセン氏病への偏見
http://www7.plala.or.jp/machikun/hansen.htm

Posted: 金 - 6 月 11, 2004 at 03:46 午前              


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