「誰も知らない」(2004/日本)あんなに救いのない話、残酷な題材を選びながらも、こんなに上品に、しかも普遍的な作品に仕立ててしまった監督の腕に拍手。子供達の表情の美しさと写真のようなシーンの数々も印象的。
「西巣鴨子供4人置き去り事件」
1988年に実際に起こった事件。母親と、それぞれ父親が違う4人の子供が暮らすアパート。子供達は出生届けが出ていない。つまり戸籍上、社会に存在していないのである。ある日、母親は子供達を置き去りにして、新しい恋人の元へ行ってしまった。後を託されたのは長男。 子供達だけで過ごす「誰も知らない」生活。それもいつしか破綻を迎える。。。。 この事件を題材に、構想から16年を経て撮られた映画である。 実際の事件では、長男の友人の折檻で末妹が死に、それを別の友達と一緒に秩父の山へ埋めに行くという悲惨な話なのだが(そもそも、母親に置き去りにされたという事の起こり自体が悲惨だが)、この映画は不思議な暖かみとユーモアと美しさに溢れている。 ![]() 子供達だけで暮らすマンションの室内。ベランダに置かれたカップヌードルの植木鉢。ベランダから見える外の景色。近所の公園。階段道。商店街。コンビニ。羽田空港。そして、それらに映る四季の移ろい。全てが静かに心にしみ込んでくる。 そして、役者達のキャラクターの妙と、表情の素晴らしさは特筆に値。 誰も予想だにしなかった、カンヌの主演男優賞受賞で、長男役の柳楽優弥くんばかりがクローズアップされがちだが(もちろん彼も素晴らしいが)、兄弟姉妹のそれぞれ、親しくなるいじめられっ子の女子中学生、街の人々、そして誰よりも良い味の母親役YOU。 どのシーンも一切無駄なものはなく、どれもが品があって、なおかつリアルでフィクショナルだ。 誰もがいつかどこかで見た、体験した風景。小物。心の機微。なんとも言えない不思議な感覚の連続だった。 (「コンビニや大家や公園の人々は気付いてやれよ」とか、「小さな子供がカップラーメンやおにぎりばっかりで絶対病気になっちゃう」といったツッコミはやめよう。) 実際の事件の話に戻る。 当時、世間の目は、置き去りにした母親への非難が多かったそうだ。しかし、母親は子供達に虐待を与えたわけでもなく、一応の愛情を持って育ててきた。が、ある時そこから突然「逃げて」しまったのだ。長男の少年は、そんな母親を見て育った。自分だって遊びたいさかりに、けなげにも、幼い妹達の世話をしていた少年。事件発覚後、母親の期待に応えられなかった自分を責めて泣いたという少年。是枝裕和監督は言う。「実際事件の少年がいとおしくてたまらなくなった」と。 これまでの作品でも培われた「是枝節」が、この映画でも最高の成果をあげていると言える。半ば役者に任せた演出。細部への徹底したこだわり。静かに写真のように続くシーンの数々。 「火垂るの墓」のようなコレデモカというような悲惨さの描写やお涙頂戴ではなく、「リリイシュシュのすべて」のような感じの悪い冷たい不幸と美しい映像のギャップ勝負ではなく、「冷静な暖かみ」とでもいうような何かが流れている。 映画では、母親は実に親しく子供達と話しをし、一緒に添い寝する。兄弟姉妹達も助け合って、「しぶとく」逞しく生きていっている。一般的には「異常」な、そのマンションの一室は、何故かもの凄く「幸せそう」なのである。それがほとばしり出る、あの公園の回転遊具のシーンは本当に素晴らしかった。 「救い」でも「甘っちょろい感傷」でもない。 現実の世界では、子供への虐待、育児放棄、食事を与えないで餓死させる事件など、本当に信じられない事、怒りに震えるような事ばかり報道されている。一体、親達は、自分の子供を可愛いと思う心を無くしてしまっているのだろうか? しかし、この映画にあるような、不思議な「希望」を持ちたい。子供達の目が、あんなに綺麗なのだから。それは紛れもない事実なのだから。 →「誰も知らない」(オフィシャルサイト) http://www.daremoshiranai.com/ →是枝裕和監督オフィシャルサイト http://www.kore-eda.com/ →MURDER IN THE FAMILY(「巣鴨子供置き去り事件」についての記事あり) http://www8.ocn.ne.jp/~moonston/family.htm Posted: 火 - 1 月 25, 2005 at 04:30 午前 |
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