展覧会巡り日記 2003 in London PLUS / Art in the UK

2003年6月16日から22日まで、イギリスでの展覧会メモ+αです

ロンドンでの4人展のために再びロンドンへ。今回はイギリスの航空会社を避け、フランクフルト経由でロンドンに。
帰りにはフランクフルトに立ち寄る。

 

17 June

Tate Britainは、新館(Tate Modern)の開館に伴って現代美術部門をModernのほう完全に移してしまったように思いがちだが、常設のイギリス美術の展示とともに、今でも質の高い現代美術の企画展を行っている。今まであった展示室の地下部分に新しくギャラリースペースを作り、Modernの方とは一味違った現代美術展を送る出しているのだ。現在は写真家ウォルフガング・ティルマンス(ドイツ1968年生まれ)の展覧会を開催中。2000年にはターナー賞を受賞しているイギリス在住の作家だ。数年前に横浜美術館でも作品を紹介しているメジャーな作家だ。サービス版のプリントから、巨大に引き伸ばされた作品まで、壁に貼り付けていくように展示する。ダンスミュージックにシンクロするライトだけを追った映像作品《Lights(Body), 2002》、そして最新作のポストカード大の写真は、それまでの内に秘めた暴力性をさらに押さえ込み、内包するの強度がしみ出るような「痛さ」を感じる。
 さて一方のTate Modernの方でも大きな写真展を開催している。Tateでは初めての本格的な写真展CRUEL and TENDERは日本語でいえば「残酷さと優しさ」というぐらいの意味になるだろうか。[The Real in the Twentieth-Century Photograph](20世紀の写真における「真実」)という副題がつくこの展覧会は、ともすればこの時代の「美術」が忘れがちな重要な問題を「あからさまに」投げ掛けている。この展覧会については私も少し考えてみようと思うが、一応出展作家名だけは挙げておこう。
Thomas Ruff、 August Sander、 Bernd and Hilla Becher、 Thomas Struth、 Fazal Sheikh、 Michael Schmidt、 Robert Frank、 Stephen Shore、 Walker Evans、 Nicholas Nixon、 William Eggleston、 Philip-Lorca diCorcia、 Robert Adams、 Albert Renger-Patzsch、 Lee Friedlander、 Lewis Baltz、 Paul Graham、 Garry Winogrand、 Andreas Gursky、 Boris Mikhailov、 Diane Arbus、 Rineke Dijkstra、 Martin Parr


上:ウォルフガング・ティルマンズのポスター。 下:ポールマッカーシーの巨大な作品
 

18 June 

6月はイギリスのもっとも美しい季節だ。ロンドン郊外の王立植物園Kew Gardens(Royal Botanic Gardens, Kewというのが正式名称)に足を運ぶ。しばし休息。

 さて都心に戻り展覧会巡りを続ける。
  Surpentine Galleryでシンディー・シャーマン(1954年生まれ)展を見る。大学在学中の自身を被写体にしたポートレートから始まり代表作50点あまりを展示。このように見てくると、彼女は映像というメディアに現れる女性という幻想を、見るものに対して意図的に不快感に近い衝撃を与える様に提示するのだが、メディアの特性上、メディア自身がその不快感をあっという間に彼女の作品の持つリリカルな部分で回収していく。一部に強い反発を与えた「人形」の作品も同様に、今では美術史のモニュメントとして薄様に包み込まれている。シャーマンは走り続けなければならない。最新作では、男性によってステレオティピカルに扱われる女性像というよりは、女性自身が作る「女性像」シフトしているように思う。ピエロのメイクアップと画像処理した虹色の背景が目に付く。彼女の戦いは続く。
 ビクトリア&アルバートミュージアムではアールデコArt Deco 1910-1939 )の展覧会が開催中だ。世界の膨大な工芸品のコレクションで知られるこの美術館ならではの視点で、この20世紀のデザインの流れを読み解いてゆく興味深い展示だ。アールデコに決定的なスタイルを与えたのは1925年に開催されたパリ万博で、万博を通して世界各地から文化としての情報が集まり、世界各地に新しい情報が伝播し商品が流通する、まさに20世紀的なデザイン運動だ。


上:アスパラガスと鳥胸肉のレモンソースがけ、ポテト、ブロッコリー添え。 下:キューガーデンにはダリの彫刻もある。
 

19 June

ダミアン・ハーストを代表とするいわゆるyBa(Young British Artists)世代の最大のパトロンそしてコレクターであるチャールズ・サーチのSaatchi Galleryが、テムズ川沿いSouth Bankのあの大観覧車の直下、もとはCounty Hall(市庁舎みたいなものか)として使われていた石造りの重厚な建築の中に居を移し、Saatchi Museum、そう、美術館になってしまった。イギリスのバブル経済はどこまで続くのか。ともかくこれは大きなニュースではある。開館第一弾の展覧会は当然ダミアン・ハーストなのだが、何しろ巨大なスペースで、サラ・ルーカスやクリス・オフィー、トレイシー・エミンなどの常設と絡み合わせるように作品が置かれている。杉本博のろう人形を撮った写真もある。
 もともとyBaは、1990年代半ばどん底のイギリス経済の中から生まれたムーブメントであり、ハーストらの作品の社会に対する姿勢そのものに嫌悪と称賛のセンセーションを巻き起こしたものだっただけに、美術館という帰る場所ができた今、彼らの現在とりうるスタンスそのものにいくばくかの違和感を感じないわけではない。これから美術館としてどういう展覧会を打ち出していけるのか、それとも、それとは別でマダムタッソーの様なツアーリストアトラクションとなるのか。そのことにたいしては興味がある。
 ちなみに、元ギャラリーに常設してあったリチャード・ウイルソンの部屋もこの場所に引っ越してきた。

 

上:大観覧車。ビッグベンのテムズ川を挟んで向かい側。
下:ダミアン・ハーストのポスター...が。


 

今回も小さな展覧会に参加するためにここロンドンに来ている。ウォータールーの南側、Lembethという地域でImperial War Museumの近くの住宅地にある。4人展で、中庭に面した外光が強く差し込むスペースが私の場所だ(左の写真)。時計を使った作品と、今までの作品の短いイメージビデオ、ビデオスチル、カードの計6点。詳細はいずれ報告の予定。
 

今年の作品です。
 

20-21 June

今年は少しだけ時間ができたので初めてドイツに。フランクフルト市内に行きたいだけなのに、空港から地下鉄の駅へ降りただけで勝手が全くわからない。イギリス人が外国に旅行する時は英語をゆっくりと話すだけだ、という笑い話があるのだが、これでは笑えない。ドイツ人が皆英語を話してくれるわけではなく、親切な大学生に導かれやっとホテルのあるKonstablerwache駅へ。駅の上には広場があり多くの露店が並んでいる。西側はイギリスでもなじみ深い大きな商店が建ち並ぶ。 ロンドンにいるときの「自分は観光客ではないという意識」を捨てさえすれば、売りたいほうと買いたいほうでは気持ちは一つ。あとは身振り手振り。そういうときに自分の口から出てくるのは日本語だから情けないといえば情けないが。値段だけは英語で言ってくれる。

 周知の通りフランクフルトは金融街で観光都市とは言えないので、日本人の観光客とはあまり会わない。まあ、行くところにいけばいるのだがかなり少ない。もっとも、日本人と英語を母国語とする人以外は、ドイツ人なのだかヨーロッパからの観光客なのか自分にはわからない。
  手始めにフランクフルト現代美術館に行くことにする。三角形の中規模の美術館で、《Das Lebendige Museum》、英語で言えばThe Living Museumという展覧会が開催されていた。Pierre Josephの苦悩する(疲れた?考える?)スーパーマンのポスターが見えるだろうか。日本人では河原温、平川典俊が名を連ねていた。
 町は以外とこじんまりしていてる。徒歩でも十分にまわれる。マイン川を渡ると美術館、博物館が並ぶ通りが ある。今日は土曜日なので蚤の市が出ていて、古着やら、中古テレビ、その他訳のわからないがらくた様のものがところせましと並んでいる。少し歩くとシュテーデル市立美術館。小品ながらも質の高い作品のコレクションには定評がある。「ああ、オランダ絵画だな」と思っているとフェルメールの「地理学者」がぽんとおかれている。ボッティチェリからイヴ・クラインにいたるまで、名品がしかもこんな落ち着いて並んでいる美術館は見たことがない。

 ここからやや南に入るとザクセンハウゼンという飲み屋さんが並ぶ地域だ。どうやら今日は地元のお祭りらしく、たくさんの露店が立ち並んでいる。フランクフルトソーセージにアプフェルワイン(チープなリンゴ酒のようなもの)。フランクフルトソーセージはどうやらドイツ人も大好きらしい。日本で見るものよりかなり長く、無造作に半分に折ってパンに挟んでくれる。これだけでもかなりのボリューム。、名前はわからないが、じゃがいもとタマネギをすり下ろし粉と混ぜて油で揚げリンゴのソースをつけて食べるもの、ラビオリのようなもの、ソフトクリーム。食べ過ぎだとはわかっていても面白くてやめられない。やはり日本人観光客らしき人はいない。ジャズやロックのバンド演奏も。

 ふたたび博物館通りに戻り、古代彫刻のコレクションのリービークハウス美術館、ドイツ建築博物館をまわる。オズワイルド・マティアス・ウンガースの設計。会場では図面や模型などの常設展示とともに、Sebastian Schutyser のマリの「土でできた城」(住居?)を撮った写真の展覧会を行っていた。

22 June

本当に駆け足でフランクフルトをまわった。中心街はにぎやかだが、土曜日は早めに店じまい、日曜日は完全に休みというお国柄らしい。少し街の様子がわかりかけてきた所で日本に帰るのは少し残念な気もする。昼過ぎの飛行機に乗れば翌朝には時差ボケとともに日本に到着する。 

上から、ドイツパンの露店。スーパーマンのいる現代美術館。中古テレビ。プレッツェル。建築博物館の中で伸びる木。「千と千尋の...」
 

 Art in the UKの目次へ戻る


ご意見ご感想は こちら よりおねがいします。

Home | Diary | Exhibitions | Text | Books Project | Art in the UK