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VOCA展実行委員会に宛てた手紙

中根 秀夫

1996年5月



 梅津氏が、実行委員会宛に質問状を送ったということはすでに知っていた。しばらくして彼から事務局から回答があったと連絡を受けた。内容自体はクリアーとまでは言えないものの、誠意を感じることはできた。私にVOCA展実行委員会から出品依頼があったときには、すでにプロジェクトは第2段階にはいっていたと言える。


1996年5月



VOCA展実行委員会御中


 このたびは、梅津氏からの御推薦によりVOCA展に参加できることを、大変光栄に思っております。

 以前よりこの展覧会については、色々な意味を含めて興味を持っておりました。「新しい平面」と言う形での展覧会への取り組みは、自分が今まで考えてきたことと同じ延長線上にあり、その趣旨にたいして賛同しています。その一方で、趣旨の文章の中で表向きにうたわれる「平面」に対する考えと、実際の選考(または推薦)の際の基準となる「平面」との間には、大きな開きがあるように思われます。つまり、無意識のうちに「平面」=「絵画」という考えを信じて疑わない人達によって、その趣旨をすり替えられている様な気がしてならないということです。絵画の平面メディアにおける優位性の根拠は不確かなものです。「平面」という事であれば、当然写真や版画も含まれるはずであるにもかかわらず、それらを周辺に押しやろうとする行為は、逆に絵画自体への甘やかしにつながると思います。

 1960年代後半に生まれてきた私は、高度成長の歪みという背景を幼児期にもち、あらゆる矛盾をはらんで成長を遂げた日本という国に対して、非常にドライに付き合ってきた世代に属しています。そして、自分というものを培ってきた70年、80年代という時代を通して、増殖し続ける表層に危機感を抱きつつも、一歩引いた目で現実を見続けて来ました。美術においても、前の世代が作ってきた、例えば、ミニマリズムやコンセプチュアリズムは、私たちの時代にはすでに存在していたものであり、必然性という点において、それを生み出した彼らと、当然付き合い方が変わってきます。確かに、私たちの世代にとってインスタレーションという表現方法は、主題を客観視させやすいという点で有利であると思います。現在、インスタレーション優勢のアートの中で絵画というメディアを扱う時、自分にとって、他の平面メディアとの競合は避けられません。絵画は、絵画自身において、あらゆる努力を払って他のメディアに乗り入れる覚悟がなければ、その可能性は開けてこないと思います。それが自分の視線で見た現代のアートだからです。

 私の作品は、最終的な表現方法において絵画以外のメディアを挟み込むことによって、絵画と見る者との間における新しい関係について考えることを意図しております。新作ということなので、まだどういう形の作品になるかわかりませんが、展示等について話し合いが必要になってくると思いますので、よろしくお願いします。また、すべての平面メディアは自分の作品だと考えておりますので、図録においても、ある程度話し合いを持てるようにお願いします。例えば、今年の図録に見られた、作品の写真が閉じ目で分断されるレイアウトは(少なくても自分のページに関しては)避けていただきたいと思います。展覧会を最終的により良いものにするため、展覧会のオーガナイザー、コーディネイターとの連絡は、不可欠になってくると思いますのでその点についてもよろしくお願いします。


中根秀夫



この手紙に対しては、事務局の窪田さんから電話をいただいた。しかし後から考えて見ると、私の書いた手紙は実行委員会までは届いていなかったのではないかと思わざるを得ない。作家からの手紙が実行委員会に届かないとすれば全くもって遺憾だ。

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