音楽の記憶



中学生の頃は、家にあった音楽全集をひたすら聞いていた。
なぜか2セットほどあって、初心者向けのクラシック音楽の
アンソロジーなレコードセットだった。

その中で好きだった曲が、バッハの「ブランデンブルク協奏曲・第5番」
だった。数え切れないほど聞き、読めもしないのにスコアまで買って
音符を追いながら聞いたりもした。
その演奏が、ミラン・ムンツリンゲル指揮、アルス・レディヴィヴァ合奏団、
という、チェコの合奏団だった。忘れられかけたバロックの曲を、当時の
テイストに極力近い形で演奏するのを特徴とする合奏団らしいことが、
曲説明のところに書いてあった。
変に大げさでもなく端正な音楽に、私の耳は魅せられた。初めて聴いた曲は
最初のイメージが焼き付けられるせいもあるだろうが、私はいつのまにか、
このアルス・レディヴィヴァ合奏団のブランデンブルク協奏曲しか聞けなく
なってしまっていた。有名なイ・ムジチを聞いても、妙に間延びした違和感を
感じるほどになっていた。

やがて時代はCDの時代になった。
音質のいいCDが主流になると、それに合わせた録音を求めざるをえなかった
のだろう。クラシック音楽のCDは新録音ばかりになった。私が昔聞いた
演奏家達の曲は、録音が古いせいか、ほとんど顧みられなかった。ゆえに、
CDでクラシックを聴く習慣は、私からなくなっていってしまった。

今日。
アマゾンから荷物が届いた。
「百合姉妹5号」といっしょに、偶然見つけてオーダーした、
今年の夏に発売されていた「ブランデンブルク協奏曲」
ミラン・ムンツリンゲル指揮、アルス・レディヴィヴァ合奏団演奏
1965年録音のCD化。

たぶん、昔聞いたグラモフォンのものとは録音時期が違うような気もする。
だが、私は、泣きそうになっている。
昔聞いた、あのころの、私のブランデンブルクだった。

第5番第1楽章の、あのチェンバロのカデンツァが、やはり最高だ。
これ以上の演奏を、どの楽団のものでも聞いたことがない。
いつも、このアルス・レディヴィヴァと比べて「ああダメだ」と
思ってしまっていたのだ。

三十年近くの餓えが、満たされた思いをしている。

Posted: (土) - 11 20, 2004 at 04:45        


©