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イラク戦争のいんちきな理由

マイケル・クレアー




イラク戦争のいんちきな理由

マイケル・クレアー(米・ハンプシャー大学教授)


ブッシュ大統領は、一般教書演説の中で、イラクに戦争を仕掛けサダム・フセインを追い出す理由をはっきりと説明している。誇張した巧言を抜きにすれば、それらの理由は以下のような3つの主な目的にしぼられる。

(1)サダム・フセインの大量破壊兵器を除去する
(2)国際的なテロの脅威を減少させる。
(3)イラクとその周辺国に民主主義を促進させる。

・・・これらの動機が、あわてて戦争を起こそうとするちゃんとした理由になっているかどうか、その一つ一つを私は検証していきたい。


(1)サダム・フセインの大量破壊兵器を除去する

イラクへの先制攻撃の正当さを国民に説得するとき、ブッシュ大統領が最もひんぱんに使う理由が、この大量破壊兵器によるアメリカ攻撃の危険性を取り去ることである。もしそんなことが起こればアメリカは壊滅的な打撃を受けるので、「殺られる前に殺る」という論理が正当性を持って受け入れられる。

もし本当にこの大量破壊兵器がブッシュ大統領の一番大きな懸念なら、大統領は外交や財政援助や軍事などのあらゆる手段を使って、大量破壊兵器の脅威の強い国から順番に米国を守ろうとするだろう。しかし、実際に大統領がしていることは、それに反することなのだ。

大量破壊兵器については、いくつかの理由から、イラクよりも北朝鮮とパキスタンの方が実際にアメリカにとっての脅威となりうる。両国ともイラクなどよりもっと巨大な破壊兵器を有しているからだ。
パキスタンは数十発の核兵器と、それらを搭載して航行する何百キロの射程距離を有したミサイルをすでに保有している。また、パキスタンは化学兵器もすでに有してると疑われている。

北朝鮮はすでに核弾頭を作るための十分なプルトニウムを保有しているし、これから先もいくつかの核兵器を生産する能力を備えている。また北朝鮮は大量の化学兵器を温存しているし、手に負えそうもない数の弾道ミサイルを蓄積している。

それに比較してイラクは、現在核兵器を持ってはいないし、これから作ろうとしても、最良の条件下でさえ、最低数年はかかる。もし大量破壊兵器からアメリカを守ることが本来の目的なら、パキスタンと北朝鮮が第一第二の脅威であり、イラクなどは上位二国から遠く離れた三位だといえるだろう。


(2)国際的なテロの脅威を減少させる。

ブッシュ政権は、アメリカがイラクに先制攻撃をしかけて政権交代を実行すれば、それはテロとの戦いにおいて偉大なる成功をもたらすだろう、とことあるごとに喧伝している。だが、なぜそうなるのかという説得力のある説明はまだなされてはいない。

サダム・フセインのアメリカへ対する個人的な敵意が、どういうわけかアメリカ安全保証の脅威になっているそうなのだ。だから、もしサダムを取り除いたなら、それは国際テロを急激に縮小させ、アメリカへのテロリスト攻撃の能力を激減させることになるという。
しかし、そうなる証拠は何処にもないし、実際にはその反対のことが十分に起こりえる。アルカイダを始めとする国際テログループの目的の一つは、イスラム原理主義者が理想とする政治を行っていない回教国の政府を転覆させることにある。

サダム・フセインの政府は、アルカイダの政治的宗教的基本理念に違反するものであり、同じような欠陥を持ったエジプト、ヨルダン、サウジアラビアの政府と同様に、排撃されるべきものなのだ。
もしアメリカが武力でサダム・フセインを放逐し、別の形の世俗的な政府をうち立てても、イスラム過激派の怒りは収まらず、かえって火に油を注ぐことになるのである。


(3)イラクとその周辺国に民主主義を促進させる。

サダム・フセインを追い出し、イラクに真の民主主義政府を誕生させれば、それは周辺のイスラム国家のいいお手本になり、理想の民主主義がアラブ世界まで波及するだろう・・・とブッシュ政権は主張する。
しかし、イラクにあわてて戦争を仕掛ける理由として、民主主義の拡大をあげるブッシュ政権を信じる根拠は極めてうすい。

事実をあげれば、ドナルド・ラムズフェルドやディック・チェニーを始めとする現政権のリーダーたちの多くは、1980年代には、フセインの独裁政治を喜んでサポートしていた。当時アメリカの最大の敵はイランだったので、イランと戦争をしていたフセインは、「敵のそのまた敵は味方である」という理由で、フセインを「事実上の友人」扱いしていたのだ。

1980年から88年まで戦われたイラン・イラク戦争の間、レーガン・ブッシュ(父)政権は、イラクのフセイン政権にさまざまな援助を行っていた。

レーガン政権の下では、イラクはテロ援助国家のリストから外され、アメリカは何億ドルという食料援助をフセイン政権に供与した。そして、この食料供与のグッドニュースを伝えるために派遣されたのが、他でもないラムズフェルド(現国防長官)だった。
ラムズフェルドは1983年12月、リーガン大統領の特別代理としてバグダッドに行き、そこでフセイン大統領と会談しているのである。

当時、米国防省はイラク政府に、イランの軍備配置に関する極秘のスパイ衛星写真を渡していた。1983年11月1日、アメリカ国務省の高官たちは、イラクがイラン軍に対して化学兵器を(ほとんど毎日)使用しており、アメリカが渡しているスパイ衛星写真が、イラク軍がイラン軍を極めて正確に攻撃するのに役立っている、という報告を受けたにもかかわらず、スパイ衛星写真をイラク政府に渡し続けていたのである。

1989年に国防長官の椅子についたディック・チェニー(現副大統領)もまた、イラクのフセイン政府に極秘諜報資料を提供し続けた。
チェニーにしてもラムズフェルドにしても、当時は一度たりとも化学兵器の使用に対して言及したことはなかったし、フセイン独裁政権援助をうち切ろうという助言もしたことはなかった。したがって、今のブッシュ政権がイラクの独裁政治を打ち倒そうとする政策を信ずる根拠は全くないのである。

非民主的政治について付け足すなら、現ブッシュ政権は、ソビエト連邦崩壊後に生まれたアゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタンなどの専制独裁国家(これらの国々はスターリニスト独裁者によって統治されている)とは緊密な関係を結んでいる。
また、アメリカのもう一つの親密な同盟国であるクェートやサウジアラビアは、民主主義とはまったくかけ離れた専制政治国家なのだ。

こうしてみると、イラク攻撃には、別の動機が働いていると考えざるをえない。
イラクをコントロールするということは、ペルシャ湾沿岸を支配下におくことであり、世界の石油供給量の大きな部分を思い通りにすることである。
石油は富と力の源泉であり、歴史的にも人間は石油を求めて争いを繰り返してきたのだから、ブッシュ政権にとってイラクほどの美味しい賞品はないのだ。

最初に示した3つの理由は正当化できなくても、イラクの石油をコントロールしたいという下心は、先制攻撃を始めるのに十分な動機となりえるだろう。もしそうだとしたら、ブッシュ大統領はこの隠された動機をアメリカ国民にちゃんと説明し、国民が本当にその手の戦争をしたいのかどうか、私たちに決めさせてほしいものである。


(訳=パンタ笛吹 「TUP Bulletin」HPより)


Bogus Reasons For War On Iraq
by Michael T. Klare
From Boulder Weekly Feb 13, 2003 page 12
http://www.boulderweekly.com/archive/021303/coverstory.html

Mr. Michael T. Klare is a professor of peace and world security studies at hampshire College in Amherst, Mass,.
mklare@hampshire.edu
Translation and Japanese distribution of this message is permitted by Professor Michael T. Klare on March 11, 2003



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