去る1月8日、MACWORLD Expo/SFの基調講演で、新しいiMacがお披露目された。だが、すでに私(たち)はこの基調講演よりも一足先にこのNew iMac(以下、iMacTFT)を見る恩恵にあずかった。というのも、うかつなことに『Time』誌(1月14日号)がそれより一日早くiMacTFTを取り上げた表紙と記事をTime Canada.comのWebサイト上で公表してしまったからだ。さすがのアップルもこれは番狂わせだったろうが、時すでに遅し、瞬時にして“回覧板”のごとくネットを通じて世界中に知れわたってしまったのである(「フライング? Time誌カナダ版が新型iMacを独占レポート!」=リンク切れ)。「新型iMacは最初のiMacがそうだったようにとても画期的な製品だ。最初のiMacと同じくらい前向きだが,新しいテクノロジーが詰まっている」とはアップルのワールドワイドプロダクトマーケティング副社長フィル・シラーのコメントだが、とてもユーモラスでラブリーなデザインとはいえ、毎度ながら物議をかもしている。賛否両論、毀誉褒貶さまざまだが、興味深いのは、革新的だと絶賛してやまないアップルCEOスティーブ・ジョブズとはちがって、このiMacTFTを担当したチーフデザイナーのジョナサン・アイブが意外にもこんなコメントを述べている(「新『iMac』が生まれるまで」=リンク切れ)。
サンフランシスコの『マックワールド・エキスポ』で7日(米国時間)に新しいiMacが披露された後、アイブはインタビューに応え、「風変わりな印象を与えたと思う」と語った。「私自身は、(最初の)iMacよりも目新しさに欠けると思っている」
また、こんなコメントも(「新型『iMac』は史上最高のベストセラー・コンピューターになるか」)。
新型iMacのデザインの担当者で、8日にマックワールドの会場を歩いていたジョナサン・アイブ氏は、次のように話している。「みんな本当に気に入っているようだ。非常にうれしい。気に入ってもらえるかどうか、確信がなかった」
おいおい、デザイナーすら確信が持てないデザインでは困るではないか(笑)。ただ個人的にはこちらのデザイン(Acorn Creative Advertising & Graphic Design)の方が魅力的だったりするのだが…。今回の新iMacは初代iMac(iMacCRT)よりは洗練されており、アップルのデザイン言語ともいえる「重力からの解放」「浮遊感」をいっそう前進させ、モニターを空中に浮かせてしまうという、いかにもアップルらしいデザインである。好みの問題は別として、こういった意表をつく斬新で奇抜な発想のプロダクトデザインをこれからもどんどん出してもらいたい、それがアップルの企業としての存在意義だと思うから。ところでこのiMacTFT、実に想像力を喚起させてくれるデザインである。子どもでも絵に描きやすいし、いろんなモノに喩えることができるほどにわかりやすい。たとえば、すでに指摘されているところでは「雪見大福」「鏡餅」「電気スタンド」「首振り扇風機」などなど。ジョブズは、先の『Time』誌上でこんなふうに喩えている。
Instead of looking like the old iMac, the thing should look more like the flowers in the garden. Jobs said, "It should look like a sunflower."
つまり「ひまわりのよう」だと。あるいは、こんな指摘さえある。ジョブズが『トイ・ストーリー』『バグズ・ライフ』などのCGアニメ制作会社ピクサー社のCEOも兼任しているところから、そのピクサーの記念碑的なショートフィルム『Luxo Jr.』(ジョン・ラセター監督、1986年)に登場する電気スタンドが、iMacTFTとどことなく似通っていると。『トイ・ストーリー2』の劇場公開時に、この『Luxo Jr.』が本編前に上映されていたのできっとご覧になった人もいるだろう。ピクサーのロゴにもこの電気スタンドが登場していることから、いわばピクサーの原点、シンボル的キャラクターといっていい。そのユーモアのセンスある傑作CGアニメはこちらのピクサー・オフィシャルサイトで閲覧でき(要QuickTime 8MB)、それとiMacTFTのアニメフィルム(ピクサーのジョン・ラセターが監督 要QuickTime 3.4MB)とを見比べてみるのもまた愉しい。
iMacTFTの筐体デザインを見てもわかるように、Macのデザインにはどことなくユーモア(Humour)と人間味(Human)ある愛嬌が感じられる。なぜこれほどまでにMacに魅かれるのか、愛着が湧くのか、プレミアがつくほど大切にコレクションされるのか? ひとつには「インテリア」としてのMac、さらには単なる道具の域を超えて、感情移入するほどにそのキャラクターに惹きつけられるのではないだろうか。その典型的な例を挙げよう。Macintoshがデビューしたとき、Mac自身が発声した「Hello. I am Macintosh. 」、それを引き継いだ形のiMacのキャッチフレーズ「Say hello to iMac.」。そしてまたアップルジャパンが1996年11月〜12月にかけて「I'm Macintosh.」という販促イベントキャンペーンを行ったとき、その広告キャンペーンのTVCFで、藤井フミヤ自ら出演して語った言葉が「Macって人間的だから」というものであった。さらに、WIRED NEWSの最近の記事「マックファンに人気のペーパーモデル(上)」および「マックファンに人気のペーパーモデル(下)」にある、Macのペーパークラフトを作っている人たちのコメントが何よりも雄弁に語っている──
「マックが大好きだ!」と、おおはし氏は電子メールで述べている。「マックは素晴らしいツールだと思う。とても直感的で使いやすいし、デザインがいい……マックは私の能力を広げてくれるいい仲間なのだ」「マックはただのツールではない」とドラゴン・タング氏。「私のライフスタイルであり、友であり、場であり、家だ。また、ときには苦痛でもある。決してただの『もの』ではない」
「ペーパーモデルになっているのは、他のパソコンより明らかにマックのほうが多い。なぜなら、マックユーザーは自分のマシンが大好きだが、ウィンドウズのユーザーはそのシステムを嫌っているからだ」とオランダのペーパーモデル・デザイナー、ペーテル・フィッセル氏は語る。
「マック以外のパソコンは、インスピレーションを与えてくれないただの作業道具だ。モデルを作りたくなるような要素は何もない」とラフォス氏。
おそらくこの感覚は、Macを使ったことのない人にはとうてい理解しがたいものかもしれない。これまでのMacintoshの系譜は、The Apple Online Museumでその変遷をたどることができるが、とりわけコンパクトMacほど人間味あふれるキャラクターはいないだろう。ピクサーの電気スタンドがそうであるように、アップルもこの可愛らしいコンパクトMacをシンボル的キャラクターにしており、アップルの原点、そしてパーソナル・コンピュータの原点でもある。Macを使っている人なら誰もが知っているように、起動画面のいちばん最初に登場するのがこの"HappyMac" だ(スマイルMacともいう。私は“二コちゃんMac”と呼んでいるが)。むろんMac OS Xでも登場する。
これまでMac OS上では「すぐに立ち去る」二コちゃんMacだったが、なんとMac OS Xでは「しばらく居残ってくれる」(?)のがちょっぴり嬉しかったりする。その上、正月には「謹賀新年」、誕生日には「Happy Birthday」とちゃんと挨拶して出迎えてくれる! はずであったが、どうもMac OS Xでは出迎えてくれないようなのだ(※注)。ちなみにMac OSのバージョンによっては少し趣が異なる。8.6までは「謹賀新年」、9.0/9.0.4では「明けましておめでとうございます 本年もよろしくお願いいたします」と出るものの、9.1以降はとんと出ないらしい。アップルには強く猛省を促したいぞ(笑)。で、その起動画面、Macがなければ見ることができないかというと、そうでもない。実はコンパクトMac主演(!)のアニメでなら、誰でもその起動画面を見ることができる。先のピクサーの『Luxo Jr.』にも匹敵する実にユーモラスなアニメだが、こちらのサイトにある『Apple's Mac II Pencil Test』(要Quick Time 23MB)がそれ。すでに「Macの名作コマーシャル」のところでサイトを紹介したのでもうご覧になったかもしれないが。
Macとはどんなコンピュータなのか、そしてどんな歴史(生き方)を歩んできたかは、ありがたいことに単行本で出版後、今日Webサイト上でもそのテキスト全文が公開の「Macintosh礼賛」というページにわかりやすく書かれている。これを読めば、いかにMacが“遊び心”を持ったユニークでフレンドリーなコンピュータであるかがわかる。よく言われることだが、「Macはひとつの文化である」。Macの新製品に一喜一憂するのは、それがもはや恒例となった「文化的行事」「お祭り」みたいなものだからである。これほど私(たち)を楽しませ、時には悲しませて(笑)くれるMacとは、つくづく不思議な「生き物」だ。
【2002/01/11 江原・記】
(※注)2002年8月24日発売の「Mac OS X 10.2 Jaguar」で、二コちゃんMacはついに姿を現わすことはなかった。だがこの突然の仕打ちに、Macユーザーはがぜん総毛立ち(「姿を消した「ハッピーマック」アイコンに賛否両論」)、なんとMac OS X 10.2の起動画面をHappyMacに変更することのできるhello Jaguarまでリリースされ、みごと“復活”を成し遂げたのであった。この酔狂!
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