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著書『日本ファシズム批判』(1932年)が発禁処分をくらうなど、大正デモクラシーきっての評論家・長谷川如是閑が、有志らとともに自ら創刊した雑誌『我等』の巻頭言(1929年1月号)で、デンマーク陸軍大将フリッツ・ホルムが起草し制定を促すべく各国へ配布した「戦争を絶滅させること受合ひの法律案」(「戦争絶滅受合法案」)なるものを取り上げている。たとえホルム大将や法律案起草が架空のものであったとしても、長谷川がのちに貴族院議員として日本国憲法制定に参加したことからして実に興味深い。ここにその巻頭言「戦争絶滅受合法案」(「長谷川如是閑集 第二巻」岩波書店刊)を紹介するが、今もって、けだし妙案であろう。(江原 元)


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戦争絶滅受合法案


 世界戦争が終つてまだ十年経つか経たぬに、再び世界は戦争の危険に脅かされ、やれ軍縮条約の不戦条約のと、嘘の皮で張つた太鼓を叩き廻つても、既に前触れ小競り合ひは大国、小国の間に盛に行はれてゐる有様で、世界広しと雖も、この危険から超然たる国は何処にある? やゝその火の手の風上にあるのはデンマーク位なものだらうといふことである。
 そのデンマークでは、だから常備軍などゝいふ、廃刀令以前の日本武士の尻見たやうなものは全く不必要だといふので、常備軍廃止案が時々議会に提出されるが、常備軍のない国家は、大小を忘れた武士のやうに間のぬけた恰好だとでもいふのか、まだ丸腰になりきらない。
 然るに気の早いデンマークの江戸ツ子であるところの、フリツツ・ホルムといふコペンハーゲン在住の陸軍大将は、軍人ではあるがデンマーク人なので、この頃「戦争を絶滅させること受合ひの法律案」といふものを起草して、これを各国に配布した。何処の国でもこの法律を採用してこれを励行したら、何うしたつて戦争は起らないことを、牡丹餅(ぼたもち)判印で保証すると大将は力んでゐるから、どんな法律かと思へば、次ぎのやうな条文である。

 「戦争行為の開始後又は宣戦布告の効力の生じたる後、十時間以内に次の処置をとるべきこと。
 即ち左の各項に該当する者を最下級の兵卒として召集し、出来るだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従はしむべし。
  一、国家の××(元首)。但し△△(君主)たると大統領たるとを問はず。尤も男子たること。
  二、国家の××(元首)の男性の親族にして十六歳に達せる者。
  三、総理大臣、及び各国務大臣、并に次官。
  四、国民によつて選出されたる立法部の男性の代議士。但し戦争に反対の投票を為したる者は之を除く。
  五、キリスト教又は他の寺院の僧正、管長、其他の高僧にして公然戦争に反対せざりし者。
 上記の有資格者は、戦争継続中、兵卒として召集さるべきものにして、本人の年齢、健康状態等を斟酌すべからず。但し健康状態に就ては召集後軍医官の検査を受けしむべし。
 上記の有資格者の妻、娘、姉妹等は、戦争継続中、看護婦又は使役婦として召集し、最も砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし。」

 これは確かに名案だが、各国をして此の法律案を採用せしめるためには、も一つホルム大将に、「戦争を絶滅させること受合の法律を採用させること受合の法律案」を起草して貰はねばならぬ。


(一九二九、一、一)


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【江原注】原文は縦書き。本文中の条文「但し健康状態に就ては召集後軍医官の検査を受けしむべし。」のうち、「招集後」三文字には読点で傍点が振られている。



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