エイズ 甘草の主成分に注目する医師も
エイズウイルス(HIV)に感染しても、最初はごく軽い風邪症状程度で経過する。しかし、体の中では免疫を担当するリンパ球の一種であるCD4という細胞がどんどんやられ続ける。それがある程度進むと感染症を防げなくなり、エイズが発病する。
そのため、免疫担当リンパ球があるレベル(血液1マイクロリットル中CD4数が500)以下になるとエイズ治療薬AZT(アジドチミジン)などを使い始めることが多い。
しかし、厚生省研究班の調査によると、エイズウイルスに感染している血友病患者1057人の免疫レベルの平均値は、AZTなどの使用にもかかわらず、確実に下がっている。エイズの治療は、まだ手探りだ。
こうした状態の中で、国立大大阪病院の池上信子・臨床研究部長はグリチルリチン製剤に注目している。1986年から同病院小児科の10代、20代中心の患者に同製剤を使い、免疫レベルを横ばいに保っているからだ。
グリチルリチンは代表的な生薬である甘草(かんぞう)の主成分。その製剤であるグリチロン錠は薬局で自由に買える。1日分120円ぐらいの安い薬だ。
同病院の患者17人のうち10人はCD4数が400以上だったが、7人はもっと悪くなってから市販のグリチロン錠を毎日飲み始めた。92年からは一部の患者にAZTを使い始めたが、それまでは全くエイズ治療薬は使っていない。
それなのに、今のところだれにも典型的なエイズ症状は出ていない。グリチルリチンにも副作用はあるが、17人には重い副作用は見られなかった。
もっとも、仮に免疫力を維持する効果があるとしても、理由は分からない。薬は、量的にみても直接ウイルスの増殖を抑える量ではない。
池上さんは「様々な免疫ネットワークを調整するのではないか。いろんな病院で試して欲しい」といっている。(朝日新聞 1994/01/16)エイズが“短縮” NYの男性寿命 10年で0.3歳
【オールバニ(米ニューヨーク州)20日=AFP時事】ニューヨーク州衛生局は20日公表した人口統計で、ニューヨーク市の男性の平均寿命がエイズのため、今世紀初めて短くなったことを明らかにした。
それによると、1981年に68.9歳だったニューヨーク市の男性平均寿命は、10年後の91年には68.6歳に低下した。ニューヨーク市を除く同州の男性平均寿命と州、市の女性平均寿命はそれぞれ延びている。
同州でのエイズによる死亡者は81年わずか1人だったが、93年末には累計3万人に上っている。(朝日新聞 1994/01/23)仏輸血エイズ禍 当時の首相側近が危険性認める手紙
米分析薬導入も拒否 有力紙暴露
【パリ9日小塚哲司】フランスでエイズウイルスに汚染された血液の輸血で血友病患者1200人を感染させ、250人を超す死者を出した事件で、当時のファビウス首相の側近が輸血によって汚染する危険性を知っていたことを証明する手紙を8日、リベラシオン紙が暴露した。同事件では国立輸血センターの所長ら2人の医師は有罪判決を受け、服役中だが、当時のファビウス首相(社会党)ら3人の閣僚は国家的犯罪として弾劾裁判にかけられたものの無罪となった。しかし先月、被害に遭った19歳の患者が同3閣僚を相手取って告訴しており、今回の事実発覚で告訴が受理される可能性も出てきた。
発覚した手紙は、ファビウス首相の顧問、フランソワ・グロ氏が技術開発省(当時)の責任者あてに送ったもので「エイズは(男性同性愛、麻薬中毒者などの)特定の者だけが感染するのではなく、交通事故などで手術を受ける際、血液が汚染していれば感染する」と断定している。
この事件では、弁護側が「事件の起きた1985年当時は、血液がエイズに汚染されているかどうかの検査技術が確立していなかった」と強調していた。
ところが同紙によると、エイズ汚染分析薬を開発した米国のアボット社が85年1月8日にフランス側に売り込みをし、同年3月2日に米食品医薬品局(FDA)から発売許可が出た後も、フランス国立健康研究所は「信用性に欠ける」と受け入れなかった。その理由は、当時国内のパスツール研究所などでも分析薬の開発を急いでおり、一歩先んじた米国に市場を奪われるのを恐れたためという。
同研究所も6月に入ってやっと開発に成功、その翌日、ファビウス首相は国会で輸血用血液の分析検査の義務付けを発表したが、生産を開始したのは10月半ばだった。
こうした経緯から、同紙は(1)輸血製剤を投与すればエイズに感染する可能性が高いことをファビウス首相を含め保健・衛生省の関係者は知っていた(2)7月からアボット社の分析薬を受け入れたが、保護主義的思慮により、その間7カ月、毎月100人から200人の汚染患者を出した──と糾弾している。
先月、ノーベル賞受賞者ら内外の科学者約100人が服役中の輸血センター所長らの恩赦をミッテラン大統領に要求したが、被害者団体は猛反発している。(中日新聞 1994/02/10)シルツ氏が死去 米エイズ対策の遅れ批判
【ニューヨーク17日武藤芳治】米レーガン政権のエイズ対策の立ち遅れを厳しく批判するとともに、米国でのエイズ被害の進行を克明に記録した大著「そしてエイズは蔓延(まんえん)した」の著者でジャーナリストのランディ・シルツ氏が17日未明、サンフランシスコ北部ガーンビルの自宅で死亡した。死因は明らかになっていないが、自身もHIV(エイズ・ウイルス)に感染していた。42歳だった。
シルツ氏は米大手マスメディア界で初めて自身が同性愛者であることを公表したサンフランシスコ・クロニクル紙の記者で、1982年にはサンフランシスコの同性愛の市会議員ハーベイ・ミルク暗殺事件を扱った「カストロ・ストリートの市長」を出版。さらに87年には昨年、米ケーブルテレビでテレビ映画化され話題を呼んだ「そしてエイズは蔓延した」でベストセラー、最新作の「コンダクト・アンビカミング(不適当な行為)」も米軍隊の同性愛問題を扱いベストセラーになっている。
「そしてエイズは蔓延した」は「自分が書かなければだれも報道しない」との使命感に燃えた力作で、エイズの政治・医療・社会すべての現象を活写したドキュメント。同原稿の最後の言葉をタイプし終えたときに、自身も医者からHIV感染を知らされたという。ただし「HIV感染者と分かると、ジャーナリストとしての公正さが疑われる」との懸念から感染を昨年まで公表しなかった。
「コンダクト・アンビカミング」の最終章は病院のベッドで書き上げた。また第1作のハーベイ・ミルク暗殺事件は昨年からオリバー・ストーン監督によって映画化が進められている。(中日新聞 1994/02/18)ランディ・シルツ氏の死 代弁、今後はだれかが
ニューヨークの街を歩いていると、必ず「私はエイズ・ウイルスに感染しています。助けてください」と書いたボール紙を抱えてうずくまるホームレスの人々に出合う。通行人の何人かは彼/彼女に小銭を渡し、何もなかったかのように通り過ぎて行く。
あるいはリンカーン・センターの近くにあるルーズベルト病院。エイズ患者が一般の内科病棟で隔離もされずに入院治療を受けている。医者も看護婦もほかの入院者も、文句を言うどころかときにはおしゃべりに病室を訪れたりする。
すでに20万人以上のエイズ死者を数えるアメリカ。たとえこれらの犠牲者の上に成り立ったものとはいえ、エイズとともに現在を「生きて」いる人たちへの「普通の」対応に関しては、日本は比較の対象にもならない。
同問題のトップ・ジャーナリストであり続け、自らもエイズ関連症で42歳で死去したランディ・シルツ氏は、米国エイズの歴史を「ロック・ハドソン以前と以後の、2つの時期に明確に区分される」と大著「And The Band Played On(邦題・そしてエイズは蔓延した)」で記している。米国の男性の象徴でもあった美男俳優ロック・ハドソンが、ゲイ(同性愛者)でありエイズにかかっていると公表した後に死んだのは1985年だった。彼の死後、エイズ患者は確実に差別されるべきものでは(少なくとも頭の上では)なくなっていった。そんなエイズを取り巻く米国ジャーナリズムの在り方を変えたのがシルツ氏だった。
シルツ氏は51年、イリノイ州オーロラに生まれ、オレゴン大学のジャーナリスト学校で学んだ当時から自分をゲイであると公表していた。81年、サンフランシスコで当時「ゲイの癌(がん)」と呼ばれていたエイズの流行が始まったとき、大手新聞サンフランシスコ・クロニクルがシルツ氏をエイズ問題専門記者として雇い、彼のエイズ報道が始まった。政治、社会、医療を網羅する徹底した調査と膨大なインタビューをこなし、圧倒的な事実を時間を追っていくつも並行させて展開したのが「そしてエイズは蔓延した」だ。
邦訳本(草思社)で上下2段組み800ページにも及ぶこの力作は、冷徹に事実を追いつつも鬼気迫る悲しみに満ちている。「ゲイの病気だから」といって捨て置いた当時のレーガン政権の無策ぶり。差別と偏見。予防啓発の遅れ。インタビューを重ねれば重ねるほど自分の知る死者たちの数が増えてくるというシルツ氏の悔しさは想像に難くない。その意味で、これはおびただしい死者たちの代弁の書であり、自らもそうだったゲイたちの弔い合戦の書だった。
昨年、同書が米ケーブルTVでテレビ映画化された。リチャード・ギアやウーピー・ゴールドバーグといった有名俳優たちが無償で出演したこの映画を、当時、カナダ人の友人といっしょに見た。終了間際、その彼が不意に号泣し始めた。ひとがこんなにも強く泣くのを見たのは初めてだった。彼はやはり何人もの友人をエイズで失っていた。「みんな、死なずに済んだんだ」と、彼は言った。
「エイズ撲滅」は「エイズ患者の撲滅」とは違う。エイズは怖いが、エイズ患者は怖くなどない。シルツ氏の死去に、今度はだれかが彼の代弁をしなくてはいけないのだと考えている。(ニューヨーク支局・武藤芳治)(中日新聞 1994/03/03)エイズ明かし理解を訴えた 平田豊さん死去
エイズウイルス(HIV=ヒト免疫不全ウイルス)に感染していることを公表し、差別や偏見がつきまとうエイズへの理解と支援を呼びかけてきた平田豊(ひらた・ゆたか=筆名)さんが29日午前5時13分、肺炎のため、千葉市の病院で死去した。39歳だった。入退院を繰り返しながらも精力的に活動、「感染者であることを隠さなくてもいい社会にしたい。病気は怖い。けれど、感染した人は怖くない存在なんだ」と訴え続けていた。
平田さんがエイズと診断されたのは1991年夏だった。免疫力が落ちるとかかりやすくなるカリニ肺炎をすでに患っていた。感染を公表することが、感染者と共に生きていく社会をつくる一助になればと、92年10月、都内のホテルで記者会見した。
ただ、公表する名前は、家族のプライバシーを考え、短歌を詠む時の筆名とした。それまでHIVに汚染された血液製剤によって感染した患者が、訴訟にからんで名乗り出たことはあったが、性行為による感染者としては日本で初の公表だった。
エイズヘの理解を求める団体の代表を務めるかたわら、支援集会やシンポジウムに出席、体験や思いを語り歩いた。昨年暮れには半生を語った本も出した。
「この病気のいいところはすぐに体調が悪くならないってこと。その間に、命を見つめ、自分の人生を意義あるものに立て直すことができる」。何度か口にした言葉だ。
支援団体による「追悼式」が行われるが、日取りは未定。(朝日新聞 1994/05/30)エイズ感染者のリンパ球保存 自己輸血で発病抑止
日豪グループ研究で成果
エイズウイルス感染中にリンパ球を凍結保存し、発病直前に自己輸血して発病を防ぐ治療法を、日豪のグループが3年前から共同研究していたが、感染者本人と全く同タイプの一卵性双子のリンパ球で「代用」した臨床試験で、発病を6カ月以上食い止めるのに成功した。ウイルスの大幅減少と発病抑止効果が確かめられた。感染から発病まで数年から10年の潜伏期を延ばすことが現実的なエイズ対策とされる中で、副作用のない治療法として注目されそうだ。8月に横浜で開かれる第10回国際エイズ会議で発表される。
効果を確かめたのは、大阪大・微生物病研究所(栗村敬教授)と、オーストラリア・シドニーのニューサウスウェールズ大医学部(ジョン・ドワイヤー教授)のグループ。日本のエイズ予防財団のプロジェクトとして、3年前からオーストラリア人感染者を対象に研究を続けていた。
オーストラリア側が感染者の採血と輸血、患者の容体の観察を、大阪大側が血液の分析と発病予防のメカニズムの研究を分担し、このほど、男性感染者(20)のデータがまとまった。
この男性は、血液中のエイズウイルスの量が増え、リンパ節がはれたり急激に体重が減ったりするなど症状が悪化。発病寸前の容体になった昨年秋、この男性の一卵性双子(非感染者)のリンパ球(CD8陽性細胞)を含む液を、約200ミリリットル輸血した。
その結果、男性の血液中のウイルス量は大幅に減少した。発病前にウイルスにむしばまれて少なくなる別のリンパ球(CD4陽性細胞)の数も増え、容体は潜伏期と同じ状態に回復し、6カ月以上過ぎた今も発病の兆しが見られないという。
阪大微研の土江秀明助手によると、輸血された双子のリンパ球(CD8陽性細胞)が、ウイルスに感染した細胞を攻撃して、発病を遅らせているという。
同研グループのリーダーの栗村教授は「このリンパ球は感染者の血液にもあるので、潜伏期に採血して凍結保存しておけば、一卵性双子のリンパ球と同じように輸血して発病を防げる。自分のリンパ球なので副作用はない」と話す。現在、約60人のオーストラリア人感染者のリンパ球を採血して、自己輸血の準備を進めている。(朝日新聞 1994/06/26)エイズウイルス「発見は仏」 米との論争決着
【パリ11日=共同】米国の厚生省と国立衛生研究所は11日、ワシントンで開いたフランスとの協議で、エイズウイルス(HIV)を最初に発見したのはフランスのパスツール研究所であることを正式に認めた。これにより、十年来のエイズウイルス発見論争に正式に終止符が打たれる。
エイズウイルスの発見は1984年、米国のギャロ博士が学会に報告した。しかし仏側は、ウイルスは83年にパスツール研究所のモンタニエ博士が分離したもので、ギャロ氏がモンタニエ氏の送った試料を盗用したと主張。年間数千万フラン(約数十億円)に上るウイルス検査の特許料をめぐり論争が続き、両国間の貿易紛争に発展しかねない状況だった。(朝日新聞 1994/07/12)HIV感染後20年以上は4分の1発症せず 英のグループ予測
【ロンドン30日=尾関章】HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染後、4分の1の人は、エイズが20年以上発症しない、とする予測を、英ロンドンのロイヤルフリー病院のグループが30日、英国医師会発行の英国医学ジャーナルに発表した。「今日受けられる治療水準に基づいた予測」としている。
グループは、1979−85年に血液製剤で感染した血友病患者111人について、エイズ発症の目安となるCD4リンパ球の数が減る様子を追跡した。治療法が開発されてからは、発症の恐れが出たとき、ウイルスに対抗する薬アジドチミジンやカリニ肺炎の予防薬を使い始めた。
CD4リンパ球の数が、特定の値以下になると発症すると定義して、その低下傾向から発症の日を予測した。この結果、20年間、発症しない確率は25%となった。年齢別では、感染時に15歳未満なら32%で、30歳以上は15%だった。25年間、発症しない確率も全体で18%となった。
感染者のうち、93年初めまでに発症した41人について、この予測と実際の発症の日付を比べたところ、88%が予測よりも後に発症しており、予測の妥当さを示した、という。グループは「この予測は、個々の臨床診断にはそれほど役立たないが、集団の平均値を見積もるには十分正確なものだ」としている。(朝日新聞 1994/07/30)HIV論争“手締め”胸の内は 「発見」争った2人に聞く
原因を立証したのは自分──米・ギャロ博士
米の研究者らと協力できる──仏・モンタニエ博士
ノーベル賞が確実と言われるエイズウイルス(HIV)発見の栄誉を争い、長年“犬猿の仲”だった2人の研究者が、7日から横浜市で始まる第10回国際エイズ会議で同席する。米国立保健研究所(NIH)のロバート・ギャロ博士(57)と仏パスツール研究所のリュック・モンタニエ博士(61)だ。国家の威信をかけた先陣争いも、米政府が先月、「第1発見者は仏側」と認めて、ようやく終止符が打たれた。訪日を前に2人の率直な心境を聞いた。(ワシントン=大塚隆/パリ=尾関章)「問題のウイルスがエイズの真の原因であることを証明したのはわれわれ。モンタニエ博士も米国の雑誌とのインタビューで『エイズの原因立証はウイルス発見より難しかった』と評価してくれている」。第1発見者をめぐる争いに敗れた悔しさは隠せないが、ギャロ博士の自信は揺らいでいない。
盗用疑惑について米厚生省は「ギャロ博士らに小さな過失はあったが、意図的なものではなかった」と告発を見送った。博士も「培養したウイルスにモンタニエ博士から送ってもらったウイルスが混入したのは事実」と認める。
しかし、疑惑は1人の研究者の運命を変えた。博士の部下で、ウイルス培養を担当したチェコスロバキア出身のミカ・ポボビッチ博士(53)はウイルス混入の責任を問われて間もなく辞職。今はスウェーデンの研究所に身を寄せている。
ギャロ博士は米国基礎医学界最高の栄誉で、受賞者の3分の2がノーベル賞を受けているラスカー賞に2度輝くなど、研究への評価は絶大。その一方で、研究成果を独占したがる、他の研究者に不当な圧力をかけるといった悪評も目立つ。
敵が多すぎることが今回の疑惑にもつながったようだが、「目立たなければ敵は少ない。だが、私には支えてくれる友人も多い」とかわした。
「疑惑」の最終決着とともに、博士は「この事件で実現しなかったが、今は長年の夢だった国際的なウイルス研究センターをつくる好機。日本の製薬企業や研究者にもぜひ協力してほしい」と、新しい研究所に移る可能性をほのめかした。めったにメディアに登場しない博士がインタビューに応じたのは、日本への強い期待からのようだ。■ ■ 一方のモンタニエ博士は今回の決着に満足そうだ。
「米側が初めて、私たちが発見したウイルスによる検査法を使っていることを認め、これまでよりも多くの特許料が入るようになった。悲しい物語のページをめくり、米国の人々との協力関係も探れるようになったのはうれしい」
長年の争いがエイズ研究の進歩に影響したとの見方もある。「私たちは、弁護士のために書類をつくるのに、そんなに多くの時間はとられなかった。だが、ギャロ博士は、たぶん多くの時間を費やしたことだろう」と皮肉る。
友愛の精神で情報を交換し合う科学界の美風は変わっていくのだろうか。
「私は、そういう習慣を変えるつもりはない。科学と私の人生に背を向けることになるからだ」と勝者の余裕をみせる。
ギャロ博士との付き合いについても「争いの間も、情報交換のため、科学者同士の接触を保ってきた。私たちの会議に彼を招いたし、私も彼に招かれた。もちろん、今またずっとよい間柄になっている」という。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)のマヨール事務局長とともに、新しく世界エイズ研究予防財団をつくった。
「エイズのような地球規模の問題解決には、新しい形の研究が必要だ。アフリカと仏、米に研究センターをつくりたい。もし、日本企業が資金を出し、アジアにセンターをつくりたいのなら、話し合う」
2人の宿敵が長年のわだかまりを捨て、国際的なプロジェクトで協力する日がくるのかもしれない。<ウイルス発見論争の経過>
モンタニエ博士たちがエイズの原因とみられるウイルスを報告したのは83年5月。ギャロ博士たちの発表は84年4月だ。両者のウイルスの遺伝子配列は85年1月に発表され、その間には2%ほどの差しかなかった。エイズウイルスの“変わり身”の速さから考えると、同じウイルスと判断してもおかしくなく、論争の芽が生じた。
85年5月、ウイルス抗体の検査法について米国の特許が、先にギャロ博士側に認められた。当然、仏側は異議を申し立てた。これに決着を図ったのが87年3月、当時のレーガン米大統領とシラク仏首相による和解。双方をウイルスの共同発見者とし、特許料も等分することになった。
論議を再燃させたのは米シカゴ・トリビューン紙による89年11月の報道だ。ギャロ博士たちの見つけたウイルスは、モンタニエ博士たちから提供されたものが不注意で混入したか、故意に盗用したものだと指摘。その後の調査でギャロ博士も混入を認めざるを得なくなった。
特許料の新しい取り決めによると、米仏いずれの特許を使った場合でも、20%を特許の所有国が取る。残りの50%を仏側、25%を米側が取り、25%はエイズ対策に寄付される。(朝日新聞 1994/08/03)逆転の新治療法提唱 免疫抑制が効果的 パリ大教授
【ロンドン7日共同】7日付の英紙サンデー・テレグラフによると、パリ大学のジャンマリー・アンドリュー教授は横浜の国際エイズ会議で、エイズの発症を抑えるにはエイズ感染者の免疫を抑制する方が効果的、との臨床結果を発表する。
エイズ・ウイルス(HIV)は人の細胞に侵入し免疫を破壊するとされ、発症を抑えるにはHIV感染者の免疫システムを向上させるのが一般的な治療方法だが、アンドリュー教授は全く逆の治療方法が効果があるとしている。
教授は、HIVが人の免疫を破壊するのだから、免疫システムが活発であればあるほど、免疫システムの破壊が早く起き、結果としてエイズの発症を早めると指摘。
教授によると、感染者27人に対し、臓器移植の際に拒絶反応を弱めるため使用される免疫抑制剤シクロスポリンを2カ月から5年間投与した結果、それまで減少していたCD4細胞と呼ばれる白血球の増減が安定した。
さらにもう1つの抑制剤プレドニゾロンを感染者40人に投与したところ、CD4細胞が劇的に増加し、エイズ発症の恐れが大きく薄らぐ結果が出た。抑制剤による副作用もないという。
アンドリュー教授は「この治療方法は、科学的には最終的に証明されてはいないが、免疫システムの活動が低いほどエイズ発症の可能性が低いといえる」と述べた。(毎日新聞 1994/08/08)米国立衛生研は無駄な出費多い 民間団体が批判
世界のエイズ研究・治療の先端を行く米国立衛生研究所(NIH)のエイズ研究には無駄な出費が多いという批判的な報告書を、エイズ関連の世界最大の民間支援団体「ゲイ・メンズ・ヘルス・クリニック」(本部・ニューヨーク)が7日、横浜市で発表した。
報告書は1993会計年度のNIHでのエイズ治療関連研究を詳細に分析した。12の研究ネットワークのうち10の研究は相当部分が重複し、お互いの間で情報交換がうまくいっていないと批判。「頭脳のないタコのように、手はそれぞれ別の方向に向いているが、それをまとめる能力がない」と表現した。(毎日新聞 1994/08/08)血液製剤「危険知りつつ輸入」 米の研究者日本企業などを批判
「米国で血液製剤がHIV感染源となる危険があった1983年の時点で、日本の当事者が知らなかったはずはない」──。米国立防疫センター(CDC)の元研究員、ドン・フランシス博士(52)は毎日新聞との会見で、血液産業や政府当局が過去の失敗を教訓としていないとの懸念を表明した。そして「いかに処理しようと血液製剤の危険性は残る。将来は血液を使わない遺伝子技術などへ移行すべきだ」と提言した。
「血液製剤の危険性が米国で顕在化したのは82年。それ以来、外国にはさまざまな形で情報が伝わったはずだ。新聞はじめ、世界保健機関、CDCの定期刊行物や医学雑誌にも載ったが、そんなものがなくても、一番分かっていたのが製剤を作った企業から直接輸入していた日本の企業だ。すべてを知っていたのは間違いない」。博士はそうみる。
さらに、83年2月に日本で患者が自分で血液製剤を注射する家庭療法を進める施策が打ち出され、血液製剤の使用量が増えたことを挙げ「日本の企業は、家庭療法で製剤の売り込みを図り、米国企業は米国で売れなくなる前に売ってしまえ、といわんばかりの急ぎ方だった」と解説した。
博士はエイズ発見初期から、CDCで感染を防ぐため保存血液の検査などを主張し、業界と対立した。
現在はジェネンティック社でエイズワクチンの開発研究をしている。(毎日新聞 1994/08/11)血液製剤の輸血エイズ感染 仏が950億円国家賠償
【パリ4日=AP】フランス政府は4日、国の医療機関がエイズウイルス(HIV)に汚染された血液製剤と知りながら輸血に使用したため、HIVに感染した患者に対し、計約50億フラン(約950億円)の賠償金を支払うことを決めた。
政府の保険基金によると、輸血による被害の訴え約1万2000件のうち約4000件が、輸血を受けた人か、これらの人たちとの性交渉によって感染した人からのもの。
1人当たりの賠償額は、30万−205万フラン。保険基金は、すべての案件を解決するには、さらに約10億フランが必要になるとみている。
フランスでは1980年代半ば、当時の国立輸血センターが、血液製剤がHIVで汚染されていると知りながら販売を続けたことが発覚、当時のファビウス首相らの訴追に向けた手続きが始まっている。
さらに、献血された血液に対するエイズ検査技術が米国で実用化され、輸入できたにもかかわらず、フランス政府は自国製品の開発を待つとして輸入せず、検査抜きの血液が出回って感染者が続発した。(朝日新聞 1994/11/06)南アフリカ原産の茶葉 エイズウイルス抑制 愛知医大講師発見
南アフリカ共和国原産の茶葉「ルイボスティー」の成分に、エイズウイルスの増殖を抑制する効果があることを愛知医科大加齢医科学研究所(愛知県愛知郡長久手町)の中野昌俊講師が突き止めた。基礎研究の段階だが同講師は「今後、動物実験などでも確認しエイズ治療に役立たせたい」と話している。26日、同県医師会館(名古屋市中区)で開かれる「ルイボス・抗酸化食品研究会」のシンポジウムで発表する。
お茶の一種であるルイボスティーは、煮沸すると、紅茶に似た色が出、甘みがある。
中野講師は、特殊な方法でルイボスティーの茶葉から酸性多糖類を抽出。試験官内でエイズウイルスに感染、培養させた細胞に、ルイボスティー酸性多糖類を投与した。
この結果、1ミリリットル中20−30マイクログラム(1ミリグラムの1000分の1)の濃度で、ウイルス抑制効果の目安である50%の抑制率を示し、31.3同の濃度で85%、それ以上の濃度だと100%の抑制率だった。
マウス実験で急性毒性がないことも分かり、細胞に害を与えず、エイズウイルスの増殖だけを抑える効果が確認された。
中野講師は「酸性多糖類のどの成分が有効なのかを分析すると同時に、近く実施するネコエイズウイルス(FIV)を使った動物実験でさらに効果を確かめたい」と話している。待たれる動物実験
抗エイズウイルス剤成分に詳しい中島秀喜・山梨医科大助教授の話 試験官レベルとしては評価できるが、治療に役立てるには相当数の条件クリアが必要。動物実験の結果が待たれる。(中日新聞 1994/11/23)
HIV感染、だ液で判定 米で検査キット許可
【ワシントン23日=大塚隆】米国の製薬会社エピトープは23日、唾液(だえき)でエイズウイルス(HIV)感染の有無を判定する検査キットが同日、連邦食品医薬品局(FDA)から販売許可を得た、と発表した。
このキットは、プラスチック製の棒を約2分間口に入れて唾液を採取し、専門の検査施設に送ってHIVの抗体検査をする。
FDAは、感染しているのに陰性と判定される誤判定が感染者100人当たり1、2件程度あり、血液検査に比べ信頼性がやや低く、認可を見合わせてきた。しかし、唾液検査は血液検査より簡便で、感染者団体が検査普及のために認可すべきだと働きかけていた。
今回は医師による検査用として認可されたため、家庭での検査はできない。(朝日新聞 1994/12/24)キノコ菌糸 エイズに効果 下川の民間会社と予防研が確認
カバノアナタケの抽出物 微量で増殖抑制
道内にも自生するキノコのカバノアナタケの菌糸にエイズウイルスの増殖を抑える効果があることを、国立予防衛生研究所と上川管内下川町の農産物加工会社サラダメロン(佐久間和夫社長)が共同研究で確認、東京で開催中の第6回抗ウイルス化学療法研究会で14日発表する。ごく微量で抑制効果を示すのが特徴。菌糸を大量培養する基本技術も確立した。既存のエイズ治療薬が化学製品に限られている中、注目される。
カバノアナタケはシラカバなどにできる珍しいキノコで菌核は石炭状の黒い固まり。古くから「がんなどに効く」といわれてきた。
国立予防研などがエイズに感染したヒトのリンパ球に、カバノアナタケ菌糸の抽出物を加えた結果、効果の目安となる一定数のエイズウイルスの増殖を50%程度抑える量(ED50)は、35ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)という超微量で済むことが分かった。熱や酸にも比較的強いなど扱いやすい性質も示した。
エイズウイルスはリンパ球などの細胞に侵入して増殖する。この際、代表的なエイズ治療薬のAZT(アジドチミジン)は、ウイルスの増殖に必要な酵素の働きを拒むことで抑制効果を表す。これに対しカバノアナタケは細胞に働き、ウイルスの攻撃に対し耐性を増すと推定されている。ただ、それが免疫力を高めるだけのものかどうかは不明。
今回の研究はまだ試験官段階にとどまり、薬効のメカニズム解明が今後の焦点。さらに動物実験や臨床試験を経なければならず、実用化には数年かかる見通し。
一方、薬品化に不可欠な大量培養は、おがくずの培地で温度や湿度を適度に調節して増やす方法と、液体培養の2通りを開発した。
サラダメロンは、雪を原料にしたローションやニンジン葉を使った消臭食品などユニークな製品の開発・製造で成果を上げている。(北海道新聞 1995/01/04)ガン・エイズの特効薬!?
学会で発表!“幻のキノコ”カバノアナタケの効き目
ある“幻のキノコ”がガンやエイズの特効薬となる可能性が出てきた。右上の写真のカバノアナタケである。
「まだ研究段階で、薬として使えるかどうかは断定できません。が、試験官内の実験では、カバノアナタケエキスを使うと、エイズウイルスの増殖が抑えられることはわかったのです」
こう語るのは、国立予防衛生研究所の山崎修道所長である。国立予研は、いわば新薬の登竜門。同研究所の研究をクリアしないと、薬として認められないのだが、1月13日から開かれる「第6回抗ウイルス化学療法研究会」で、同研究所の研究者らが、このカバノアナタケの抽出液がエイズウイルスに対して有効に働く(抗HIV効果)ことを発表するのである。
カバノアナタケは、白樺やダケカンバといったカバノキ科の木肌の割れ目に入り込み、菌糸を伸ばして木質を食べ、木を腐らせていく。そして5年から10年かかって木を枯れさせ菌核を形成、写真のように、石炭状のものとなり、木の外に出てくる。大きいものでは10kgにも成長することがあるという。ロシアのノーベル賞作家ソルジェニーツィンの『ガン病棟』にも登場するなど、古くから、お茶として飲むと「ガンに効く」と言い伝えられてきた。が、カバノアナタケが育つ白樺は日本では、北海道や一部の高山にしかなく、しかも、どの白樺にもカバノアナタケが育つわけではないため、幻のキノコとして有名だった。
この「幻のキノコ」を大量培養する技術を開発したのが、今回の「抗ウイルス研究会」の研究者の1人、北海道在住の佐久間和夫氏である。
「昭和56年から研究を始め、オガクズや液体を用いた人工培養、大量生産に成功しました。そこで、言い伝えられていたガン効用を見るため、独自のマウス実験を行い、ガン細胞に対し抑制効果があることがわかりました。カバノアナタケには体内の免疫力を高める力があったのです。さらにエイズについても、道立衛生研究所でおスミつきをもらい、国立予研でさらに研究をすすめてもらったのです」
右下の写真は、道立衛生研究所で抗HIV効果を実験した際のもの。カバノアナタケエキスを入れた細胞(右)と入れない細胞(左)にエイズウイルスを注入して比較したところ、入れないものは3日で巨大細胞状になり、エイズ感染状態となった。これに対し、右は健全な細胞のままであることが見てとれる。
「国立予研での研究によれば、カバノアナタケは、エイズ感染阻止試験、増殖抑制試験でいずれも効果ありとの結果が出ました。エイズウイルスの働きを50%止める濃度をED50といいますが、カバノアナタケの場合、10億分の35gという極めて微量でED50と測定されました」(佐久間氏)
現在、オガクズ培養したカバノアナタケを煮沸して、分泌物を抽出し、フリーズドライしたものを佐久間氏は「血清茶」として販売している。“薬”としては、まだまだ先の話だが、「幻のキノコ」が、現代病を救う日が来るのかもしれない。(FRIDAY 1995/01/27号)エイズウイルス消滅 母子感染の子から
米国の学者ら医学誌に発表
【ワシントン29日=大塚隆】エイズ感染の母親からエイズウイルス(HIV)をうつされた男の子が1歳になるまでに、体からウイルスが消えていたことが分かり、米カリフォルニア大ロサンゼルス校のイボンヌ・ブライソン博士らが、30日付の米医学誌(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表した。
この子はHIV陽性の母親から生まれ、生後19日目と51日目検査でHIVが見つかった。
しかし、生後1年目の検査ではウイルスは消えており、5歳になった今も見つかっていないという。
ボストン小児病院のケネス・マッキントシュ博士は「従来、こうした検査ミスとされてきた。今回はさまざまな検査をしており、信頼できる」と言っている。
HIVが母子感染した子どもの多くは、生後1年以内に肺炎の症状が現れるなど、成人に比べて進行が早いのが特徴。専門家によると、この子の場合も、HIVが体内のどこかに潜んでいる可能性を完全には否定できないという。(朝日新聞1995/03/30)マジック・ボックス社、エイズ情報発信開始──インターネットで
米国のマルチメディアスタジオ、マジック・ボックス社(本社ロサンゼルス)のプロデューサー、ブレット・フランクリン氏(26)は、インターネットを通じてエイズや同性愛に関する最新情報の発信を始めた。エイズの予防法や患者との接し方などを日本語と英語の両方で、映像や音声も交えて提供する。インターネットは個人ベースによるマルチメディア情報発信が可能なネットワークで、今回の試みもすべてフランクリン氏が取材、運営する。
エイズ情報はインターネットのWWWホームページを利用する。米国で大きな社会問題化しているエイズの現状、患者やウイルス感染者との付き合い方など基礎知識のほか、予防方法や同性愛者とのインタビューなどで構成する。米国で盛んに行われているエイズ教育の内容も絡ませる。
現在米国発のインターネット情報は英語がほとんどだが、フランクリン氏は3年間日本に留学した経験もあることから、日米両言語で編集する。日本におけるエイズ予防と病気に対する理解を深めてもらおうと企画した。
同ホームページでは、エイズ関連のチャリティーイベントとして5月中旬に開かれるサンフランシスコ―ロサンゼルス間の自転車ツーリングの様子も携帯端末やデジタルカメラなどを利用して直接インターネットで提供する計画だ。ホームページのアドレスはhttp://eccosys.com/PEOPLE/brett/wbp/start.html。(日経産業新聞1995/05/09)非加熱製剤でHIV感染 オランダ、国家補償へ 対血友病患者
【アムステルダム19日=ロイター】オランダのボルスト厚生福祉スポーツ相は19日、テレビを通じて、非加熱血液製剤などによってエイズ(HIV)に感染した血友病患者に対し、1人あたり最高で12万9000ドル(約1100万円)の国家補償をすることを明らかにした。同相は「血友病患者がHIVに感染した責任は、政府にもある」としたうえで「補償額は近隣諸国の例を参考に決めた」と述べた。
オランダでは1984年に、輸入血液製剤などは加熱処理すれば、HIV感染を防ぐことができると報告されながら、政府は85年まで適切な措置をとらなかった。このため、85年以前に約170人がHIVに感染し、これまでに約30人が死亡した。(朝日新聞 1995/07/21)HIV感染乳児の下痢にビタミンAが効果
南アの大学教授が報告
エイズウイルス(HIV)に感染した乳児にビタミンA(VA)を投与すると、死因にもなる下痢症状が軽減することが、南アフリカ・ナタル大学のアンナ・クートソーディス教授(小児科)らの調査でわかった。8日発行の米公衆衛生学会誌に報告された。
同教授らは、HIVに感染した母親から生まれた乳児118人と、HIVに感染したことが判明した乳児85人を、約半数ずつ2つの群に、計4群に分け、正常児、HIV感染児とも、片方の群にだけVAを1−15カ月間投与した。
この結果、HIV感染児のうち、VAを投与した群は、投与しない群に比べて下痢症状の現れる率が半分近くに減少。非感染児では両群で差はなかった。ただし、VAの作用機序ははっきりしていない。(ワシントン=北島重司)(朝日新聞 1995/08/16)エイズで新治療法 ウイルスが消失 仏、被験者の半数で効果
【パリ1日=吉田透】フランスの研究者グループが、エイズウイルスに感染した被験者の半数からウイルスがほぼ消失するという注目すべきエイズの新治療法の成果を公表した。抗エイズ薬のジデオキシイノシン(DDI)と抗がん剤の水酸化尿素という薬を組み合わせて、ウイルスに感染して間もない12人に3カ月間投与したところ、6人の血液からはウイルスが検出されなくなったという。被験者数が少なく、試験期間も短いが、研究グループは「エイズの発症防止につながる可能性がある」と期待している。
試験を実施したのは、仏リヨン市のクロワルス病院のドミニク・ペイラモン教授らのグループ。教授らは、まだ免疫機能が低下していない12人の感染者に、DDIと水酸化尿素を3カ月間投与し続けた。その結果、6人の血液中からウイルスが検出出来なくなった。残り6人でもウイルスは激減したという。
DDIと水酸化尿素の組み合わせに強い抗エイズ作用があることは、実験室レベルでは確認されていた。研究グループは「まだ初期段階なので、ウイルスが本当に消失したかどうか長期にわたって追跡する必要がある」と慎重な姿勢を示している。ただ、強い副作用も表れておらず、臨床への応用に期待が高まっている。副作用の少なさ注目
山本直樹・東京医科歯科大学教授の話 エイズウイルスが血中からなくなるとは考えられないので、検出限界以下にまで減少したということだろう。ただ強い副作用なしで大幅にウイルスが減ったことは重要で、今後の経過を見てみたい。(日本経済新聞 1995/09/02)
HIVに感染して14年間発病しない人も 厚生省研究班 仕組み解明へ
エイズウイルス(HIV)に感染しながら、14年間もエイズを発症しない人たちがいることが、厚生省のHIV感染者予防・治療に関する研究班(班長:山田兼雄・聖マリアンナ医大客員教授)の調査で分かった。10年以上発病していない感染者の約半数は、発病を予防する治療すら受けていなかった。今後、免疫機能を調べるなど、発病しない仕組みを解き明かして発病の予防に役立てたい考えだ。16日から大阪府豊中市で始まる日本エイズ学会で発表される。
HIVに感染しても、免疫力が下がらず、様々な感染症が発病しない「長期未発症者」の基準を、CD4という白血球の値が1立方ミリ当たり500以上(通常は800以上)あり、血友病患者は1982年−85年に感染した人、血友病患者以外の人は感染が確認されてから5年以上たった人とした。
全国145病院から報告があった感染者2191人中、7%の154人がこの基準を満たしていた。うち血友病患者が152人。
長期未発症者のうち、今回調査できたのは131人。45%は、エイズを発病しないよう受ける予防治療を経験していないのに、免疫力はそれほど落ちていなかった。6割は12年以上たっても発病せず、最も長いのは81年に感染した血友病患者のケースなどで、14年だった。
また、長期未発症者は分離されるウイルス量も少なかった。研究班は、長期未発症者のリンパ球の型(HLA)を報告してもらい、エイズの発病と感染者の体質との関連も調べる。(朝日新聞 1995/11/16)肝炎治療薬インターフェロンα HIVの増殖抑える 学会で発表
肝炎の治療薬であるインターフェロンαに、エイズウイルス(HIV)の増殖を抑える効果があるという結果が16日、大阪府豊中市で開かれた日本エイズ学会で報告された。
C型肝炎ウイルス(HCV)にも重複して感染している血友病患者8人に使ったところ、HIVの量が平均で10分の1になったという。
HIVの薬との併用で感染者の発病の予防につながる可能性がある。
報告したのは東京都杉並区、荻窪病院の花房秀次・血液科部長。
非加熱の輸入血液製剤でHIVに感染した血友病患者のほとんどがHCVにも感染している。そこでC型肝炎の治療の目的でインターフェロンαを半年間使った。
血清の中のHIVの遺伝子を調べた結果、8人ともウイルスの増殖が抑えられ、使い初めてから2週間後には平均で10分の1に減っていた。感染が進むと減少するCD4という白血球の数もほぼ一定に保たれた。HCVの遺伝子は、6人で検出されなくなったという。(朝日新聞 1995/11/17)世界のエイズ感染者 2000年には4000万人に
【ジュネーブ24日=共同】来年初め正式発足予定の国連エイズ計画が24日発表した資料によると、世界のエイズ感染者は今年半ばの段階で推定1400万−1500万人、2000年には最大で4000万人に達する見通しだ。
地域的に最も感染者が多いのはサハラ以南のアフリカで850万人、続いて東南アジア・南アジア地域の300万人だが、同地域での感染者は急速に増加しており、将来アフリカを大幅に上回る可能性があるとしている。
東南アジアなどでのエイズ感染拡大の原因は「売春」と麻薬使用の注射器で、特に麻薬製造で知られるタイ、ミャンマー(ビルマ)、ラオス国境の「黄金の三角地帯」周辺で感染が急速に進んでいるとしている。
東アジアの感染者は推定5万人とされている。
国連エイズ計画は世界保健機関(WHO)など6つの国連機関のエイズ対策部門を統合して来年1月正式発足する。(朝日新聞 1995/11/26)エイズ抑える抗体発見 治療薬応用に期待も
名古屋市立大
エイズウイルス(HIV)に感染した細胞を殺す抗体を、名古屋市立大医学部の岡田秀親(生体高分子)らのグループが発見した。近く日本免疫学会の国際雑誌に発表する。この抗体は、長い間発症しない感染者の血清からも多量に見つかった、という。今後、この抗体が、実際に体の中で発症を抑えているのかを見るなど研究の積み重ねが必要だが、「将来は治療に役立てられそうだ」とグループはみている。
発見のきっかけをつくったのは、中国から留学中の大学院生、呉笑山さん。岡田教授の研究室では、HIV感染細胞を培養する際に人の血清を加えていたが、呉さんは、1人の健康な研究生の血清を使うと決まって細胞が育たないことに気づき、岡田教授は原因の解明を指示した。その結果、この研究生の血清には、抗体の一種である免疫グロブリンMの中にHIV感染細胞を殺してしまうものがあることがわかった。
研究室の関係者約20人の血清を調べたところ、この性質をもつ抗体が多いのは、その研究生だけで、ほかに1人が少量持っており、残りは全くなかった。
エイズ研究では、HIVに感染しながら、免疫の働きが保たれて発病しない「長期未発症者」が世界的な関心を集めている。今回、グループが、HIV感染者のうち12年以上、発症がない血友病患者7人の血清を調べたところ、いずれも、この抗体を多量に含んでいた。
グループは、この抗体には特殊な糖の構造に反応する性質があり、HIVに感染したリンパ球は、表面にこの構造が現れるために抗体に殺されることも突き止めた。
岡田教授は「この抗体を集めればエイズ治療用の免疫グロブリン製剤が簡単に作れるし、大量培養すれば有効な治療薬ができるはず」と話している。生体内の検証必要
山本直樹・東京医科歯科大教授の話 昨年秋も発症を起こしにくい変異ウイルスが見つかったと話題になったが、それだけで解決とはいかず、人間側の条件も重要だと考えられている。その1つに、こうした抗体がありうる。この抗体が培養細胞でなく、生体内の感染リンパ球でも同じように働くか、いろんなレベルの感染者でどうなっているか、などをさらに調べる必要がある。(朝日新聞 1996/01/04)
ミドリ十字 加熱血液製剤承認後も非加熱製剤を出荷
製薬会社「ミドリ十字」(本社・大阪市)が、エイズウイルス(HIV)感染者を数多く生んだ非加熱血液製剤の出荷を、1985年に安全な加熱血液製剤の販売が厚生省から承認された後も続けていたことが5日、わかった。厚生省もこの事実を確認している。
ミドリ十字の説明によると、問題の非加熱血液製剤は、血液を固める成分のうち第9因子が不足する血友病患者の治療に使われていた。だがエイズウイルスの混入により、投与された患者らが相次いで感染。厚生省は加熱処理を施した安全な加熱血液製剤を85年12月に承認、ミドリ十字は86年1月から加熱血液製剤の出荷を始めた。
ミドリ十字は86年5月までに非加熱血液製剤を加熱血液製剤に交換する作業を終えたが、それとは別に、同年の1月から2月にかけて非加熱血液製剤の販売を続けた。(朝日新聞 1996/01/05)エイズ薬害 厚相が謝罪 国の責任認める
生活支援策も約束
輸入された非加熱の血液製剤によってエイズウイルス(HIV)に感染した血友病患者、家族が国と製薬会社を訴えている東京、大阪両地裁のHIV訴訟に絡んで、菅直人厚相は16日午後、厚生省で患者ら約200人と会い、「厚生省を代表して本当に心からおわびを申し上げさせていただきます」と述べ、国の責任を全面的に認め、謝罪した。厚相が正式に責任を認めて謝罪するのは初めて。原告側が要求している、生活支援を柱とする恒久対策についても全力で取り組む考えを表明した。原告側は「抜本的な姿勢の転換」と評価した。和解協議にも大きな影響を及ぼすとみられ、今後は、和解条件に難色を示している一部製薬会社がどう応じるかが焦点になる。面会では、厚相や厚生省幹部を前に、原告の男性が「これまで国や企業の責任が指摘されてきたにもかかわらず、一切反省することもなく責任を認めようとしてこなかった」と、国や企業の姿勢を厳しく批判した。
患者らの訴えを受け厚相は、昨年10月の東京、大阪両地裁の和解勧告の所見で指摘された(1)厚生省がエイズ研究班を設置した1983年には非加熱製剤とエイズの関係を認識できた(2)対策の遅れが被害の拡大を招いた──などの国の責任を全面的に認めることを表明。そのうえで、「エイズウイルス感染という本当に重い被害を多くの方々に与えてしまったことに、心からおわび申し上げます。これまで国の責任を明確にできず、重荷を背負わせてきたことをおわびします」と頭を下げた。
また、エイズを発症している患者とHIV感染者の治療体制の充実や生活支援などの恒久対策について「和解成立の前後を問わず、できる問題はひとつひとつ取り組んでいく」と明言した。
厚相との面会後、東京HIV訴訟原告の川田龍平さん(20)は記者会見し「厚相が国の加害責任を認め、治療体制の充実や生活支援を柱とする恒久対策などに積極的に取り組むことも言明した。私たちの闘いは全面解決に向けて大きく前進した」と声明を読み上げた。(朝日新聞 1996/02/17)エイズ長期未発症者 予防法発見へナゾ解明進む
エイズウイルス(HIV)に感染しているのに10年以上も発症しない「長期未発症者」が注目を集めている。なぜ発症しないのかを解明すれば、根本的な治療法がないエイズに発症予防の手掛かりが得られるからだ。国内でも厚生省が調査を開始、名古屋市立大学が未発症に関係する免疫の仕組みの一端を明らかにするなどの成果も上がってきた。7%、154人が該当
厚生省の研究班によると、国内の長期未発症者は調査したHIV感染者2191人の7%に相当する154人。欧米の調査でも長期未発症者が一定割合で存在することがわかってきた。
しかも「その約半数は発症予防の治療を過去も現在も受けていない」と、調査をまとめた三間屋純一静岡県立こども病院血液腫瘍(しゅよう)科長は話す。
多くの感染者が数年で発症して亡くなっていく中で、なぜ彼らが元気なのか。
山本直樹東京医科歯科大学教授によると、「長期未発症には複数の要因がある」という。
その1つが米国のグループが突き止めたCD8という白血球の関与だ。長期未発症者は多くの場合、CD8が多い。試験官実験で調べたところ、CD8がHIVの増殖を抑制することがわかった。日本の調査でも長期未発症者の62%がこの白血球の値が800以上(1000分の1ミリリットル当たり)と高レベルだった。
ただ、「具体的な抑制の仕組みははっきりしていない」(山本教授)。CD8自体がHIV感染細胞を攻撃するという説と、CD8が作り出す物質が攻撃するという見方がある。CD8が作る物質の候補としては生理活性物質インターロイキン16やRANTSというたんぱく質などの名前があがっているが、特定はできていない。生ワクチン開発に道
一方、名古屋市立大学医学部の岡田秀親教授らは免疫グロブリンM(IgM)という抗体のうち、ある特定の型が、HIVの増殖を抑制することを明らかにした。調査した長期未発症者7人全員がこの型のIgMを持っていた。
岡田教授らはIgMがCD8によるHIV攻撃を支援すると考えている。IgMを人工的に増やして感染者に投与すれば、HIVに対する免疫力が高まるのではないかと期待しており、臨床試験を計画中だ。
ウイルスの側にも長期未発症を解くカギがある。
オーストラリアで14年ほど前にHIVに感染した男性同性愛者の血液で7人ほどが感染したが、本人を含む感染者全員が発症していない事例が見つかった(うち2人はエイズと無関係のがんで死亡)。同性愛者のHIVは普通のHIVと違って「nef」という遺伝子が欠損していた。この事実とハーバード大学のグループのサルのエイズウイルスの実験から、1つの仮説が生まれた。
サルのエイズウイルスはHIVと同様、nef欠損タイプは感染しても増殖力は弱い。これを前もって投与しておけば、その後に増殖力があるタイプを投与しても発症しないことがわかり、「エイズ生ワクチンの可能性が検討され始めた」(山本教授)。増殖力が弱いHIVで免疫力を高めておき、増殖力が強いHIVを撃退する考えだ。
男性同性愛者が持つnef欠損のHIVが他からうつってきたものか、同性愛者自身が体内で作り出したのかは不明だ。もし体内で作られたものなら、その仕組みを明らかにすることで根本的な発症予防が見つかるかもしれない。社会的にも重要性
これまではHIVに感染したら、すべての人が比較的短期で発症して死亡すると思われていた。しかし、長期未発症者の存在が次第に明らかになるにつれ、「もしかしたら自分も長期見発症者のグループに入っているかもしれない」と希望を持つ感染者も出てきた。「これは社会的な意味で非常に重要なこと」と山本教授は強調する。長期未発症のメカニズム解明は今後ますます重要になりそうだ。(日本経済新聞 1996/02/17)
エイズ患者発症前に1号認定 「血友病」見送る一方
昨年まで10年生存 厚生省、薬害隠しの疑い
厚生省が1985年3月に日本での「エイズ患者第1号」と認定した男性同性愛者が、実はエイズを発症した「患者」ではなく、発症前の「感染者」に過ぎなかったことが25日、明らかになった。この男性は認定から10年以上たった昨年秋まで生存していたことが判明、当時の主治医も読売新聞社の取材に対し、「今の基準で判断すると患者ではなかった」と認めた。すでにエイズを発症していた血友病患者の認定が見送られるなど、「第1号患者」をめぐる不可解さは薬害エイズの大きな疑惑の1つとされてきたが、今回明らかになった事実は、同省による“症例隠し”を強く疑わせるものと言える。
この患者は、当時米国に在住していた30代の男性アーチスト。84年12月に一時帰国した際、都内の病院で診察を受け、自覚症状として疲労感とリンパ節の腫れなどを訴えた。血液検査をしたところ、HIV(エイズウイルス)の感染を示す「抗体陽性」の反応が出て、免疫力を示すCD4(健康な人は1000以上)の数値も350に下がっていた。
男性は入院せず、1カ月後に米国に戻ったが、主治医は翌月の85年2月、「エイズまたはプレエイズ(エイズを発症する前の段階)が疑われる症例」として厚生省エイズ調査検討委員会に報告。同委員会で検討した結果、同年3月にこの症例を日本人のエイズ患者第1号として公表した。
エイズ専門医によると、エイズウイルスに感染しても症状が現れるのは感染から数年−十数年後。最初の症状は微熱やリンパ節の腫れ、食欲減退などで、「エイズ関連症候群(ARC)」と言われる。この段階はまだ「感染者」だが、ウイルスによって体の免疫機能が低下すると、日和見感染症などエイズ特有の症状が現れる。この段階が「エイズ患者」で、発症すれば数年以内に亡くなるケースが多い。
ところが、最近になってこの男性が死亡したのは昨年秋だったことが判明した。エイズ患者が10年以上も生存することは考えにくいと、複数のエイズ専門医は指摘する。また症状面でも、当時はARCの概念はなかったものの、日和見感染症などエイズ特有の症状が1つでも発症していることが条件とされていたが、これらは見られなかった。CD4も「200以下」が目安とされており、「350」あったこの男性の場合は明らかに感染者と言える。当時の主治医も「厚生省から疑わしい症例があればと言われていたので報告した。今の基準で判断すれば患者ではなく、ARCの状態だった」と証言している。
「第1号患者」認定の1年8カ月前には、エイズが疑われた血友病患者の症例が同省エイズ研究班で検討され、米国の専門家もエイズ症例と判断したが、なぜか認定は見送られた。その後男性同性愛者を「第1号患者」とした2カ月後にようやくこの血友病患者をエイズ患者と認めている。
この不可解な経緯をめぐっては、非加熱製剤の危険性が注目されることに懸念を抱いた厚生省による、血友病患者の“症例隠し”との疑惑も指摘されていた。(読売新聞 1996/02/26)エイズ認定 すり替えられた?第1号
半年前に「薬害」確証
日本での「エイズ第1号患者」は、実は感染者に過ぎなかった──。25日明らかになった事実は、薬害エイズをめぐる<疑惑の構図>を改めて浮き彫りにするものとなった。
「感染者ということであれば、当時ほかにもたくさんいたはず。私の患者が初めてではないと思う」
85年3月に厚生省エイズ調査検討委員会から「エイズ第1号患者」と認定された男性同性愛者の当時の主治医は、こう明かす。
主治医は厚生省に「エイズまたはプレエイズ(エイズ発症の前段階)が疑われる症例」と慎重な判断を伝えていた。しかし、同省の検討委員会はなぜか、この症例を「第1号患者」に選んでしまった。
この1年8カ月前の83年7月には、同省エイズ研究班の班長だった安部英・帝京大教授(現・同大副学長)が、のちにエイズと認定される血友病患者の症例を報告したが、研究班では「診断基準に合わないところがある」として認定を見送っている。
さらに、「第1号患者」認定の半年前の84年9月には、安部氏が米国に送った血友病患者48人の血液検査の結果、23人の感染が判明した。この中には、この時点で既に死亡していた認定を見送られた血友病患者の血液も含まれ、改めてエイズ患者だったことが証明されたが、認定が明らかにされるのは「第1号」の2カ月後だった。
男性の主治医も「なぜ厚生省に、そのことが報告されなかったのか疑問。今振り返ると、日本の患者第1号はとっくにいたのだと思う」と話す。
血友病患者の“症例隠し”とも思える不可解な認定の裏に、どんな事情があったのか──。
公表された郡司篤晃・元同省生物製剤課長のファイルの中に、その事情の一端がにじみ出ている。
83年7月11日の内部資料は、加熱製剤の早期輸入の方針が急転換されたことを示す。そこでは、血友病患者にエイズ患者が発生した場合、「加熱製剤を輸入すべしとの声が感情的なレベルにまで高まる可能性がある」と懸念を表明している。非加熱製剤の継続使用の方針を固めた同省にとって、その危険性が注目されることは極めて都合が悪いことになる。
それを裏付けるように、安部氏自身が87年、医学雑誌の対談で「私の症例は診断基準を十分に満足していた。しかし、研究班も厚生省の担当者も承認しなかった」「厚生省のご意向も十分汲まなければならなかったし、大変苦慮した。どっとたくさんの患者がいると発表することになれば、厚生省に大きな迷惑をかけるのではないかと心配だった」と述べている。
もし、83年の段階で血友病患者が「第1号患者」と認められていれば、非加熱製剤継続使用の方針は変更を迫られ、その後の被害拡大は防げたに違いない。
「第1号患者」認定の不可解な経緯は国会でも追及され、同省は「プライバシー保護の観点から(第1号患者の)生死についてこれまで確認したことはない」などと答弁しているが、実は「感染者」だったことが判明したことで、薬害エイズの真相解明を求める動きはsらに強まりそうだ。(読売新聞 1996/02/26)エイズ感染せぬ米国人男性発見 英紙報道
ワクチン開発のカギ?
【ロンドン29日共同】29日付の英紙インディペンデントは、米国の科学者らがエイズウイルス(HIV)に感染しない血液を持つ49歳の米国人男性を発見、HIVに対するワクチン開発の重要なカギになるかもしれないと報じた。
この男性を見つけたのは米アーロン・ダイアモンド・エイズ研究センターのパクストン博士ら。男性はエイズ感染者と性交渉を繰り返しながら感染しなかったため、発見された。
同紙によると、HIVの標的となる「CD4」と呼ばれるリンパ球をこの男性の血液から取り出し、HIVに感染させようとしたところ、失敗。通常の感染環境ではあり得ない大量のHIVを投入した場合だけ感染したという。
これまでにもHIVには感染しながら、発病はしない人の例が報告されているが、同紙は、この男性にはもともと感染しない免疫があるようだと説明。HIVを打ち負かす何らかの物質が血液に含まれていると伝えている。
パクストン博士はこの男性のほか、感染しにくい23人も見つけ「何が彼らをエイズから守っているかが特定できれば、治療法やワクチン開発に結び付くかもしれない」と述べている。研究結果は科学誌ネイチャー・メディシン4月号に掲載される。(中日新聞 1996/03/30)エイズ発症のカギ たんぱく質の構造 米の博士らが解明
【ワシントン31日=北島重司】エイズウイルス(HIV)の中で、発症のかぎを握るとみられている特殊なたんぱく質の構造を米国立保健研究所(NIH)のポール・ウィングフィールド博士らが突き止め、米医学誌「ネイチャー・ストラクチュラル・バイオロジー」4月号に発表した。HIVに感染しながら長期間発症しない人は、このたんぱく質に変異があることが知られている。構造がわかったことで治療薬やワクチンの開発にはずみがつきそうだ。
このたんぱく質は「Nef」と呼ばれ、核磁気共鳴(NMR)分光法という技術で構造を調べたところ、分子量2万7000で、アミノ酸が複雑に折り畳まれた構造をしていた。
Nefは正常な人の免疫細胞に作用、細胞の情報伝達経路を遮断して、HIVの増殖を促す情報だけを細胞に伝える働きをすることが判明。この作用を阻止すれば、HIVに感染しても発症を防止できる可能性があり、治療薬などの開発にもつながりそうだ。(朝日新聞 1996/04/01)マイタケがエイズに効果
古来から食用きのことして知られるマイタケが、エイズに効果があるらしいと米国で注目されている。
神戸薬科大の難波宏彰教授と、米国のパデュー病院、URB病院の研究者が、エイズウイルス感染者にマイタケ500ミリグラムと、ビタミンC20ミリグラムを含む錠剤を1日6錠、60日間投与したところ、38人中16人に、CD4陽性細胞という免疫細胞の数が増え、免疫力が改善された。
臨床的にも、9人中5人に空咳やリンパ腺の腫れが消え、3人はカポジ肉腫が改善するなどエイズ特有の症状が緩和された。
難波教授によると、マイタケ中の「D−フラクション」という多糖体の一種に、免疫力を活性化する働きがあり、この成分が抗エイズ効果をもたらすようだ。エイズ治療の問題点となっている薬剤耐性や副作用も、ほとんどないという。(読売新聞 1996/04/22)エイズ長期未発症者 体内でHIV激変 米で確認
免疫系、予防のカギ?
エイズウイルス(HIV)感染後、10年近くも発症しない長期未発症者の存在がエイズの有効な治療法を開発する手掛かりになると注目されているが、長期未発症者は、すぐ発症する人に比べ、体内に潜むウイルスが遺伝子レベルでより激しく多様な変化を遂げていることが分かった。米ノースウエスタン大医学部のウォーリンスキー教授らのグループが26日付の米科学誌サイエンスに発表した。ウイルスの激しい変異は感染者の免疫系がウイルスを有効に攻撃し、これをかいくぐろうとするウイルスが、いわば「進化」する結果と考えられ、感染者の免疫系活性化が発症予防に重要なことを示す研究としても注目されそうだ。
同教授らは1984−86年に感染し、長期間の追跡が可能だった6人の男性感染者について、免疫系の一種CD4の遺伝子構造の変化の様子を詳しく調べた。調査は6カ月間隔で行われ、短い人で2年半、長い人で10年余り観察した。
この6人はCD4が(1)感染後、急激に減少(2)徐々に減少(3)長期的に横ばい、の3グループに分けられた。(1)のグループはすぐにエイズを発症したが、HIVの遺伝子構造にはあまり変化がなかった。一方、(2)と(3)のグループは、長期的なエイズ未発症者で、発症者に比べて、HIVの遺伝子構造が多様に変化する「進化」の様子がみられた。
研究グループは、「これまではHIVが激しく遺伝子構造を変えることで感染者の免疫系が混乱し発症すると考えられていたが、遺伝子構造があまり変化しなくても免疫系の能力が衰えるだけでエイズが発症することが分かった。一方で、免疫系が有効に働くことで、HIVが生き延びようとしている姿がウイルスの『進化』だ」とみている。免疫活性化が重要に
横田恭子・国立予防衛生研究所感染免疫室長の話 エイズ発症を抑えるには、ウイルスに対する免疫がかえって感染者自身を攻撃しているのではないかという立場から、免疫を抑制した方がいいとの意見もあっただけに、意外な結果で驚いている。今後は免疫系を遅らせる方法を研究することが重要になると重う。(朝日新聞 1996/04/28)
厚生省監修のエイズ症例集 外れてた“第1号患者” 班員も「極めて不自然」
『最重要』のはずだった同性愛者 編集段階で『患者じゃない』と認識?
厚生省が1988年に監修したエイズ症例集から、日本で初めてエイズと認定された男性同性愛者の症例が外れていたことが、3日までに分かった。関係者からは「最も重要な症例が外れているのはおかしい」と指摘する声も出ており、薬害エイズの大きななぞとされる「第1号患者」をめぐる疑惑は、一層深まってきた。
問題の症例集のタイトルは「日本のエイズ症例」。エイズの診療体制の向上を目的に厚生省感染症対策室が監修し、財団法人「日本公衆衛生協会」から88年1月に出版された。
同省エイズサーベイランス委員会が87年春までにエイズと認定した約40症例のうち、血友病患者17例、男性同性愛者8例(外国人1例を含む)、その他5例(同3例を含む)の計30例の症状やその経過などが記されている。
それぞれの担当医の報告書を、当時、サーベイランス委員長だった塩川優一・順天堂大名誉教授が中心となってまとめたが、85年3月に日本で初めて認定された「第1号患者」の男性同性愛者の症例が、なぜか除外されている。
この「第1号患者」はもともと順天堂大で見つかったケースで、米国から一時帰国していた男性同性愛者が85年1月に受診、担当医が「エイズまたはプレエイズ(エイズを発症する前の段階)が疑われる症例」として、サーベイランス委員会の前身である同省エイズ調査検討委員会(塩川委員長)に報告。初の患者と認定された。
最近になって、当時この患者が、エイズ診断の前提となる重症な日和見感染症(免疫力低下に伴う感染症)が見られない、エイズ特有の症状が発症する前の感染者に過ぎないことが関係者の証言で判明したが、厚生省は国会の追及などに対し、あくまで発症患者だったと主張している。
症例集に「第1号患者」が含まれていないことについて、当時の同省エイズ研究班員の1人は「なるべく多くの症例を載せようという話だった。なぜ最も重要な症例が外されたのか、極めて不自然。編集段階でエイズ患者ではないと認識したのだろうか」と首をかしげる。
一方、83年7月の段階ですでに、エイズが疑われた血友病患者の症例が同省エイズ研究班で検討されたが、塩川氏らの反対で認定は見送られた。結局、男性同性愛者を「第1号患者」とした2カ月後に、この血友病患者はエイズと認められている。
問題の症例集では、この一度は見送られた血友病の症例が最初に記載されている。
認定に関する不可解な経緯については、先月の参院厚生委員会に参考人として出席した元研究班班長の松田重三・帝京大助教授は「(血友病患者の症例が)認定されると国内の製薬メーカーが大打撃を受ける。厚生省上層部が圧力をかけたことは想像に難くない」と指摘した。
今回明らかになった“症例集外し”について、東京HIV訴訟原告弁護団事務局次長は「だれもがエイズ患者と認定できる症例ではなかったので、詳細な患者のデータを症例集に掲載することができなかったとしか思えない。血友病患者をエイズ第1号と認定することを避けて、あえて同性愛者の患者を認定した厚生省の不可解な動きがますますはっきりしてきた」と語っている。
一方、塩川氏は家人を通じて、「8日の衆院厚生委員会に参考人招致されることになっており、それまで一切ノーコメント」と話している。
また、エイズ第1号と認定された男性同性愛者の患者の主治医は「(第1号症例は)医学的に重要な症例ではなかったので症例集に入れなかった」とし、当時の厚生省担当者は「症例は委員会をつくって、日本の医師の勉強になるものを選んだ。どの症例が国内のエイズ第1号かは問題にもならなかった」としている。(読売新聞 1996/05/04)エイズ侵入のカギ発見 米博士発表 新薬開発に期待も
【ワシントン9日=北島重司】エイズウイルスが人の免疫細胞に侵入する際、扉を開くかぎになるたんぱく質「fusin」を見つけたと、米国立アレルギー感染症研究所のエドワード・バーガー博士らが10日付米科学誌「サイエンス」に発表した。発見は感染の機構解明だけでなく、細胞へのエイズウイルス侵入そのものを妨害する新たな薬やワクチン開発に手がかりを与える可能性もありそうだ。
エイズウイルスは初め、免疫細胞のリンパ球表面にあるCD4と呼ばれるたんぱく質と結合する。両者が融合してエイズ遺伝子のRNA(リボ核酸)だけが細胞内に侵入して感染することが知られている。この過程でウイルスの侵入を助ける、特別なたんぱく質が存在するとみられていたが、10年近く見つかっていなかった。
バーガー博士らは、免疫細胞の様々なRNAから対になるDNA(デオキシリボ核酸)を合成。これから作り出したたんぱく質の中からウイルス侵入のかぎを握るたんぱく質を見つけ出した。融合(fusion)に関係することからfusinと名づけた。
グループはfusinの抗体を作り、培養細胞に加えて実験したところ、エイズウイルスが全く感染しないことがわかった。エイズウイルスに同じように接触しながら感染しない人は、fusinがないか、変異を起こして機能していない可能性があると、バーガー博士は話している。
同研究所は米国立保健研究所(NIH)の一組織。所長はアンソニー・ファウチ博士で、エイズウイルス発見者の1人ロバート・ギャロ博士と並びエイズ研究の第一人者。ファウチ、ギャロ両博士とも今回の発見を評価している。東京大医学部の木村哲教授(感染制御学)の話 この発表が正しければ意義の大きい発見だ。人でもこのたんぱく質の機能を抑えるものが見つかれば、臨床面の進歩につながる。(朝日新聞 1996/05/10)
エイズ抑えるDNA 北大が合成成功 実用化へ期待
エイズウイルスの感染後の潜伏などにかかわる「nef」という特定の遺伝子の働きを抑え、エイズの発症を遅らせる新たな人工のDNA「アンチセンスDNA」の合成に北海道大のグループがこのほど成功、試験管の実験での効果も確認できた。これまでエイズウイルスのほかの遺伝子に対するアンチセンスDNAはあったが、nefでは初めてで、今後の実用化が期待されている。
開発したのは北大免疫科学研究所の生田和良教授と北大薬学部の松田彰教授ら。アンチセンスは、遺伝子がタンパクをつくるため情報を転写するのを阻害するふたのような役割をし、がん治療などにも応用されている。
エイズは感染から発症まで長期間かかるケースもあり、生田教授らは、nef遺伝子のつくるタンパクがその間のウイルスの潜伏から活性化への転換に関連することに着目。nef遺伝子の働きをアンチセンスで阻害すればエイズの発症を遅らすことができるのでは、と考えた。
合成したアンチセンスDNAを3月、エイズウイルスに感染したリンパ球の入った試験管に入れ効果をみたところ、タンパクの量が半減したのを確認できた。
日本で使われているエイズ治療薬は、感染細胞には無効で、耐性ウイルスの出現や副作用という限界もあり、アンチセンスや遺伝子治療が注目されている。生田教授は「エイズウイルスが最初に働くtat、rev、nefの遺伝子のうち、nefのつくるタンパク量が圧倒的に多く、ウイルスの増殖を抑制するtatやrevに対する合成済みのアンチセンスとは違う面での効果が期待できる」と話している。(中日新聞 1996/05/15)抗HIV作用 高い物質合成 東大研究所グループ
小さい副作用 治療薬へ応用期待
高い抗HIV(エイズウイルス)作用を持ち、毒性の低い化学物質を、糖類の一種のリボースから合成することに東京大生産技術研究所の瓜生敏之教授(化学生命工学)らのグループが初めて成功、名古屋市熱田区の名古屋国際会議場で27日始まった「第45回高分子学会」で発表した。将来、エイズ薬などへの応用が期待される。
合成に成功したのは、瓜生教授のほか、大学院博士課程の崔允聖さん、北海道大理学研究科の吉田孝助教授(高分子機能学)。
HIVの感染を防ぐなど高い抗HIV作用を持つ物質としては、天然に存在する多糖類のカードランと硫酸を反応させてつくる「カードラン硫酸」などが知られ、米国では既に臨床実験も始まっている。しかし、一般的に分子量が大きいほど抗HIV性が高い一方で、血液が固まりにくくなるなどの副作用が大きい。グループでは分子量を小さくさせながら、抗HIV作用を高める物質を人工的に合成することに挑戦した。
マイナス20度、真空などの条件下でリボースを重ね、炭素と水素から成り、細胞膜を壊す性質が分かっているアルキル鎖を加えて合成した。この物質は、カードラン硫酸と比べて分子量では10分の1程度になり、試験管内での実験の結果、抗HIV作用は同じレベルを保ったまま、血液が固まりにくくなる副作用は数分の一程度と小さいことが確認された。
グループは「アルキル鎖が抗HIV作用に果たす役割などをさらに調べ、メカニズムの解明につなげたい」としている。(中日新聞 1996/05/28)免疫細胞の減少を抑える薬剤を発見 名大が発表
HIV感染で新薬の可能性
エイズウイルス(HIV)に感染すると、免疫をつかさどる細胞が減っていくが、これにHIVの遺伝子から作られるたんぱく質が関与し、既存の薬剤の1つがこのたんぱく質の働きを抑えることを発見した、と名古屋大学医学部の藤井陽一講師(分子ウイルス学)らの研究グループが5日、発表した。
藤井講師らは、HIVに感染した細胞内で作られる「Nef」と呼ばれるたんぱく質に注目。これまでに、感染した免疫細胞の表面にもNefたんぱくが現れることを発見している。
今回、HIVそのものには感染していないが、表面にNefたんぱくが現れている細胞を遺伝子工学的に作り、人間の免疫をつかさどるリンパ球の一種、T細胞と混ぜた。12時間後にT細胞のほぼ100%が死滅した。
しかし、これにたんぱくリン酸化酵素阻害剤の塩酸ファスジルを加えておくと、12時間たっても、T細胞はほとんど死ななかった。
また、T細胞に、HIVに感染したT細胞を混ぜておくと、3日後には焼く50%のT細胞が死滅した。しかし、塩酸ファスジルを加えると3日後にも約90%のT細胞が生き残った。
T細胞の数が減少して免疫力が落ちることが、エイズ発症の原因だが、感染後、数年間は、HIVに感染したT細胞が少ないにもかかわらず、T細胞が減り続ける。藤井講師は今回の結果から、感染したT細胞の表面に現れたNefたんぱくによって、感染した細胞と感染していない細胞が結合し、「道連れ」にして死んでいくのがT細胞減少の原因とみている。
塩酸ファスジルは、この結合を妨げるとみられる。
まだ試験官内の実験だが、藤井講師は「新しいエイズ治療薬となる可能性がある」と話している。
この研究結果は、今年7月にカナダで開かれる国際エイズ会議で発表される。山本直樹・東京医科歯科大教授の話 詳しいデータを見ていないが、非常に興味深い成果だ。Nefたんぱくは長期未発症の原因とかかわっているとみられて大変注目されている。HIV感染者のT細胞が、発症前なのに減少していく現象を説明できるかもしれない。(朝日新聞 1996/06/06)
くも膜下出血の治療薬 エイズ発症抑制に期待 名大グループ解明
名古屋大学医学部の研究グループが5日、エイズ発症のバロメーターとなるTリンパ球細胞の死滅を妨げるのに、くも膜下出血の治療に使う薬が有効であることを実験で確認したと発表した。エイズウイルス(HIV)に感染した細胞表面につくられるタンパクと結合する別のタンパクを、正常なT細胞の表面上に発見したのがきっかけ。いずれも試験官内実験によるものだが、今後、エイズ発症予防につながる成果として期待される。カナダ・バンクーバーで7月開かれるエイズ国際会議で報告する。
グループは医学部付属動物実験施設(名古屋市昭和区)の藤井陽一講師(分子ウイルス学)と大竹かおり医師。藤井講師らは2年前やはり試験官レベルで、細胞がHIVに感染すると、表面に「Nef」と呼ばれるタンパクが発現することを発見。その後、世界の研究者らが動物実験などを行い、エイズ発症とNefの関係を指摘していた。
今回、T細胞表面のタンパクをクローニングと呼ばれる方法で調べたところ、Nefと結合する別のタンパク(Nefレセプター)を確認。この2種類のタンパクの結合が起こると、T細胞の一種で免疫力の大きさを示すCD4細胞が、6時間後に30%、18時間後にはほぼすべて死滅していることが分かった。
Nefはリン酸と反応しやすい性質を持つことが知られておりグループは「タンパク・リン酸化酵素阻害剤」の一種で、くも膜下出血治療の臨床薬「エリル」を混ぜてみた結果、タンパク同士の結合、T細胞の死滅ともほとんど起こらなかった。エリルがHIVの増殖を阻止する働きを持っていることも明らかになった。
藤井講師らは「現在は試験官内の実験結果だが、エイズに感染しても、長期間にわたり発症させない薬の開発などにつながる可能性のある成果」としている。実験段階なお研究を
小野克彦・元愛知県ガンセンターウイルス部室長の話 阻害剤の一種が健康なT細胞の死滅を防ぎ、かつHIVの増殖を阻止するというのは大変興味深い結果だ。ただ、これはあくまでも試験官内での実験であり、人間の生体内について、すべてを説明できるわけではない。今後、細胞の情報伝達系のどこに作用しているのかなどを明らかにすることが必要だろう。(中日新聞 1996/06/06)
エイズウイルス、米で300人に1人感染──米政府機関の研究者推定
【シカゴ6日=AP】13歳以上の米国人の300人に1人がエイズに感染していると推定されることが、米保健省の疾病対策センター(CDC)のジョン・カロン博士らの調査で6日までに明らかになった。調査結果はカナダのバンクーバーで開かれるエイズ国際会議を前に発表されたほか、米医学雑誌の最新号にも掲載された。
博士によると、1992年時点での米国内のエイズウイルス感染者数は推定65万−90万人で、84年の40万−45万人に比べ、大きく増えた。このうち半数は同性愛の男性で、約25%は麻薬使用者の注射による感染だった。
また、以前に比べ、異性間接触による感染が急増、86年の3倍以上に達し、全体の15%を占めた。
感染者の性別では、男性が圧倒的に多く、92年時点で男性は160人に1人が感染しているが、女性は1000人に1人。だが、ここ数年、女性の感染が広がる傾向にあり、92年は84年の3倍以上に増えた。
カロン博士は「感染者の4分の3近くがまだエイズと診断されておらず、このことは医学や公衆衛生上の重要な問題になってきている」と指摘している。(日本経済新聞 1996/07/08)エイズ第1号の同性愛者 昨年死亡、主治医認める
10年生存 「誤認定」疑い濃厚 衆院委参考人質疑
薬害エイズ問題に関する衆院厚生委員会の参考人招致が12日午前行われ、1985年3月にエイズ第1号患者とされた男性同性愛者の主治医だった松本孝夫・順天堂大助教授(47)と、当時厚生省のエイズ対策の責任者の1人だった野崎貞彦・元保健情報課長(60)(現・日大教授)の2人が出席した。この中で松本助教授は、第1号患者が昨年死亡していたことを公式の場で初めて認めた。エイズを発症した患者が10年間も生きることは考えにくく、エイズ発症前の感染者を「エイズ患者」と認定していた疑いが一層強まってきた。
第1号患者をめぐっては、83年に設置された厚生省エイズ研究班が血友病のエイズ患者の症例について認定を見送り、85年3月になって米国在住の日本人男性同性愛者を第1号として認定。血友病患者のエイズ症例を意図的に隠したのではないかとの疑惑が指摘されていた。
松本氏は、第1号患者の症状について「医学的にはエイズ抗体陽性だったうえ、エイズ関連の疾患を発病していた」と述べた。しかし、当時の診断の手引で複数回行う必要があるとされていたリンパ球検査を1回しか行っていなかったことを認めた上で、「当時エイズ患者の認定は厚生省やエイズ調査検討委員会の責任で、私は情報を提供しただけ」として、認定に関する責任はないことを強調した。
この患者について、今年5月の衆院の参考人招致で、塩川優一・順天堂大名誉教授が、エイズの特有の症状の1つである「消耗性症候群」に該当するとの見解を示していたが、松本氏は「消耗性症候群と思っていない」と述べ、判断の食い違いが鮮明になった。
また、松本氏によると、感染の懸念を抱いたこの患者が一時帰国中に順天堂大を訪れたと説明したが、患者は診察後すぐに米国に戻っており、肝心の感染告知は米国にいる患者に電話で行うという異例のものだったことも明らかにした。
さらに、この患者について「昨年亡くなったとの情報を得ている」と述べた。
一方、野崎氏は84年11月、京都大で開かれた厚生省の「輸血後感染症研究班」の会議で栗村敬・鳥取大教授(当時)が国内の血友病患者22人中4人が「抗体陽性」となった報告について、部下から報告を受けたとしたうえで、「(患者たちが)エイズウイルスに感染していると認識していた」と認めた。
しかし、この検査結果を公表しなかったのは、「検査方法が未完成だったため」と説明した。検査法が完成したのは翌12月とし、85年3月に、栗村教授らから正式報告を受け、血友病患者163人中47人が「抗体陽性」である検査結果をエイズ調査検討委員会に報告するとともに、公表したと述べた。(読売新聞 1996/07/12)サーベイランス委、患者1号など再判定へ 85年当時の基準で
厚生省エイズサーベイランス委員会は23日、国内のエイズ患者第1号認定に絡む疑惑を解明するため、当時の認定作業を見直すことを決めた。薬害エイズの国会審議で、血友病患者の症例を意図的に隠すために男性同性愛者が第1号に仕立て上げられたとの疑いが出てきたため。今後、早急に関係資料を収集、当時の判断基準に従って再判定する。
見直しの対象になる第1号症例は米国から一時帰国して85年1月に順天堂大学病院で診察を受けた男性同性愛患者。ただ、残された資料からこの症例だけを検討しても「結論を出すのは難しい」(山崎委員長)ため、認定作業を担当した同省エイズ調査検討委員会が取り上げた複数の症例や論文など全体を再評価。第1号の認定作業が適正だったかどうかを、当時の診断基準に照らして調べる。
一方、同委員会に今年の5、6月に全国の医療機関などから新たに報告があったエイズ患者とエイズウイルス(HIV)感染者の合計(血液製剤による患者、感染者は除く)は92人に上った。新たに委員会に報告された92人は前回報告(3、4月分)に比べ20人減少。内訳は日本人57人、外国人35人。日本人のうち47人が国内での感染で、国内での性的接触が主な感染経路になる傾向が依然として続いている。(日本経済新聞 1996/07/24)エイズ感染防ぐ遺伝子変異「白人の1%が持つ」
米大グループ、突き止める
【ボストン8日=AP】白人の100人に1人が、エイズの感染を防ぐ遺伝子変異を持っていることを、米ペンシルベニア大のロバート・ドームズ博士、アーロン・ダイヤモンド・エイズ研究センターのネーサン・ランダウ博士らのグループが突き止めた。エイズ感染を防ぐ遺伝子変異の発見は初めてで、エイズ予防薬の開発に道を開く可能性が出てきた。英科学誌ネイチャー8月22日号に掲載される。
同グループによると、この変異を持っているのは白人だけで、黒人や日本人からは見つかっていない。
エイズウイルス(HIV)は人間に感染する際、白血球の表面のある種のたんぱく質を標的にする。変異が見つかったのはこのうちの1つ、CKR5と呼ばれるたんぱく質を作る遺伝子。遺伝子の一部に変異があるため、正常にCKR5を作れず、HIVの標的にならないことが分かった。変異を持つ人は、エイズ感染に対する抵抗性が極めて高い、という。
ドームズ博士らは、感染の機会が多いにもかかわらずエイズにかかっていない2人の同性愛の男性を検査して、この変異を見つけた。
近い将来、簡単な血液検査で変異があるかどうか分かるようになる、としている。(日本経済新聞 1996/08/09)南アの茶と松の実 エイズに効いた!!
猫で実験 ウイルスの増殖抑制 愛知医大の研究グループ発表
南アフリカ原産の茶「ルイボスティー」と松の実の成分が、猫のエイズを抑える効果を持つことを、愛知医科大加齢医科学研究所(愛知県長久手町)の中野昌俊講師(生物化学)らのグループが突き止めた。このほど東京で開かれた研究会「天然物の薬理とエイズ研究」で発表した。
この成分は、ルイボスティー、松の実からそれぞれ抽出した酸性多糖類。中野講師らは同成分が無毒で、これまで行った試験官内実験では人のエイズウイルスの増殖を抑えることを確認。さらに動物実験で効果を確認するため昨年以来、猫による実験に取り組んできた。
エイズウイルスに感染した生後6年、体重4キロから6キロの猫に週1回、この酸性多糖類を2ミリグラム含んだルイボスティーを筋肉注射。半年後、5匹中3匹は死亡したが、2匹は口内炎などの症状がみられなくなり、体重も増えた。
松の実についても、粉末にしてえさに混ぜ与え続けたところ、4匹中3匹の症状が改善。1日おきに筋肉注射したケースでも、3匹中2匹に効果があった。
ルイボスティー、松の実とも、与えなかった猫はすべて半年後までに死亡したという。
中野講師は「実験した猫の数もまだ少なく、予備実験の段階。今後は酸性多糖類の構造、エイズへの感染程度と抑制の関係について詳しく調べたい」と話している。統計的に調べる必要
山本直樹・東京医科歯科大学教授(微生物学)の話 本格的実験に向けての1つの前進と思う。まず、実験の数を増やして統計的にさらに精密に調べ、血液中のウイルスが減ったかどうか、口からの投与で効果があるか、などについて詳しい検討が必要だろう。(中日新聞 1996/08/10)
「エイズ1号認定妥当」 厚生省委見解
85年の同性愛者、順天堂大症例
日本のエイズ患者第1号認定をめぐる問題で、厚生省エイズサーベイランス委員会(山崎修道委員長)は24日、同委の前身であるエイズ調査検討委員会が85年3月に順天堂大の同性愛者を1号患者としたのは「当時の判断としては妥当」との見解をまとめ、発表した。順天堂大症例をめぐっては、血友病のエイズ患者発生を隠すための“でっちあげ”ではないかとの疑惑が出ていたが、それを否定した形となった。
この問題をめぐっては、順天堂大症例認定後の85年5月に認定された帝京大の血友病患者の症例(帝京大症例)について、「認定遅れ」を疑問視する見方が出ている。
この日のサーベイランス委は、調査検討委が85年2、3、5月に検討した7症例について、当時の診断基準にのっとり、再検討した。その結果、順天堂大症例と帝京大症例を含む3例について、「当時『エイズである疑いが極めて濃い』と判断されたことは、妥当」との結論に達したという。
山崎委員長は順天堂大、帝京大の両症例について、「発症は帝京大のほうが古いが、エイズ調査検討委に報告され、検討された順序では、順天堂大症例のほうが2カ月早い」と指摘。「報告された順で認定するのが世界的なやり方。帝京大から報告されていれば、帝京大症例が1号になった」として、当時、順天堂大症例が1号となったのはやむを得ないとの考えを示した。
ただ、帝京大症例をめぐっては、認定の約2年前の83年、厚生省のエイズ研究班が認定を見送った経緯がある。しかし、サーベイランス委員会ではエイズ研究班の見送りの是非については検討を加えず、血友病患者隠しの有無については、なお疑問を残した。
同省エイズ結核感染症課の岩尾総一郎課長は、エイズ研究班の帝京大症例未認定について検討しなかった理由について「(今回の再検討は)順天堂大症例を見直せという国会での指摘を受けて調査したこと」として帝京大症例見直しの指示がなかったためだとした。(日本経済新聞 1996/09/25)HIVに強い遺伝子、米グループが発見 突然変異で抵抗力
HIV(エイズウイルス)が体内に入っても発症しない人がいるが、米国の研究グループはこうした人の多くが、CKR5という特定のたんぱく質の遺伝子に突然変異を起こしていることを突き止めた。CKR5はエイズウイルスが免疫細胞であるマクロファージに侵入するのを助ける働きをしており、同たんぱくの働きを抑えられれば、エイズの予防や治療につながる可能性があるという。
米国立がん研究所、アラバマ大学、ジョンズ・ホプキンス大学などの研究グループが血友病患者、同性愛者、麻薬中毒患者1955人を対象に実施した大規模調査で分かった。
人間には同じ情報を持つ遺伝子が2本ずつあるが、調査によるとCKR5たんぱく質の遺伝子については(1)2本とも突然変異を起こしている(2)1本だけ突然変異を起こしている(3)2本とも正常──の順でエイズウイルスに対する抵抗力が強いことが判明した。
具体的には、突然変異の遺伝子を2本持っている17人はいずれもエイズウイルスに感染していなかった。遺伝子1本に突然変異が起きている195人は感染後10年以上たっても大半が生存していた。半面、1343人のエイズ感染者の中には突然変異遺伝子を2本持つ人はいなかった。CKR5の遺伝子に突然変異があるとエイズウイルスが免疫細胞に侵入できず、免疫機能が低下しないとみられている。
同遺伝子は第3染色体にあり、突然変異のものは32個の塩基対が欠落している。突然変異遺伝子は調査した白人の約10%に見られたがアフリカ系黒人では2%以下と少なかった。(日本経済新聞 1996/09/30)ワシントン──エイズ撲滅キルト展示、災禍に比例し規模拡大
秋晴れのワシントン。白くそびえる国会議事堂の前から西へ延びる緑地帯が、色とりどりのキルトで埋めつくされた。その数は4万点以上。絵画のパレット、音譜や楽器、似顔絵など、工夫を凝らした意匠が縫い込まれて、目に鮮やかだ。だが、これらのキルトはどれも重い意味を持つ。すべてがエイズの犠牲になった人々の遺族や友人による作品だからだ。
「エイズ・メモリアル・キルト」は1987年に90人のボランティアが始めたエイズ撲滅のためのイベントだ。今年は10月11−13日の3日間、開催された。キルトにはエイズで死亡した人々の名前と生存期間が記されている。心尽くしのデザインには故人への思い出が込められているのだろう。色彩の豊かさとは裏腹に、付近の雰囲気は厳粛な感じすらする。
主催者のマイケル・ベルグ氏によれば、このイベントは、「エイズという地球規模の悲劇を訴える象徴的な活動」だ。だからエイズ対策の研究開発の中心となる政府や企業だけでなく、1人1人に協力を求める。個人の寄付活動やボランティアが社会に根付く米国らしい試みだ。12日のチャリティーコンサートにはジョン・ボン・ジョビやチャカ・カーンといった人気アーティストも顔をそろえた。「教育の一環」として招待された子どもたちも5万人に達したという。
過去15年間にエイズで死亡した米国人は34万3000人に上る。87年には1920点しか集まらなかったキルトが、10年足らずで20倍以上に増えた。災禍が広がるほどに、イベントの規模が拡大、世間の注目を集めるというのは何とも皮肉な話だ。ベルグ氏は「多くの人々が死に、多くの人々の生命が危険にさらされている。いったいあといくつの名前がキルトに記されなければならないのか」と嘆く。
規模の拡大とともに政治との縁も浅からぬものになった。クリントン米大統領はエイズの治療や撲滅への協力をあらためて約束するメッセージを寄せた。期間中にホワイトハウス前での抗議集会などもあったが、「選択の自由」を打ち出す民主党政権と反エイズ活動を支援する同性愛者のグループなどとの関係は基本的に悪くない。チャリティーコンサートでは司会者が、11月5日の大統領・議会選挙を意識して共和党をからかう場面もあった。
しかし、たとえ政治色を帯びてきたからといっても、このイベントを単なる「政治ショー」と片付けてしまうことはできない。
あるキルトの前で女性が泣いていた。彼女と同じ年で亡くなった女性を悼む作品だ。その隣には2歳でこの世を去った故人の娘のためのキルトが並べてある。母子感染だったのだろうか。涙を流していた女性は妊娠中だった。おそらく自分の境遇と重ね合わせて感極まったのだろう。
日が傾きかけるころ、作品を畳み片付ける作業には関係者だけでなく、見学に訪れた多くの人たちが手を貸していた。(村松雅章)(日本経済新聞 1996/10/19)エイズ発症の仕組みを解明 新治療薬開発に期待
徳島大と名大グループ
人間のリンパ球に感染するエイズウイルスがつくるタンパク質「Nef」が、正常なリンパ球にも結合し「細胞の自殺(アポトーシス)」を起こさせてエイズを発症させる詳しい仕組みを、徳島大学医学部の足立昭夫教授と名古屋大学医学部の藤井陽一郎講師らのグループが初めて解明した。英国のウイルス学専門誌「ジャーナル・オブ・ジェネラル・ビロロジー」最新号などに掲載される。
足立教授らは、リンパ球表面の特定の「受容体」にNefが統合することを解明。リンパ球へのNefの統合・細胞死の過程を食い止めれば、感染しても発症を妨げる可能性があり、新しい治療薬の開発につながる研究と期待されている。
昨年、長期間症状が現れない感染者のウイルスにNefをつくる遺伝子がないことが分かり、人間の免疫機能が低下してエイズを発症する機構のかぎを握る物質と注目されていた。
足立教授らは、発症者ではウイルスが感染したリンパ球が少なくてもリンパ球の全体数が減り、免疫機能が落ちることに着目。Nefが単独でリンパ球に結合、細胞死を起こさせると推定した。
遺伝子操作でNefをなくしたウイルスや、Nefそのものの機能の一部を変え、リンパ球細胞に作用させる実験を繰り返した。すると、いずれも細胞に変化はなく、逆に通常のNefで細胞死が起きることが確認された。
また感染者32人の検査で、全員の血液にNefの抗原があり、Nefタンパク質が感染リンパ球の外部に出て正常なリンパ球に統合していることを裏付けたのに対し、非感染者28人の検査では抗原はほとんどなかった。
足立教授は「Nefが発症原因のすべてであるとは断定できないが、細胞死の直接の引き金となっていることが証明された」と話している。生体内での研究焦点
吉川泰弘・国立予防衛生研究所霊長類センター長の話 Nefをなくしたウイルスの病原性が弱まるメカニズムの解明は、世界中の研究者が追っていたテーマで、画期的な成果だ。サルのエイズでは、Nefをつぶして弱毒化したエイズウイルスが、生ワクチンの最も有力な候補となっている。実験で明らかになったNefの働きが、生体中でも当てはまるかどうかが、研究の焦点となる。
Nef エイズウイルス(HIV)がつくるタンパク質の1つで、サルのエイズウイルスの分離、増殖中に偶然発見された。HIVの増殖に関与すると考えられたが、オーストラリアの研究者が昨年、感染後、10年以上も症状が出ない長期間未発症者4人のウイルスはNefの遺伝子が欠けていることを報告。今年4月には米国立衛生研究所アミノ酸が複雑に折り畳まれたNefの構造を解明、人間の免疫細胞の中の情報伝達に作用するエイズ発病のかぎを握る物質と注目された。(中日新聞 1996/11/20)
エイズ、薬の組み合わせ療法で効果
ウイルス量減少 延命や発症防止へ
エイズの薬物療法が、この1年で急速に進んだ。数年前までは「AZT」1種だけだった薬品が、現在は米国で認可されたものだけで9種になった。ウイルスに対する作用の異なる薬を組み合わせることで、延命や感染者の発症阻止に大きな効果を上げている。日本でも米国の後を追い、「組み合わせ療法」の治療が行われている。
「エイズは不治の病ではなくなった。治療可能な慢性感染症といえる」と、米国立がん研究所の満屋裕明医師は自信を持って言う。組み合わせ療法によってウイルスの量を一定以内に抑えられるという希望が生まれたからだ。これによってリンパ球の数を安定させて、病気の進行を遅らせることができる。
エイズウイルスの増殖を抑える薬剤には、大きく分けて2つある。1つは、逆転写酵素阻害剤。ウイルスの遺伝情報を担うRNA(リボ核酸)が細胞のDNAに入り込み(逆転写)、ウイルスを複製するのを妨げる。日本でも認可されているAZT、ddI、ddCなどがこれにあたる。
もう1つはプロテアーゼ阻害剤。細胞の中で作られたタンパク質から新たなエイズウイルスが作られて増殖するときに必要な酵素プロテアーゼの働きを止める。
米国で約2500人の未発症者を対象とした大規模な臨床試験を行ったところ、AZT単独より、ddIやddCと組み合わせた方が、延命、発症防止、リンパ球増加のすべての点で勝っていることが分かった。また米薬品大手のメルク社のデータによれば、AZT、ddIと、プロテアーゼ阻害剤「インディナビル」を組み合わせて24週投与した結果、ウイルス数が約1000分の1になった。
日本国内では、4番目の逆転写酵素阻害剤「3TC 」の治験がAZTと併用で行われている。16週経過時点で、ウイルス量が10分の1から100分の1くらいに減少する効果が出ており、近く承認される見込みだ。
エイズウイルスは、遺伝子を突然変異させて、薬剤への耐性を身に付ける。だが、ときに愚かに見える振る舞いもする。木村哲東大医学部教授は「いったんAZT耐性のできたウイルスが、ddI耐性を身に付けようと起こした変異によって、再びAZTが効くようになる現象も見つかっている」と言う。また、1つの薬剤に頼る比率が減れば、副作用の軽減につながる可能性もある。
木村教授は「長いトンネルだったが、ようやく光が見えてきた。AZTと3TC、インディナビルの組み合わせが最も信頼できるのではないか」としている。
日本でもインディナビルなどプロテアーゼ阻害剤の治験が始まり、医療現場で本格的に使われる日も近そうだ。(中日新聞 1996/12/17)猫エイズにユーカリ有効
エイズ特効薬の開発は、獣医学でも重要な研究課題となっている。
この紙面の「診察室」コーナーにも随時執筆している、日本獣医畜産大助教授、石田卓夫さんは、同大学のグループとともに、猫エイズの薬の研究を行ってきたが、このほど、ユーカリから抽出した精油が猫エイズに効果のあることを突き止めた。現在、全国で臨床試験を進めている。
ユーカリはコアラの食べ物として知られているが、その精油成分を他の精油と混合してテープに染み込ませ、エイズに感染した猫の首に巻くと、低下した免疫機能を上げる効果があるという。
ただし、この発見の有効性が確認され、製品化されるにしても、今後かなりの時間がかかるという。
「最近、ユーカリのオイルを猫エイズに効くといって販売する悪質業者も出てきているので、気をつけてほしい」と、石田さんは注意を呼び掛けている。(中日新聞 1997/01/29)エイズ 尊厳ある死を迎える ロンドン ライトハウスの場合
「ゲスト」の悩み、痛み解く 7割がボランティア 24時間ケア体制
ロンドン市街地にある「ライトハウス」。エイズ患者やエイズウイルス(HIV)感染者の体と心を日常的に支援し、末期患者は「尊厳ある死」を迎えられるようにする施設だ。スタッフの7割はボランティア。満10年を迎えたこの“家”は、不思議な静けさに包まれていた。(団野誠)小さな部屋の真ん中にコップがひとつ。中でろうそくが1本、ゆらゆら燃えている。壁際には大きなノートが開いてあり、若い男性の写真の周りに寄せ書きがあった。
「だれかがエイズで亡くなったら、このろうそくを24時間ともし、家族や友人が思い出をつづります。ここは“静寂の部屋”と呼んでいます」
レンガ張り、3階建てのライトハウスの一室。案内役のジョン・シモンズさんは支援・広報担当で、ボランティアとしてここで活動して5年になるという。
主な活動のひとつは「デイケア」だ。自宅治療の患者が1日に10人、滞在できる。患者は午前10時ごろ来て、お茶を飲んだり、マッサージを受けたり、絵を描いたりして過ごし、午後4時ごろ帰宅する。送り迎えもボランティアがする。
患者は一度に23人泊まることができる。家庭で看護に当たっている人に休暇をとってもらう時や、病院から家庭へ戻るまでの数週間を過ごす。24時間介護の体制だが、患者は「ゲスト」と呼ばれ、看護婦は名札をつけているだけ。寝起きの時間にも決まりはなく、1階の一般食堂へも行ける。
宿泊施設のうち3床はホスピスとして使われている。「末期患者が尊厳を持ち、肉体的にも精神的にもなるべく楽な状態で死ねるように」とシモンズさん。痛み止めを与え、家族や友人が最後まで患者のそばにいられるようにする。
エイズ患者が普通の病院で亡くなると遺体はすぐバッグに入れられ、遺族は遺体と対面できないことが多い。ライトハウスでは、家族は遺体と最後の別れもできる。患者の生前の意向に沿った葬儀も開けるよう、どんな宗教にも適応できるホールも備えている。
こうした宿泊施設の利用者は年約3000人に達する。
感染者やその家族、友人の相談に乗ったり、助言するのも大事な活動だ。1階の食堂や談話室はだれでも利用できて、週に約1500人が訪れる。
「HIVへの懸念や恐れ、無知を取り除くには、こういうオープンな形が必要です。自分が感染者と知られたくない人も、だれでも入れる施設なら気軽に訪ねやすいから」
スタッフは480人。うち7割の350人が無給のボランティアだ。20歳の若者から80歳まで。定年退職者、仕事がない人、仕事があって夜だけくる人、同性愛者、アフリカや西インド系の人−。
こうしたスタッフも、目の前の人が日々、死に近づいていく現実に直面すると、精神的にまいりやすい。このため、定期的に専門家に会い、心の内を打ち明けている。「悩みや痛みを持ち帰らず、みんなで共有し、個々の心の負担を軽くしている」
ライトハウスは1986年、学校だった建物を5人の市民が買って改造してスタートした。年間約11億円の運営費のうち8割は保険当局が出し、残りは寄付でまかなっている。
満10年がたった今、30億円を目標に新たに寄付を募っている。患者の宿泊やデイケア部門を増築し、HIV感染の子どもも受け入れるためだ。シモンズさんは最後にこう語った。
「近所の人は最初、病気がうつるのではと恐れた。この10年で意義が理解され、ダイアナ妃やエルトン・ジョンらが訪ねてくるようになってからは、偏見はなくなった。しかし、エイズに無知な人はなお多く、ロンドン以外はこんな施設はまだないのです」(中日新聞 1997/02/02)エイズ研究で孤児に人体実験? 故意に感染
チャウシェスク政権下ルーマニア
【ウィーン20日時事】ルーマニアでは孤児にエイズ患者が多いことが知られているが、同国の地元紙は20日、1989年に崩壊したチャウシェスク独裁政権時代に、実験目的で孤児がエイズウイルスに故意に感染させられたと報じた。
ブカレストからの報道によると、エベニメントゥル・ジレイ紙は、複数の医師の話として、チャウシェスク政権下の87年と88年、エイズ研究を目的として、当局からの指示で孤児がエイズウイルスに感染させられたと伝えた。多くの免疫学者がこの人体実験に関与していたという。
世界保健機関(WHO)によれば、ルーマニア人のエイズウイルス感染者のうち、85%が子供だという。(中日新聞 1997/02/21)HIVほとんど“完封” 強力な新薬きっちり服用
NBA“マジック”・ジョンソン
エイズウイルス(HIV)感染を公表していた元プロバスケットボール協会(NBA)のスター選手、アービン・“マジック”・ジョンソンは、強い薬の服用によって、体内の病原体のレベルが「検知されない程度」にまで下がっているという。4月4日、ジョンソンの専門医デビッド・ホー、マイケル・メルマン両博士が述べたもので、「アービンの経過は順調そのもの」と発表している。
ジョンソンが服用しているのはプロアテーゼ(タンパク質分解酵素)阻害剤と呼ばれる薬。昨年、米食品医薬品局(FDA)に認可されたこの薬によって、すでに数千人のエイズ患者の感染度の低下が確認されている。
しかし、検知できないレベルでも感染可能で、たとえウイルスが血や精液内に発見できなくても腸などに生存できるという。安易な楽観論を警戒してか、両博士も「検知できないことは(ウイルスの)不在を意味しない」とくぎを刺しているが、それでも、この薬剤がウイルス抑制に効果があるのは確かなようだ。
阻害剤は少なくとも他の2種類の薬剤とともに摂取するのが絶対条件。この薬剤“カクテル”摂取の時間が決められ、厳守する必要がある。食事1時間前とか食後2時間、空腹時など事細かに決められている。めまい、吐き気、頭痛、背中の痛み、胃腸の不調などの副作用もある。しかも薬は高価で、年間1万5000ドル(約190万円)ほどかかるという。
しかし、コーネル医療センターのジェフリー・ローレンス博士によると、HIV感染が判明した後2、3カ月以内にプロアテーゼ阻害剤を服用した患者の9割近くは、ウイルスのレベルがほぼジョンソンの状態まで下がっている。
1979年から92年までロサンゼルス・レーカーズでプレーしたジョンソンは91年11月にHIV感染を告白。昨年引退したが、37歳になる現在でも厳しい練習を続けており、主に欧州でエキシビジョン試合に出場したりしている。
「アービンは厳しい薬剤服用を日課としており、それが彼の健康に反映されている」と、ホー、メルマン両博士は述べている。(AP)(中日新聞 1997/04/21)献血血液でHIV感染 京都の日赤採血
昨年輸血 潜伏期間 検査すり抜け
京都府内で昨年12月に献血で採取され、同府赤十字血液センターを通じ府内の医療機関に提供された血液(全血)がエイズウイルス(HIV)に汚染され、この血液を輸血された患者がHIVに感染したことが23日、明らかになった。輸血を通じHIV感染が確認されたのは国内では初めて。HIVに感染しても6−8週間のウインドーピリオド(空白期間)と呼ぶ抗体ができない期間があり、この期間に献血したため発見できず、汚染血が紛れこんだとみられる。
厚生省や日赤によると、この献血者はことし2月に献血した際の抗体検査の結果、HIVに感染していることが分かった。昨年12月にも献血したことがあり、京都日赤に保存されている検体(献血の一部)をHIV遺伝子を検出するPCR(合成酵素連鎖反応)法で検査したところ、感染が確認された。
このため、京都日赤は採取した血液の行方を追跡したが、すでに患者1人に輸血され、この患者もHIVに感染していることが確認された。患者には事実関係を伝えた。
採取された血液は、多数の患者に輸血される成分輸血用ではなく、全血輸血用のため他の患者には輸血されていないという。
献血後の血液のHIV感染の有無を調べるスクリーニング検査は1986(昭和61)年11月から全国で始まった。15万分の1の確率でHIV感染が見つかり、これらの血液は排除されているが、ウインドーピリオドがある限り、感染した血液を完全に事前に見つけることはできず、今回のような事態は以前から指摘されていた。昨年5月にも都内の医療機関で輸血を通じHIVに感染した疑いのある患者の例が明るみに出たが、最終的にははっきりしなかった。
厚生省や日赤は、検査目的の人や「不特定多数と性的関係を持つなど身に覚えのある人」は絶対に献血しないよう重ねて求めている。
厚生省は、ウインドーピリオドが現在よりも10日ほど短縮できるPCR法によるスクリーニング検査の導入を検討している。(中日新聞 1997/05/24)口内出血でエイズ感染 米疾病対策センターが警告
激しいキスやめたほうがいいかも…
【ワシントン10日共同】米疾病対策センター(CDC)は10日、エイズに感染している男性と激しいキスをした女性が、キスが原因でエイズに感染した例が確認された、と発表した。
キスによるエイズ感染確認は初めてとみられるが、CDC当局者は「だ液ではなく、男性の口内の出血が原因で、通常のキスでは感染しないので、必要以上に心配しないでほしい」と強調している。
CDCは男女の国籍や年齢などは明らかにしていないが、米国在住のこの男性は既にエイズの症状が出始めており、口内にはれがあり、歯茎から出血していたという。
CDCがこの男女から事情を聴いたところ、性交時にはコンドームをしており、女性は歯を磨いた直後のこの男性と激しいキスをした際に血液を通じて感染したことがはっきりした。
米国では95年10月にエイズ感染者の女性にかまれた92歳の男性が感染した例が報告されているが、この場合も女性の歯茎から出血していたことが原因だった。
CDC当局者は「激しいキスは出血を伴うこともあり、相手が感染者の場合は注意が必要だ。しかしエイズがだ液では感染しないという点ではこれまでと変わりはない」と話している。(中日新聞 1997/07/11)Kemron Trial Stopped
In June the National Institutes of Health ended a study of low-dose oral alpha interferon, also known as Kemron. The low-dose oral formulation of the cytokineムwhich some, especially within African American communities, have promoted as a treatment for AIDSムhad not been shown effective in previous clinical trials. The current study was terminated due to lack of participants and a high drop-out rate, as well as a changing treat-ment environment due to the advent of protease inhibitor drugs. Intravenous alpha interferon is used to treat hepatitis B and re-mains under study as an immunomodulatory treatment for AIDS. (BETA 1997/09)エイズに強い遺伝子発見 治療薬研究に道 日本人にはない?
エイズの研究が進むにつれ、研究者たちは奇妙な事実に気づき始めた。エイズウイルスに感染する危険性が極めて高いにもかかわらず感染しない人や、感染してもなかなか発病しない人がいるのだ。最近、こうした人たちは「エイズ耐性遺伝子」とでも言うべき特殊な遺伝子の持ち主であることがわかってきた。この遺伝子をエイズの予防や治療に役立てようと研究が進んでいる。
米国立がん研究所のスティーブン・オブライエン博士らは、エイズに感染する危険性の高い人々を10年以上にわたって追跡調査した。男性同性愛者や、同じ注射器で薬物の回し打ちをする人たちそれぞれ数百人から血液サンプルをもらい、その人たちがその後に感染・発病するかどうかを定期的に調べていったところ、驚くべき結果が出た。
エイズにかかりにくい人は、「CCR5」という遺伝子が普通の人とは違っていたのだ。人間は母親と父親から1セットずつ遺伝子をもらう。CCR5遺伝子もだれもが1つの細胞に2つずつ持っているのだが、一方の遺伝子が一部欠けた部分のある「変異型」の人は、ウイルスに感染していても発病までにかかる期間が普通の感染者に比べ3年以上長いことがわかった。
また両親からもらった遺伝子が2つとも変異型の人は、感染の危険が大きいライフスタイルにもかかわらず、だれ1人として感染していなかった。これは明らかに偶然ではない。「一部が欠損したCCR5の変異遺伝子こそがエイズ耐性遺伝子なのだ」とオブライエン博士は日経サイエンス11月号の論文中で説明している。
エイズウイルスが細胞に感染するとき、細胞表面にあるたんぱく質を足掛かりにして侵入する。CCR5はその足掛かりたんぱく質の1つを作る遺伝子であることが別のグループの研究で分かった。足掛かり役では「CD4」と呼ばれるたんぱく質の存在が以前から知られていたが、これに加えてCCR5も必要らしい。2つそろわなくてはウイルスは侵入できないようなのだ。
変異型遺伝子の持ち主はこの第2のたんぱく質がまったくできないか、できにくいため、感染しなかったり、感染してもウイルスがなかなか増えていかないと推測される。
この発見を予防や治療につなげる研究がスタートしている。例えばCCR5たんぱく質にふたをしてウイルスの結合を妨げる薬。変異型しか持っていない人も健康体であることから、どうやらこのたんぱく質が機能しなくても体に大きな支障は生じないらしい。うまくいけば、感染を予防でき副作用がほとんどない薬ができるかもしれない。
実はこの変異型遺伝子を持つ人はコーカサス系の人々(ヨーロッパ人と西アジア人)で約1%いるが、アフリカ人と東アジア人では見つかっていない。日本人にとっては残念な事実だが、がっかりするのは早い。というのも、耐性遺伝子はCCR5の変異型だけではなさそうだからだ。
薬害エイズ事件の中で「汚染された血液製剤が出回った量の割には感染者が少ないことが、専門家の間で不思議がられていた」と熊本大学エイズ学研究センターの滝口雅文教授は話す。
それが何かはまだわかっていないが、日本人の中には何か別なエイズ抑制因子を持つ人がいる可能性がある。「例えばエイズウイルスに対し特別に有効な免疫分子を持ち、免疫力に違いがあるのかも知れない」と滝口教授は推測する。耐性遺伝子の存在が明らかになったことを契機に新しい角度からの治療薬の研究の口火が切られた。(詫摩雅子)(日本経済新聞 1997/09/28)エイズを抑制『カクテル療法』が効果
稲田頼太郎氏(米セント・ルークス病院)に聞く
アジアではエイズ患者の増加が深刻な問題になっているが、米国では昨年、発生以来初めて死亡者数が減少した。感染防止が進んだ結果で、1993年から新規感染者が減少していた。さらに、昨年から発症を抑制する「カクテル療法」が効果を上げている。来月1日のエイズデーを前に、ニューヨークのセント・ルークス病院で長年、研究に携わっている稲田頼太郎リウマチ学研究部長に話を聞いた。(ニューヨーク在住フリージャーナリスト、武藤芳治)──カクテル療法とは何ですか。
「エイズウイルス(HIV)はリンパ球の中のヘルパーTリンパ球に入って増殖する。そこで、図(※江原注:割愛)のような4つの治療法が考えられている。カクテル療法とは、薬を併用する、つまりカクテルにして使うということだ。ウイルスが体に入っていても増えないので、発症しないですむ」──4つの攻撃ポイントを同時にたたくのが目的ですか。
「それが理想だが、実際に使われている薬は、リンパ球内でHIVが複製されるのを阻害するものと、複製品が完成するのを邪魔するものだ。
前者は、逆転写酵素阻害剤といって、AZT、ddI、ddCなど。アメリカで7種類が認可されている。後者はプロテアーゼ阻害剤という。これは昨年初めに認可された新しい薬で、なかなか効果がある。4種類が認可された。
これらを患者・感染者に合わせて組み合わせる。通常、逆転写酵素阻害剤を2種類、プロテアーゼ阻害剤を1種類、投薬する。英語では『ヒット・ハード、ヒット・アーリー(早い時期にガツンとたたきのめす)』というが、投薬開始1年で70%もの人で、体内のHIVの数が検出できない値にまで減っている」──ウイルスが減ると免疫力も回復しますか。
「免疫全体をつかさどるヘルパーTリンパ球が増えることが分かった。感染すると、このリンパ球が減って免疫力が弱まり、健康な人ならかからないような、いろんな感染症にかかるのだが、その感染症自体の治療も随分と進んだ。かつてはカリニ肺炎にかかると90%の人が病院を出られないまま亡くなっていたが、今では95%までが2週間程度の入院で退院できる」──エイズを封じ込める見通しがついたのですか。
「楽観するのは早い。プロテアーゼ阻害剤は、服用方法が非常に煩雑・厳格だ。例えば、インディナビルという薬は、空腹時でないと効果が激減する。ベーコンと目玉焼きを食べただけで血中への吸収度が23%にまで下がる。服用時間が2時間以上ずれるだけで、体の中に潜んでいるHIVがまた起きあがってくるスキを与えることになる」──カクテル療法を受けた感染者の53%でウイルス数が増加に転じ、薬剤耐性ウイルスの出現か、と話題になりました。
「一概に耐性ができたとは言いにくい。薬を使わないと、ウイルスはたった2.6日でフル生産を再開する。しかも、その再生産されるウイルスは、カクテル療法でも増殖を抑えることができずに残っていた連中だから、今度は今までの薬が効かない。耐性ができたのではなく、耐性を持っていたウイルスが増殖した場合もあると思う」──患者への教育もHIVと戦う重要な武器ですね。
「ええ。でも、HIVとの戦いは総力戦。いかに迅速に、いかに多くの種類の弾(薬)をそろえるかがカギだ。米国では今、さらに15種類もの新薬が次の出番に備えている」稲田頼太郎部長は東京大学大学院修了後、渡米。1980年に初めてエイズウイルス感染者に出会い、研究の最先端に立った。同僚マイケル・ラング博士(ウイルス学研究部長)とともに、93年に「稲田・ラング・エイズ研究財団」を設立。これまでに日本人医師・看護婦計40人を短期集中研修に招いている。
世界エイズデーを前に今月下旬に帰国、東京、埼玉、静岡県藤枝市、浜松市、愛知県安城市などで講演する。(中日新聞 1997/11/18)エイズウイルス 脳での増殖抑制 米研究所が動物実験
米国立がん研究所などの研究グループは、エイズ治療に有望とみられている新薬候補「C1−ddG」が脳で効く可能性が高いことを動物実験で確認した。エイズ治療薬の多くは脳に届かないため、患者の脳が侵される脳症には、まだ有効な手立てが無い。脳で効く薬が開発されれば、脳症の予防や治療に役立つと期待される。同グループはこの結果をもとに臨床実験を目指し、研究を続ける。
実験では、アカゲザル10匹にサルのエイズウイルスを注射して感染させ、C1−ddGを5週間注射して、脳せき髄液中のウイルス量を調べた。この結果、生き残った6匹のサルでは、C1−ddGを使い始めると脳せき髄液中のウイルス量が急激に減り、神経障害も治まっていたことが分かった。解剖の結果、リンパ球にはウイルスが見られたが、脳でのウイルス増殖が抑えられていた。(日本経済新聞 1998/02/09)エイズ発病抑制遺伝子 免疫の働き強める
京大チーム保有者発見
京都大学の研究チームは20日、エイズウイルス(HIV)に感染しても発病しにくい遺伝子を持つ人がいることを見つけたと発表した。米国のエイズ患者を調べたところ、免疫の働きにかかわる遺伝子が変異している人は発病するのが特に遅かったという。同じような発見は世界で3例目。この仕組みを活用してHIVの感染を阻止できれば、エイズの予防や治療に役立つと期待される。
研究成果は京大医学部長の本庶佑数授と同大遺伝子実験施設の田代啓助手がまとめた。本庶教授らは米国のエイズ患者2800人から血液を採り、感染から発病に至るまでの期間に応じた遺伝子の種類を調査。その結果、免疫力を高める「SDF1」という遺伝子に変異が見つかったという。
発病しにくいタイプの人は、ある種の遺伝子の働きで免疫を強くするたんぱく質が体の中にたくさんつくられ、HIVが体に入っても免疫力が下がりにくいと考えられている。SDF1に変異がある人で、7年以内に発病したのは2%以下だった。
エイズ患者は免疫力を担う細胞がHIVで壊されて、体を守る働きが著しく下がり免疫不全症を起こす。ただ、発病までの期間は患者によりばらつきがあり、多くの研究者がナゾとしてきた。この原因を探ればHIVとの共存が可能になり、延命を手助けする薬が開発できる。米国の研究チームでも同じような働きを持つ遺伝子を2種類見つけている。(日本経済新聞 1998/05/21)エイズ発症遅らせる遺伝子発見 治療法の開発へ道
HIV感染2800人の血液分析から判明
エイズウイルス(HIV)に感染しても発症や病状の進行を遅らせる遺伝子を持つ人がいることを、京都大学医学部の本庶佑教授と同大遺伝子実験施設の田代啓助手らのグループが突き止めた。エイズ発症の仕組みを解明し、発症を抑える治療法開発への道を開く発見だ。
本庶教授らは、米国立がん研究所がHIV感染者から提供を受けた2800人分の血液サンプルを分析。エイズ発症が遅い人の中に、SDF1と呼ばれるタンパク質の遺伝子に特定の変異をもつ人の割合が高いことを発見した。感染後、7年以内に発症した人のうち、この遺伝子を持つ人は2%以下なのに対し、7年以上たって発症した人では3倍の6%以上だった。
実験によって、血液中のSDF1の濃度が高いほどHIVがTリンパ球に感染しにくいことが分かった。
HIVはTリンパ球の表面にあるCXCR4と呼ばれるタンパク質に結合し、これを足掛かりに細胞に感染する。これに対しSDF1は、CXCR4に結合して“ふた”をしてしまう性質があるため、HIVが感染できなくなる。
こうしたことから、特定の変異を持つ遺伝子がSDF1タンパク質を通常より多く作り、HIV感染の進行を防いでいるのではないか、と推測している。
田代助手は「研究が進めば、SDF1や類似の物質を投与してHIV感染を防ぐことができる可能性もある。今後は、実際に血中のSDF1濃度を測定して、変異遺伝子の働きを裏付けたい」としている。
HIVはTリンパ球などの免疫細胞を破壊するため、エイズを発症すると体の抵抗力が著しく落ちてしまう。(中日新聞 1998/06/02)コーヒー豆にエイズ抑制物質 先住民伝統薬から発見
米研究者が発表
【ワシントン16日共同】コーヒー豆からエイズを抑制する化学物質を抽出するのに成功した、と米カリフォルニア大アービン校のエドワード・ロビンソン教授らが16日までに、米ウイルス学専門誌に発表した。従来のエイズ治療薬とは別のメカニズムで感染を防ぐことが確かめられており、「新治療薬開発につながる成果」としている。
エイズ治療薬は数種類を組み合わせるカクテル療法が効果を上げているが、多くの薬に耐性を持ったエイズウイルス(HIV)が出現。新たな治療薬が求められている。
教授らは、南米ボリビアの先住民のまじない師が伝統治療に用いている植物約60種類から成分を抽出、薬効を調べるうちにコーヒー豆に含まれる「チコリ酸」がHIVを抑制するのを見つけた。チコリ酸は生のコーヒー豆に含まれており、豆をいると効果がなくなる。
HIVを感染させた細胞を使った実験で、チコリ酸がHIVの酵素の1つ「インテグラーゼ」の活性を阻害するのを確認した。同酵素はHIVの遺伝子が細胞のDNAに進入するのに必要で、働きを阻害すればHIV感染がほかの細胞に広がるのを防ぐことができる、という。
従来のエイズ治療薬で同酵素を標的にしたものはなかった。
教授は、チコリ酸そのものは薬にできるほど効果は強くないが、チコリ酸の構造をヒントに、より強力なインテグラーゼ阻害剤を合成可能とみて研究を進めている。(中日新聞 1998/09/17)エイズ薬開発に有効 武田など新物質発見 感染の仕組み解明へ
武田薬品工業は23日、新たなエイズ薬の開発につながる物質を発見したと発表した。エイズウイルスが細胞に感染するときに重要な役割を果たすと考えられている細胞表面の受容体(たんばく質の一種)に作用する物質。「アペリンと名付けた。なぞが多いウイルス感染の仕組みの解明に役立つとともに、アペリンの働きを妨害する薬ができれば、感染細胞が増えるのを抑える効果も期待できる。
武田薬品の医薬開拓研究本部の研究グループは群馬大学の立元一彦教授と共同で牛の胃からアペリンを見つけ、細胞膜にある「APJ」という受容体に作用することを突き止めた。
アペリンが結合するAPJ受容体はその存在は知られていたものの、体の中でどのような働きを担っているかわかっていないなぞの物質だった。ところが、米国の研究者が最近、エイズウイルスが感染する際にAPJが関与していることが分かり、ウイルスの感染メカニズムを解明するうえで重要な手掛かりになると注目を集めていた。
武田の藤野政彦副社長は「2年後くらいをめどにエイズ薬を開発できるのでは」と話している。(日本経済新聞 1998/10/24)HIV感染者6割で薬剤耐性 新薬開発が急務に 国立感染研調査
従来の薬が効かない薬剤耐性のエイズウイルス(HIV)が増え、HIV感染者の約6割のウイルスが薬剤耐性を持っていることが国立感染症研究所の調査でわかった。1日に東京で開かれた日本エイズ学会総会で発表した。エイズ治療では複数の種類の薬を同時に投与する「カクテル療法」が効果をあげている一方で、耐性ウイルスの出現で新薬の開発が急務となっていることが明らかになった。
同研究所エイズ研究センターの研究グループは、国内16の医療機関の協力を得て、HIV感染者187人のウイルスを調査した。その結果、患者のうち58%はウイルスが薬剤耐性型に変化しており、従来の薬が効くウイルスを持つ患者の42%を上回った。耐性ウイルス感染者のうち、1種類の薬だけの耐性ウイルスの感染者は約3割で、7割は2種類以上の複数の薬が効かない状況になっていた。(日本経済新聞 1998/12/02)抗エイズ薬 2種結合で効果向上 京都薬大
服用の手間減らす
作用の異なる2種類の抗エイズ薬をくっつけてウイルス抑制効果を高めることに京都薬科大学の木曽良明教授らが成功した。エイズ患者や感染者の治療では複数の薬を併用する「カクテル療法」が一般的だが、結合薬が実用化できれば、1つの薬の投与で済ませることも可能になるという。
エイズウイルスの増殖を抑える抗エイズ薬には、大きく分けて逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤の2種があり、両者はそれぞれウイルスの増殖プロセスを違うポイントで抑える効果がある。「カクテル療法」は逆転写酵素阻害剤のうち2種、プロテアーゼ阻害剤の1種の3剤を服用するケースが多いが、服用の時間や量が複雑で、定められた通り服用できない患者がいるのが問題となっている。
木曽教授らは最も一般的な逆転写酵素阻害剤の「AZT」と、新たに発見したプロテアーゼ阻害剤とを結合させて1つの分子にし、試験管内で効果を測定した。その結果、ウイルスに対する抑制効果はAZTだけの場合に比べ約7倍に高まった。
木曽教授は「結合分子は細胞の中で2つに分かれ、それぞれが効果を発揮している」とみている。逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤にはそれぞれ数種類あり、さまざまな組み合わせが可能になるという。(日本経済新聞 1998/12/05)
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