火星の人類学者ー脳神経科医と7人の奇妙な患者ー





この装丁と、このタイトル。あまり面白そうな感じはしないでしょ。
別に火星に関する本ではありません。

脳神経に傷害をもっている患者を作者が深い洞察を持って描き出しています。作者のオリヴァー・サックスは、映画にもなった“レナードの朝”の原作を執筆した人でもあり、有名な脳神経科博士です。

7人の患者とはこんな感じです・・・
事故で突然色覚を失ってしまった画家。彼は画家として成功していたのだけれど、突然色覚がなくなったことによって一から世界を構築せざるを得なくなる。(そして、その作業は困難を極める)
60年代に脳腫瘍にかかり、視覚と記憶能力を失ったヒッピー・グレッグ。彼はずっと60年代に生きている。グレートフル・デッドのファン。人格も何もかも変わってしまって傍目から見ると廃人だが・・・。
手を挙げたりジャンプしたりと突然奇妙な行動をしてしまうトゥレット症候群という病気にかかっている外科医。患者には厚い信頼を置かれる優秀な医者で、その行動も滑稽に見えるのだが、内面では、時に恐ろしいまでの本能的で贖えがたい“トゥレット”と戦っている。
故郷であるフランスの村を完璧に記憶している画家フランコ。絵画でもってその再現を目指す。普通の人とは明らかに異なる記憶力。記憶が頭の中を支配しており、昼も夜もその村の幻のなかに生きている。
一目見ただけで、建物の細部まで記憶してそれをあっという間に見事なパースで再現する事ができる自閉症の少年・スティーブン。このほかにも音楽など物まねの様々な才能をもつスティーブンに対して、オリヴァーはどうしても人間的な感情のやりとりをする事ができないと感じてしまう・・・・。
そして、自閉症でありながら動物学者であり、コロラド大学の助教授でもあるテンプル。彼女を通じて自閉症という病気の困難さ、異質さ、反面、異質だからこその優秀さに触れていく。特に困難さだけが取りざたされている自閉症にこんな優秀さがあると言うことはあまり世間には知られていない。

簡単に患者を列挙しただけでも興味深いと思うでしょう。でも、この本は単に“のぞき見趣味“的な低俗なものではありません。患者の多くは一般の基準から見るとはっきり言って、回復の見込みなしの悲劇的な宿命を負った人達ですが、オリヴァー・サックスはそうは見ていない。患者に対して暖かい眼差しを持って深く接しています。また、人間の新たな可能性の拡大をそこに見ているようにも思います。だからこそ、感動的であるのです。

個人的には、患者に対して共感する(思い当たる)面もあります。僕の脳の中でもきっと複雑な作業が行われているのだろうけれど、多分ほんのちょっとしたズレで世間一般で言う患者になってしまう可能性があることは想像に難くない。だから、ではないけれど、オリヴァー・サックスの様に人間を見ることは非常に重要だと思います。

この本、養老孟司が何かの雑誌で紹介していたのをみて手に取ってみました。僕は普段小説を中心に読んでいるので、あまりこの類は読まないのですが、いい本です。バカの壁は常に外側から壊される、と言ったところでしょうか。本に関しては読んでもあまり薦めることはしませんが、お薦めです。

火星の人類学者ー脳神経科医と7人の奇妙な患者ー

Posted: 月 - 3月 21, 2005 at 12:15 午前          


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