TeX・pTeXによる原稿作成の場合、DVIファイルそのままではなく、“dvips”プログラムによってPSファイルに変換したうえで入稿することが一般的である。PSファイルとは、Adobeの規格であるプリント・ページ記述言語“PostScript”で記述されたファイルのことであり、これをPostScriptプリンタにかければ、そのまま商用にもちい得る、高品位の印刷結果を得られるそうだ。しかしPSファイルは印刷用記述ファイルであるため、そのままコンピュータ上で表示することは不可能であり、また、PostScriptプリンタ自体が高価なものであるため、入稿はPSファイルでするにしても、個人がおいそれとその印刷結果を確認できるものではない。そこでもちいられるのが、ghostscriptというプログラムである。これを利用すれば、PSファイルをビットマップ・イメージに展開してモニタ上に表示できるとともに、品位は劣るものの、そのイメージを通常のプリンタでも印刷にかけることが可能となる。また、ghostscriptの機能であるpdfwriteを利用すれば、PSファイルをPDFに変換しての表示・印刷が可能ともなる。これはPDFがそもそも、PSから派生したものであるためだ。
無論、単にDVIファイルをPDFに変換するだけなら、現在ではdvipdfmを利用できるためghostscriptの必要性はやや低下したともいえる。しかしTeX文書に図表等画像を差し込む場合は、PSの特殊形態であるEPSファイルをもちいることが一般的である。最近ではdvipdfmでDVIをPDFに直接変換する際に、jpeg画像を取り込むことも可能となっているものの、jpegでは文字をふくむ画像の場合、文字もビットマップ画像として扱われてしまうため、文字を文字として処理できるEPSの活躍の場はまだ多いだろう。そしてMxdvi等のDVIprocessorが、かかるEPSを取り込んだDVIを解釈・表示する際には、そのための機構としてghostscriptを呼び出すのがやはり一般的であるし、dvipdfmがDVIファイルをPDFに変換する際にも、取り込まれているEPSをghostscriptのpdfwrite機能を呼び出し、まずPDFに変換したうえで変換結果に反映させるようになっている。このように、ghostscriptとTeXとの間には深いつながりがあるのだ。
このghostscriptは、Mac用の圧縮・解凍ソフト“StuffIt”シリーズで著名なAladdin社が開発・公開しているものであり、現在はAFPLというAladdin社独自のライセンスのもとに配布されている系列(AFPL ghostscript)と、GNUライセンスのもとに配布されている系列(GNU ghostscript)との2系統にわかれている。これらはソース・コードも公開されているため、MacOSXではUNIX用のソースを自前でコンパイルすることで利用可能だ。また“mi tools”の作者・橋本暁仁氏により、日本語化設定の施されたGNU ghostscript6.53 のパッケージも公開されており、これをもちいれば簡便にghostscriptを導入できる。
ただしghostscriptによるPSファイル表示は、あくまでX-Window-Systemでの運用が前提となっているため、デフォルトの状態のOSXでは、直接PSファイルを表示させることはできない。よってghostscriptの用途もMxdviとの連携およびpdfwriteに限定されることになる。しかし日本語での利用にとって、このpdfwriteがなかなか曲者である。gs6.53のpdfwriteでは日本語フォントがビットマップになってしまうため、これによってPS・EPSから変換したPDFでは、フォントにジャギーの入った少々汚いものになってしまう。一方、最新のGNU gs7.05では、TrueTypeフォントやCIDフォントをPDFファイルにType1フォントとして埋め込むようになったため、圧倒的に美しい表示が得られるようになった。このgs7.05は、すでに日本語化設定の施されたパッケージが井上浩一氏、および、およばずながら私自身によっても配布されている。ところがこちらのヴァージョンでは、縦組対応が未完成なためにTrueTypeフォントをもちいた場合、縦組のメトリックが乱れてしまうという欠陥を抱えている。これを回避するため、欧文フォントとしての扱いをうけるCIDフォントを利用すると、今度はOSX側のPDFレンダリングの欠陥のため、Finderのカラム表示でのプレビューや、OSX付属のpreview、さらにこのレンダリング・エンジンを利用しているTeXShopでの表示に際して、OSごとハング・アップしてしまうという、致命的な問題を抱えているのである。問題が生じるPDFはAcrobatReaderでは難なく開くことができるので、用心してもちいればよいのだが、それにしても不自由である。
さて、この問題も、そもそもOSX上でもPS・EPSファイルをPDFに変換せず直接表示できれば、完全とはいえぬものの、ある程度回避できそうなものである。そしてひょんなことから、そのようなソフトウェアに巡り会うことができた。それはCMacTeXという欧文TeXセットを公開しているThomas Kiffe氏による、MacGhostViewXというフリー・ウェアである。これはすでにghostscript6.x以上がインストールされたOSX環境を前提としたPSビューア・ソフトであり、MacGhostViewという、GNU ghostscript7.05自体の機能を取り込んだ$20のシェア・ウェアから、PSビュー機能のみを抜き出したもの、という成り立ちのようだ。具体的には、gsが使用するフォントやリソースを呼び出し、そのデータをもちいてビットマップ・イメージを展開しているようであり、つまりOSXでもPDFに変換することなく、PS・EPSファイルを表示することが可能となるのだ。
【2003年1月19日修正】
以前、MacGhostViewXの印刷機能について「ビットマップ・イメージはそのまま印刷可能」という記述をしていたが、正しくは“lpr”あるいは“atprint”コマンドによってPSプリンタ(および、GS等によるそのエミュレート・プリンタ)に対し出力をするだけのものであった。よって非PSプリンタで用いるには、“Convert to PDF”機能によってPDFに変換させねばならない。訂正しておく。
MacGhostViewのほうもなかなかの優れもののようだが、こちらのgsの機能はどうやらコマンド・ラインからは呼び出せないもののため、dvipdfm等との連携は不可能であり、よって橋本氏・井上氏や私のパッケージと、MacGhostViewXとを組み合わせて利用するのがよいだろう。このMacGhostViewXは、直接には日本語環境での利用を想定していないが、ちょっとした工夫により日本語化も可能だ。そこで今回は、次ページにてその設定方法についてまとめておきたい。なお、ここでの設定方法は、桐木紳氏のBBSにおいて、井上浩一氏から御教示いただいたものであり、ここに厚く御礼申し上げる。