今回のネタは、UNIXやTeX、およびその上での「文字鏡」フォント利用に精通した方々にとっては、誤りに満ちた噴飯物である可能性が高い。願わくば、文系研究者によるTeX普及のための不慣れなチャレンジとして御笑覧いただき、かつ、必要に応じてアドヴァイスをいただければ幸いである(^^;。
Windows・Macを問わず旧来OSの標準仕様では、JIS第1・2水準に定められたコードのテーブル内に収められたフォントしか利用できないという限界がある。よって従来の(少なくともコンシューマ向けの)商用外字フォントでは、テーブル内の空き領域に外字を割り当てるというのが常套手段であった。かかる手段で使えるようになる外字の数が畢竟大したものではないことは想像に難くないだろう。それでは、前回紹介した、とてつもない文字数を誇る「文字鏡」フォントは、いったいどのような方法で、その活用を実現しているのだろうか? 実は「文字鏡」フォントは通常のフォントのような単体のフォント・ファイルではなく、33程のファイルに分かれている。ここではTeXでの利用は後回しにして、ワープロ等通常のアプリケーションでTrueTypeフォントを利用する場合について述べると、ClassicMacOSの場合、これらのファイルを“システムフォルダ/フォント”フォルダに放り込んでやるという、ありきたりの方法でインストールは完了する。そのうえでお好みのワープロ等を立ち上げ、フォント選択のメニューを開くと、“Mojikyo M101”から始まるおびただしい数の“Mojikyo”フォント群が目に入るはずである。そこで何でもよいから、何か打ち込み変換してやろう。すると“Mojikyo”フォントでは意図とはまったく違う何やら難解な文字が現れるだろう。さらに“Mojikyo”フォントのうちで、“M”以下のナンバーを変えてみよう。するとまた文字が変わるはずだ。そう、「文字鏡」フォントは、JISテーブル内での通常とは異なる文字配列と、そういったファイルの複数用意によって、膨大な文字数の利用を実現しているのだ。よってワープロ等の複数のフォントを混在させて利用できる環境では、JIS水準内で済む文字は“平成明朝”など通常のフォントを用い、異体字だけは「文字鏡」フォントを選択するというやり口で利用することになる。
ただし、これでは膨大な「文字鏡」フォント群のなかの何処に自分が使いたい字があるかわからず途方にくれるのは必定であるので、やはり文字鏡研究会が配付してくれているWindows版やHTML版のフォント・マップ利用が必須となる。
さて、かかる用途の場合はOSXにおけるインストール方法も極めて容易で、通常のフォント追加方法とまったく変わらず、“Fonts”フォルダに放り込むだけである。。ただ念のため書き添えておくと、マルチ・ユーザーOSであるOSXの場合、ユーザー全員で共有する場合には“/Library/Fonts”フォルダ、自分だけが使う場合には“/Users/自分のhome/Library/Fonts”フォルダに、という点に注意したい。ともかくこうすれば、これまでのMacOS用TrueTypeフォントはCocoa・Carbonを問わず、あらゆるアプリケーションで問題なく機能する。
ただし、「文字鏡」TrueTypeフォントをX-Window環境でも共有したい場合には、X-Windowではデータとリソースとの二重構造を有するMac用フォントは扱えないので、Windows用フォントを利用することになる。しかしWindows用フォントを“Fonts”フォルダに放り込んだ場合、OpenType外字と同じような処理がされるのか、Cocoaでは問題なく使えるが、Carbonでは化け化けで使い物にならない、ということになる。よってディスクの空き容量さえ許せば、“Fonts”フォルダにはMac用を入れておき、X-Windowで使うWindows用は別にフォルダを作ったうえで、そのディレクトリをVFLibに登録するのがよいだろう。
一方、テキスト・ファイルでソースを作成するTeXでは、上述の如き利用方法は無理である。そこでTeXでは、「文字鏡」フォントを使いたい部分のみ、
\TMO{1000}
といったコマンドにより、各文字に割り当てられている“文字鏡番号”を指定することで、コンパイル時にフォント情報を呼び出し、DVIファイルに反映させるようになっている。よって予めTeXコンポーネントに文字鏡フォントの所在が知らされていないと、コンパイル時にエラーが発生する。そのTeXコンポーネントが利用できるフォントだが、私には技術的な詳細はわかりかねるものの、基本的には“texmf/fonts”ディレクトリ以下にType1・METAFONTソース・VFなどの種別ごとに整理して格納された、専用フォントを参照するようだ。ただし、OS全体ですべてのアプリケーションが利用できる環境にあるフォント(ClassicMacOSの場合、“フォント”フォルダに収められたTrueTypeフォント等)も、きちんと登録すれば利用できるようである。
ではOSXの場合はどうか? 種々のフォントの加除を行いつつ検証してみた(つまり、危ないことをやったということです(^^;)ところ、“platex”コマンドでコンパイルするだけならば、TrueTypeフォントのみで済むようだ。だがこれだと、“dvipdfm”コマンドでPDFに変換する際、エラーログによればMETAFONTの生成に失敗するらしく、結局PDFが得られない。逆にTrueTypeフォントを用いずとも、Type1・VF両フォントのみで、コンパイル・PDFへの変換ともに成功した。注で上述した如く、UNIX環境にTrueTypeフォントをインストールしplatexコマンドに認識させるには、VFlibというコンポーネントをいじくるなどの必要があり、かなり面倒である。また、OSXネイティヴのDVIビューアであるmxdviが文字鏡フォントに未対応の現状では、「異体字を使う」という目的に限定する限り、CocoaアプリとEGWORDのみという限定があるとはいえヒラギノ外字が使えるOSXのAQUA環境に、文字鏡TrueTypeを導入する意義も薄れよう。さらに文字鏡フォントの如き膨大なものを数種にわたってインストールするとなると、ディスク・スペースの問題も生じてくる。そこで以前に述べた“コンパイルとPDFへの変換をコマンド・ラインで行い、ブラウズ・印刷はAcrobatReaderで”という現状に限って、Type1・VF両フォントのみのインストールを推奨しておきたい。ただし、将来的にMXDVIが文字鏡対応を果たした際には、コンパイル・MXDVIでのDVIファイル・ブラウズともに、逆にTrueTypeフォントのみで済むようになると思われる。よって次に述べるインストールの手引は、あくまで過渡的なものであることを了解されたい。
【2002年4月9日補足】 mxdviが縦組・文字鏡フォントv.2の表示に対応した。よって印刷を要しないのであれば、“Library/Fonts”フォルダにTrueTypeフォントをインストールし、TeXのほうにはtfmファイルとマクロ・ファイルだけを導入しておけば、“\TMO”コマンドが用い得る状況になった。ただし印刷機能は未実装であるため、印刷を要するのであれば、ここで述べている“\PMO”コマンドを用い、dvipdfmでType1フォントをPDFに埋め込む方法も、まだ有用であるといえよう。
OSXへのTeXインストール自体は、桐木氏作成のパッケージによって極めて容易になったが、そこにフォントやスタイル・ファイルの追加といった変更を加えるとなると、ややハードルが高くならざるを得ないのが現状である。具体的には、TeXコンポーネントの所在ディレクトリは、Finderからは見えない不可視属性領域であり、かつ、root権限でないと触れないのだ。よってroot権限を有効にしてあり、かつ、コマンド・ラインで簡単なファイル操作(“sudo cp -rf”コマンドでroot権限でのファイル・コピーを行う、という程度)ができることが、インストールの前提となる。しかし、このページのコンセプトはあくまで、「素人でも簡単TeX」であるから、ここでは、本来はあまり薦められない方法だが、ファイル所有者概念の無効なOS9で立ち上げファイル操作するという「裏技」を使うことにしよう。ただしこの場合も不可視属性ファイルに触ることのできるCoera等のファイル・ブラウザ使用が必須であるので、各自好みのものを用意されたい。
さて、そうしてしまった場合、実はするべき作業は、基本的にはNiftyTeXフォーラムで懇切丁寧に解説されている、ClassicMacOSの場合のインストール方法とまったく変わらないので、詳細はそちらをされたいが、それではあんまりなので、以下、OSXの場合には何が必要になるかだけ、掻い摘んで説明しておこう。まず、文字鏡研究会のページからダウンロードするなどの方法で入手すべきファイルは、
101から121までの“MO×××PFB.LZH”ファイル:Type1フォント群【1】以上である。これらを解凍して得られたファイル群を適宜必要な場所に移動していけばよいのだが、桐木氏のパッケージをインストールした場合操作対象となる“/usr/local/share/texmf”以下のディレクトリは不可視属性となっていることは前述の通りである。そこでファイル・ブラウザは不可視属性ファイル・フォルダを見えるように設定しておく必要があるが、Coeraの場合見えるようにしただけでは、まだ変更を加えることができないので、「情報を見る」パネルを呼び出し、最上位の“usr”フォルダの不可視属性を解除してやる必要がある。
MOVF.BZ2:VF(ヴァーチャル・フォント)【2】
MO_TFM.LZH:“\PMO”コマンドの実行に必要な“tfmファイル”【3】
MOTEXDOC.LZH:“\TMO”コマンドの実行に必要な“tfmファイル”【4】とスタイル・ファイル【5】
可視にしたまま放ったらかしてOSXに戻っても、OSX上ではちゃんと不可視になっているので問題はなさそうだが、念のため作業終了後は不可視属性に戻しておいたほうがよいだろう。

さて、そのうえで、【1】【2】の各フォントについてはそれぞれ、“texmf/fonts”フォルダの直下に位置する、“type1”“vf”フォルダのなかに、これまたそれぞれ“mojikyo”という名の新たなフォルダを作成し、そのなかに放り込む。また【3】【4】tfmファイル群については、“texmf/fonts/tfm/ptex”フォルダのなかに、“mojikyo”フォルダを作成して放り込む。一方、【5】スタイル・ファイルのほうは、“texmf/ptex/platex”フォルダ以下の階層に放り込めばよいのだが、これも一般には整理整頓のため、新たに“misc”フォルダ、さらにそのなかに“mojikyo”フォルダを作成して、そこに入れておくのが推奨されている。
以上でOS9での作業を終え、ここからはOSXで立ち上げ直し、インストールに成功しているか検証することになる。まずするべき作業は、“texmf”以下のディレクトリに変更を加えたのだから、“mktexlsr”コマンドを実行して“ls-R”ファイルを更新することである。そのうえで
\documentclass[a4j]{jarticle}とでもいったソース・ファイルを作成しコンパイル、さらにPDFへの変換を行い、AcrobatReaderで開いてみて、
\usepackage{mojikyo}
\begin{document}
\PMO{1000}
\PMO{2000}
\PMO{3000}
\PMO{4000}
\end{document}
のような表示を得れば成功である。これでようやく我々は、OSXネイティヴの縦組み・異体字両立環境を手に入れることができた、というわけだ。
【2002年3月26日訂正】
以前、上記サンプルでは“\TMO”コマンドを用いていたが、これはTrueTypeFontを用いるコマンドであるため、TrueTypeFont未インストールの環境ではコンパイルはできるものの、dvipdfmによるPDF生成には失敗する可能性が極めて高い。そこでType1Fontを用いる“\PMO”コマンドに訂正した。しかしType1Fontは欧文フォントとして処理されるため、メトリック等に若干の不具合が生じることもある。そこでOSXでのX-Window未インストール環境における簡便な文字鏡TrueTypeFont利用法については、いずれ検討してみたい。
ただし、喜ぶばかりではなく、最後にいくつかの注意をしておきたい。それはこの方法で得たPDFには文字鏡フォントが埋め込まれるという事実に関係する。まず、フォントが埋め込まれるということはファイルが巨大になる、ということである。そしてより重要なのは、文字鏡フォントを埋め込んだファイルを配付する際にはライセンス上、文字鏡研究会の許諾を得ねばならないという、当然の事実である。これらに配慮し、PDFファイルはあくまでOSX上でのブラウズ・印刷用にとどめ、版元への入稿等にはDVIファイルを用いることの遵守を強く求めつつ、この項を終えたい。