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2003.12.16 up

第3回 南部孝三郎

〔「科学忍者隊ガッチャマン」、「同II」、「同F」〕


 一年以上も御無沙汰だったため本旅館の「サイト紹介」ページでも女将に「全く更新されていません(汗)」だの「髑髏石の胸をときめかせる暗黒ものはあらわれないのか!? 」だの、散々な言われぶりのこのコーナー。まぁ、そもそも「秘宝館」全体が、「枯れ木も山の賑わい」的オマケ・コンテンツとしてはじまったものであり、その頃にはよもやTeXやGhostscriptなんぞにああも深入りする羽目になるとは想像だにしていなかった。げに成り行きとは、恐ろしいものである。

 とはいえ、この間もこのコーナーを完全に放置していたわけではなく、手元には「2002.5.21」の日付を打たれながらお蔵入りとなった幻の第3回、“Macintosh〔「仮面ライダー龍騎」〕”なるファイルもあったりする。これはOld Macを「会社の歴史」を表現する道具として扱うという、「現実」を持ち込む演出手法をとっておきながら、一方で「Windowsなど存在しない、Macのシェア100%の世界」という、Windowsの圧倒的シェアという「現実」を抹殺した夢想世界が構想されている悪趣味ぶりについて、あくまで軽やかに茶々を入れるはずのものであった。が、茶々どころかかなりストレートな批判文に仕上がってしまったため、何もわざわざ「龍騎」ファンを敵に回すこともなかろうと、引っ込めてしまったのである。「暗黒列伝」はお笑いこそ命、いらぬ喧嘩の種となるのは本意ではない。

 そんなこんなでケチがついて、ついつい筆も滞りがちであったのだが、ああまで言われては更新しないわけにもいくまい。そこで今回は、長らく暖めておいたとっておきのネタ、南部孝三郎氏(なお、彼の名については「光三郎」「仙三郎」等、諸説ある。かかるアイデンティファイの根幹に関わる事象の不明瞭さ自体が、彼の存在の不透明さを象徴しているように思われる。)その人である。さりながら、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし、暖めすぎで腐っているやもしれぬ点は御容赦を。

 南部博士といえば、いち早くギャラクターの脅威を察知し、自ら組織した科学忍者隊を率いて数度に及ぶ危機から人類を守り抜いた正義の科学者、というのがおおかたの評判だろう。だが、一連の経緯を冷静に振り返ってみると、なかなかどうして、この人物は「暗黒ヒーロー」の名に相応しい、相当の胡散臭さを秘めていることが明らかになる。まずは第1作を中心に、その足跡を追ってみよう。「ガッチャマン」ではシリーズ3作をとおして、「国際科学技術庁とギャラクターとの最新技術を駆使した抗争」という構図が成立しているが、よくよく考えると、これはかなり奇異なことである。国際科学技術庁という組織はそもそもは、おそらくは国連の管轄下にあって、件の「マントル計画」をはじめとする、国際的枠組のもとでの科学技術の平和利用を目的とした組織であった。よってギャラクターの矢面に立つべきは国連安保理等であって、国際科学技術庁はそれらからの協力要請に応じることはあり得ても、自らが前面に出ることは考え難いはずであった。

 ところが、国際科学技術庁の一員たる南部博士が、ギャラクターに対するほぼ唯一の有効な戦力となる私兵、科学忍者隊を絶妙のタイミングで披露したために、国際科学技術庁はなし崩し的に「科学忍者隊の軍事・諜報活動を支える組織」へと、その性格をシフトさせてしまったのである。しかも科学忍者隊の「所有者」たる、南部博士の組織に対する主導権を急速に拡大させるかたちで、だ。国際科学技術庁の制度上の責任者としては、「長官」職が存在し、第1・2作をとおしてアンダーソンなる人物がその地位にあった。しかし彼はことあるごとに南部の判断を仰ぐ始末であり、しかも時折両者が対立した場合の描写からは、事実上の意思決定権が南部の側に収斂していく様がみてとれるのである。さらに、第2作終盤に重傷を負ったアンダーソンに代わり、第3作ではついに南部自らが長官職に就任する。これまで既成事実として積み上げてきた実権掌握が、制度形式上も完成をみるのである。ここに到り国際科学技術庁は、科学忍者隊を主要な実行部隊として擁する、ほぼ完全に南部によって私物化された地上最強の軍事組織としての様相を呈することとなる。こうしてみると「正義の科学者」像の裏側に、三ヶ度にわたるギャラクターとの抗争―全人類的な危機―を、巧みに自らの権力伸長へと結びつけてきた、ただならぬ野心家としての相貌が見え隠れしてくるのである。

 かかる南部の野望実現過程において、常に重要な役回りを果たしてきたのが彼の私兵、科学忍者隊である。そう、これは紛れもなく彼の私兵なのだ。突然のギャラクターの大攻勢に為す術もなく立ち尽くす面々に対し、落ち着き払って科学忍者隊の存在を誇示する第1話の様子を思い浮かべてほしい。もし科学忍者隊が国際科学技術庁のもとに公的位置を与えられた組織であるならば、アンダーソン長官をはじめとするスタッフが、その存在をまったく知らないということがあるだろうか? 三日月珊瑚礁基地をはじめとするあれだけの物的・人的陣容を備える組織が国際科学技術庁のもとに編成されたというのであれば、計画申請なり予算措置なりが必ず伴うはずである。南部以外の誰もその存在を知らなかった、ということはあり得ない。ギャラクターに対する人類の砦、科学忍者隊は、基本的には南部の個人的資産によって準備されたのだとすれば、その資産総額たるや、途方もないものであろう。

 その資産の氷山の一角を垣間見せてくれるエピソードが、第2作「ガッチャマンII」第47話、「必殺!二羽の火の鳥」である。この、新・旧両ゴッドフェニックスによるダブル「火の鳥」が実現する、ファン・サービス編を成立させるために旧ゴッドフェニックスが保管されていたのは、なんといずこかの海辺にそびえる南部個人の別荘なのである。断崖の発進口にまで到る長大な地下滑走路を擁するその敷地は、ちょっとやそっとの金持ちが用意できるものではない。それは単なる別荘というよりは、予備の軍事基地とみなすべきものであろう。しかも、その個人所有の別荘に保管されていた以上、旧ゴッドフェニックスもまた南部個人の所有物たることは確実である。これまた、第1作時点での科学忍者隊そのものが、南部の私兵であったことの証左となろう。もっとも既成事実の積み重ねによって第2作の頃までには、科学忍者隊も国際科学技術庁傘下の公的組織という色彩を強めた様子は窺える。ただし、それは国際科学技術庁そのものが、南部によって私物化されていくプロセスと一体のものであった。

 それでは、これだけの個人資産は如何にして形成されたのだろうか? その本来の専門は不明なれど、国際科学技術庁の一員に選ばれる程の「科学者」である彼のこと、幾多のパテントを有していてもおかしくはない。さりながら、ベルやエジソンの昔ならいざ知らず、それだけで超絶的な資産を形成できるとも思えない。具体的詳細は不明とするしかないが、その資産の内容に関しても、何やら暗黒な印象を拭えないのである。そのうえ、彼の私兵は科学忍者隊だけではなかった。レッド・インパルスの存在も忘れてはならない。もしかしたら、二系統の私兵組織の結成・維持には個人資産だけではなく、国際科学技術庁の公的予算が不正流用されていたのではないのか、という疑問すら禁じ得ない。いずれにせよ、南部を取り巻く「カネの流れ」には、「正義の科学者」らしからぬ不透明さが紛々としている。

 そして極めつけの問題は、なぜ南部は科学忍者隊を「私兵」として秘密裏に用意したのか、というものだろう。ギャラクターの脅威は、全人類の生存に関わる、抜き差しならない課題である。確かに、結果として科学忍者隊は優秀な働きを行ったが、やはり脅威が現実のものとなる前に、国連なり国際科学技術庁なりを挙げて対応体制を構築しておくのが筋なのではないか? どうも私には南部は、狼狽する人々を前に科学忍者隊の存在を誇らしげに明らかにするその瞬間―それは、南部の権力伸長過程開始の瞬間でもある―をほくそ笑んで待ち望んでいたように思えてならない。彼ははじめから、敢えてギャラクターの存在を秘匿しておく―それは人類にとっての脅威を不必要に高めるものである―ことで、自らの野望をもっとも効果的に成就させていく計画を構想していたのではないかという疑念が拭えないのである。

 さらに言えば、何故南部は他に先んじてギャラクターの存在を察知し得たのだろうか? その背景に、ギャラクターとの何らかの関係を想定するのは不自然ではないだろう。あるいは、実は彼自身、路線対立なり権力闘争なりによって、組織を離れた初期メンバーだったのかもしれない。だとすれば、彼がギャラクターの存在を公に訴え得なかった理由も綺麗に説明がつく。しかし、脅威が現実のものとなり、なおかつ有効な対抗手段を有している者が彼だけという状況に到れば、過去についての詮索が及ぶ危険はかなり低くもなろう。自らの意に沿わなくなった軍事組織を、新たに組織した私兵を軸とする戦力によって壊滅に追い込むとともに、その過程で国際科学技術庁を軍事組織に編成替えしつつ、その私物化を図る。なんとも舌を巻く巧妙さとしか言いようがない。そしてついに長官職まで手に入れた彼の脳裏に去来していたであろうさらなる野望とは、如何なるものであったのか。もしかしたらその先には、「正義」の大義名分のもと、その尖兵たる科学忍者隊が、我々人類に牙を剥く展開が準備されていたのかもしれない。ならば極めつけのダーク・ヒーローたる南部その人が第3次ギャラクター抗争のなかで私兵共々総裁Zおよびエゴボスラー軍団と共倒れになってくれたのは、人類にとっては僥倖だったともいえよう。



科学忍者隊ガッチャマン 1972年日本作品
DVD 日本コロンビア
科学忍者隊ガッチャマンII 1978年日本作品
DVD 日本コロンビア
科学忍者隊ガッチャマンF 1979年日本作品
未DVD化



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