分かり合える人たち



 新宿の街中を歩いていると、AV女優Mとすれ違った。彼女は帽子をかぶったりサングラスをかけたりしているワケではなかったので、間違いなく本人であるコトがわかった。
 すれ違いざまに気付き、あッと思って振り返ったが、M嬢は構わず歩を進めて行った。追いかけて握手をしてもらうほどのファンではなかったので、私はその後ろ姿をただぼんやりと眺めていた。彼女は、AV界ではそれなりに人気のある女優であるが、一般的な知名度は皆無。この数万という人混みの中でも、M嬢の存在に気付いたのは私くらいではないだろうか、と思ってふと横を見ると、同じように立ち止まって彼女の後ろ姿を眺めているサラリーマン風の男がいるではないか。
 彼もすぐに、私の存在に気付いた。私と視線が合うと、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにはにかんだような笑顔に変わった。そして、人波の中へ消え去ろうとしているM嬢の後ろ姿を指さして、こう言った。
「……、ですよね?」
 私もすぐに同じ笑みを浮かべ、指さしながらこう応えた。
「やっぱり……、ですよね?」
 と。その言葉だけ交わし、私たちは別々の方向へと歩いていった。その時の二人の笑顔は、端から見ると、さぞやスケベっぽかったコトであろう。しかし、我々二人には、そんな冷たい視線をも超越し、新宿で唯一、分かり合える二人になったのである。「ですよね?」という言葉だけで。名も歳も素性も知らぬ彼であったが、きっと彼とは、気が合うと思った。10年後にまた再会しても、「ですよね?」と同じ笑みで語り合える気がした。男でも女でも、人と人が分かり合えるとは、そういうモノである。ですよね?

Posted: 水 - 3月 23, 2005 at 03:47 午前         | |


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