通訳というお仕事 サッカー日本代表監督、ジーコの日記が面白い。ジーコといえば、ブラジル出身の歴史的プレーヤーで、日本サッカーの繁栄に尽力した人物であるが、長年日本にいるにも関わらず、ほとんど日本語を覚えていないらしい。よって、この日記は通訳によって訳され書かれているというコトになる。
さて、ジーコのイメージといえば、どのようなモノだろうか。いつも青汁を飲んでいるような渋い顔をして、ジョークなんてとても言わなさそうな雰囲気である。インタビューなどを見ても、真面目を絵に描いたような、サッカーひと筋の男に見える。 ところが、日記を覗いてみると……。例えば7月4日の日記は、こうだ。 「やぁ!上記写真は(中略)掲示板の模様だよ」 何だかカワイイ。「やぁ」「だよ」である。我々の抱いているジーコのイメージからすれば、「模様だ」と断言する方がぴったり来るのだが、何故だか「だよ」とカワイく訳されている。これじゃまるで、NHK教育テレビのちびっこ体操のお兄さんのような口調だ。5月31日の日記では、何とジーコはクイズを出題するお茶目な一面を見せており、そして、「バックナンバーを見てトライしてね!」と続く。思わず後ろにハートマークを付けたくなる、ギャルのケータイメールのような文体である。「トライしろよ!」と兄貴風に言った方がジーコらしいと思うのだが如何なものだろうか。 通訳というのは非常に難しい作業であるコトがわかる。ジーコの場合は、まだ意図はしっかり通じるから問題ないのだが、私にはどうしても忘れるコトができない通訳がいる。今話題のオリックス・ブルーウェーブの前身である阪急ブレーブスのバルボン選手である。 キューバ出身のバルボンは、昭和30年代にプレイし、盗塁王にも輝いた名助っ人プレーヤーだった。野球ファンからもとても愛されていた。10年以上日本でプレイした後、日本人女性とも結婚したバルボンは引退後、阪急ブレーブスの通訳となった。ところが、彼は生来の早口で、それは日本語を話す時も変わらなかった。しかも、キューバ訛りの関西弁という想像を絶する日本語であった。 そして、誰もが恐れていた出来事を、私はテレビで目撃したのである。確か、三冠王を取ったブーマーだった思うが、外国人選手が大活躍し、ヒーローインタビューを受けるコトになった。選手が喋ったコトを通訳するバルボン。ところが、劇的勝利に興奮していたのだろう、バルボンの日本語は更に乱れ、ついには誰にも聞き分けるコトの出来ない言葉になっていた。インタビュアーも目が点になっていた。「バルボン語」と言ってもイイのだが、それでは通訳の意味がない。 するとその時、信じられないコトがテレビ画面に起こった。何と、バルボンの話す言葉に重ねるように、字幕テロップが入ったのである。「ランナーを返すことだけ考えました。いい場面で打てて……」と。それはおそらく史上初めての、通訳を通訳する瞬間であった。感動的ですらあった。 翌年、阪急ブレーブスの通訳は、違う人物に変わっていた。記憶に残る選手というのは何人もいるが、記憶に残る通訳はバルボン以外にはいない。 Posted: 木 - 7月 8, 2004 at 08:53 午前 | | |
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