羊と似た動物には山羊がいて、両方ともツノも、割れた蹄も持っていますが、山羊には
アゴヒゲがあり、羊にはアゴヒゲがありません。この違いに衣料用原料として羊が重要な
地位を占めてきた歴史の秘密があるのです。
山羊の毛は、アゴヒゲに代表されるような、硬く、つやがあり人間の髪に近いヘアーとい
われるものです。ところが、羊の毛はウールと呼ばれる、細く、縮れた、軟らかく、感触
の優れた毛質を持っています。この特徴により羊は、太古の時代より現在まで、人間と密
接な関係を保ちつづけ得たのです。
実際は、羊も昔は、ヘアーとウール、さらに、白色の毛と黒色の毛を共存させていました
が、八千年の年月をかけ、古代中央アジアからバビロニア、ローマ、ヨーロッパ、近代ア
メリカ、オーストリアを経る段階において、現在のウールの質を持つ羊を人智でもって育
て上げてきたのである。
起源は極めて古く、有史以前から中央アジア地方で原始人により飼育され次第に東南ア
ジア、ヨーロッパに伝えられるようになった。初めは毛皮そのもので防寒用として使用さ
れていたとされており、徐々に毛を刈り採り、糸を紡ぎこれで織物を作るようになったと
思われている。紀元前3000年ごろすでにバビロニア人は羊を飼育していたと言われて
おり、羊毛で初めて織物を作ったのは紀元前2200年頃のカルディア人だといわれてい
ます。ヨーロッパでは、8世紀になるとイギリスで毛織物工場が作られ、18〜19世紀
の産業革命により毛織物工業は発展しました。日本においては、江戸時代まで外国からの
輸入に頼るしかウール製品(羅紗など)を得る手はありませんでした。ところが、明治に
なると洋服という文化が入り込み、毛織物の需要が増し、明治12年に初めて官営の南千
住製絨所が開設されることにより近代毛織物工業がスタートすることとなり、さらにウー
ルの着尺などという需要の増加にもより、明治29年に日本毛織が興り、原毛から織物ま
で一貫して生産できる企業が登場するのです。今日まで、日本の毛織物生産の歴史は10
0年ほどですが、この短い期間で1970年代には世界で最大の羊毛工業国に発展しまし
た。
しかし牧羊に関しては、日本を含む東洋、この羊の発祥の地 東洋では気候が牧羊に適さ
ず発展が遅れ、ヨーロッパ、オーストラリアでは気候が牧羊に大変に適したため、発展し
ました。
そのため今日、産地では特にヨーロッパ、オーストラリア、南アフリカなどが衣料用原料
の供給地として有名で、日本では羊毛の原料のほとんどをオーストラリアから依存してい
ます。他にはアルゼンチン、中国、旧ソ連、モンゴルなどでも産出されています。
羊毛市場での分類は大きく二つに、メリノー種と雑種に分けられる。特に雑種のなかか
ら別にカムバック種を分けて扱うこともある。
メリノー種──(Merino) 代表的な緬羊で質は最高だが、気候の影響を受けやすく移植が
困難である。
カムバック種──気候に会わせてメリノー種と雑種を掛け合わせたものであるが、遺伝学
のメンデルの法則を応用し、隔世遺伝により三代目に出てくるメリノー
種に毛質の似た種を固定して作ったもの。
イギリス種──純血種であり、独特な風合いを持つ。
ニュージーランド種──メリノー種に他の種を合わせたものでコリデール種などが有名。
コリデール種──わが国で一般的に飼育されているもので、メリノー種とリンカーン種と
の雑種。
モンゴル在来種、パキスタン、インド在来種──上述のものよりさらに毛質が粗
悪なもの、主にカーペットの原料にされる。
羊毛の分類法には、産地名により、豪州羊毛、南米羊毛などと産地の名を付ける分類法
と、毛の粗さによりメリノー羊毛、雑種羊毛、カーペット羊毛などと分けられる。後述の
方が一般的な分類法である。特に、光沢の強い羊毛をラスター・ウールとして分ける場合
もある。
細さ、柔らかさ、光沢、捲縮度、縮充性などの質が最も優れている。メリノー羊毛のな
かでもオーストラリア産のものが最も品質に優れる。次いで、南アフリカ産になるが、こ
れは、強力が弱く、柔らかすぎ、腰のないものである。その他ニュージーランド、アメリ
カ、南米などでも産するが量的にはそれほどではない。
雑種緬羊から採った羊毛で、メリノーよりも太く、比較的に長く、捲縮が荒く、縮充性
も劣るが、弾力があるので毛編物にはメリノーより適する。産地はニュージーランド、ア
メリカ、オーストラリア、南米、イギリスなどである。
中国、インド、パキスタン、トルコ、旧ソ連、南米などの在来種より採った羊毛で、硬
質で、太く、死毛(Kemp) の混入が多く、捲縮が乏しく、縮充性にも落ちるので敷物用の
原料となる。
屠殺した羊の毛皮からバクテリアの力、または、薬品により抜き取った羊毛、生体より
採取した羊毛に比べ、はるかに質が落ち、生産量も少ない。
脂付羊毛(Greasy Wool) ──切り採ったままで、手を加えないもの。
洗い上げ羊毛(Scoured Wool) ──洗って脂をおとしたもの。
化炭羊毛(Carbonized Wool)─羊毛に混入した植物性夾雑物(バー・Barr) などを除去する処理を施した羊毛。
一頭の羊の毛でも採れる場所により大分、毛質が異なりそれをフリースの図に毛質のよ
いものから大体に順位を付け、数字で表したものである。フリースとは、羊の毛を刈ると
きに腹部から左右に切り開きはぎ取った一枚の形のものである。切り採った羊毛には、脂
、糞尿、汗、泥などが付着しているので、これを洗い流すと重量は半分ほどになる。しか
し最近の豪州羊毛などでは厳しい飼育管理により 63 〜 65%ほどの純毛量が得られるよう
になった。、身体の各部による毛質の違いは、肩の部分では細くて長く、質も柔らかく、
上質の毛が採れる。脇腹の部分も比較的に良質である。背部の毛は、雨や日光にさらされ
るため、痛んでいることもあり、硬質で短めであるため品質は中等である。首、喉部は、
太く、捲縮が少ないため良質ではなく、腹部、尻部においては不良になる。
毛糸は染色法により分類することが出来、まず、大きく二つに、未染色の生地糸と、染
色をほどこされた色糸(染め糸)に分けられる。さらに色糸のなかでも紡績前に染色され
たものを毛染め(Wool Dyed)と呼び、梳毛糸を作るときの中間製品 トップの状態で染
色されたものをトップ染めと呼び、糸になってから染色されたものを糸染めと呼ぶ。そし
て、二色以上に染めた毛を混ぜ合わせたものを霜降糸と呼ぶ。
紡績法による分類としては、梳毛糸(Worsted Yarn)と紡毛糸(Woolen Yarn) に分けられ
る。
梳毛糸では2.54cm以上の品質の上等な羊毛の繊維をよく梳いて、引き揃え、この工程の後
の撚りをかけ糸にする。そのため、とても滑らかな質感を持つ毛糸が出来、サージ、ポー
ラー、ギャバジン、毛メリヤス糸、手編毛糸などによくこの梳毛糸が使われる。
紡毛糸では梳毛紡績過程での副産物ノイル(Noil) あるいは、反毛などと混ぜ合わせたも
のを原料としており、紡糸された糸は表面が毛羽立っており、梳毛糸より強力はないが、
縮充性に優れるためにメルトン、フランネル、などのオーバー地や毛布など縮充する製品
によく使われる。
顕微鏡で羊毛繊維の側面を調べると、うろこ状の鱗片(スケール)というものが目につ
く。この鱗片を有することにより、ウールは繊維同志が絡み合いフェルト化という現象を
引き起こす。また、捲縮(クリンプ)という縮れも見え、この物理現象により糸に紡ぎや
すくなっている。断面は、円形のものが多い。さらに、その断面の組織は数種類に分かれ
、鱗片の見られる表皮と、内部はフィブリルとプロト・フィブリルをそれぞれ有する、 A
−コルテックス(オルソ・コルテックス)と B−コルテックス(パラ・コルテックス)を
含む構造となっている。
羊毛の成分は炭素、水素、窒素、酸素、硫黄の五元素から成っており、この中の水素が他
の繊維と比べ特殊である。燃焼試験の結果は絹の場合に準ずるが、炎から離れるときに困
難に燃えつづけ、燃焼に先立って縮れる。
繊維の長さは、種類により差があり、年一回の剪毛で46cmになるものもあるが、メリノー
で 5〜10cm、雑種で 7〜20cmが普通である。太さは豪州メリノーで、0.018 〜0.023mm 、
雑種で0.024 〜0.042mm 程度である。取引の際には、通常、何番程度の糸を紡出する羊毛
かということで質番(Quality Number) を決め、何番の羊毛、といった取引のされ方をす
る。
羊毛の特徴としては、吸湿性に優れ、乾燥した日でも約12% 、湿った日でも約20〜30% も
水分を含み、この性質により保温性も増す。その他の特徴は、弾力性、染色性に優れる、
紫外線透過率が高いなど、衣料原料としての長所が多い。
成分、燃焼試験
羊毛には独特の縮れが見られる、人工的に縮れを与えた捲縮スフなどもあるが、これと
比べ羊毛は、湿して引き延ばすと、時間の経過に従い元に戻るという優れた性質があり。
純毛の製品は、肘や膝などが伸びても、しばらく懸垂しておけば形が復元するという特長
を持つ。また、クリンプの種類では、(Normal) 波形が浅くあらいものと、(Deep) 深く
て細かいものと、(Flat) ほとんど直線に近いものがあり、さらに、屈曲の方向が平面状
のものと螺旋状のものとがある。この捲縮があることで、紡績時の摩擦が増し、繊維の絡
み合いを助長するため、その波形が細かく多いものほど上質とされる。また、このように
クリンプの発達したものほど、製品になってから、手触りがよく、ふっくらとして、保温
性が高い。
この表面に発生している鱗片により、他の繊維との区別は容易になるが、死毛にはほと
んど見られない。このスケールは縮充作用に対して大きな役割を持ち、フェルトや縮充仕
上げによる紡毛織物の製造を可能にするが、反面、洗濯による縮みや着用時のチクチク感
などの欠点をも生み出す原因となる。この欠点をなくすために脱スケール加工を施す製品
もある。
他の繊維と比べ、吸湿性に優れ、常湿時に空気中で約16% も吸湿し、飽和状態では約30
% までも吸湿する。湿潤時には、強力はやや低下するが、乾燥時の強力は、良質の毛糸で
同じ太さの金線、銅線と同程度の強さを持つ。
羊毛は、長く日光にさらされたり、熱湯、アルカリ溶液などの作用を受けたのち、空気
、または日光に出会うと黄変する。そのため、洗濯時にはアルカリや高温をさけ、乾燥時
には日光に当てない注意が必要である。しかし、軽度の黄変であれば、酸性亜硫酸ソーダ
と硫酸の混合液や過酸化水素水で取り除くことが可能である。
ウール製品の加工で一般的なものとして前述の脱スケール加工というものがあり、これ
は、表面のスケールを塩素で分解することで、チクチク感を無くし、しなやかでシルキー
な光沢を持たせ、洗濯性向上や色落ちをある程度抑えるなどの利点を生み出すが、反面、
この加工により、強力、耐久力の低下、水に濡れやすくなるなどの欠点をも生み出す。
その他に、最近では、防しわ加工としてウールに蛋白質を付着させる加工法なども開発さ
れている。愛知県尾張繊維技術センターでは、羊毛などに含まれる高分子蛋白質を繊維内
部に付着させる方法でシワを付きにくくする高性能ウールの開発に成功したという。この
研究では羊毛などを溶かして抽出したウールケラチン、コラーゲンといった天然の蛋白質
を加水分解という手法で加工に利用しやすい液体に精製。これにウールを浸し、蒸し加工
するとウール繊維の内部まで高分子蛋白質が定着し、シワが出来にくくなったという。
ヒマラヤ山中、北部インド、モンゴル、チベットなどで飼育される山羊の一種で、二種
類の毛が混生している。体の表面の太く粗硬なヘアーとその根元に発生している短く、柔
らかい毛があり、この短いほうを使用する。
毛は細く0.012 〜0.020mm 程、太さは 4〜 9cm程あり、質は極めて柔らかく、手触り
は滑らかで、スケール、クリンプともに見られるため保温性に富み、絹状の光沢があり、
強靱である。色は白色のものが最も上等で、その他灰色、褐色、淡紫色などのものが見ら
れる。剛毛と柔毛を分離するには、専用のカード(梳毛機)を使い、この作業を整毛と呼
ぶ。柔毛のほうは強力が弱く、可紡性に乏しいため、通常二、三割の細いメリノー羊毛と
の混紡とされる事が多い。
また、手で紡いだカシミア糸を、経は双糸、緯は単糸づかいとして2/2の右綾か経二重に
手織り機で織る。この布を称してカシミアと呼び、薄地のうえに軽く柔らかく、古来より、
毛織物の最高級品とされ、礼服やオーバーなどに使用された。カシミアショールは、カシ
ミア糸のうち最高のものを使い、両面に刺繍を施すため非常に高価で模造品を出すほどで
あった。
剛毛のほうは、通称カシミア刺毛(さしげ)と呼ばれ、洋服の芯地等の用途に使われる。
また、カシミアとは、経に梳毛糸、緯に紡毛糸を使い、2/2 の正則斜文に織った毛織物の
意味に使われることもしばしある。
モンゴル地方に産する、アジア系の双峰ラクダで、カシミアと同様、剛毛と柔毛を有す
る。柔毛は長さ 5〜7cm 、太さ 0.015〜0.030mm である。スケール、クリンプ共に相
当発達しており手触りも極めて柔らかい。色はほとんど暗褐色で、なかには灰色を帯びる
ものもある。これらの色素は漂白によっても落ちないので、このままか、濃色に染めて使
用する。これも、通常二、三割の羊毛との混紡とされる事が多い。保温性に富み、軽く、
メリヤス、コート地、毛布、下着、シャツなど高級品に使用されるが、市場においての絶
対量が少ない。
アンゴラ山羊の毛で、主な産地はトルコ、南ア共和国で、現在ではアメリカ、オースト
ラリアにも移植されている。毛は羊毛より長く15〜18cm程で、太さは0.03〜0.05mm位であ
る。色は大体が純白色で、ときには淡黄色、銀白色のものがある。光沢が強くスケールは
微かに見られる。手触りは滑らかで、強力、反発力に強い。クリンプはほとんど無いが、
産地により10cm間に10〜12位の捲縮の見られるものもある。その性質上、紡績は比較的困
難で特殊な技術を要する。用途は、薄地の夏服、裏地、帽子、セーター、高級プラッシュ
(毛足の長い経パイル)の原料に用いられる。
南米ペルーのアンデス山脈高地に生息する山羊の一種でラマの仲間。繊維の表面は平滑
で、スケールが微かに見られるが、クリンプはほとんど見られない。色は白色、黄色、灰
色、褐色があり、中では褐色のものが賞用される。手触りは滑らかで、光沢が強く、綿、
羊毛、ポリエステルとの交織で洋服の裏地などにされることが多い。
大別してアンゴラ兎毛(Angora Rabit Hair)、家兎毛(Rabit Hair) 、野兎毛(Hare H
air)に分けられ、それぞれ、ガード・ヘアー (刺し毛) 、ダウン (わた毛) を持つ。この
うちアンゴラが最も優良な毛を産出し、長さは年一回の剪毛で 10〜13cm、太さは0.01〜
0.03mm程度。色は純白、手触りは滑らかで柔らかいため、毛織物やニット、特にセーター
や手袋、ショールなどの原料になるが、欠点としてクリンプ、スケールがほとんど無く、
強力も乏しいためメリノーと混紡しても、だんだんとその毛足が脱落してしまう。家兎毛
、野兎毛は主に、毛皮としての需要のほうが多いが、ソフト帽のファー・フェルトの原料
となる。
牛毛は主として、皮革工場で牛皮をなめすときの副産物として生じるものである。可紡
性は乏しいが、縮充性は多少あるので。紡績用としては粗末な敷物の紡糸原料として多少
混紡する程度で、フェルト用には、保温、防音、防熱用の粗製フェルトの原料となる。そ
の他、クッションの充填材にもあてがわれる。
南アメリカのアンデス山脈に生息する、ラクダ科の野性のラマ。毛は獣毛繊維中、最も
柔らかく、強い。色は黄金栗色で、光沢に富み、弾力がある。ショール、ドレス、コート
、メリヤス製品に用いられ、高価な毛製品として珍重されている。良質な羊毛と混紡、交
織されることが多い。
「婦人が欲しがる軽くてきらきら光る織物を、夫たちは同じ重さの金を支払って買っ
た。それは水のようにさらさらと流れ落ち女の身体を包んだ。」(オーストリアの文化史
家ヘルマン・シュライバー「絹の文化史」の冒頭部分)
このように絹は、その繊維の持つ顕著な光沢感と軽やかさや、優雅な触感、独特な絹鳴
りの音により、古い時代から人々の憧れの素材であり、繊維素材のなかの王であり、また
化学繊維の発生も絹という繊維の存在が原因ともなっている。そして、今でも繊維の価値
観での先端に位置する素材である。さらに、素材学からのアプローチだけではなく、文化
としての側面からもシルクロードとのかかわり合いや、馬頭観音などに見られる養蚕伝説、
また、その美しさとは裏腹の養蚕の労苦など、文化や歴史、民族学的な視点で見ても大変
に面白いものだが、ここでは特に素材としての見方を中心で接したいと思う。
生糸(Row Silk) とは、繭を解舒(かいじょ)して採った長いままの繊維のことで、これ
を精錬したものを絹糸または練糸(ねりいと)という。
絹糸を作りだす蚕の種類にも、大きく家蚕と野蚕の二種類に分かれる。このうち、家蚕
とは、これから主に話を進めていく、優雅な光沢を持ち、高価な値で取引された、代表的
な絹のことで、通常、絹糸あるいは生糸といったらこちらを示す。屋内で桑の葉を与えて
飼育され、品質も野蚕に比べ良質である。
野蚕とは山野で飼育され、かしわ、くぬぎ、なら等を与えて飼育する、野性的蚕児の繭よ
り採れる繊維で、またその種類により柞蚕絹、天蚕(山繭)絹、エリ蚕(熱帯地に適し、
ひま植物を飼料とする)絹などが見受けられる。このうち商品価値としては柞蚕が重要で
ある。この柞蚕の繊維は、一応絹の感触を備えているが、糸むらや成分中の不純物も多く
、漂白しても独特なクリーム色の色素が残る。アルカリや酸に対して家蚕より抵抗力を持
つが染料に染まりにくく、家蚕の染料では染め付けることが出来ない。しかしこの性質に
より、家蚕との交織織物の浸染による縞織物の原料に使われる。また、この柞蚕の産地は
中国の芝罘地方を中心とした山東省付近一帯に多く産出され、国際商品として相当量取引
されている。日本では長野、福島、群馬などで若干生産されているにすぎない。
生糸を製造する際に生じるくずの絹繊維類、または、くず繭を一括して副蚕糸と呼ぶ。
通常、単に副蚕糸と呼ぶときは家蚕のもので、柞蚕のときは特に柞蚕副蚕糸と呼ぶのが正
確である。これらはそのままでは繊維状の糸にならないので紡績機にかけ、絹紡糸にして
使用する。
副蚕糸を機械的に開繊し、紡績したもので、生糸よりも 膨らみ、毛羽立ちがあるのが
特徴。富士絹や銘仙などに使われていたが、戦後、割安の化繊により生産が減退する。
絹紡糸を作る際に製綿工程で出来る二等綿、または、梳綿工程で落ちたくず(Bourett
ブーレット)を原料として作った粗末な紡績糸。絹紡糸に比べ、光沢、強力に劣り、糸ム
ラやネップも多く、太さもやや太い。
真綿から手工的に紡いだ糸のこと。主として結城紬などに使われる。
※真綿──植物性の綿に対して蚕からの綿を真綿という。日本では古くはあまり木綿
(もめん)類は知られていなかったので、綿と言えばほとんど絹綿であっ
た。しかし、平安時代になり木綿綿が伝わり盛んになると、いつしかそれ
を綿と呼ぶようになり、そこで本来、綿と呼ばれていた絹綿を新しく真綿
と呼ぶようになった。
生糸に撚りをかけたものものを絹撚糸という。生糸にはセシリンにより何本かの繊維が
膠着していて、精錬後にはこれらが分離してしまうので、織物にする場合には多少撚りを
かける。また絹撚糸のなかには縮緬緯糸という撚りを1m中に2000〜3500回もかけ
た強撚糸の一種や、壁撚糸などがある。壁撚糸とは、壁御召に用いられるゴツゴツした感
じの糸で、3〜9本の生糸を引きそろえ、そこに1〜2本の生糸を下撚数の約半数の撚り
をかけそろえることで、後から引きそろえた糸の周囲に蔓が巻きついたような糸ができる
ものである。
二頭以上の蚕が同居して作った繭を玉繭と呼び、これから採れる糸を玉糸と呼ぶ。玉繭
の解舒は困難で、採れた糸には所々に節があり、銘仙、シャンタン、紬地に使われる。近
年では、蚕の改良と蔟(まぶし)の工夫により玉繭は少なくなった。
絹の歴史として一番古いとされているものは、新石器時代ごろの汾河下流の夏県西陰地
区、彩陶遺跡よりの繭の出土とされている。この繭はあきらかに野蚕の一種とみられてお
り、同地区で紡錘車も出土しているので絹糸を作っていたとみて間違いないであろう。
わが国には、西暦200〜207年頃伝えられたとされている。現在では世界各国に伝え
られ、特に温帯地方、アジアでは日本、中国、韓国、インド、イラン、トルコで、ヨーロ
ッパでは旧ソ連、イタリア、フランス、ギリシャで、南米ではブラジルでなど、各地で生
産されている。なかでも日本は一時期、総生産高が四割(戦前は八割)もあった時期もあ
り、消費量も世界最高である。ちなみに現在の日本の生産量は、最盛期であった昭和五年
の生産量四〇万トンの二十分の一程度で、生産農家数も減少の傾向にある。現在、原料の
供給は中国などからの輸入に頼る状況で、最近特に韓国などに買い付けにいく業者も多く
、値段の手頃な絹製品はこのような産地の品物であることが多い。
繭糸は、二本のフィブロンとその表面を覆いフィブロン同士を結び付けている膠質のセ
シリンからできており、成分は両者共に炭素、水素、酸素、窒素の複雑な化合物である。
絹として使用する場合は表面のセシリンを石鹸や炭酸ソーダ、珪酸ソーダなどで煮て溶解
し取り除く。この工程を精錬(Scouring) と呼ぶ。生糸はセシリンのため光沢が鈍く、手
触りはやや硬直であるが、精錬した絹は銀白色、半透明の美しい光沢があり、繊維原料と
しては古来より、ヨーロッパなどでは特にストッキングの原料などとして珍重されたもの
である。絹には絹鳴り(Scroop) という独特の特徴があり、この性質は希薄な酢酸などに
浸し乾燥させることにより、さらに増長させることが出来る。
太さは天然繊維のなかで一番に細く、繭糸の繊度(太さ)は繭の種類や繭の内側と外側で
も異なるが、だいたい平均して 2〜3 デニールであるので、九粒の繭より繰糸すれば大体
27デニールの糸が出来るが、全長にわたり太さは均一でないので27デニールを中心にして
多少、太細のあるものを27中(なか)と呼ぶようになっている。生糸の太さは近年、太い
ものの需要が増しており、最も代表的なものは21中と27中である。そのうち、27中が生
産費で有利な点もあり、多くなりつつある。
また、絹はしなやかで弾力もあり、伸度は元長の20〜25% にも及ぶため、ドレープ性に
優れ、強力も同じ太さの銅線の3/1 と強い。欠点として紫外線の作用により脆化しやすく、
アルカリには綿より強く羊毛より弱いが、酸には綿より弱く羊毛より強い。さらに優れた
吸湿性という特徴も持っており、30% もの水分を含んでも湿っぽく感じず乾燥状態に見え
る。しかし、生糸の取引は重量によるため、公正で厳密な方法による正量の換算法が存在
する。顕微鏡で側面をみると表面は滑らかで変化がなく、太さに変化のあるシック アン
ド シンという特徴が見つけられ、断面は三角形を成している。比重は1.30〜1.37で、溶
剤は5%水酸化ナトリウム溶液、次亜塩素酸ナトリウム溶液、 60%硫酸、 35%塩酸、同アン
モニア溶液である。燃焼試験では、炎に近づけると縮れて炎から離れ、炎のなかでは縮れ
て燃える、炎から離すと羊毛に似ているが、ややひらめいて燃える。燃焼時の臭いは毛髪
の場合に似ており、灰は黒く膨れ上がりもろくつぶれる。
養蚕は通常、年三回行われ(所により四回)、飼育される季節により、春蚕、夏蚕、夏
秋蚕、秋蚕、晩秋蚕と呼ばれる。品質的には春蚕(はるご)の繭(春繭)が上等とされて
いる。収穫された繭は地域によっては「ばてんや」と呼ばれる所に集荷される。蚕は一頭
、二頭と数えられる。それは蚕の頭胸部の形が、側面から見ると馬の頭に似てるためで、
中国では馬頭娘、馬頭嬢などと呼ぶ地方もあり、そのような理由で蚕は一頭、二頭と数え
られるようになったのではとする説がある。
生糸は繭表面のセシリンによって相互に癒着しているので、これを熱湯で処理し解舒を
行い糸を引きだす。この作業を繰糸というが、一本の生糸では細すぎ、実用に向かないの
で、四〜一一個の繭から繊維を引き揃えて集緒器の小さい孔を通すことにより、一本の生
糸にし、小枠に巻き取る。一戸の繭から繊維が出尽くしたら、すぐに他の繭より繊維を補
充して。本数を一定に保つことが絶対条件である。従来の製糸機械は、人手により補給す
るものであったが、現在では給繭から糸を小枠に巻き取る作業までを一つの装置内で自動
的に行えるようになっている。繭切れによる糸むらなども定繊度感知装置の開発により自
動的に繭糸を補給するまでになっている。
絹は高価で、しかも、取引は重量をもってされるので、外観、手触り、強伸度を損ねな
い程度に増量という作業が行われ、タンニン酸、塩化第二スズ、デンプン、砂糖などを表
面に固着させ重量を増やすことがある。
また、絹のネクタイの結び目の型崩れ防止など、独特の地合いを付与する為に塩化第二ス
ズによる生地量の 50%ぐらいまでの増量が行われることもある。
最近、日本の養蚕業は、人件費の安い外国産の絹製品のあおりを受け、斜陽の傾向にあ
る。しかし、現在その外国産のものに対抗すべく、農水省が中心となって蚕の改良を着手
しており、様々な視点で、例えば、コストダウンや付加価値といった視点での改良が行わ
れている。
コストダウンの方向性では、農水省 蚕糸、昆虫農業技術研究所、松本支所が、一九八七
年より取りくみ、桑の葉以外を食べる広食種の掛け合わせにより、「あさぎり」「新あさ
ぎり」の二品種を開発した。これらのものは、リンゴ、バナナ、ナシなどの果実のほか、
大豆や澱粉による人工飼料での飼育に成功している。一九九二年から鐘紡などの民間メー
カーなども加わり、糸が実用に耐えるように開発を進め、さらに人工飼料そのもののコス
トダウンや、飼料を与える機械のオートメーション化など、蚕のブロイラー化への研究が
進んでいる。
一方、付加価値といった観点では、これも農水省 蚕糸、昆虫農業技術研究所により一九
八八年にパンティーストッキング用に開発された新種「あけぼの」などがある。「あけぼ
の」は糸の太さは従来の三分の二、一個の繭からとれる繊維の長さも約一割長く、極細の
ためナイロン等と交織する「ハイブリッド・シルク」に適する。さらに、洗濯ができ、伸
縮性があり、糸むらが少なく、染め上がりも上品に仕合がると言われている。すでに長野
など十一県で実験飼育が始まっており、価格もこれまでよりは一割ほど高いという。
現在、絹の需要の八割は和服であるが、高価だということと、着物離れにより需要が落ち
込んでおり、パンスト向けの蚕を作ることで、もう一度需要を回復させるねらいであった
が、その狙いとは裏腹に、一九九一年の「あけぼの」の繭収穫量のうちパンストになった
ものは、約二割ほどで、残りは結局、高級絹織物用になった。
そして、輸入自由化になっている絹製品の需要の約7割は、外国製品でまかなれている
現在、海外との競争力の強化を狙う絹織物業界では、蚕の改良よりも生糸自体の輸入自由
化を望む声のほうが大きいのが現状である。
石綿は唯一の鉱物天然繊維で、その成因は不明とされている。採掘時は岩石状を成して
いるが、砕けば容易に繊維状となる。
色は、白色、灰白色、または帯緑灰色で、比較的に光沢があり、質は強靱で、弾力、屈撓
性に富み、不燃性で耐火性もあり、熱の不良導体で耐薬品性もある。そのために、防火被
服、耐熱手袋、薬品の濾過などの用途に用いられる。しかし、最近アスベスト公害などと
騒がれており、他の合成繊維(特にビニロン)にその用途は取って代わられている。
衣料用繊維としては、現在はあまり活用されていないが、その他の天然繊維原料として
は、和紙があげられる。和紙は楮と、とろろあおい、または、みつまたなどを原料とする
繊維で、以前はそれらの和紙により、紙衣や紙布(しふ)といった着物にもなっていた。
これらは、、今のように軽く、温かい綿入りの着物が手に入らなかった時代に保温のため
の着物として発達したものらしい。
紙衣は、柿渋やクルミの皮を煎じた液で強度を増し、またそれらの液により染色された和
紙である。酸化作用によって染色されるので褪色せず、時間の経過によりますます発色し
さえする。
紙布は和紙を紙縒りにして経糸に使って織りあげた布帛である。結構な強度と保温性を持
ち、なかなか着心地のいいものであるが、何しろその作る際の手間といったら半端ではな
い。現在ではほとんど見られないものであるが、和紙で有名な宮城県の白石で作っている
人がいるということで、そこで作ったものを使って、ミヤケ・イッセイ氏がショーで衣服
の素材として使っていたこともあった。
その他に現在は使われていない植物繊維として、和紙の原料である楮のみで繊維にしたり、
アカソ、タスキラン、ヒノキ、藤、科(シナ)、穀(カジ)、葛などの草木を原料とした
繊維があるが、それらについては後ほど改めて述べることにする。