「トランジション・オフェンス」と言えば「速攻」のことである.では「トランジション・ディフェンス」とは何か? これは「相手の速攻を止める防御法」あるいは「相手にイージー・レイアップ・シュートをさせない防御法」と表現できる.防御局面→攻撃局面への転換局面がトランジション・オフェンスで,攻撃局面→防御局面への転換局面がトランジション・ディフェンスである.下に簡単なゲームの局面構造を示した.図からもわかるように,トランジション・ディフェンスは攻撃の終わりと同時に始まる.したがって,「攻撃の終わり方」がトランジション・ディフェンスに影響を及ぼす.さらに言うと「攻撃中に既に防御が始まっている」のである.攻撃戦術立案の段階から,リバウンド・ポジションやセーフティー・ポジションを考慮に入れることが重要である.

どのような形態であるかは別として,トランジション・オフェンスの練習(リバウンドからの速攻,シュートを入れられた後の速攻)は,恐らく全てのチームが行っているはずである.しかし,トランジション・ディフェンスの練習については,必ずしも全てのチームが行っているとは限らないのではないだろうか? バスケットボールにおいては,必ず,攻撃局面→防御局面,防御局面→攻撃局面への転換局面がほぼ同数存在するにも関わらずである.したがって,リバウンドからやシュートを入れた後のトランジション・ディフェンスが,勝利のために必要不可欠な練習課題であることがわかる.
トランジション・オフェンスについては,チームとしての原則が確立されているチームが多い.では,トランジション・ディフェンスについてはどうだろうか? バック・コートに帰陣してからのディフェンスは,相手の速攻を止めなければ存在しないものである.言い換えれば,トランジション・ディフェンスが十分に機能して初めて,強力なバック・コート・ディフェンスが威力を発揮するのである.どんなにバック・コートでのディフェンスを強化しても,簡単にレイアップ・シュートを打たれてしまっては,せっかくのバック・コート・ディフェンスが威力を発揮することすらできなくなる.「シュートを決めた後でさえ,あっさりと相手にレイアップ・シュートを決められてしまう」という恥ずかしいケースをかなりの頻度で目にするのは,トランジション・ディフェンスの確立が不十分な為ではないだろうか.
また,インターナショナル・ルールの改正に伴って,シュート・クロックが30秒から24秒(NBAと同じ)へ,バック・コートでの10秒ルールが8秒ルールに変更される(平成13年度からの予定).このルール変更がゲームのテンポをアップさせることは必至である.チームがより速攻に重点を置くようになり,ハーフ・コートでのセット・オフェンスもかなりのスピード化が要求される(6秒の差は想像以上です).その中で,トランジション・ディフェンスを確立し,ゲームにおける相手の速攻を1本でも多くストップし,フロントコートで1秒でも多く相手の時間を消費させ8秒バイオレーションを誘発させたり,24秒シュート・クロック・バイオレーションを誘発すべく激しくバック・コート・ディフェンスを展開することができれば,勝利へ一歩近づくことになる.
「必ずセーフティーを配置する」や「オフェンス・リバウンドを配置する」などの最低限の原則を作ることから初めて,最終的にはトランジション・ディフェンスをチーム戦術のレベルに高めることは,安定したチーム・ディフェンスを作り上げる上でも重要なトレーニング課題になると考えられる.このページでは,トランジション・ディフェンスについて考える.
1.「相手の速攻が怖いからオフェンス・リバウンドに行かずに素速く帰陣する」という考え方は,結果的に相手のディフェンス・リバウンドを確実にし,より早い速攻を仕掛けられてしまうという悪循環を招く.逆にオフェンス・リバウンドへ積極的に入り,少しでも相手にリバウンドのプレッシャーをかけることが重要である.たとえオフェンス・リバウンドが獲れなくても,リバウンダーに少しでもプレッシャーをかけることができれば,アウトレットパスが一瞬遅れ,ディフェンスの帰陣の時間を稼ぐことができる.トランジション・ディフェンスにおける防御側の第1の課題は,「オフェンス・リバウンド・ポジションを確立する」ことであり,そのことによって「アウトレット・パスの時間を遅らせる」ことである.
2.トランジション・オフェンスでは,どのチームも2対1や3対2のアウトナンバーを作ってイージー・レイアップ・シュートを打つことを狙うはずである.したがって,トランジション・ディフェンスにおける防御側の第2の課題は,「3人がどれだけ速くペイント(制限区域)に戻れるか」である.2人の帰陣だけでは,3線速攻でアウトナンバーされる可能性が高い.
3.トランジション・ディフェンスにおける防御の最終的な達成目標は「相手のレイアップシュートを止める」事であり,必ずしも「自分のマークマンをつかまえる(ピック・アップする)」こととイコールではない.4人が自分のマーク・マンをピックアップできても,1人がピック・アップできなければ,結果的にその選手にレイアップ・シュートを打たれてしまう.「何故かノーマークの選手がゴール下に居た!」なんていう最悪のケースは,トランジション・ディフェンスにおける課題の取り違えが引き起こす悲劇ではないだろうか.その時に「あいつのマーク・マンは誰だ!!!」といくら大声で怒鳴ってみても後の祭りである.トランジション・ディフェンスにおける防御側の第3の課題は,「ゴールに近い危険な選手から優先的にピック・アップする」ことである.後の項で詳細に記述するが,大切なことは「自分のマーク・マンを捕まえる」のではなく「自分の役割を果たす」ということである.
ここでは,参考資料に示したWinning Defenseを参考にしながら,作者が実際に指導してみた経験をふまえて,トランジション・ディフェンスの具体的な方法を10のステップで考える.
1.Get to 2-2-1 (or 3-1-1) spots and begin to play defense(2-2-1のリバウンド・ポジションからディフェンスを開始する)
図2に,トランジション・ディフェンスの開始ポジションを示した.これは,2−2−1のオフェンス・リバウンドのポジションである.5箇所のポジションの名称は,ローポストの左右「インサイド:inside」,ハイポストの左右が「ミドル:middle」,センターサークルが「セーフティー:safety」である.ハーフ・コートでの攻撃は全てこの2−2−1のポジションで終わることを目指す.

攻撃の終わりを常に同じ形に持っていくことによって,オフェンス・リバウンドの獲得によるセカンド・ショットが狙いやすくなり,オフェンス・リバウンドを獲得できない場合にも,引き続き行うトランジション・ディフェンスがより安定するという効果が生まれる.オフェンス・リバウンドを個人のタレント(能力)に任せるのではなく,チーム戦術として組織化することが重要であると考えられる.
1)各リバウンド・ポジションでの役割
インサイド・ポジション :ゴール下に落ちるショート・リバウンドの獲得を狙う
ミドル・ポジション :ゴールから遠くに落ちるロング・リバウンドの獲得を狙う
セーフティー・ポジション:ロングパスによるワンパス速攻を阻止する.
2)リバウンド・ポジションを埋めるための一般的な原則
1,2番の原則
ポイント・ガードが一般的にセーフティー・ポジションを埋める.但し,ポイント・ガードがペネトレートしたりポスト・アップした結果,セーフティーの役割を行えない場合には,セカンド・ガードがセーフティー・ポジションを埋めるのが一般的であろう.
セカンドガードは原則的にミドル・ポジションを埋める.但し,セカンド・ガードがペネトレートしたりポストアップした場合にはその限りではない.
3,4,5番の原則
3,4,5番の3人の選手の中の2人がインサイド・ポジションを埋め,残りの1人がミドル・ポジションを埋める.コミュニケーションと状況判断が必要である.
ゲームを観察していてしばしば見られる問題の一つが,コーナーからシュートを打って,そのままコーナーにステイする(居残る)ケースである.シュートを打った後に,そのシュートの軌道を目で追いながら,その場に残ってしまうのである.このケースの問題点は,シュートが成功した場合は良いとしても,もしシュートが不成功でロング・リバウンドになってしまい,相手にディフェンス・リバウンドを確保されてしまうと,一瞬にしてアウトナンバーされてしまう可能性があるということである(図3左).このコーナーの位置は,最もアウトナンバーされやすいポジションなのである.したがって,コーナーからシュートを打った場合には,図3右に示したように,先ず自分の側のミドル・ポジションへ移動し,ロング・リバウンドに備えた上で,相手にディフェンス・リバウンドを獲られたら帰陣するという順で行動する習慣を付けることが重要である.シュートされたボールは,手から放れた瞬間に「どちらのチームの所有でもない中立」のボールになる.空中のボールをどんなに眺めていても,ゴールへと入ってくれる手助けにはならない.それよりも,次の行動をいち早く始めることが大切であろう.

2.Pressure the ball with jammer(リバウンダーにプレッシャーをかける)
リバウンドを相手に確保された場合には,リバウンダーに最も近い選手(「jammer」)がリバウンダーの外側の肩にプレッシャーをかけ,同時にボールを両手で「トレース」することによって,アウトレットパスを受ける選手(outlet man)へのアウトレット・パスを少しでも遅らせる努力をする.
ここで問題となるのは,Jammerのねらいは「アウトレット・パスを少しでも遅らせる」ことであり,「リバウンダーのボールを取る」事ではないということである.ねらいをはき違えると,リバウンダーにファールをしてしまう結果になり,それはチームにとってのマイナスになる.シュートを落とした選手がリバウンダーにファールをしてしまうケースをよく見かけるが,これではミスにミスを加える二重のミスであることを強く意識させることが重要である.
3.Cover the safety spot to protect the goal from the long pass(ロングパスによる速攻を防ぐためにセーフティー・ポジションを守る)
セーフティー・ポジションを埋めたガード(「first safety」)は,素速くミドル・ライン(リングとリングを結んだ線上)をバック・コートへ向かって帰陣しながら,図4に示したセーフティー・スポットを守り,相手のロングパスによるワンパス速攻を防ぐ努力をする.

ここで問題となるのは,first safetyのねらいは,あくまで「相手のレイアップ・シュートを防ぐためにゴールを死守する」という事であるにもかかわらず,バック・コートで相手のボールをスティールしようとしてギャンブルをする事である.ギャンブルは,成功すれば「Big Play」になるが,バック・コートでの危険性の高いプレーは,トランジション・ディフェンスにおいてはチームに大きなダメージをもたらす結果になる.「first safetyの後ろには誰もいない」という事を強く意識させることが重要である.例え2対1にアウトナンバーされたとしても,少しでも相手に時間をかけさせることができれば,その間に味方の帰陣が可能になるし,ジャンプ・シュートを打たせることができればシュート・ミスを誘発させることも可能になる.トランジション・ディフェンスは,あくまでレイアップ・シュートを阻止してバック・コート・ディフェンスへ持ち込むことがねらいであることを忘れてはならない.
4.Cover the outlet man with the outlet defender(アウトレット・パスを受ける選手を守る)
ミドル・ポジションを埋めたガード(「outlet defender」)が,相手チームのアウトレット・パスを受ける選手にプレッシャーをかけ,簡単ボールを持たせないように努力する(図5).また,例えボールをもらわれたとしても,ミドルライン方向に簡単にドリブル突破されないような「方向づけ」のポジションを取る.ミドルライン方向へドリブル突破されてしまうと,一気にアウトナンバーされてしまう危険性が高くなる.ドリブルはサイドライン方向へディレクションをかけ,相手の攻撃の可能性を少しでも小さくする努力が必要である.

ここでも,outlet defenderのねらいは「アウトレット・パスを遅らせること,ドリブルの方向を限定すること,時間をかせぐこと」である.したがって,無理にアウトレット・パスをディナイしたり,無理にドリブル・スティールをねらったギャンブルを行うことは避けなければならない.その試みが失敗した時には一気にアウトナンバーされてしまう結果を招く恐れがある.
5.Release the first safety man with the release man(第1のセーフティーを解放する)
ミドル・ポジションを埋めたもう1人の選手(「release man」)は,最初にセーフティーの役目を果たしたfirst safetyを解放(release)するために,バック・コートへダッシュして帰陣する(図6).

first safetyは,2人目(release man)が帰陣して初めてセーフティーの役目を解放される.素速く帰陣したrelease manが第2のセーフティー(second safety)の役割を果たす.
6.Run the sprinter out(リバウンドと逆側の選手がダッシュして帰陣する)
インサイド・ポジションを埋めたリバウンドと逆側の選手(「sprinter」)は,リバウンドが逆サイドに落ちた事を確認したらダッシュで帰陣する.sprinterは一般的に3,4,5番の選手のいずれかが行うことになるであろう.1,2番の選手は,first safetyかoutlet defenderの役割のいずれかを行うのが一般的である.
ここでの問題点は,上の5のrelease manにも共通することであるが,「自分のマッチアップしている選手がゆっくりとフロント・コートに進んでいるから,それに合わせて自分もゆっくりと帰陣する.」ということである.sprinterの役割は「自分のマッチアップしている選手を守ること」ではなく「ダッシュで帰陣し,先に帰陣している小さい選手をセーフティーの役割から解放し,第3のセーフティ(final safety)の役割としてゴール下を守ること.」であることを徹底する必要がある.
first safety,release man,sprinterの3名が素速くバック・コートに帰陣することによって,3対2というアウトナンバーを確実に阻止することができる.first safetyとrelease manの2人だけでは,相手の3線速攻により3対2のアウトナンバーに陥ってしまう可能性が高い.トランジション・ディフェンスでは「ペイント(制限区域)に3人が戻る」というキーワードがあるが,その具体的な内容である.
7.Discurage the sideline pass(サイドライン沿いの縦パスを阻止する)
first safetyは,release manが帰陣してセーフティの役割を解除されたらすぐに,ボールサイドのサイドラインに沿った縦パスを阻止するように努力する.この時に,ボールマン(outlet defenderが守っている)とボールサイドで縦パスを受けようとするレシーバーの間で,図7に示した「サイドライン・トライアングル」の位置を埋めることが重要である.縦パスは,一気にボールを前へ進めてしまうことになり,そこから素速く攻撃を開始されてしまう恐れがある.
しかし,first safetyがボールサイドの縦パスを阻止することを狙うのは,あくまでrelease manによってセーフティーの役割を解放された後である.セーフティーが1人しか居ない状態で安易にボールサイドに飛び出してしまうと,結果的にゴール下を守る人が居なくなり,後から走り込んだ相手に簡単にゴール下で得点されてしまうという最悪の結果に陥ってしまう.first safetyとrelease manとのコミュニケーションが重要であろう.

8.Fill the middle of the court(コートの中央を守る)
release manは,sprinterが帰陣し第2のセーフティの役割を解除されたら,図8に示したように,すぐにコート中央へのパスやペネトレートを守る努力をする.

first saftyがサイドライン沿いの縦パスを阻止し,outlet defenderがボールマンのドリブルをサイドライン方向へ方向付けしている状況の中で,コート中央へ簡単にパスを通されてしまっては,トランジション・ディフェンスの効果が一気に半減してしまう.sprinterが帰陣したらすぐにコートの中央を守ることが重要である.
first safetyとrelease manは,いずれも「戻りながら守る」という意識よりも「一旦戻ってから反撃する」という意識を持つことが,結果的に相手の簡単なレイアップ・シュートを防ぐことができるであろう.
9.From the middle triangle(ミドル・トライアングルを形成する)
jammerはボールがoutlet manへパス・アウトされたら,すぐにボール・ラインまで下がり,図9の上に示したように,コート中央でミドル・トライアングルを形成し,ボールマンのミドル・ライン方向へのペネトレートや,クロスコートのパスに対してヘルプできるポジションを取る.
但し,図9の下に示したように,リバウンダーがアウトレット・パスの後に,ボール・ラインを越えて進む場合には,それにともなってバックコートへ帰陣する.この時には,ミドル・ライン・トライアングルの役割はrelease manに移る.ボール・ラインよりもリバウンダーが遅く進む場合には,ミドル・トライアングルの位置をキープしながら帰陣する.この場合には,あたかも2−2−1のゾーン・プレスのような隊形になる.

トランジション・ディフェンスでは,ハーフ・ラインを通過するまでに,逆サイドへ平行にボールがパス(reverse)されてしまうことがある.しかし,これはトランジション・ディフェンスの成功と考えるべきである.逆サイドへのリバース・パスが行われたということは,それだけ相手はボールを前進させるために時間をかけなければならないということであり,簡単なレイアップ・シュートを行われてしまうという最悪の結果は回避できたのである.これに対して,outlet manに簡単にミドル・ライン方向へドリブル突破されたり,ミドル・ラインへ簡単にボールをつながれてしまうのは,トランジションディフェンスの明らかな失敗である.アウトナンバーされ,簡単なレイアップ・シュートを打たれる可能性が高くなるからである.
図10に示したように,outlet defenderのディフェンスが機能し,リバウンダーがボールサイドへのアウトレット・パスを中止し,逆サイドへクロス・コートのアウトレット・パスを出した場合には,お互いにコミュニケーションを取りながら,release manがoutlet defenderの役割を果たし,outlet defenderがrelease manの役割を果たすようにする.

10.Make the ball be dribbled over the halfcourt line near the sideline(サイド・ラインに近い位置のハーフ・ラインをドリブルで通過させる)
9までのステップでトランジション・ディフェンスの最初のねらいは果たされたことになる.この後は,outlet defenderが,ボールマンをできるだけサイド・ラインに近い位置のハーフ・ラインをドリブルで通過させるように努力することが重要である.これによって,相手の攻撃は時間がかかり,攻撃の可能性は限定される.場合によっては,ハーフ・ラインを通過する時点で,ボール・サイドからのジャンプや,ブラインド・サイドからのダブルチームを仕掛ける積極的なディフェンスを展開することも可能になる.
ここでも,outlet defenderは危険性の高いドリブル・スティールを狙いすぎてはいけない.あくまでボールをコートの隅っこへ「封じ込める」という意識が大切である.
トランジション・ディフェンスでは,各選手が自分のマッチアップ以外の選手についてしまう場合があるが,最初にも記したように,トランジション・ディフェンスでは「自分のマークマンを守る」ことよりも「自分の役割を果たす」ことが重要である.したがって,マッチアップが代わってしまってしまっても仕方がないのである.その場合には,バック・コート・ディフェンスが始まってから,機会を見て元に戻ればよいだけである.速攻を止めさえすれば,マッチアップを元に戻す時間くらいいくらでもあるはずである.
インサイド,ミドル,セーフティーというリバウンド・ポジションと,そこから始まるjammer,first safety,outlet defender,release man,sprinterという個々の選手に与えられた役割を理解することが,トランジション・ディフェンスを成功させる鍵になる.指導の導入段階においては,リバウンド・ポジションや,それに続く自分の役割を,声を出してコールさせることが必要である.声を出すことによって,自分が果たすべき役割を認識する習慣が身に付くと考えられる.
トランジション・ディフェンスによって相手の得点を完全に防げるわけではない.しかし,与えなくても良い得点を与えないで済むという効果はある.この数点の差が,接戦をものにするか失うかの境目になるかもしれないことを考えると,トランジション・ディフェンスは,チームとしてしっかりとした準備をするだけの価値があるであろう.
1.3−1−1のリバウンド・ポジションからの開始
3−1−1のリバウンド・ポジションからのトランジション・ディフェンスは,5人を短身者(ガード)の2人と,長身者(センターとフォワード)の3人に分けて,長身者の3人がトライアングルのリバウンド・ポジションを形成することによってJammer,release man,sprinterの役割を行い,短身者の2人がfirst safetyとoutlet defenderの役割を行うというものである.
但し,この場合には,図11に示してある「アウトレット」のポジション(「outlet defender」のポジション)が,図中の位置である必要はなく,相手チームのボールを運ぶ選手の位置によって変化する.

相手チームが,ボールを運ぶ選手を決めているような場合には,最初からその選手へのアウトレット・パスに対して少し圧力をかけることが,トランジション・オフェンスを阻止する有効な手段になる.そのような場合には,3−1−1のリバウンド・ポジションで最初からボールを運ぶ選手に圧力をかける方が,トランジション・ディフェンスにおける各選手の役割をより単純化することができるのではないだろうか.他の4人の選手の役割は,2−2−1の場合と同様である.特に,リバウンドと関係の無い2名の選手(release manとsprinterの役割の選手)の素速い帰陣が必要であることは言うまでもないであろう.
2.シュート成功の後にオール・コートのゾーン・プレスを仕掛ける
本来トランジション・ディフェンスは,シュートがはずれて相手にディフェンス・リバウンドを獲得された時に,そこから簡単なレイアップ・シュートやアウトナンバーによる攻撃をさせないために準備するものである.しかし,攻撃におけるリバウンド・ポジションを常に意識できるようになると,シュート成功後にすぐさまオール・コートのゾーン・プレス(特に2−2−1)を仕掛けることが容易になるという利点が生まれる.
プレスの1線目に配置し,長身者を2線目や3線目に配置することが多いと考えられる.しかし,攻撃においては,一般に,長身者をゴールに近い位置に配置し,短身者がアウトサイドに配置されることが多い.その為に,シュート成功後に,「長身者と短身者が入れ替わる」という現象が起きる.相手のスローインが遅い場合には,これでも十分に対応することができるが,スローインが速い場合には,ゾーン・プレスの隊形を整える前に一気にボールを運ばれて,アウトナンバーされてしまうという問題が発生する.
これに対して,攻撃の終わりのリバウンド・ポジションからそのままの隊形でゾーン・プレスに移行することができれば,ゾーン・プレスの威力もより増すものと考えられる.長身者がプレスの1線目にいるということは,それだけ相手チームのガードの視野やパスコースを妨げるという利点も生む.また,機動力のある選手が2線目や3線目にいるということは,パスのスティールの可能性も高まると考えられる.
但し,これには長身者の機動力をある程度強化する必要がある.少なくとも,相手のドリブルに対して遅れずに付いていけるだけのスピードが必要不可欠であろう.また,1線目の圧力が全く無いようではプレスの意味がなくなるし,1線目を突破された場合に素速く帰陣する脚力が無ければ,相手チームに簡単にアウトナンバーされてしまい,プレスがかえってあだになる.
したがって,どのような形でオール・コートのゾーン・プレスへ移行するかは,構成員の能力のバランス次第ということになるであろう.また,オール・コートでのゾーン・プレスの後に,ハーフ・コートのゾーンに移行する場合に,選手の配置をどのようにするかという問題も解決する必要があろう.(ゾーン・プレスの中でダブルチームをかけながら帰陣する間に,ローテーションが起こり,開始ポジションから逆転していることは考えられるが・・・)
≪書籍≫
◎Winning Defense,Del Harris,Masters Press (A Division of Howard W. Sams & Co.),USA,1993.(金額不明)”元ロサンゼルス・レイカースのヘッドコーチが,ディフェンスのチーム戦術について解説.トランジション・ディフェンスからバック・コートでのトラップ・ディフェンスまで詳細に解説.