ビューリーズ・カフェ




 いざ歌え、いざ踊れ、ケルトの民よ。麗しのエレンは竪琴を奏で、我が心は遥かティル・ナ・ノグに馳せり。
地図を捨て、妖精の道しるべを頼りに、笑顔とお喋りと、ほおばる果実と、払い切れぬわびしい追憶とを伴って、
タラの丘までたどり着けば、そこが我らの魂の故郷であると、樫の杖を携えたドルイド僧は語る。
「昔の人間の心はサフラン色の朝とともに訪れる炎の滴であり、月の青白い、湾曲した貝船から降るしろがね色した喜びの滴だった」―W・B・イェイツ
ここ『ビューリーズ』はその滴を飲み乾すところ。それはギネスの滴でもあり、ジェムソンの滴でもあり、そして名だたるアイルランドのシチューの、皿に残った最後の滴でもある。

ビューリーズ  ヨーロッパの西の果て、アイルランド共和国の首都ダブリンに『ビューリーズ』は創業した。1840年のことである。
その半世紀後、市内にカフェを開き、アイルランド国内では現在23の店舗を構えるまでになった。イギリス、フランス、更に95年に2軒オープン予定のアメリカなど世界各国の店舗、先頃開通したオイロトンネルの両端パッセンジャー・ターミナルへの進出と、海外へも積極的に出店しはじめることにもなった。
わたしたちが訪ねた東京原宿店は、93年5月に開店した『ビューリーズ』の海外初出店舗であり、94年11月にオープンした所沢店をも考え合わせると、ビューリーズの日本市場に対する期待感が、並々ならぬものであると認識させられる。
にもかかわらず日本人のアイルランド認識は極めて低いと言わざるを得ない。最近ではネタの無くなってきた女性誌がケルト文化を紹介し始めたが、それにしたって欧州のケルト再認識ムーヴメントより10年以上遅れている。
音楽シーンではエンヤのおかげでアイリッシュ・ミュージックが盛り上がりを見せ、10年前では手に入らなっかたアルバムが国内盤で発売になるわ大挙してミュージシャンが来日するわで、好き者には堪えられない状況になってきたのは有難い。
しかし、女性誌の特集や音楽では知っているが、例えば新聞、TVをIRAが賑わしているのはどうゆう理由からなのかなんていう、その文化や生活の「根っこ」の部分に興味・関心を持っている人がどれほどいるだろうか。

 アイルランドは北海道よりわずかに大きく、人口の面では約350万人と1割がた少ない。そんな小国にもかかわらず、イェイツ、ショー、ベケットという3人ものノーベル文学賞受賞者を輩出している。スウィフト、ジョイスという文学史から外すことができない重要な作家をも生んだ。
そして「アイルランドの無神論者とは、神を信じる事ができるようにと神に祈る人のことだ」という言葉があることからも分かるとおり、宗教が生活の中に生きている国であるとも言えよう。
そんな精神文化のまほろば(理想郷)たるアイルランドが、ケルトが、この世紀末に見直されるということは、今が物質文明の黄昏であることに他ならない。わたしたち東洋の精神文化と、ケルトの持つ西洋の精神文化とが歩み寄るための第一歩としてまず「食文化」から当たってみるというのはどうだろうか。
その場所を提供してくれるのがここ『ビューリーズ』なのである。
さぁ、お喋り好きで音楽好き、情熱的なケルトのカフェ&パブの御紹介といきましょう。

   本店のビューリーズはセルフ・サービスの純喫茶であるが、ここ原宿店ではパブ・タイムを設けている。
これはアイルランドの「パブ」文化をも併せて紹介したいという、店側の粋な計らいによる。それによって日本に居ながらにしてアイリッシュ・パブの雰囲気を味わえるのだ。
もっとも本場のパブではドクター・フィールグッドやポーグスの様な「パブ・ロック」の演奏も楽しめるのだが、日本ではままならない事として諦めよう。その代わりビューリーズでは「アイリッシュ・ミュージック・ライヴ」を毎週末(日本の演奏家による)及び第2火曜日・最終金曜日(アイリッシュ・ミュージシャンによる)に催しております。
アイリッシュ・トラッドがレパートリーなので、チーフタンズやデ・ダナン、アルタンなんか聴いている方には最高でしょう。しかもミュージック・フィーは無しです。 わたしたちは丁度「ジェムソン・ナイト」と名付けられた最終水曜日(現在は最終金曜日)にお邪魔しました。
ジェムソン・ナイトではジェムソンのスクラッチ・カードを3枚づつ配っていた。削ってジェムソンの文字が3つ揃ったらプレミアムが貰える。わたしたちの時はジェムソンのミニチュア・ボトルでありました。

ジェムソン・ナイト  パブですからお酒が出ます。勿論スタウトの傑作である「ギネス(説明は不要だろう)」は言うに及ばず、スムースでフルーティーなアイリッシュ・ウイスキーの代表格「ジェムソン」。これはスコッチのピート臭やスモーキーさが苦手な人にはうってつけ。飲みやすく、飽きない。ガンガンいけるウイスキーというのも珍しい。
そしてジン好きのわたしたち編集部が思わず唸った「コーク・ドライ・ジン」。口に含んだ瞬間は「青い」感じのジン・フレイバーがちょっと鼻につくが、それはすぐに消え、まろやかなナッツを思わせる後味へと爽やかにたなびいていく。この落差が激しいのでまたついつい飲んでしまうことになる。
提案としては、食前にコーク・ジン、食事の友としてギネス、食後にジェムソンでしめる。いかがかな。
その肝心の食事だが、ケーキも含めてダブリンの本店と基本的にメニュー、レセピー共に同じで、所謂アイルランドの家庭料理。ただし地方色は出すとのこと。
その特徴としては、シチューがメインであるという事がまずあげられる。しかしフランス料理の様に「ソース」を作ることは、基本的にしない。そればかりか厨房で味付けもしない。卓上に備え付けられた塩、胡椒で各自好みの味に仕上げるようになっている。
とは言え素材の味が充分スープに溶け込んでいるので、薄味口の人なら何も入れずとも美味しく頂けるはずである。
初めて訪れたのならば、セット・メニューからお試しあれ。料理一品とギネスのハーフ・パイントに自家製のソーダ・ブレット(小麦粉の全粒粉に塩、重層、バターミルク、バターを加えて作る)がついている。ほのかな酸味と重層の匂いのする、密度の高いパンだ。

 さてメニューをざっと紹介すると、
北欧サーモンのクリームディップ」セロリとキャベツの合いの子の様なアンディーブ(ベルギー・チコリ)の上に鮭のマヨネーズ和えが乗っている。日本酒にも合いそうだ。
ベーコンのキッシュ」はとってもクリーミィ。
アイリッシュポテト・ガーリック風味」名前そのまんま。一口大のジャガイモとタマネギ、ベーコン、ニンニクのみじん切りをバターで炒め、塩胡椒。仕上げにパセリを散らせば出来上がり。たぶんレセピーはこんな感じじゃないだろうか。これは家でも作れるぞ!。
チキンロール」は例えて言うならば鶏のダテ巻?。
アイルランド風ローストビーフ」牛のたたき。噛めば噛むほど味が出る。付け合わせのジャガイモも美味しい。チキンロール同様コールド・ディッシュ。
ダブリン・コドル」はメークインと思しきジャガイモとソーセージ、ベーコン、タマネギの入ったポトフ。肉類から出た塩気が既にある。
アイリッシュ・シチュー」仔羊の首肉か胸肉とタマネギ、丸ままと薄切りという2通りのジャガイモにタイムを加え、水からコトコト煮る。かのフリードリッヒ・エンゲルスもこよなく愛したという素朴な味わいのシチュー。アイルランドのシチューは特に断らない限り仔羊の肉だ。
ステーキパイ」はロシア料理のガルショーク(壷焼き)のアイルランド版。コクを増したアイリッシュ・シチューと、パイ皮の香ばしさが良く合う。
ビーフのギネスビール煮」何とも形容しにくい酸っぱ辛い味(トマト風味&トウガラシ?)。牛肉、キドニービーンズ、マッシュルーム、タマネギにピーマンが彩りを添える。ニンジンらしきかけらもチラホラ見受けられる。あまり出会わない味なので一食の価値あり。
ホットポット」は仔羊とタマネギ、薄切りジャガイモのシチュー。アイルランドのみならずイギリスに於いても家庭料理の定番である。タマネギは歯ごたえを残しているにもかかわらず、全然辛くない。お薦め!。

ダブリン・コドル  このようなペースで食べたらきっと食べ切れないと思います。1人で2品ぐらいが丁度腹八分といったところでしょう。後は酒の為に空けておこうじゃありませんか。

 お店はほとんどアイルランド人のたまり場的になっていて、1/3がアイリッシュで占められる。週末などは半数にも及び、日本だかアイルランドだか分からなくなるという。
アイリッシュ・タイムズ」が3日遅れではあるが閲覧できるのも好評で、ビューリーズ以外ではアイルランド大使館ぐらいでしか見られない。
ランチタイムと夜7時〜9時ぐらい(特にライヴのある日)は混雑するので予約していくと良い。但しギネス・ナイト、ジェムソン・ナイトは予約不可。パーティー等の貸し切りは金・土・日以外ならばOK。
その他に、朝は本格的なアイリッシュ・ブレックファストを、午後のひとときにはハイ・ティーをと、積極的に食文化の紹介に努めている。

 最後に総支配人の鈴木貴志さんから一言。
「所沢に2号店(※)がオープンしました。ダブリンの本店同様セルフサービスの喫茶店なので生憎お酒は出せませんが、その代わりシチューが豊富ですので、ぜひそちらの方にもいらして下さい」
つまり、より本場のビューリーズに近い雰囲気を味わうことが出来る、ということだね。これは一度行かずばなるまい。

  「汽車に乗ってあいるらんどのやうな田舎へ行かう。」−丸山薫
 わたしたちは汽車に乗らずとも電車に乗って、アイルランドのようなビューリーズへ行ける。さぁ行こうではないか、日本の中のエメラルドの島へ。


ビューリーズ ミニ情報

紅茶各種600円
ケーキ300円より
コーヒー500円
アイリッシュ・コーヒー800円
ギネス1/2パイント600円
アイリッシュ・ウイスキー1ショット各種500円より
セット・メニュー各種1350円より
料理各種450円より

消費税は有り難いことに“内税”

住所東京都渋谷区神宮前6-5-6
交通1.営団地下鉄千代田線「明治神宮前」下車徒歩3分
2.JR山手線「原宿」下車徒歩5分
TEL03-3499-3145
営業時間8:00〜11:00(ブレックファスト)
11:30〜15:00(ランチタイム)
15:00〜17:00(ティータイム)
17:00〜23:00(パブタイム)
11:00〜11:30(お茶とケーキのみ)
※所沢店住所埼玉県所沢市くすのき台1-11-2
TEL0429-26-3737
営業時間10:00〜20:00



(スピルカ編集部)