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2004/01/24
納豆とヨープさん・後編 1980年代の半ばにヨープさんは東京から関西へ仕事の場を移しました。西日本のオランダ総領事になりました。まあ、公的な仕事のことは部外者の私には書けませんが、ヨープさんの秘書をなさった方とお付き合いが出来、いろいろ楽しいエピソードを聞かせて頂きました。とても優秀で仕事熱心な美しい女性でした。それに加えて素敵なセンス・オブ・ユーモアの持ち主でした。ヨープさんから聞くよりさらに愉快なことを、度々聞かせて頂きました。 この方はヨープさんが引退された翌年夏に癌で他界されました。私が彼女を知った時にはすでに癌を患っていたようで、定期的に放射線治療を受けていたと聞きました。彼女は自身長く生きられないことを知っていたようでした。それが仕事に執念を燃やす原動力になったようで、信じられない程のエネルギッシュさでヨープさんを助け、時にはリーダーシップさえ取って、ヨープさんを後押しして下さったそうです。彼女の訃報が届いた時、ヨープさんは大声で泣いたそうです。 さて「納豆」の話に戻りましょう。関東の方が初めて関西に住んだ時に経験することをヨープさんもしたようです。オランダ人のヨープさんがです! 関西人の気質のせい? いえ、オランダ人の気質は関西人の気質に通じる合理性を含んでいますから、全く問題ありません。ただ一つだけ「食い物」です。色も塩味も薄い食い物ばっかり! 関西の食い物にはあの美味しそうな醤油の色がついてない! 味が薄すぎる! ラーメンのスープに色がついてない! とか、いわゆるデイリーな食生活に不満が鬱積してきたそうです。京都などの懐石・会席料理は別ですね。味付けやルックスは普遍性を持つ完成度を示しますから。問題は普通の店で食うものね。 東京が恋しいと泣きごとを言ってました。これ、私が関西に初めて住んだときとほとんど同じ! 他のことに不満はない、ただこの一点だけでした。ヨープさん、週末毎に東京へ戻ってました。ところが3ヶ月を過ぎたあたりから、様子が変わって来ました。ええ、私も同じでした。関西の味付けに慣れてくる頃です。で、東京へ戻った時に食うものが以前ほど美味くない。色が汚らしい。醤油の色が勝ち過ぎてる。関西の食い物は見た目にもっと美しい〜。こんな勝手な表現で、東京の食い物を貶し始めました〜。 これ、実は受け売りなんですよね。アッチコッチの書物に書いてあるし、皆さん異口同音におっしゃるから。関西の方も、関西生活の経験豊富な東京人も。まあ、私も3ヶ月を過ぎた頃から、言葉には出しませんでしたが、同じような印象を東京の食い物に持ち、困りました。お袋の作って呉れるものが美味しくなくなってね。その後まったく違ったものと捉えることが出来るようになり、両方楽しめるようになりましたが。 これは議論にもなりにくい主題でしてね。「食い物」とは個々の主観とか嗜好に依る訳でして、個人主義の世界です。ただ、言えることは不変ではないですね。他人に変えられるのではなく、自分で発見して、開拓していくのですが。ヨープさんが示した反応は、ある意味で典型的なものだと思います。で、現金なヨープさんでして、東京への足が遠のきました。仕事が東京でない限りあまり東京へ来なくなりました。代わりに西の岡山県とか四国へ出かけるようになりました。広島迄足をのばすこともあったようです。いわゆる瀬戸内の海産物に目覚めた訳です。 さて、そんな西の美味いものを見つけていっても、ヨープさんの「納豆好き」は普遍です。大昔と違い関西でも納豆は市民権を獲得した食い物になっておりますから、店で買って食うのには何も不便を感じるものではありません。中国地方の温泉地の旅館へ泊まる時も、相変わらず朝食に納豆を注文していたようです。 関西のオランダ総領事という立場から、公的な招待を受けるチャンスも多く、料亭に出かけることもままあったようです。そんな中で、ある関西の財界人の会合に招待され、その後でトップの5−6人の方達とある寿司屋へ席を移し夜食となったそうです。前もって「何料理が好みか」を聞いてくれたそうです。無難に「寿司が好きです」と答えておいたとのこと。大変に美味しい新鮮なネタで、東京でもこれだけの寿司は記憶になかったそうです。一通り食べたところで、主催者の1人が「日本の食べ物で何が一番印象的ですか」と聞いてくれたので、即「納豆」と答えたそうです。さらに「納豆巻きも大好きです」とやったそうです。皆さん「ホ〜ッ!」という反応だったそうです。 「だったら、納豆巻きを注文されたらよろしいがな〜」ということになり、板前さんに「納豆はあるか」と聞いてくれたそうです。「出来る」ということで「納豆細巻き」を注文しました。板前さんは冷蔵庫から普通の納豆を出し、包丁で刻むところから始めました。キレイに刻んだあと手際よく細巻きを作り、ヨープさんの眼の前にドンと置いてくれました。そのあとが問題なのね〜。あっはは。その板前さん、使った包丁を持って走るように流しへ行き、入念に包丁を洗い始めたそうです。カウンターに座ってるから見えるんですって、板さんのやっていることが。なんか汚いものを洗い流している感じね! それを見ていたらメラメラ〜と悪魔みたいな「いたずら心」が出て来たそうです。その板さんが包丁をすっかりキレイにして、布巾で水分を拭き取るのを確認してから「納豆細巻き、もう一回・プリーズ」とやったそうです。いけてるでしょ、このヨープさん!(爆)この板さん、かなりショックを受けた眼を見せたけど、にこやかに笑顔を作り直して「2回目の納豆細巻き」を作ってくれたそうです。使った包丁は布巾で拭き取っただけだったそうです、2回目の後は。 この店のメニューに「納豆巻き」はないそうです。店の人達が自分の食事のために買ったものを冷蔵庫に置いてあったそうです。これ、あとで確認したそうです。皆さん、ヨープさんの好物が納豆であることに感心していたそうです。ちなみに、この時の会合には、後にあの「熊襲の野蛮な国」発言された方 もいらっしゃったようです。「納豆って関東以北から東北がおいしいからね〜」とヨープさんの声です。この「熊襲発言」のとき、ヨープさん、実に愉快な揶揄をやってました。 これ書いていてつくづく思うんですが、どこかこのヨープさんの行動、私の描く「犬のトニー」に似てませんか。彼はトニーの初代ボスでしたからね〜。トニーは自身の犬格形成時にもろにヨープさんの影響を受けてますね。悪影響ばかりではありませんけどね。あっはは。 以上、ヨープさんのエピソードをご紹介しました。これからも、このヨープさんは「トニーの物語」や他のものに登場することになります。 Brug43 |