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2004/03/10 
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不可解な...
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 僕がまだ4ヶ月だった頃に起きた出来事です。これはいまだに忘れることが出来ません。

 4ヶ月というと、ヨープさんと暮らし始めてまだ2ヶ月くらいしか経っていませんでした。8月中ばでした。日本では「旧盆」の時と Brug が教えてくれました。その夏は記録的な好天が春から続いて、干ばつと言えるほどの天候が続いたそうです。8月も暑い日が多かったようです。僕には生まれて初めての夏だから「記録的」と言われても、その時は分かりませんでした。

 今は分かります。去年 ('03) の夏は、僕が生まれた年の「記録的な暑さ」よりもっと酷かったことが分かりました。カラカラに乾燥した暑さで、直射日光を浴びると痛いような感じでした。この暑さは「熱波」と呼ばれていました。オランダも内陸部で40℃を越したそうです。この「熱波」で、南部ヨーロッパでは死者がたくさん出たようです。この「熱波」がオランダを襲ったのは割と遅く、高温の日が続いたのはそれほど長くありませんでした。

 その「熱波」が襲って来たとき、春に Brug がやってくれた プラッキング=トリミング から4ヶ月経っていて、僕のコート(毛)はかなり長くなっていました。「熱波」が襲って来たその日に、素早くBrug が僕の長く分厚くなったアウター・コート(外毛)を抜いてくれました。短いアンダーコート(内毛)だけの「丸裸」みたいにしてくれたので、暑さはそれほど感じませんでした。「熱波」が来なければ型を整えるだけの「トリミング」で済んだのですけどね。僕は「プラッキング」をやられるのが大嫌いです。 でも、この時は急に涼しく感じてね〜、とても助かりました。

   dan_L

 その日は土曜日でした。ハーグから大好きなハンスさんとリュートさんが午前10時半に到着しました。週末を一緒に過ごしてくれます。その頃、ブリッジを Brug に教えている最中だったみたいです。住んでいた16階のフラットにはバルコニーがありました。あまり大きなものではありませんでした。そこに大きな鉢をいくつも置き、Brug がヨープさんのために花を植えていました。ハーブもあったそうです。けっこう大きなアジサイ(オランダでは早咲き/遅咲きの何種類か植えれば初夏から初秋まで楽しめます)とか、葉っぱの大きくなる熱帯性の植物なんかも植えてありました。この大きな葉っぱの植物は、Brug がバルコニーに居るのが好きな僕のために、真夏のバルコニーの木陰で過ごせるようにって、作ってくれたのです。バルコニーは眺めがいいし、いい風があたってくれるので気持よく昼寝が出来ました。いいとこあるんだよ、Brug には。(微笑)

 コーヒーやお茶をバルコニーで楽しめるように小さなテーブルや椅子も置いてありました。大きな鉢をいくつも置いたので、座れるのは4人でした。リュートさんはハーグの有名なケーキ屋さんのケーキご持参です。コーヒーをいれ、バルコニーのテーブルに座って楽しいおしゃべりの時間です。ヨープさんとハンスさんは甘いものが大好きです。リュートさんと Brug は辛いものがいいみたいです。つまり、リュートさんはけっこう「ノンベー」です。あ、ヨープさんもハンスさんも「飲む」のも大好きでした。「両刀使い」っていうんだね、日本語で。僕は甘いものは苦手です。甘いものはアイスクリームだけ好きです。本当はアイスクリームも甘くないといいんだけど、オランダには甘くないアイスクリームはないそうです。へへ。

 コーヒーとケーキのあと、皆で第4話に書いた森林公園 (Het Amsterdamse Bos) へ出かけました。ランチにオランダの「お好み焼き = パナクック」を食べることに話が決まっていたみたいです。乗馬している人達に初めて出会ったのもこの森林公園でした。車が混んでいなければ30分くらいの距離です。まだ子供達の夏休みの最中で、おまけに週末ですから途中の道もパナクック・レストランもとても混んでました。車の中が暑くて参ったけど、レストランへ着いたら子供達がいっぱい来ていたのでとても楽しめました。まだ4ヶ月前の可愛い!僕と、皆が先を争って遊んでくれるんです。「次は私の番!」とか「今度は僕!」とか言ってね。他にもいっぱい犬は来てるのにね〜。

 パナクックを食べてから、アイスクリームを注文しました。ヨープさんが5人前(僕にもフルの1人前!)を注文しようとしたら、Brug をはじめ皆に大反対を食らってました。残念 !! 皆が少しづつくれました〜。ははは。アイスクリームを食べると水が欲しくなります。このレストランの入り口にはドッグ・バーが設置されてます。犬の顔を描いた大きなボードがあって、その犬は舌を出してます。その舌の先に水の容器が付いていて、僕らが水を飲むと自動的に水が補給される仕組みになってます。他の犬の臭いがしたりして、競争意識が働いてね、ついついたくさん飲んじゃいます。こんな広大な公園だから、アッチ、コッチにマークを付けたいからね。あ、その時はまだ僕は4ヶ月だったから、縄張り意識はなかったような…、気がします。

 いよいよ森林地帯の散歩です。少し離れたレストランの駐車場のすぐ脇に1928年のアムステルダム・オリンピックで使ったボート・コースがあります。この駐車場の脇がスタート地点です。ゴールは2キロ先です。そのコースの片側は車道と自転車道になっています。もう一方は林があったりしますが、大部分は芝生で大きく広がっています。その日は暑いのでそちらへは行かず、逆の方向の深い森林の散歩道を歩きました。ヨープさんには、歩くことがとても大切なのです。杖を使えばけっこうバランスも上手く取れるようになっていたし、パーキンソン病で不自由になってくる身体の動かし方を忘れないようにしなければいけないんだって。

 深い森林の散歩道だから日陰になっていて、空気がひんやりしてます。緑と樹の匂いがするので、とても気持のいい散歩になります。 ヨープさんの趣味の一つが写真です。散歩に出る時はいつでも日本から持ち帰った大きなカメラを首からぶら下げています。僕や皆の写真を撮りまくってます。こんな散歩ではハンスさんが僕のボスになります。気が向くと急に走りだして、僕に一緒に来いと誘ってくれます。ハンスさんは若い頃なかなかのスポーツマンだったそうです。ハーグではジョギングを定期的にこなしているそうです。Brug は走るのだけは「嫌だ!」と言ってました。僕らの住んでいるフラットの裏の公園には、犬と一緒にジョギングしている人がたくさん来ます。僕は走るのが好きだから、そんな人や犬と時々一緒に走ります。でも、あんまりヨープさんや Brug から離れる訳にもいかないので、短い距離と時間しか出来ません。Brug が何度か自転車で一緒に走ってくれたけど、あんまり面白くなかった。やっぱり一緒に走ってる感じがしないからね。だから、ハンスさんと一緒に走れるのがとても嬉しいのです。

 走りながら、ハンスさんはよくオランダの唄を歌います。とても陽気な調子の唄で、走るのにとてもいいリズムが生まれるからと、言ってました。少し前まで近くの教会のミサのためのコーラスのメンバーだったんだって。深みのあるバリトンです。リュートさんが言ってたけど、その声に惹かれたのが付き合いの始まりだったそうです。ルックスもかなりいいけどね。かっこいい口髭を生やしています。背はあまり高くなく、170センチくらいでした。たくさんいる孫達から「オーパ、オーパ」と慕われて、みんなのいい遊び相手です。ハンスさんは僕の一番の弱点を知っていて、それを僕の訓練に使います。僕にとってなによりイヤなことは「好きな人から無視されること」です。これをされると、もうどうしていいか分からなくなってしまいます。ハンスさんは時々これをやります。訓練とは別に冗談でやることがあります。そんなときは訓練じゃないので、ハンスさんのやっていることを無視して「う〜っ」って唸りながら飛びかかることにしてます。で、ハンスさんから「チビ・マフィア」ってあだ名をもらっちゃいました。

 その日も走りました。ヨープさん達からけっこう離れた辺りで、急にハンスさんの姿が見えなくなっちゃいました。必死になって探したけど見つかりません。すこし時間が経った頃に、後ろの方から僕を呼ぶハンスさんの声が聞こえます。よく見たらいつの間にかヨープさん達と一緒に居ます。森林の中を僕に見つからないように戻ったみたいです。僕はすぐ皆のところへ走りました。その辺りは小さな運河沿いの散歩道になってます。片方は森林です。皆に合流した辺りにベンチがありました。ヨープさんが少し疲れたみたいです。皆でベンチに座りました。リュートさんがバッグからクッキーを出して、ヨープさんに勧めています。僕も走ったので少し疲れて、ベンチの横に座りました。ヨープさんはカメラを離しません。

 休んでいたら、また退屈してきました。喉が乾いたので水を飲もうと運河の土手を降りて行きました。その部分だけ池のように広くなっていて、陽が当たっています。見たら運河の筈なのにそこには水がありません。真っ平らで、きれいな緑に覆われた野原が広がっています。土手から少し低くなっているけど、走り回ると気持よさそうです。きれいな緑色の野原は土手から50センチくらい下にあります。思い切ってその50センチをジャンプしました。ハンスさんがいっしょに来て見てました。ジャンプする直前にハンスさんが「止めろ!」と、怒鳴ったような・気・が・し・ま・す。

 気持よく野原に着地したつもりが、気がついたら僕は水の中にいます。もう、びっくり、パニックです。何が何だか分からない。何で僕は水の中にいるんだろう??!! 水をタップリ飲みました。もう飲めない、要らない! 動かないと沈んじゃう! 必死で身体を動かしたら進みます。これって泳ぐというんだね! でも、方向も見ないでメチャクチャ泳いだから、岸から離れてしまいました。大嫌いなシャワーよりもっと気分が悪い。水を飲み過ぎたから呼吸するのが難しい。少し泳ぐのに慣れてきたら目が見えてきました。

 ハンスさんが水の中に入って僕の方へ来てくれます。ヨープさんが岸にいる。Brug もリュートさんも岸にいる。あっ、この〜。ヨープさん、カメラ構えて、僕の苦しんでる写真を撮ってる〜。ハンスさんがズボン履いたまま腰まで水につかって、僕を助けようとしてくれているのに。少し方向を決めて泳げるようになったので、ハンスさんの方向へ進みました。ハンスさんが僕の首輪を掴んで引き寄せて僕を抱き上げてくれました。もうハンスさんは全身ビショビショです。でも両手で僕を抱えて岸まで連れて来てくれました。岸に下ろしてくれました。もう疲労困憊、くたくたです。Brug が何か僕に話しかけてます。でも顔は面白そうに笑っています。ヨープさんはまた僕とハンスさんのずぶ濡れの写真を撮ってます。リュートさんはハンスさんに「Goed zo, Hans!」(=よくやった、ハンス!) なんて言いながら、やはりニコニコしてます。

 みんなが面白がっているのに、少し「ムカ〜ッ」ときました。殊にヨープさんには! で、ヨープさんがカメラを構えて僕を撮ろうとした時を見計らって、身体をブルブルと振るわせて水滴をいっぱいヨープさんとカメラに飛ばしてやりました。ヨープさん、慌てたけど「ざまあ見ろです!」 他人(犬)の不幸を笑ったり、写真に撮ったりするのは紳士じゃないし、罰を下すべきです。あっはは。

 後でハンスさんが説明してくれたけど、あそこはやっぱり運河で、あの部分だけ池みたいに広くなっているんだって。浮き草という水面に繁殖する植物があるそうで、その年は天候がいいので異常繁殖して日当たりのいいところでは水を完全に被ってしまったそうです。僕はそんなの知らないから、気持の良さそうなフカフカな野原と思っちゃったけどね。ハンスさんは命の恩人です。それにひきかえ、ヨープさんも Brug も見て笑ったり、写真を撮るだけでした。あれには呆れました。あのとき、ハンスさんが来てくれなければ、岸まで泳ぐ自信はありませんでした。あれ以来、水が益々嫌いになりました。もちろんシャワーも。雨も嫌いです。

 その日は早々に家へ戻りました。夕食には Brug がビーフと野菜の鉄板焼きを振るまってくれました。僕にもタップリ牛肉と野菜の入った夕食をくれました。夕食の後、アイスクリームがまたでたけど、今度はヨーグルト味のものでした。僕はヨーグルトが大好きです。

 そのあと皆でブリッジを始めました。ヨープさんは長距離を歩いたので疲れたみたいでした。でも帰宅して直ぐに薬を取って1時間くらい眠ったら、夕食前に元気を回復してました。

 僕には、長い苦しい一日でした。

voetje トニー
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