小室直樹って…


まだこんなこと言ってたのか、というお話。

宮台真司の『野獣系で行こう!!』(朝日文庫)で宮台真司と小室直樹の対談を読んでびっくり。なんといまだに「田中角栄のロッキード裁判は反対尋問が認められなかった異常な裁判だ」という話しをしているのである。対談自体は10年ほど前のものだが文庫になったのは2001年であり、いまだに売られているのだからその後も公式に撤回してはいないわけである。
すでに忘れておられる方も少なくないとは思うが、「反対尋問」云々は当時いろいろあったロッキード裁判批判のなかでもダントツでレベルの低い代物である。どれくらい低いかと言えば、この説を熱心に唱えていたのが渡部昇一であった、と書けばわかる人には(笑)わかるだろう。これは贈賄側であるロッキード社のコーチャン、クラッターへの嘱託尋問調書が証拠採用された件を指していっているのだが、2人は裁判に証人として出廷してはいない。それゆえ、そもそも反対尋問が問題になることなどあり得ないのである。問題の嘱託尋問調書は捜査段階で作成されたもので、刑事訴訟法上では警察官による尋問調書などと同じカテゴリーに入る文書である。その時点で田中角栄はまだ被告人ではないので、当然被告側が反対尋問をすることなどあり得ない。しかしながら、同じように反対尋問がない(捜査段階なので当たり前)検事調書や警察官による調書が証拠として採用されることは別段珍しくない。証拠として採用するということは直ちにその内容が真実であると裁判所が認めることではないし、必要に応じて弁護側が取り調べにあたった検事なり警察官を証人として申請することによって実質的な反対尋問的効果をあげることができるわけである。同じように、田中弁護団も2人を証人申請するなり、2人に対する新たな嘱託尋問を請求することができたわけだが、実際には結審間近の時期に訴訟引き延ばし策の一環として申請しただけだった。要するに、反対尋問的性格の問いにさらされていない調書が証拠採用されることは日本の裁判では異例でもなんでもなく、それをもってしてロッキード裁判を「憲法違反」などというのはバカとしか言いようがないのである(当時一部のいわゆる「人権派弁護士」が、日本の刑事裁判一般の問題点を明らかにするため、という理由でこの点を突いたのは屁理屈としては一応筋が通って入る。しかしもしそうするなら、大弁護団を結成する資力のない被告の事件でそうすべきであろう)。ついでに言っておけば、クラッター、コーチャン2人の証言は捜査段階では重要だったものの、裁判では2人の証言内容は他の証人の証言によっても明らかにされており、この嘱託尋問調書がなければ角栄が有罪にならなかったということもないのである。
この嘱託尋問調書は、日本とアメリカということなる法体系をまたいで作成されているため、異例のプロセスを経ていることは確かで、その点は真剣な議論に値する。しかしこの裁判を「反対尋問の権利が奪われたので憲法違反だ」とこの期に及んで主張するのは、繰り返すが、バカだけである。

それにしても小室直樹と渡部昇一と言えば、「専門外の分野でやたらと大風呂敷をひろげた本を量産する学者」という共通点があるが、こんなとんでもないミスにほおかむりして(立花隆によって彼らのミスはきっちり指摘されており、それが2人の耳に入っていないはずがない。特に、『朝日ジャーナル』誌上で往復書簡形式の対論までやった渡部昇一が知らないはずはない)すますことのできる神経がなければできることではないのだろう。そりゃあ、人間誰しも間違いはおかす。研究者だって専門分野ですらミスを犯すのだから、専門外のことでならなおさらである。また、間違いを素直に認めたくないというのも人情である。しかし、少しでも言い逃れの余地のあることで突っ張るならともかく、これほど申し開きのしようのないウソを強弁し続ける神経は理解を絶する。突っ張れば突っ張るほどバカに見えるだけだというのに。それとも、「自分の本の読者の大半は立花隆の本など読むまい」とタカをくくっているのだろうか? いずれにせよ、宮台真司もこんなヨタにはちゃんと突っ込まないとだめだろ〜。彼が「自分の師匠は小室直樹と廣松渉だ」と常々いい募るのは、言論界でフリーハンドを確保するための戦略として理解できるのだが、こんなでたらめまで黙認してしまうのは得策ではない。
それにしても、どんな分野にでも保守派、右系の研究者はいるだろうに、なんで保守・右系メディアは渡部昇一なんかを重用するのかなぁ…。まあ左系メディアにもままあることだが、読者受けする粗雑な大風呂敷を専門家はむやみにひろげないからだろうか。

ちなみに、ロッキード裁判批判に関しては、日中国交回復によってアメリカに対して外交上のフリーハンドを確保しようとした田中角栄をアメリカが嫌ったための謀略だという議論が当時からあり、最近ではけっこう根付いているようだ。なるほどアメリカは、中南米なら軍事介入をして自分にとって不都合な政権を(それが民主的に選出されたものでも!)転覆するような国だから、あり得ないはなしではない。しかしその場合でも、ロッキード事件そのものがCIAの謀略によるでっち上げだったというケースと、CIAによるリークないしフレームアップだったという場合では事情が異なる(そして、前者だという説は聞いたことがない)。後者の場合、田中角栄の汚職によって「独自外交」という志が否定されてはならないのと同じように、その志によって汚職が正当化されるわけではないから。もしロッキード事件がアメリカによる謀略だったのなら、なおのこと田中角栄(自民党)は罪を素直に認めて、「独自外交」路線の志を絶やさない努力をすべきだった。田中が「闇将軍」として居座った結果かえってその志は風化し、竹下登→鈴木宗男といった具合に矮小化されたエピゴーネンを生むだけの結果に終わってしまったのではないのか?

Posted: 金 - 5 月 14, 2004 at 09:54 午後          

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