徳本 vs. 田原 ロッキード事件謀略説をめぐって


田原総一郎、『戦後最大の宰相 田中角栄』(上・下)、講談社+α文庫

徳本栄一郎の『角栄失脚 歪められた真実』についてはすでに別のカテゴリーで書いたのだが、こちらにも転載しておく。
書名の「歪められた真実」とは“アメリカ(CIA)による陰謀が隠蔽されている”という意味ではなく、“誤った陰謀論が流布して真実を歪めている”の意味。ロッキード事件陰謀論者の方々、残念でした! タイトルをみて読んだらさぞがっかりしたことだろう。もちろん、著者が参照した資料をチェックし、その資料の信憑性について裏をとり、筆者が行ったインタビューの裏をとり…といった作業をしない限り本書の結論を鵜呑みにはできない。とはいえ、本書の記述に破綻はないし、知られている事実との矛盾もない。なにより、田原総一郎が発端となった「陰謀論」がそもそも誤解や憶測、伝聞に基づくものでしかないという批判は極めて説得的である。ちなみに立花隆が『「田中真紀子」研究』で言及していたチャーチ委員会への取材に基づく雑誌記事とは、この著者が書いたものだった。
ま、少なくとも、陰謀論を唱える連中は以後本書を乗り越えたうえでなければ主張を続けられないことは明白である。せいぜいがんばってもらいたい…。

と書いて数日後に、小室信者らしき人物の主催するBBS(「国際戦略BBS」)で本書のレビューを見つけたのだが、これがまた噴飯ものなのである。本書は「ロッキード事件の謀略説を否定する極めていかがわしい本」であり、それというのも「当時の関係者が「そんな謀略などあるわけない」と発言したのをそのまま文字にしたと言うだけの本」だからだ、というのである。しかし「当時の関係者」への取材を行うことは非難されるべきことではないし、その証言は公文書などと照合することによってチェックされている(当人も「合衆国の英文資料が巻末にあるので資料としては価値がある」と言っているのに…)のであり、「そのまま文字にした」というのは事実に反する。逆に、では謀略説になにか根拠があるのか…というわけで買ってきました。ちょうどよいタイミングで出版された田原総一郎の『戦後最大の宰相 田中角栄』である。以前に、「ロッキード裁判は無罪だった」という章題をみて買う気が失せてしまった本が文庫化されたものである。初めの数ページを読んだだけでもダメダメなことがよくわかるのだが、裁判論についてはまた改めて評することにする。ロッキード事件謀略論については、要するに「関係者からそういう説、噂を聞いた」というのが田原総一郎の挙げる根拠の全て、といってよい(あとは状況証拠だけ)。その関係者というのもロ事件の当事者ではなく、エネルギー問題の専門家や角栄周辺の人物など。徳本栄一郎がチャーチ委員会のメンバーに直接取材しているのに対して、田原総一郎は「本物の関係者」には取材していないのである。謀略論者が必ずもち出す例の「資料誤配事件」についても、『角栄失脚』では実に合理的な回答が与えられている。

まあ、陰謀説にはまるといかに「見えるはずのものが見えなくなり、かわりに見えないはずのものが見える」ようになるかがよくわかって、興味深い。

Posted: 月 - 12 月 27, 2004 at 09:33 午前          

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