金大中事件関連外交文書公開とロッキード事件
「カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの虚業日記」の
kamayan
さんが拙ブログの『人口減少社会の設計』に関するエントリをとりあげてくださっている(http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20060208#1139338909)。kamayan
さんは統一協会がらみの貴重な情報をしばしば掲載しておられ、ウォッチャーとしては不熱心ながら統一協会の動向には注意を払ってきた(『原理講論』もちゃんと持ってるし)私もお世話になっているので、ありがたいことである。ただ、同日の「国策捜査「ライブドア事件」
」というエントリ(http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20060208#1139344440)における、ロッキード事件に関する記述については、当ブログの(もともとの)レゾン・デートルに関わる問題であるのでやはり異議を唱えざるを得ない。2 国策捜査ロッキード事件ロッキード事件は、独自外交をしようとした田中角栄に対し疑心暗鬼を抱いたアメリカが、田中角栄を潰すために裏から日本の検察を動かして田中角栄を(それ以上に日本の独自外交路線を)潰した事件だった。田中角栄を潰すために、アメリカの走狗として長年にわたり活動していた右翼の巨魁・児玉誉士夫を潰した。これによって日本の独自外交路線は潰れた。政商とかアメリカの犬っころの右翼とかはその後もはびこるが。当時は、右翼の巨魁である児玉誉士夫がアメリカの犬っころであることが暴かれ「これで右翼は終わりだ」と誰もが思ったものらしいが。そんなことはちっともなかったね。ロッキード事件でも田中角栄以上に贈賄を得ていた中曾根康弘は無傷だった。「ロッキード事件=アメリカの陰謀」説への反駁の詳細についてはこことここをご参照いただきたい。さらに付け加えておくなら、「田中角栄を潰すために、(…)児玉誉士夫を潰した」という認識には非常に無理がある。仮にロッキード事件がアメリカの陰謀だったとして、その目的が田中を潰すことだったのであれば丸紅ルート(プラス、必要があれば小佐野ルート)の情報をリークすれば十分であり、児玉ルートまで暴く必要はなかった。児玉との結びつきが取り沙汰されたのは田中よりもむしろ中曽根であり、だからこそ捜査の進展中中曽根の逮捕は必至であると考えられていたのである(結果的に、児玉が口を割らなかったため中曽根は逃げ切ったわけだが)。児玉が逮捕されればそれまで密かに語られていたに過ぎないCIAの対日工作が表に出てしまうことは当然予想されたわけで、単に田中を潰すためだけにアメリカがそうしたリスクを冒す理由はまったくない。児玉が潰されたことはアメリカの諜報筋にとって*
きわめて不本意なことであったはずだ。田中や小佐野だけでなく児玉まで逮捕されたことは、むしろこの事件がアメリカの陰謀でなかったことを強く示唆しているのである。むしろ、田中はウォーターゲート事件以降の一時期アメリカを支配した清教徒的雰囲気の巻き添えを食ったのだ、と考えるのがもっとも合理的かつ無理のない仮説であろう。*
ロッキード事件陰謀説におけるもう一つの問題は、「アメリカの陰謀」という時の「アメリカ」の意味が曖昧だということである。言うまでもなく、アメリカという国家も一枚岩ではなく、異なる利害を持つ複数の主体の集合である。共和党/民主党、東海岸/中西部/西海岸といった分かりやすい対立だけではなく、時の政権とCIAやFBI、軍部の利害が完全に一致することはないし、産業界にしたって利害対立をはらんでいる。5億円の授受が行なわれたのはニクソン政権時代、ロッキード事件が発覚したのはフォード大統領時代(いずれも共和党政権)だが、チャーチ委員会の委員長チャーチ上院議員は民主党所属であり、共にカリフォルニアを地元とするニクソンとロッキード社の癒着を追求する動機は(田中などとは無関係に)十分あったのである。田中の“独自外交”がアメリカのどのような勢力の反感を買ったというのか、そしてどのような勢力が“陰謀”を仕掛けたのか、この点について納得のゆく説明を与えてくれる陰謀説にはこれまでのところお目にかかったことがない。さて田中角栄といえば、kamayan
さんがまたしても同じ日のエントリで扱っておられる、2月5日に報道されたこの件。金大中氏事件に関する外交文書、韓国が公開 韓国外交通商省は、73年の金大中(キム・デジュン)氏(前大統領)拉致事件に関する外交文書を6日付で公開した。事件は、容疑者の旧韓国中央情報部要員の聴取や金氏再来日など原状回復を要求する日本と、拒否する韓国が激しく対立した。3カ月後に金鍾泌(キム・ジョンピル)首相が来日、田中角栄首相との会談で政治決着に至ったが、会談録では、紛糾の長期化を恐れた日本側が「金氏には来日して欲しくない」「これで終わった」と言質を与えるなど、首脳間の生々しいやりとりが明らかになった。(http://www.asahi.com/international/update/0205/004.html)すでに『文藝春秋』2001年2月号において、田中が金大中事件の早期解決を目指す韓国政府から4億円の裏金を受けとっていた(ロッキード事件の5億円授受と同時期に)ことが元側近によって暴露されており、特に驚くにはあたらないはなしではある。そして、もしアメリカが田中を潰そうとしたのであれば、ロッキード事件なぞよりこちらをリークした方が(CIAがこの件について情報をまったく持っていなかったとは考えられない)遥かに効果的で、かつアメリカにとってのリスクが少なかったであろう。ロッキード事件にもかかわらず田中は「闇将軍」として君臨し続けることができたが、もしこの裏取引が当時暴露されていれば、田中の政治生命は決定的に絶たれていたに違いない。
Posted: 水 - 2 月 8, 2006 at 10:31 午後
Comments