「ロッキード事件」Q&A 裁判編2


Q2 ロッキード裁判では被告の反対尋問権が奪われたというのは本当ですか?
Q3 ロッキード裁判ではコーチャン(元ロッキード社副社長)最重要証人であったというのは本当ですか?
Q4 ロッキード裁判は「調書裁判」だったというのは本当ですか?

Q2 ロッキード裁判では被告の反対尋問権が奪われたというのは本当ですか?
A2 嘘です。この種の裁判批判は、コーチャン、クラッターらロッキード側の証人に対して行なわれた嘱託尋問の調書が証拠採用されたことを問題にしています。コーチャンらはロッキード裁判の公判に証人として出廷したことがありませんので、公判での主尋問に対する反対尋問はもともと問題になりません。したがって、嘱託尋問調書の証拠採用が実質的に被告の反対尋問権(憲法37条2項)を奪うことになったかどうか、が問われなければなりません。
この嘱託尋問調書は刑事訴訟法321条1項3号に基づいて一審、二審では証拠採用されました。刑訴法321条はそもそも「公判前に証言を文書のかたちで残した証人が公判に証人として出廷できない場合」にその文書を証拠として採用できる要件を規定した、刑訴法320条の原則に対する例外規定なのです。したがって、件の嘱託尋問調書が刑訴法321条1項3号の要件をみたしている限り(そして一、二審はみたしていると判断しました)、被告の反対尋問権を侵害することにはなりません(これについては最高裁の判例もあります)。
また、嘱託尋問調書の証拠採用を認めたとしても、弁護側が申請したコーチャンらへの(反対尋問を趣旨とする)嘱託尋問請求が却下されたのだから、やはり反対尋問権が侵害されたのだ、という主張もあります。しかしこれについては、その嘱託尋問請求が公判のどの段階で出されたものかを知っておく必要があります。嘱託尋問をめぐる丸紅ルート法廷での動きは次の通りです。

1977年1月 初公判
同年10月 検察が嘱託尋問調書の証拠調べを請求
1978年12月 証拠採用を決定
1979年2月 証拠調べ開始(同年3月終了)
同年3月 弁護側、「証拠調べが終了した段階でコーチャンらへの嘱託尋問を請求するつもり」と表明(しかし実際には請求せず)
1981年3月 検察側立証、終了
1982年2月 嘱託による反対尋問を請求
同年5月 請求を却下
同年12月 事実審理終了
1983年10月 判決

つまり検察が証拠採用を申請してから1年にもわたってその可否をめぐる論争があり、そのうえで証拠採用が決まって調書が朗読されてからさらに3年ちかくたってから、検察側の立証が終わってからでも1年近くたってからコーチャンらへの嘱託尋問が請求された、というのが実情なのです。これはとても「反対尋問」と言えるものではありません。そして、新たな証人尋問であればその立証趣旨(コーチャンらへの尋問によりなにを明らかにしたいのか)を示して請求することが必要になるわけですが、弁護団は説得的な立証趣旨を示すことができませんでした。この当時田中側がとっていた裁判引き延ばし作戦の一環として行なわれた証人申請であることは明白なのです。そのような証人申請が却下されたところで、被告人の反対尋問権が侵害されたことになどならないことは言うまでもありません。
もう一つ、刑訴法228条2項にまつわる問題がありますが、これについては後述します(→Q6)。

Q3 ロッキード裁判ではコーチャン(元ロッキード社副社長)が最重要証人であったというのは本当ですか?
A3 丸紅ルートに関する限り、特に被告田中角栄に関する限り、真っ赤な嘘です。
なぜなら、コーチャンらは田中たち政治家には直接接触していないからです。5億円はコーチャンから丸紅にわたり、田中側には丸紅から渡されました。したがって、丸紅側被告、榎本被告、その他証人の証言によってロ社から田中への金の流れとその趣旨が立証できれば、収賄罪と外為法違反は成立するのです。コーチャンは丸紅と田中の接触、田中の全日空へのはたらきかけについては全て伝聞で知っているに過ぎません。このような証人が「最重要証人」であることなどあり得ません。
また、後述するように(→Q6)丸紅ルート最高裁判決は嘱託尋問調書の証拠採用を斥けましたが、それでも榎本、檜山両被告に有罪の判決を下しました(田中は死亡のため公訴棄却、他の被告は上告しなかったため最高裁判決を受けていない)。つまり嘱託尋問調書抜きで有罪としたわけです。これもまた、コーチャンが最重要証人などではないことの証拠になります。

Q4 ロッキード裁判は「調書裁判」だったというのは本当ですか?
A4 嘘とは言えませんが、ロッキード裁判を批判する根拠としては無意味です。「調書裁判」とは日本の刑事裁判を批判する際によく指摘されることです。その限りで、ロッキード裁判もまた調書裁判であったということはできるかもしれません。しかしながら、このことをもってロッキード裁判を批判する論者が失念しているのは次の3点です。まず、丸紅の大久保被告は公判でもほぼ検事調書通りの証言をしました。つまり、田中が有罪とされた背景には公判証言の裏付けがあります。ロ社が5億円を日本に持ち込むために利用したブローカーも出廷して5億円を届けた旨、証言しました。第2に、有名な「ピーナツ領収書」をはじめとしてこの事件には物証があります。第3に、調書と公判での証言とを比較したうえで具体的に検事調書が信頼性を欠く(検事の勝手な作文ないし自白の強要である)とする議論を反対派はできたためしがありません。漠然と調書裁判を批判しても、それは「日本の刑事裁判批判」にはなり得てもロッキード裁判批判としては無意味なのです。

Posted: 土 - 10 月 22, 2005 at 03:56 午後          

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