「ロッキード事件」Q&A 裁判編3
Q5 首相には民間旅客機の機種選定に関する職務権限などない、というのは本当ですが?
Q6 最高裁はコーチャンらへの免責を(ないし免責の上での嘱託尋問を)違法だとしたのは本当ですか?
Q7 免責をうけたコーチャンらは嘘をつきまくったに違いない、というのは本当ですか?
Q8 「榎本アリバイ」を検察は崩すことができなかった、というのは本当ですか?
Q9 ロッキード裁判の判決はどこで読むことができますか?
Q5 首相には民間旅客機の機種選定に関する職務権限などない、というのは本当ですが?A5 (おおざっぱな言い方をすれば)嘘です。この争点は最高裁に至るまで弁護側が完敗していますので、ネット上で見かける裁判批判・田中擁護論でもほとんど触れられていないようですが、念のため言及しておきます。そもそも判例では請託の内容が法的根拠をもつ職務権限の対象であるケースだけではなく、より幅広く職務に関連する場合に収賄の成立を認めてきました。最高裁判決が職務権限論での弁護側所論を斥けたのみならず、この判決についた5つの補足意見のうち4つが職務権限の問題にまつわるもので、そのいずれもが弁護側の主張を斥けています。Q6 最高裁はコーチャンらへの免責を(ないし免責の上での嘱託尋問を)違法だとしたのは本当ですか?A6 嘘です。最高裁はなるほど嘱託尋問調書の証拠採用を斥けました。その理由は「我が国の刑訴法は、刑事免責の制度を採用しておらず、刑事免責を付与して獲得された供述を事実認定の証拠とすることを許容していないものと解すべきである以上、本件嘱託証人尋問調書については、その証拠能力を否定すべきものと解するのが相当である」というものです。ここで留意すべきなのは、証拠能力が否定されたからといって嘱託尋問そのものが違法とされたわけではない、ということです。嘱託尋問調書に関して弁護側により有利な補足意見を書いた大野判事ですら、「捜査機関が国際的犯罪の捜査資料を収集するために、アメリカ合衆国において合法として行われた強制捜査手続について、重大な違法があるものということはできない」と述べているのです。尋問調書の類いに証拠能力が認められるためにはさまざまな要件があり、別に違法な手段で作成された調書でなくても証拠能力を否定されることはいくらでもありうるのです。大野判事も言っているように、「捜査の端緒ないし捜査資料の収集として右のごとき嘱託証人尋問をし得るということと、その結果得られた資料を我が国の刑事裁判上事実認定の証拠とすることができるということとは別個の問題」なのです。なお先に言及した補足意見で大野判事は、嘱託尋問に際して田中側の弁護人が立ち会っていないことをもって「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ事案の真相を明らかにすべきことを定めている刑訴法一条の精神に反するものといわなければならない」としています(憲法37条2項の精神に反する、とはされていないことに留意しましょう)。刑事訴訟法228条2項は、刑訴法226条に基づき第一回公判前に行なわれる証人尋問について、捜査の妨げとなる恐れがなければ被告、被疑者の弁護人を立ち会わせることが「できる」と定めています。結論だけを述べれば、「できる」であって「立ち会わせねばならない」ではないこと、また贈収賄という事件の性質上、田中側の弁護人が立ち会っていないことにはなんの問題もないと言わざるを得ません(そもそも、嘱託尋問が始まった時点で田中はまだ逮捕されていなかったのです)。詳しくはこちらやこちらを、またこちらもご覧ください。Q7 免責をうけたコーチャンらは嘘をつきまくったに違いない、というのは本当ですか?A7 嘘です。もちろん、コーチャンらが嘱託尋問において真実を本当に述べたのかどうかは「神のみぞ知る」事柄ではあります。しかしながら、免責を受けたのだから嘘のつき放題だった、というロジックは明らかに間違っており、その原因は「免責」に関する誤解にあります。嘱託尋問において問題になった免責は、米国法では「自己負罪特権」(憲法修正第5条)の剥奪というかたちをとります。何人も自己に不利な証言を強制されないという原則を逆手にとり、証言を強制する代わりにその証言に基づき証人を告発することはしない、ということなのです。実は当時のアメリカでは外国の政治家に対する賄賂は犯罪ではなかったので、コーチャンらはもともとアメリカにおいて贈賄で立件される恐れはありませんでした。しかし例えば商用で来日した際に日本の当局によって逮捕されるといった可能性は残るため、日本側の免責がない限り証言しない、という立場をとったのです。これに対して日本の検察は、起訴便宜主義(刑訴法248条)を活用して実質的な免責を与えることにしました。ここで重要なのは、嘱託尋問は日本の裁判所の嘱託によりアメリカの裁判所で行なわれた、ということです。証言によって訴追される恐れがない以上、コーチャンらは自分の犯罪について宣誓証言を求められます。したがって、もし証言において嘘を言えば(やったことをやってないと言った場合も、やってないことをやったと言った場合も)アメリカにおいて偽証罪に問われる可能性があった、ということです。偽証罪が事実上死に法化している日本とは異なり、アメリカでは偽証罪はきちんと機能しています。これに対して、もし免責がなければコーチャンらは証言を拒否することもでき、また嘘をつくことも可能だったのです。嘱託尋問調書の証拠採用を認めなかった最高裁判決ですら、刑事免責の制度は、自己負罪拒否特権に基づく証言拒否権の行使により犯罪事実の立証に必要な供述を獲得することができないという事態に対処するため、共犯等の関係にある者のうちの一部の者に対して刑事免責を付与することによって自己負罪拒否特権を失わせて供述を強制し、その供述を他の者の有罪を立証する証拠としようとする制度であって、本件証人尋問が嘱託されたアメリカ合衆国においては、一定の許容範囲、手続要件の下に採用され、制定法上確立した制度として機能しているものである。と述べ、「嘘のつき放題」などではないことを認定しています。Q8 「榎本アリバイ」を検察は崩すことができなかった、というのは本当ですか?A8 嘘です。崩すもなにも、弁護側は「榎本アリバイ」を立証できなかったのです。このアリバイに関しては先日亡くなった後藤田正晴などの国会議員を含め多くの弁護側証人が出廷しましたが、現金の授受があったとされる時間に(別の場所で)榎本秘書と会っていたことを明確に証言した証人は一人たりともいませんでした。Q9 ロッキード裁判の判決はどこで読むことができますか?A9 丸紅ルートの最高裁判決はこちらで読むことができます。また、判決に添えられた補足意見はこちらから「平成七年二月二二日大法廷判決
昭和六二年(あ)第一三五一号
外国為替及び外国貿易管理法違反、贈賄、外国為替及び外国貿易管理法違反、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反各被告事件」という項目を探すと、「判決、主文、理由」に続いて掲載されています。また、丸紅ルート高裁判決はこちらで読むことができます。一審判決については私が知る限りネット上で読むことはできないようです。ただし、東京新聞特別報道部編の『裁かれる首相の犯罪』第16巻に主文と理由(要旨)が収録されているほか、有名な争点に関する部分は刑事訴訟法、刑法などの解説書にしばしば引用されています。立花隆の『ロッキード裁判批判を斬る』(朝日文庫、全3巻)でも適宜引用されていますので、断片的に読むことは可能です。印刷された裁判例集に収録されているかどうかについては現在調査中です。
Posted: 土 - 10 月 22, 2005 at 05:44 午後
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