『不都合な真実』
監督:デイヴィス・グッゲンハイム
出演:アル・ゴアほか
2006年、アメリカ
講演旅行シーンの合間にゴアの回想がはいる、というシンプルなつくりだが、時折観客から笑いが漏れる…というのは、講演がプレゼンテーションとして実によくできているから。ゴア本人の資質や努力は別として、どれほどのスタッフと資金をつぎ込んだらああいうプレゼンテーションできるんだろうか。この映画についてはこんなニュースが。ゴア氏の映画、上映中止 米公立学校が親の抗議受け共同通信:2007年1月26日(金)11:01【ワシントン25日共同】米国のゴア前副大統領が出演し地球温暖化の危機を訴えるドキュメンタリー映画「不都合な真実」を米西部の公立学校が理科の教材として上映しようとしたところ、生徒の親の抗議で教育委員会が中止させたことが話題となっている。25日付のワシントン・ポスト紙などが伝えた。報道によると、ワシントン州シアトル近郊で今月初め、日本の中学1年に相当する娘の授業でこの映画が上映されると聞いた親が「(温暖化対策に消極的な)米国を非難するような偏見に満ちた映画を子どもに見せるな」と抗議する電子メールを地域の教育委員会に送付。これを受けた同教委が「地球温暖化のように科学的にも議論が分かれる問題を教材で扱う場合は事前の承認と、異なる見解の紹介が必要」として、上映を中止させた。
この映画が挑戦している3つの「誤解」の一つがまさにこの「科学的にも議論が分かれる」という点で、地球温暖化を扱った過去10年(だったと思う)の論文(ピア・レビューあり)から10%を抽出して調査したところ、1,000本近い論文のすべてが「温暖化は事実」とする立場のもので、温暖化を否定するものはゼロだったというのである。これに対して、マスメディアに載った記事では半数以上が「科学的にも議論が分かれる」という態度をとっていたとされており、この映画の主張が正しいならばシアトル教委の態度はマスメディアの論調には即していても科学者の主張には即していないことになる(もちろん、ピア・レビューが少数派の論文を実際以上に過少にみせている可能性も否定はできないが)。実はこの映画を観に出かけたのは2度目で、最初は「エコ・サンデー」と称して全日500円で観ることができるというキャンペーンの日に知らずに出かけ、昼前には全上映会分が売り切れていたのですごすごと帰ったのだが、二度目の正直の時も平日にしては(そして当地では公開されてからけっこうな日にちが経っているにもかかわらず)まずまずの入りで、この種の映画としてはそこそこよく観られているものと思われる。しかしこの種の映画を観るとやはり考えてしまうのは「本ではなく映画だからこそ観に行った」という人々が少なからずいるのだとすると…という問題だ。情報量(正確さ×わかりやすさ)で言えば例えば新書1冊の方が上回るであろう。局地的な豪雨の多発と旱魃(ダルフールなどでの民族対立の背景の一つ、という紹介がある)とが共に温暖化による効果だというのは直観的に直ちに呑み込めるはなしではなく、気象システムについてのどのようなモデルを使ったのか、といった説明があった方が本当は理解しやすいだろう。ちなみに書店では書籍版がめだつところに並べられているのだが、あまり「環境に優しく」なさそうな体裁&装丁だったのはちょっと気になる。もちろん素人目に「環境に優しそう」なものが実際にはそうじゃない…というのはちょくちょくあることだけど。余談だが、日本の場合、アメリカのように温暖化を軽視し、あるいは温暖化に警鐘を鳴らす論者を憎悪するメンタリティが宗教的信念と結びついている(必然的に結びつくものかどうかはともかく、一種のスピンコントロールの結果として結びつけられている)ということはあまりなさそうだが、その代わりにシニシズムがより大きな障害になりそう。
Posted: 火 - 2 月 20, 2007 at 08:05 午前
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