『自己決定権は幻想である』、『「うそつき病」がはびこるアメリカ』
小松美彦、『自己決定権は幻想である』、洋泉社選書y
デービッド・カラハン、『「うそつき病」がはびこるアメリカ』、NHK出版
『自己決定権は幻想である』
今なお執拗に脳死者からの臓器移植に反対し続けている代表的な論者の新著。脳死に関する議論の一部(「ラザロ現象」についてのものなど)は事実問題であるが、主張の重点は「自己決定権」というロジックへの批判にある。イラクでの邦人人質事件の際に露呈した、他人の自己決定を許容しない人間こそが「自己責任」を声高に叫ぶという現状に鑑みれば、著者の問題提起の意義は極めて大きいと思われる。自己決定権を称揚する個人主義を批判しつつ共同体主義にも与しないとする姿勢には共感できるし、自己決定権がもともとパターナリズムや権威主義への対抗言説として主張されたという事情にもきちんと目配りはされている。その意味で、「抽象的」なレベルではおおむね同意できるのだが、違和感が残るのは『ドイツ・イデオロギー』と『明日のジョー』を重ねあわせてみたり「実録ヤクザ映画」が好きであるといったセンスに対してである。しかし著者によればまさにこういう具体的な違和感こそが大切だということなのだから、私もご説に従って「ノー」と言わせてもらいたい。現在の日本で「自己決定権」という概念が非常に危険な含意をもたらしかねないものであるのは確かなのだが、自己決定(著者は自己決定と自己決定権とを峻別し、後者を批判の対象としている)をまったくエンカレッジしないこの社会においては自己決定に「権」の一文字を付け加えることに意味がないわけではないのだ、、と。
ただ、「健康増進法」批判については全面的に同意。マスコミがこの法案をもっぱら受動喫煙の問題に矮小化して報道したことは今後の日本社会に大きな禍根を残すだろう。レストランや駅が禁煙になってよかったと思っている貴方、本丸はもっと別のところにあるのですよ!
『「うそつき病」がはびこるアメリカ』
購入して読み始めて、抄訳であることに気づく。非常に不愉快。抄訳が絶対にいけないとまでは言わないが、せめてどこをどういう理由で省略したのかは明記すべきであろう。非学術書系の出版社の翻訳書にしばしばみられる、「いい本に目を付けたのに売らんがために妙な細工をする」というケースの一例。
しかし内容的にはなかなか重要な本である。基本的にはジャーナリスティックな仕事でアカデミックな厳密さは欠いているが、新自由主義がいかにして社会の倫理的なインフラストラクチャーを破壊しているかがよくわかる。そして(アメリカの場合)宗教右派が新自由主義とどのように野合し、リベラル派の批判がなぜ無力であるかも。以前に当ブログでも書いたはずだが、ブッシュ政権や小泉政権の政策パッケージは根本的な矛盾(新自由主義を称揚しながら、それがもたらす社会的荒廃を道徳的に批判する)をはらんでいるのである。
Posted: 水 - 9 月 1, 2004 at 11:53 午後
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