「リレー物語」とは、愛知県立小牧高等学校の服部左右一先生が実践されたもので、筑摩書房の『国語通信』1999No.4冬号に掲載されているものです。私はこれを読んで、生徒の書く意欲を引き出す、真に優れた実践だと思いました。
「リレー物語」は次のようにして行うものです。
(1) クラスを何人かのグループに分ける。服部先生は6人ずつの6グループで行っています。
(2) 各自が物語の最初の書き出しを考え、用意されたプリントの最初の枠に書き、次の人に送る。6番目の人は1番目の人に送る。
(3) 受けた人は書き出しを読んで続きを考え、プリントの次の枠に書いて、さらに3番目の人に送る。以下、前の人の文を読んで続きを書いては次の人に送っていく。
(4) これを6回繰り返し、自分の書き出した物語が戻ってくると、全体の流れを見て結びの文を最後の空欄に書き、物語にふさわしいタイトルをつける。
この実践では、教室の中が熱気に包まれるようです。
「バトンタッチの途中から、やがて教室は明るい笑いの場と化してくる。物語がどう展開していくのか早く読みたいと前の人をせっつく姿があちこちで出てくる。他の人がどんなふうに書きはじめ、どうつないでいくか身を乗り出すようにして待っている。」(p28)
私は、この教室全体が動き、生徒の一人一人が文を読んで考える姿に感銘を受けました。そして、これをぜひやってみたいと思っていました。
そこで、私が担当する教育実習事前指導と研修講座の時に、この「リレー物語」を使って表現指導の実例を示そうと計画しました。
私は毎年、新潟大学からの要請で、教育実習の事前指導の講義を担当しています。年1回の、90分の講義です。私が担当するのは文科系の学生で、80名ほどいますが、そのほとんどは国語以外の高校教員の免許を取得しようという人たちです。そのために国語だけに話題を限ることができません。そこで昨年から、高校での授業はどのようにして行われるべきかを考える内容の講義にしています。昨年度は、「高校の授業は一斉講義式で行われるべきである」という論題で、紙上ディベートを行いました。
今年度は、授業が指導目標に則って行われるということを実感してもらうために、この「リレー物語」をやってみました。
やり方は、上記の服部先生のやり方をほぼ踏襲しました。ただ、私は物語の結末を書く人(最終ランナー)も書き出しの著者以外の人としました。そして、書き出しの著者は戻ってきた作品を読んで、それにふさわしい題名をつけ、感想を書くようにしました。その中で作られた作品を紹介します。
「ポケットのなかみ」
1 ある朝、はきかけの靴を気にかけながら、大学への道を急いでいると、シュブンシュブンと泣いている母さんカンガルーに会いました。ボクは、「どうしたんです。」と聞いたのです。
2 母さんカンガルーは、お腹にくっついているポケットを落としてしまったのでした。
3 ポケットの中には大切な息子が眠っていたということです。とても困っている様子でしたが、学校に遅刻しそうな私はとりあえず交番に連れて行ってあげました。
4 交番に行ってみると、それらしきポケットが置いてあるのではありませんか。しかしポケットの中には何も入っていませんでした。
5 さあ大変! 息子のカンガルーは一人でえさを探すことも、跳びはねることもままなりません。皆で街中を探すことになりました。
6 探すといってもさあ大変。息子のカンガルーは、とても小さいので、街中を探しても見つかりません。やっと見つけると……。
7 息子カンガルーは、くっつけたポケットにとびこんで、すぐにぐっすり眠ってしまいました。母さんカンガルーもひと安心。ボクも安心して学校へ向かいました。えっ!? もう遅刻……。
感想 カンガルー→おなかのふくろという経路は子ども向けによいし、カンガルーの子が迷子になってしまうのも童話的である。しかしカンガルーのポケットの入っているのが子どもではなく、もっと無機質で怖そうなものだったらどうなっていたか。また、実はカンガルーの着ぐるみを着たドラえもんだったら……、でもとてもやさしいおはなしになっててよかった。
これを作成した後、この作業の背景にある授業の目的について解説しました。
この「リレー物語」を研修講座でも実施しました。その際、参加者に表現指導と国語科におけるコンピュータ活用の必要性の両方を実感してもらうために、「リレー物語」をコンピュータを使って行いました。
インターネット技術は教育の場面で様々な可能性を持っていると思います。特に電子メールは、表現活動の場面で活用できると考えています。その一つとして、「リレー物語」を電子メールによって行うことで、より自由な発想が期待できますし、参加者同士の迅速な交流がはかれます。
やり方は基本的に同じです。物語を紙に書いていたのをディスプレイの画面に置き換えて、書き出しを書いたら次の人に送信し、送られてきたものの続きを書いて次の人に送信するという手順です。
実例を一つ紹介します。
「木を植えた少女」
1 ある日の夕暮れのことです。ひとりの少女が公園のブランコに揺られていました。あたりは薄暗く、人影はほとんどありません。
2 女の子はランドセルを背負って、手提げを1つ持っています。学校の帰りでしょうか。そこへカラスが一羽飛んできて、彼女に話しかけました。
3 「おーい、おじょうちゃん、このへんで おれの大事なものを見なかったか?」
少女は答えました。
「なあに?大事なものって?」
「・・・まったく、人間は勘がにぶくて困る。カラスが大事にしているものっつったらわかるだろ?」
そう言ってカラスは飛んでいってしまいました。
「何だろう?何を探していたんだろう?」
ふと目を落とした少女は何かを目にしました。それは、松の木の苗でした。4 カラスが大事にしているものって松の木の苗? 少女は目にした苗を手に取り、不審そうにながめます。しかし、何かその苗が心にひっかかる少女は、それを家に持って帰ろうとしました。
5 その時です。先ほどとはまた違うカラスが慌てふためいてやってきました。
「お嬢さん、このへんで私の大事なものを見ませんでしたか?あれがないと私は帰るに帰れないんですよ。」
先程と同じ質問をしました。
「なあに?大事なものって?」
ところがそのカラスはただただ「困った、困った」というだけで、けっきょくどこかへ飛んでいってしまいました。6 少女は困って松の木の苗を持ったまま、そこへたちすくみました。そこへ白いやせこけたのら犬がとぼとぼとやってきて、しわがれた声で言いました。
「お嬢ちゃん、その松を君の手で植えておやり。そうすれば、カラスも巣を作れるし、 公園に来た人達の休む木陰になるだろう。」
少女はその手で松を植えました。すると見る間にぐんぐん大きく育ってあっという間に大きな松の木になりました。するとそこへさきほどのカラスがそろってやってきました。
「おじょうちゃん、ありがとう。これで二人の巣が作れるよ。」
二羽のカラスはその松の一番高い枝に、自分たちの胸の一番柔らかな羽を使って巣を作りました。そこに大事そうに二つのたまごをおいて、仲良くあたため始めました。
「そうか、大事なものって・・・」
少女は急におうちが恋しくなり、急いで帰りました。
もうすぐ夕ごはんの時間です。
「リレー物語」を2回実施してみて共通していたのは、参加者の集中度でした。服部先生の書かれていた文章(先の引用部分)から、この「リレー物語」を実施すると教室中がさぞにぎやかになるだろうと思っていました。ところが、いざ実施してみると意に反して静まりかえってしまいました。
でも、その静けさは集中した結果の静けさでした。大学の講義では90分のうち半分くらいの時間を予定していたのですが、学生たちは集中して物語を紡ぎ始め、結局講義時間の大半を費やしてしまいました。
この「リレー物語」は生徒の授業への参加度を飛躍的に高めることができそうです。これは「リレー物語」が持っている参加者同士をつなげる力にあると考えられます。
「自分と他人との壁を越えてことばが自由に行き交う。ことばは自分のものであり同時に他人のものであり、みんなのものだ。リレー物語、ことばのバトンタッチが教室にことばの共和国を作り出す。一人ひとりがことばの発信者であると同時にまた受信者でもある。そのことによって教室が具体的な文化空間に変わろうとしている。作品を読まれることに対する抵抗もここではほとんどなくなっている。作品を読みあいながら感想を書く光景にもギスギスした自己防衛は見られない。冷やかしたり無駄口を言い合ったりする生徒たちの声が明るい天井に跳ね返り耳元に心地よく届く。」(p29)
この後で、連句の授業を取り上げて、教室内で生徒同士のつながりを作る授業の可能性を指摘しておられます。私も「リレー物語」を実施してみて、参加者同士がつながっていく表現活動の素晴らしさを実感しました。
私はこの「生徒同士のつながり」が、表現指導を教室内で実施するさいの駆動力になるだろうと考えています。
参考文献:「リレー物語 回路をひらく2」 服部左右一 筑摩書房『国語通信』1999No.4冬号