1.「大福帳」について
昨今の大学でも、授業改善のための試みがいろいろとなされています。その中の一つに、「大福帳」というものがあるのをご存じですか。
「大福帳」とは三重大学教育学部の織田揮準先生が始められた方法です。
授業に対する学生からのアンケートを学期毎に取るのは参考になるわけですが、それを毎授業毎にやれば、もっと効果が上がるのではないか、という発想から始められたようです。
以下、織田先生のHPにある「大福帳による授業改善」から引用します。
大福帳による授業改善 1.はじめに
織田は、1982年度後期学期末試験に「学生による授業評価」を初めて実施し,それ以後、学期末に実施する「学生による授棄評価」を授業改善のフィードパック情報として活用してきた(織田1983,1993)。学生による授業評価の成果は、「学生による授業評価」の実施計画を持つことが日常的な授業改善の工夫を促す強い動機づけになること、などの発見であった。学期末に行われる「学生による授業評価」に加えて、授業毎に受講生からの授業に関するフィードパック情報が学生から得られるならぱ、より細やかな授業改善が可能になる。こういった発想のもとに,毎授業の終了直前に「授業に関する意見や感想」を求める一種の受講カードを考案し、大福帳(Shattle Card"DAIFUKU")と命名された。
2.大福帳を導入した授業の流れ
大福帳を使った授業の流れは、次の通りである。
1)毎授業のはじめに大福帳を学生に返却する。
2)学生は、授業終了の直前に、授業に関する意見:感想などを大福帳に記入する。
3)学生は、大福帳を提出して、退室する。
4)次週の授業までに、教師は朱書する.
3.大福帳効果
大福帳の導入によって、学生は毎回、授業に関する意見や感想を書かなけれぱならないし、教師は次の授業までに学生の記述に対するコメントを朱書しなけれぱならないという負担がある。しかし、大福帳には次のような効果(大福帳効果)が認められた。
1) 授業出席促進効果・欠席防止効果
授業のはじめに返却される大福帳に朱書された教師からのコメントは、教師から個々の学生へのメッセージであり、学生にとって楽しい一時である。このような楽しい一時を求めて、また、ある学生は代筆・代返ができないという理由から、授業に出席する。
・教師のコメントが楽しみで、欠席が減少した。
・欠席してできる大福帳の空白が妙に目立ち、なんだか責められているような気がした。
2) 積極的な受講態度形成効果
学生は、毎回、授業に対するコメントを書き、教師からのコメントが次週に返ってくるから、いい加滅な記述がてきないという意識が学生に生じ、積極的、真面目な受講態度が形成される。
・大福帳のおかげで、気合いを入れて受講した。
・教師の朱書に励まされ、学習意欲も高まった。
3) 信頼関係形成効果
大福帳は、授業や学問のあり方、教育観や人生観に対する姿勢や情熱を相互に伝達することのできる貴重な「場」であり、教官と学生との信頼関係を成立させる効果が認められた。
・大福帳は学生と教官との話し合いの場であった。
・授業で納得したり疑間に思ったとき、それを大福帳で教師に伝えることが出来てよかった。
4) 授業内容の理解促進と学習定着効果
大福帳に授業の感想や意見を記述する過程で、その日の授業の復習や授業内容の整理が行われる。また、文章化をすることにより、授業内容の構造化やより深い学習の定着が生じる。さらに、次週には教師からの朱書を読み、あわせて先週書いた自分の記述を読み返す(復習)ことにより、学習(記億)の定着が促進される.
・大福帳に授業内容を書き、次週に教師の朱書をも読み、そしてもう一度授業内容について考える、この繰り返して授業の印象がより強くなった。
5) 自己努力・自己変容過程の確認効果
授業に関する意見や感想と教師からのコメントの記入された大福帳は、授業記録の缶詰である。大福帳に書かれた自分の記述を読み返すことにより、授業て生じた自己変容・自己の成長過程を「大福帳」という具体的な形で毎授業確認できる。このことは充実感・満足感につながり、受構意欲・学習意欲の向上をもたらす。
・授業毎に大福帳の欄が埋まっていくのを見ると、講義に参加しているという実感があった。
6) 授業内容充実効果
多数の受講生を対象に行われる一斉指導型の授業では、その日の授業内容や授業法等に関する受講生の感想や意見を得ることは容易ではない。教師は学生からのコメントに励まされて、技業内容の精選、教材の作成、教授法の工夫、授業の準備など、より魅力的な授業作りのための努力と工夫を維持することができた。
4.まとめ
大福帳は、実施法が簡単で、短時間に実施でき、学生への負担が少ないなどの実施上の利便性が高く、また、大福帳の導入に対して学生が好意であるなどの利点が認められた。授業担当者にとっても、大福帳に書かれる学生からの授業に関する意見や感想、時には批判は、授業内容の充実や教授法の改善など、より魅力的な授業実践への意欲を高め、それを持続させる効果がある。
(引用者注:大福帳の実物は上記HPにあり)
2.大福帳を用いた授業の実際
この大福帳はいくつかの大学の先生が自分の講義で取り入れ、成果を上げているようです。
富山大学教育学部の向後千春先生は、大福帳を用いた授業を今年から行なっておられます。向後先生の場合、相手にする生徒が100人以上もいるため、書くコメントは「うん」「そうです」「がんばって」などの一言が多いそうです。それでも、大福帳方式は学生に大変評判がよいそうです。
ちはるの多次元尺度構成法(日記)2001年12月
3.高校の授業への適用
大学では、授業は週1回ですので、たとえ人数が多くてもコメントを書くのは可能でしょう。しかし、高校の場合、1つの科目は週2〜5時間であり、同じクラスに週5回も顔を出すということがあります。そのような現場でこの大福帳方式をそのまま導入したら、コメント書きだけでその日の放課後は使い果たしてしまいますね。
そこで、例えば大福帳を提出させるのを週1回にすることが考えられます。週の最後の時間にその週での授業を思い起こさせて書かせ、次の週の最初の時間に生徒に返す、などの方法です。本当は毎時間行うことが必要なのでしょうが、それでも効果は期待できます。
教科ではなくLHRで大福帳を用いる、と考えた方がいます。高校において、HR指導にこの大福帳を用いた事例があります。
情報発信型教育の手法を用いたHR指導
以上、多くの可能性を秘めた「大福帳」を、学校の授業でも取り入れてみませんか。