人間の価値の発見

豊かに生き抜く心(3)

熊本中高年齢労働者福祉センター サンライフ熊本 「生き生きふれあいセミナー」講演 1998.11.17

3.豊かな人々

 アフリカのサバンナにホッテントットと呼ばれる種族が住んでいます。彼らのことについては日本ではかなり詳しく知られるようになっていますから、ご存じの方も多いと思いますが、彼らは狩猟民族として一生サバンナを放浪して過ごします。

 ですから、粗末なテントとわずかの調理道具、そして少しの家畜が彼らの全財産で、他には何もありません。

 最近はその様子も少し変わってきたかも知れませんが、何よりも特徴的なのは、彼らの生活ぶりで、彼らは獲物が捕れないと、みんなで飢えます。そして、小さな獲物でも、もしそれが取れれば、たとえ一人分がどんなに少なくても、彼らはそれをみんなで分け合って食べるのです。また、彼らは必要なだけしか獲物を捕獲しないのです。

こうして彼らはサバンナの自然と見事に共生して生活しています。彼らには、有り余るほどの物は決してありません。むしろ、物質的にはいつも欠乏しています。しかし、彼らは生涯、争うということを知りません。

 その生活ぶりを見ますと、少なくとも私の目には、彼らは世界で最も豊かに生きている民族ではないかと思えるのです。

 戦後50数年、物があれば豊かになるのだからと思い、物を獲得すること、しかも有り余るほどの物を獲得することを目指してきました。そして、そのおかげで、ある程度の余裕も生まれました。少なくとも世界の他の多くの国々の人々から見れば、日本人はお金持ちです。

 しかし、私たちの日常は争いの連続です。欲望を満たすための事件は、毎日、新聞記事を埋め尽くします。豊かであることは、すべてが充足していることですので、問題はその充足感にあるのでしょう。そして、その充足感は、実は、自分の欲望を満たすことが十分にあることによってではなく、たとえわずかなものでも、それを、それこそ豊かな心で分かち合うことによって得られるものではないでしょうか。

 一人で贅沢な食事をすることではなく、気の合う仲間とわいわい言いながら「おにぎり」やパンを分け合って食べる方が、はるかに満たされるのです。高価なホテルに一人で泊まって過ごすよりも、たとえ野宿でも、信頼できる人と枕を並べる方が、はるかに安心して休めるのです。

 だから、愛こそが豊かさの尺度なのです。もう少し厳密に言えば、愛の広さと深さこそが豊かさの尺度だと言えます。分かち合いつつ、他者と共に生きようとする姿勢こそが豊かさを示すのです。

 だからまた、もし、豊かに生きたいと願うなら、私たちは私たちの愛を広くて深いものにすべきなのです。豊かさは豊かな精神によってしかもたらされないと言うことを、私たちは明瞭に知っておきたいと思い、今日、このお話をいたしました。