紀元前6世紀の古代ギリシャのミレトスの住人タレスは、この世界がどのようにしてできているのか、を不思議に思い、その根源を尋ねました。
その問いに対して、彼が採った方法は「観察」でした。世界を問うとき、世界そのものをよく観察するのです。しかも、様々な憶測なしに、観察して、その結論を得ます。
この方法は、その後ずっと西洋のものの考え方の一方になりましたし、今日に至るまで学問の基本的態度になりました。
自然科学はもちろんのこと、たとえば哲学者のカントも、その『人間学』の中で、自分が採る方法は「観察」であると述べています。
私たちは、何か問題が起こったとき、あるいは何かを問題にするとき、初めにどうするでしょう。おそらく、知恵ある人は、その問題を明確にするために、問題そのものを、あるいは対象をよく「観察する」と思います。
「観察」は、具体的思考の始まり、といっても良いかもしれません。しかし、正しく観察するためには、その観察をする「目」が必要になります。同じものを見ていても、全く見えていないということもあるからです。
「ニュートンがリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見した」というのは、あまり真実性のない話ではありますが、リンゴが落ちるのを見て、ある人は「もったいない」と思うかもしれないし、ある人は「すぐにひろって食べよう」と思うかもしれません。ニュートンはそれを「物理学の目」で見たのです。
そのように、ものごとを観察するには、「観察する目」が必要なのです。学問を学ぶということは、その専門が何であれ、この「観察する目」を養うことでもあるように思います。
世辞にたけた人がいて、僕が人に裏切られたとき、「君の目がふし穴だったのだ」と忠告してくれましたが、真に僕の目は「ふし穴」でしたね。
それはともかく、「観察」が主観的であるか客観的であるかの問題もありますが、ここではその問題には触れないことにして、タレスがとった方法が「観察」であったのは、画期的だったのです。
彼は、青年の頃、エジプトに住んでいたといわれています。短い滞在だったのかもしれません。しかし、彼はそこでナイル川の氾濫を見ました。そして、そのナイル川の氾濫の後に、植物が一斉に芽を吹き出すのを観察したのです。彼の眼にはナイル川の水が、すべてを新しくして、新しい世界を作っているように映ったのかもしれません。
彼は、この経験に基づいて、「世界の根源は水である」との結論を導いたと言われています。
この「根源」という言葉は、ギリシャ語で「アルケー」と言い、ギリシャ語の最初の文字で、「最初」を意味する「アルファー」と同じ言葉です。つまり、「世界の最初は水である」と言い変えても良いでしょう。
この世界観は、もちろん、古代人であるタレスの直感かもしれません。しかし、今日、科学的分析力が膨大に増加して、その知識も巨大なものになっている私たちも、もし、「生命の始まりは何か」と尋ねられたら、躊躇することなく、「水である」と答えます。
アメリカのNASAが、木星の惑星の一つに水があることが判明したので生命が存在する可能性がある、と発表したのは、ついこの間のことでした。
タレスは、もちろんそこまで考えたわけでもなく、また、今日の意味で「世界の根源は水である」と言ったわけではありませんが、それを考えると、僕は、このタレスという人に不思議の思いを抱かざるを得ません。
彼は、「すべてのものは水から出て、水に帰る」と語りました。彼に従えば、人間も水から出て水に帰ります。
同じ頃に書かれた旧約聖書の『創世記』には、「人は塵(ちり)から生まれ、塵に帰る」という言葉があります。砂漠の民は「塵」を使い、水のあるミレトスの住人は「水」を使いました。真に奇妙に符合する世界観ですね。
人の生の「はかなさ」、形あるものの「はかなさ」があるのかもしれません。東洋的には「無常感」も出てきそうです。人間の一生は、どんなにあくせくしても「つかの間」のものかもしれません。
しかし、この「つかの間」が、なかなか重いですね。
ともあれ、このタレスの少し後、同じミレトスの住人アナクシマンドロスという人は、タレスとは別の考えをしました。アナクシマンドロスの考えは、極めて宇宙的であり、思想的です。
次回、この人について触れることにして、今回はこれまでです。
☆自分でこのメルマガを書きながら、昔の人は、本当にいろいろなことを考えてきたんだなぁ、と思います。その感性や思考、なんとか身につけたいと思うのは、僕だけでしょうか。
☆ギリシャのミレトスに僕はまだ行ったことがありません。いつかは行ってみたい所の一つですが、情報をお持ちの方がおられましたら、教えてください。
☆今週も本当にたくさんのメールをいただきました。心から感謝しています。ありがとうございました。さすがにインターネットの世界で、どんなに遠くからでも、すぐ近くで励まされているように思え、感激しています。
☆このメルマガ、今の調子で行くと、いつ終わるか予測ができなくなりましたが、気長におつきあいいただけると幸いです。
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