第一章 宇宙(世界)と人間

6.近代の世界観 (1)

「近代」という、もっとも画期的で、もっとも大きな変化を遂げた時代に、計り知れない影響を与えたのは、ルネ・デカルトでした。

近代的意識や近代精神という点では、デカルトをもって近代が始まり、現代的な状況が形成されていったと言っても過言ではないくらいです。

デカルトは、1596年、フランスのトゥレーヌというところで生まれ、彼自身が最初に著し、また、もっとも大きな影響を与えた書物、『方法論序説』によれば、オランダとバイエルンの兵士として従軍しました。

この青年時代の従軍経験は、「あらゆる学問を訪ね、あらゆる経験をし」の内の一つにあげられ、彼の見聞を広めたのでしょうが、当時のフランスの有為な青年としては、特別な経験ではなかったのではないかと思えます。

彼は、その後いくつかのところを旅したようですが、「確実なもの・真理」を訪ね求めたといいます。しかし、彼は「確かなもの」をどこにも見出すことができませんでした。

「確かなこと」だといわれているものを、徹底的に疑ってみると、それは「あいまいなもの」になってしまう。たとえば、極端な例でいえば、ここにコップがあるとしましょう。だが、それは本当に「ある」のでしょうか。

本当は「ない」のに、私の目が「あるように見」、私の手が「あるように」感じるだけではないのか。たとえ100人の人が「ある」といっても、それは100人の人がそのように思っているだけではないのか。

あるいはまた、「神はいない」ということも、人間の経験を越えるものを経験できないだけではないのか、といった具合です。

そこで彼は、あらゆる「蓋然性」を排除し、確実であり、普遍的である数学的合理性をもって思考の方法とすることを提示したのです。

従軍経験後、彼はしばらくしてオランダに落ち着き、そこで、彼の方法論に基づいて数多くの執筆をしましたが、『方法論序説』における彼の遍歴の記述は、あるいは、イコニアの学者たちを訪ね回ったソクラテスを彷彿させるものがあります。

デカルトは、数学的明晰さで哲学(思考)をうち立てることを意図しました。彼は、これまでの思考の中心であった形相やイデア、普遍といったものを排除し、数理的に証明できるものだけで世界のすべてが説明できると考えていました。

この姿勢は、これまでも幾たびか取られてきたものではありましたが、デカルトはこれを思考の全体系において、まるで計算機のように徹底させたのです。

彼は宇宙のすべてのものは「物質」によって構成されていると考えました。物質は、大きさ、広さ、長さなどの属性を持ち、様々な「物体」を形成して宇宙に存在しているというのです。宇宙は空白や真空ではなく、物体はすべての空間に満ち、限りなく細かな粒子へと分割できるものと考えました。

これは、これまでも考えられてきた唯物的世界観でもありますが、デカルトは神もまた「物質」であると考えたのです。形相やイデアなどはどこにも存在しません。

そして、宇宙のすべてはそれぞれの法則に従って変化し、粒子はその法則に従って結びつくと言います。デカルトの場合、この法則とは「運動の法則」です。

運動によって物体はある空間から別の空間へと移ります。宇宙の変化は、この物体の移動運動であり、この運動の法則を見出すことが宇宙を知ることであるのです。

さらに、注目すべきことに、デカルトは宇宙全体の運動量の総量は一定であると考えました。ある物体の運動が遅いなら、他の物体の運動は早い、と指摘しました。

恐らくこれは、宇宙全体が全体として調和しているということから考えたことだと思いますが、「エネルギー普遍の法則」や「相対性」の考え方へと結びつくものではないでしょうか。

(デカルトの世界観については、次回以降も少し詳しく述べたいと思いますが、長くなりますので、今回はこれまでとします。)

- A Promenade of Western Thought - K.Wiseman, O.Mai 著

Note

☆デカルトについては、少し考えた方がよいこともありますので、まず、彼の哲学についての基本的なことを押さえて、その後で、僕なりの考えを展開していけたらと思っています。

☆デカルトはやはり巨人で、多くの分野に影響を与えました。たとえば、学問全体の位置づけにしても、アリストテレスが体系化し、デカルトが明確化した位置づけが今日でも有効なものとなって、日本の大学の構造を作っています。

☆彼によって、良きにつけ悪しきにつけ、学問は細分化の方向を取りました。しかし彼の功績は何と言っても「自我意識」の覚醒ですが、これについては深く掘り下げる必要があると思っています。

☆デカルトの哲学を知るための優れた翻訳はたくさん出ていますが、僕は、彼の『方法論序説』を勧めます。分量も少量ですし、難しい本ではありませんが、基本的な思想がよくわかります。

Index

第一章
宇宙(世界)と人間

第二章
人間とその位置づけ

第三章
人間と社会

第四章
人間と教育

第五章
知識と言語

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