第3章 人間と社会

1.「家族」の思想(1)

1.人生は家族から家族への旅

 まず、当たり前のことから始めましょう。「当たり前のこと」は、だれもが「当たり前」と思ってあまり考えないことかもしれませんが、案外、大事な「真理」というものが含まれていることがあるものです。

 人間の生にとって基本的な「当たり前のこと」は、人間は「親」なしにはこの世に存在しないということです。

人間は生まれながらに親子の関係の中に置かれます。親子の関係は、言ってみれば、人間がもつ原初的な関係です。しかも、それは、自分の意志で変えることができない「運命的に定められた関係」です。

 親も子を選べませんし、子も親を選ぶことはできません。最近では、「産み分け」とか「人工授精」、「遺伝子操作」といったことが考えられているようですが、それがどんな親であれ、あるいはどんな子どもであれ、また、どのような生まれ方をしようと、その親子の関係は変えることができません。

 この定められた関係は、通常、「家族」と呼ばれます。社会学では家族の最小単位は夫婦ですので、それに従って言えば、人は家族の中に生まれ落ち、家族の一員として成長していきます。

そして、この運命的に定められた関係の中で成長した人間は、やがて新しい異性と巡り逢い、その異性と共に生活をする新しい家族を形成していきます。

こうして、人は家族からその人生を始め、新しい家族を作り、家族の中で死を迎えるという、いわば家族から家族への旅を生きていきます。

 成長して、自分の新しい家族を作らないままで過ごすこともありますが、その場合でも、家族に似た何らかの集団が形成されていきます。

「ケアー」ということが大事にされる現代の老人ホームや社会福祉施設、あるいは病院における医療チームとの関係も、その一つだと言えるかもしれません。

 人間の生の終わりである死も、多くの宗教が「天の家族との交わり」を説きます。その真偽は別にしても、ここにも「家族」が考えられています。

 家族から家族への旅。これが人間の生の基本的な営みと言っても過言ではないでしょう。

2.生は家族的な温かみを必要とする。

 「家族的な温かみ」ということがよく言われますが、それは、家族から家族へと人生の旅をする人間にとって、家族の存在が必要不可欠だという認識から生まれた言葉です。

「家族的な温かみ」の重要性は、近代になって、児童福祉施設や老人福祉施設のあり方を真剣に模索してきた人々によって強調されてきましたが、たとえば心理学でも、人間が幼少の頃に「家族的な温かみ」のような愛を感じることがないと、成人したときに周りの人間との関係をうまく保つことができず、破綻をきたしやすい人格になると指摘されています。

特に3歳までの養育に、その子が安心感を覚えるような愛情、安心して自分を委ねることができるような愛情が必要だといわれています。

もちろん、これは「3歳児神話」といわれる古い学説の一つで、今では、児童心理学でもその真偽に疑問の声が挙がっていますが、人間の生が基本的に「家族的な温かみ」を必要としていることは間違いないだろうと思います。

昔の育児書などでは、子どもが甘える子になってしまうので、歩き始めたらあまり抱かない方がよいと教えられていましたが、僕自身は今でも、子どもが求めるときはしっかり抱きしめてやり、愛情を注ぎだした方がよいと思っています。

 青少年の犯罪を分析する心理学者たちが、犯罪を犯した人がどのような家庭環境に育ち、どのように育てられたかを重視するのは、そこに「家族的な温かみ」を感じることができるような愛情があったかどうかを問題にするからです。

もっとも、犯罪心理学はそのことをあまりに強調しすぎるきらいがあり、人を「ある一定の枠組み」で判断してしまう危険性があるとは思いますが、人間が人間として生きる上での根本、人間関係の基本である「愛」は、まず初めに家族によって与えられ、また感じられるものではないでしょうか。

愛は与えられることによって与えるものになり、与えることによって与えられるものになります。

 だから、この「愛」を感じることができるような「家族的な温かみ」、家族、あるいは家族的な交わりというのは、人間にとって必要不可欠なのです。

- A Promenade of Western Thought - K.Wiseman 著

Note

☆「家族」の問題を考えることは、僕自身にとっては、なかなか難しいことです。ただ、武家社会から引き継いでいる日本の国家論は家族論でもありました。

☆西洋古典のまとまった国家論(社会論)としては、プラトンの『国家』という大作がありますが、日本の社会を考える上では、僕は、国家や社会を直接論じる以前に、上記の意味でも、家族を取り上げようと思った次第です。

☆結論的にいえば、家族や家庭について言えることはそのままでも社会や国家についていうことができるだろうと思うからです。ナショナリズムや党派性の克服の問題もあります。

☆ただ、これは思想史からすれば、明らかに「寄り道」ではありますね。

Index

第一章
宇宙(世界)と人間

第二章
人間とその位置づけ

第三章
人間と社会
第四章
人間と教育

第五章
知識と言語

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