現代キリスト教倫理
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第二章 倫理における超越としての神

第一節 宗教と倫理(3)

 あるいはまた、より良心的で理性的な人々は、たとえば、今世紀の神学を代表する教義学のK.バルトと双頭をなす形で現代神学に「非神話化論争」を引き起こした聖書学者のR.ブルトマン(Bultmann)のように「神は客観的に確認され得るこの世の現象ではなく、神について客観的に語ることは神を神話化することであり、神の行為との出会いについては、客観的に確認することも、証明することもできない一つの実存的出来事としてそれを語る以外にはない」(2) と語り、形而上学的前提そのものを否定し、客観的学問性の名において、神について語る代わりに自己の実存状況の説明をし、そのことによって、個々の状況における倫理的判断を個々の人間の実存の緊張のうちに解消し、倫理学を相対化して、普遍的な倫理的判断を停止させ、倫理学そのものの成立を不可能にしてしまう傾向を持つようになっている。

 そこでの主語は、もはや、「神は」ではなく「わたしは」である。

 もっとも、ブルトマン自身は、古典的な「類比(アナロギア)」の概念を彼の実存論的解釈の中に持ち出して、人間実存の類比において神を語る道を示そうとしたが、「神話」を人間に実存状況に照らして解釈することによって、かえって彼の「神理解」を曖昧なままにしてしまっている。

 ブルトマン自身の神理解の問題は別としても、ここでは、信仰の領域と世俗の領域が区別され、一人の人間の中では神信仰に基づく宗教そのものは内面的な精神として位置づけられ、個々の実存的状況における倫理的判断が、それぞれの実存解釈に基づいて最優先されることによって、宗教そのものが相対化され、ついには倫理との関係を失ってしまうものにならざるをえない。

 実際のところ、世俗社会に生きるキリスト教会の、特に誠実で信仰深い人々は、かつては神の力や神の恵みとして受け止められてきた事柄が理性的な分析言語によって説明可能な事柄に変換される度に、超越的な神の有効領域がますます狭められているのを感じているし、多くの神学的な誠実で貴重な努力が払われたにもかかわらず、結局は、宗教的儀式の中で神秘の領域に自らを閉じ込めて非社会的になるか、語りかけられる神の言葉を自己の内面の精神性においてのみ受け止めようとする内面化のための翻訳作業を行うかして、いずれにしても傷つき倒れたサマリヤ人の側を首を振りながら通り過ぎて行くしかありえなくなっているのである。

 あるいはまた、たとえサマリヤ人を助けたとしても、それは信仰の行為としてではなく、近代において人間精神の内面性の善性に基礎づけられたヒューマニズムの産物であるにすぎない。

 それはまさに、D.ボンヘッファーが獄中から語ったように、「道徳学的、政治学的、自然科学的研究の仮定としての神は、廃棄され、克服された。哲学的、宗教的な作業仮説としての神も同様である。これらの作業仮説を見捨てること、あるいは、これらをできるだけ広く排除することは、一つの知的誠実さである。護教的自然科学者、医学者等などは一つの混血である。・・・ぼくたちは、この世の中で生きなければならない。−たとえ神がいなくても(etsi deus non daretur)−ということを認識することなしに、誠実であることはできない」(3)ということを倫理的価値判断のシステムにおいて徹底して認識せざるを得なくなっていることを意味しているのである。

 つまり、誠実な信仰の領域においても、宗教と倫理的行為は、その根源において分離してしまっているのである。

 極端な表現が許されるなら、人が誠実に生きるためには、宗教はもはや無用の長物、歴史的遺産としての過去の遺物以外の何ものでもなくなっているのであり、それどころか、むしろ否定的な要因しか持たないものになっているのである。

 現代実存哲学者のK.ヤスパース(Jaspers)は「2000年になんなんとする歴史を通じて、教会的に形成されてきたキリスト教的啓示信仰は、もろもろの営為、生活実践、思想、人物たちによって、万人を確信させる力を獲得するほどには、真理のエトスを実現できなかった」(4)とさえ語る。

 それは、教会的に形成されてきた宗教としてのキリスト教の無効宣言でさえある。

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